鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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第十話:休日の終わり

「禄哉・・・お前なあ、こっちは人違いかも知れねえってビクビクしながら話しかけてんのに何だよその一週間ぶりくらいに会った友達に向けた挨拶みたいな返事は。」

 

 呆れた顔にまくし立てる口調、それに触発されてとうとう自分の間抜けな返事を誤魔化すように吹き出してしまった。

 

「悪い悪い。いや、本当に久しぶりなんだけど言葉が出てこなくて・・・」

 

 須藤(すどう) 遥人は、高校の始め頃、席が前後に並んでいたこと、空が好きだと言うことで意気投合した親友だ。

 

「お前ってヤツは・・・。まあいいか、それよりいつ帰ってきたんだ?」

 

「あー、国自体には半年前くらいには帰ってきてたんだけど、こっちには四日前・・・だな。」

 

 四日は四日でも“激動の”と形容詞が付いて良いような数日だった。

 

「つい最近だな。パイロットになったんだっけか。」

 

 遥人には出発の前に連絡を入れていた。とは言え当時は携帯の類いを持っていなかったからそれきりだったが。

 

「そうだな、傭兵のパイロットだ。そっちは?」

 

 あちらの進路は大方分かっているが、詳細までは知らない。

 

「今は院で修士課程だ。禄哉、傭兵なら飛竜と戦うことあるだろ?」

 

「ああ、ある。」

 

「それの研究とかしてるから、何か面白い行動とか見かけたら教えてくれよ。」

 

 面白い行動とは言うが、さっき買った本を見る限り飛竜についてはあらかた研究され尽くしているんじゃないかという気がする。

 

「面白いって言われても俺には分かんねえから、不思議な動きをしてるのを見たら連絡することにするよ。」

 

 そうすれば、既に研究されていることであってもこちらとしては戦闘技術を学ぶ機会になる。

 

「分かった。じゃ、連絡先くれよ。お前あの頃携帯持ってなかったからこの数年連絡も出来なかったし。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 当時は遊びの計画を立てるにも、固定電話以外に連絡手段がなくて苦労しただのという話をしながら携帯を取り出す。正直、遥人とはいくら話しても話題が尽きない。おまけになまじ二人とも興味の範囲が広いために、話の内容が迷子になるのも珍しくない。

 

「ロッキー、お待たせー。て、あれ友達?」

 

 そんなことで遥人と盛り上がっていると、飛鳥が戻ってきた。

 

「そうだよ、同級生の遥人。」

 

 飛鳥に紹介しつつ振り返ると、硬直した遥人の姿が目に入った。

 

「禄弥・・・お前、まさか・・・」

 

 反応からして勘違いをしているのがはっきり分かった。

 

「いや、高校の時にも話したろ?居候先の娘さん。」

 

 実際当時はそんな言い方ではなく妹の様な存在がいる、と話していたが、遥人は言わずともそれととってくれたようだ。

 

「あー、あの・・・え、大きくない?あの時中学生って言ってなかった?」

 

「まあ、俺も今年受験だって聞いたときはちょっとびっくりしたけど、四年経ってるからな。」

 

 一年でも変わる人は大きく変わる。四年もあれば尚更だ。

 

「そうか・・・いや、何か妹的って言ってるから小さいって言うか、幼いってイメージ持ってたわ。申し訳ない。」

 

 遥人はそんなことを言って飛鳥に頭を下げ始める。まあ実際会ったことのない人間に対するイメージならそんなものだろう。得てして声や噂から想像する姿とは一致しないものだ。

 

「いやいや、気にしないでください。まだまだロッキーに甘えてるので、小さいって言ったら小さいですし。」

 

 慌てたように飛鳥が顔を上げさせる。ほんの少しだが、飛鳥が外でどう振る舞っているか垣間見た気がする。

 

「あー、まあ禄哉、あんまり邪魔するのも何だから俺は撤収するわ。んじゃ、また連絡するー。」

 

 そう言うと、遥人はいつもの調子に戻って退散していった。なかなか頼もしい友人とのパイプと取り戻せたのは幸運だったと言えるだろう。

 

「わー、ロッキーの友達らしい友達ってかなり久しぶりに見た気がする。」

 

 見送って飛鳥がぼそっとそんなことを言った。それじゃ俺が随分寂しい人みたいじゃないか。

 

「家に呼ぶわけに行かなかったから目にする機会がなかっただけで、ちゃんと友達はいたからな?」

 

「ふーん?」

 

 白々しい目で見られた。実際過去形だし、今は付き合いが絶えているしで抗議のしようもないが。

 

「ま、何だって良いけどねー。それより、帰る前にコーヒー屋さん寄っていこ?冷たい飲み物欲しくて。」

 

 時刻は午後三時過ぎ。コーヒー屋と言うのは若者に人気のある大手チェーンか。あそこなら焼き菓子の類いも置いているし、昼食が控えめだったからおやつがてらちょうど良いだろう。

 

「ああ、良いな。持ち帰りにするか?それとも店の中で飲み食いする?」

 

「うーん、ドーナツも食べたいし、持ち帰りはなしで。」

 

 気分は同じだったようだ。

 

「じゃ、俺も久々デザートもの頼もっかな。」

 

 かくして、甘味を求めて階下へ向かうことになった。

 

 

 

「ロッキー、明日は普通にお仕事だよね?」

 

 飛鳥がストローを半ばくわえたままそんなことを聞いた。行儀が悪いと思ったが、休みが終わり掛けたときの憂鬱モードに入っているようだからそれについて突っ込むのは控えた。

 

「そうだな。性能試験も済んだし、明日から訓練飛行がメインになってくるな。」

 

 なんなら行程が組まれ次第、スクランブル待機も入ってくるがそれは言っても伝わるまい。

 

「そうだよねー・・・」

 

 はあー、とため息のように大きく息を吐いて、机に突っ伏した。

 

「なんだ、随分元気がなくなったな。終わってない宿題でもあるのか?」

 

 冷やかすつもりで言ってみたら、ビクッと微かに体を震わせた。まあ俺としては、さもありなんという感じではあるが。

 

「ま、焦ると切羽詰まってくるし、一休みして帰ってからゆったりやるかね。大丈夫、高校までは遅れても平気平気。」

 

 おどけて言うとジトッと睨まれた。遅れるのも嫌なら早い内にやっときなさいよ。

 

「そりゃ遅れて出すと先生やらうるさいかも知れないけど、出さなくてそのうち先生が諦めたって奴でも卒業して普通に大学行ってる何てこともあるからさ。それならやってることの意味が分かんなきゃやる意味ないじゃん?」

 

 かなり説教くさいなと思うが、後半など高校時代に勉強やら課題やらをしなかった奴が繰り返していた言い訳だ。自分で言ってて課題をやらせたいのかやらせたくないのか分からなくなってくる。

 

 いや、要するに遅れても良いからちゃんと考えてやれということなんだが。

 

「そうなんだけどさあ・・・面倒くさいものは面倒くさいじゃん?数学とか」

 

「まあ、そうだな。俺も前日の深夜とか授業始まる前に答えざっと写しておしまいってな具合だったし。意味考えてやれとかどの口が。」

 

 物理とその法則に関わる方程式だとかいったものにはある程度熱心に取組んだが、大量に問題を解かなければならないような課題に対してはおざなりになっていた。

 

「はー、数学とか何でやらなきゃいけないんだろ・・・。私、理系方面じゃないし使わないんだけど。」

 

「そうは言っても、知っておいて損なことじゃないよ?文系でも統計とるっていう可能性がないわけじゃないし、辛うじてでも知識があれば出来る仕事は増えるわけだし。・・・俺が戦闘機扱う上で普段数学使ってるからそう思うだけかも知れないけど。」

 

 例えば編隊を組むときも、相手の翼の角度、高度等から自機が付くべき位置を割り出しているから数学的な考えが必要になる。それに加えて飛行時の風の影響、兵装の使用時に機体の運動から受ける影響・・・。

 

 いつでもそれを考えているかと聞かれれば、最近の機体は大体コンピュータがやってくれるから、そんなことばかり考える必要はないのだが、かと言ってコンピュータに頼りきりで何でも出来るわけでもない。

 

 ちゃんと知識を持っておかなければ、パイロットとしては成り立たないのだ。

 

「うー、耳が痛い・・・」

 

 年上のアドバイスのように言ってはみたが、さすがに理系の両親なだけあってそんなことぐらいは聞かせていたか。

 

「俺としてはそっちに進む気がないなら知識程度に持っとけば良いんじゃない?って感じだな。教科書見ながら解ければ上等なんだから。教科書の見方も分からないよりはさ。」

 

 経験上、数学が出来ない人間には索引の見方が分からない人間が多いようにも思う。索引が見られるようになれば公式同士が結びついてかなり楽になると思うのだが。

 

「そっかぁ・・・。」

 

 まだ気の抜けたまま、カップの中の飲み物をずぞぞっと飲み干して呟いた。

 

「ま、今は堪えてがんばんなさい。勉強なら付き合うから。」

 

 それ以上のアドバイスはない、とやや温もったコーヒーを飲み干して立ち上がる。食器は使い捨てだからゴミ箱へ、トレーだけ返却する。この手の店ならライフサイクルコスト的にも衛生面の観点からも最適な方法なのだろう。

 

「で、他に買い物は?」

 

 揃って店を出て、飛鳥に尋ねる。

 

「うーん、しっかり遊んだし、今日はもう良いかな。勉強しに帰らなきゃ。」

 

「そか。じゃ、帰りますかね。」

 

 長い一週間だったから俺としても良いリフレッシュになった。明日からはまた新しい愛機とともに空の世界に帰る。出来れば稲佐の技術を間近でもっとよく見てみたいものだ。




 スターバッなんちゃらでもドトーなんちゃらでもタリーなんちゃらでも、お好きなコーヒーチェーンを思い浮かべていただければ良いんですが、フラペチーノがフラッペ(かき氷みたいなの)とカプチーノから出来た造語だってことを書いてて初めて知りました。商標なのかなとは薄々思ってたんですが、由来を知るとなるほどなぁという感じですね。
 あと、おざなりとなおざりの使い分けも結構面倒ですね。ざっくり調べた感じなおざりの方は全く対応しないという意味で、おざなりはいい加減ながら対応はするという意味合いっぽいです。
 さ、次回は基地に戻って雑誌のことを稲佐に冷やかされるのかな?
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