鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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第二話:Viper ZERO Trial

「・・・現実に起こったことだからって、夢で出てくるこたねぇだろ・・・。」

 

 起き上がったのは、昨日戻ったばかりの部屋に敷かれた布団の上。別に悪夢と言うほどではないから汗までびっしょりと言うことはないが、いまいち寝覚めが悪い。

 

「戦争屋共の戦争・・・か。」

 

 昨年度中関わり続けた戦争。泥沼化の一途を辿り、傭兵達と大国の軍事力を飲み込み続けた戦地。

 

「・・・まあ、さっさと忘れちまうに限る。いよっと。」

 

 ぼやけた頭を一つ振って、思い切って布団を跳ね飛ばした。

 

 

 

「おはよー」

 

 布団を片付けてから、朝食の匂いにつられて居間に向かう。久しぶりといっても、やはり長年の間に染みついた習慣だ。

 

「はい、おはよう。朝ご飯、パンにする?米にする?」

 

「米が良い。今日いきなり機体飛ばすってことは無いけど、機体に慣れるのに色々やらなきゃならないことが多いから。」

 

 パンの方が直ぐに力は出るのだが、いかんせん消化も早い。米の方が長く腹が持つ気がするのだ。何より長らく米に触れていなかったからしばらくは米を食べたいというのもあるが。

 

「はーい。じゃ、大盛りにしとくね。」

 

 こちらに決定権はなかった。痩せの大食いを自負しているから完食する自信はあるが、成長期は過ぎているのだから少し加減してもらいたいと思わないでもない。

 

「お母さん、ご飯っ・・・あれ、ロッキー、あ、そうか帰ってきたんだった。」

 

 バタバタと音を立てて飛鳥が居間に駆け込んでくる。時刻は七時半過ぎ、少し寝坊気味か。

 

「禄哉君のと一緒に用意するから顔洗ってきなさい。」

 

 呆れ顔で言われて飛鳥が顔をしかめた。

 

「えー、抜きじゃ駄目ぇ?」

 

「朝飯ぐらいちゃんと食っとけ。持たんぞ。」

 

 中学生の時分、とんでもない寝坊を噛まして朝飯抜きで登校したことがあったが、空腹で死ぬのではないかというほどしんどい目に遭った。性別も年齢も違えど、それ以来飯抜きはおすすめしていない。

 

「ひゃー、お母さんが二人になっちゃったよぅ。」

 

 などと言いつつ洗面所へ入っていく。誰がお母さんだ。

 

「禄哉君はそういうとこ締まり屋よね。」

 

 その背中を見送りながらおかみさんがからからと笑った。この四年で自分の生活はずいぶん変わったが、この家は相変わらずだ。元から、俺の今の仕事に近しい仕事をしている家だからかもしれないが、何というか、落ち着いている。

 

「うひー、学校間に合うかな・・・」

 

 洗面を終えた飛鳥が時計を見ながら席についた。

 

「大丈夫大丈夫。急いで食って五分までに支度して走っていけば遅刻で済むよ。」

 

「・・・え、間に合ってないじゃん。」

 

 冗談のつもりで言ったのだが、それなりにキツいトーンで返されてしまった。

 

「でも、俺と同じとこだろ?歩いても十五分で行けるじゃん。」

 

 何ならこの家の二階から学校の時計塔が見えるくらいだ。そう遠い場所でもない。

 

「でもロッキー歩くのは速いからあてにならないじゃん。」

 

「流石に走ってる人間に勝てるほど速かねえよ。」

 

 まだ何か言いたげな視線をその一言で封殺して味噌汁を啜る。目安の八時五分まであと二十分。さて、間に合ったものか。

 

 

 

「おう禄哉、準備できてるか?」

 

 朝食を終えて、飛鳥を送り出すと丁度、おやっさんの会社の車がやってきた。このタイミングなら送ってやれたかとも思ったが、向かう方向とは逆向きだし、個人の車でもないからそれは通らないだろう。

 

「あれ、飛鳥もう出たか?送ってやろうと思ったんだが。」

 

 訂正、この親馬鹿なら個人でも公用でも気にしなさそうだ。・・・だがまあ良いだろう、男だらけのむさ苦しいバンで送られるのも嫌かもしれない。

 

「遅れるつって走って出てったよ。大体、この何もかもむさ苦しい車に乗せるってのもどうなんだ」

 

 乗り込みながら言い返してやると、違いねえと大笑して車を出した。

 

 

 

 -*-

 

 

 

「よお、帰ってきたな禄哉。よしよし、五体満足だな。」

 

 到着するなり物騒なことを言ってくれたのは件の鷹田という整備士だ。当時は死んだ目をしていたが、それでも年の近い分幾ばくか気にかけてくれていた。

 

「そちらもお元気そうで何よりです。お子さんも生まれたそうで。」

 

 返事をした途端、鷹田はふにゃっと表情を崩した。

 

「そーなんだよ、もー可愛くってさぁ!あ、写真見る?生まれたてからこないだまでスライドショーにしてあるんだけど」

 

 なるほど親馬鹿だ。おやっさんが連れてきただけはある。

 

「いえ、それは次の機会に見せていただきます。俺の機体見せてください。」

 

 ここで、ちょっとでも弱腰な所を見せればそのまま子供自慢に発展するのは目に見えている。出来るだけ無感情に切り返して、取り出しかけた携帯をしまわせる。

 

「そうか・・・じゃ、次の機会にするか。機体はこっち、格納庫の中だよ。」

 

 少し残念そうながら、仕事をこなすつもりはちゃんとあるらしい。指さした建屋の中へ入っていく。

 

「ある程度聞いちゃいると思うけど、結構特異な機体でね。整備やら部品調達の目処をつけるにも相当苦労したよ。」

 

 そう語る視線の先に、これからの俺の乗機がある。

 

 F-16のような胴体、斜めに突き出した双垂直尾翼、本来コクピット直下にあるべきはずのインテークは胴側面に二穴式で据え付けられ、排気ノズルも教導隊で見たモノとは僅かながら形状も長さも異なる。

 

「確かに聞いちゃいたけど、本当に奇妙な機体ですね。」

 

「そう思うよなぁ。本当はF-2のRCS低減実験機として企業が独自開発して正規軍に提案するつもりだったらしいぜ。形式はF-2VZT(ブイジーティー)。」

 

 うんうん頷きながら、隣で機体の説明が始まった。心なしか声に呆れた色が混ざっているような気がする。

 

「ところが肝心のRCS低減が上手くいかず、予算も通らず、社内での扱いもぞんざいになって、当時子会社だったここに売り飛ばされたって訳だ。他にも色々あるんだろうけど、面倒くさそうだし知らない方がいい気がする。」

 

 呆れ声になるわけだ。俺もそう思う。

 

「で、機体のことだけど、外見は見ての通り。RCS低減のためにかなり工夫して改造されてる。後はインテークがあったとこにフューエルタンクが増設されたとか、STOL性能を考慮して推力偏向ノズルを採用したとか、そんなとこ。」

 

 成る程、あのノズル形状は推力偏向用か。だが、これに付いているということは気休め程度に考えた方が良いのだろう。

 

「火器の類いは?」

 

 どれだけ機体がちゃんとしたモノでも武装がなくては戦えない。ここでの仕事を考えれば、対空火器は必須だ。

 

「安心しろ。実験機だがそこら辺は全部付いてる。使う機会はないだろうが、試作のAAM-5対応ランチャーまでな。それに、ほらコレ。」

 

 話しながら機体に近づくと、コクピットに掛けてあったヘルメットを取り上げて差し出した。下から覗いてみると、バイザーには“Error”の文字。

 

HMD(ヘッドマウントディスプレイ)・・・!?」

 

 エラー表示は機体が起動していないからだろうが、この国では正規軍でも未だ運用されていない代物だ。

 

「これも試作品。システムの方は完全な状態に近いらしいが、ディスプレイの方は未完成らしい。HUDも付いてるから何回か使ってみて駄目そうなら普通のヘルメットに変えてくれ。」

 

 性能は未実証のようだが、搭載されているだけでかなりの驚愕モノだ。

 

「こんなもんまで付いてて大丈夫なのか?俺傭兵なのに。」

 

「だから、親父さんお前にライセンス取らせたんだろ?札付きなら金次第で大抵の機体は乗れるからな。代わりに講習を受けて状況次第で守秘義務も課せられる訳だけど。」

 

 そうは言っても、最新技術を導入した機体を所有するパイロットは限られている。よほど金持ちか、パイロットとして信用が高いか、良いコネがあるので無ければ手に入らないし、それが揃っていても軍の圧力を恐れて売り手が渋る可能性はある。

 

「大丈夫。データ取るためのテストパイロットつっとけば誰も口出し出来ねえから!」

 

「まあ、そりゃそうですけど。」

 

 実際、届け出では、所有者は飛鳥技研。パイロットは傭兵の飛行隊所属で飛鳥技研への出向という形を取っているが、データ取得用の飛行は行わず、通常の任務に従事することになるのだから心理的に自身の所有機という意識は働いてしまう。考えればここのところ“名目上”と言うことが多すぎる気がする。

 

「で、これ整備記録。登記するのにパイロットのサインがいるから。」

 

 整備ファイルをめくると、この機体がここへ運ばれてからの整備記録が全て閉じられていた。

 

「うわ、凄えハンガークイーンぶり・・・。」

 

 七年近く全く動かされていない。だが、エンジンの不安はなさそうだ。整備記録では僅か数ヶ月前にエンジンを搭載したと記載されている。

 

「エンジンはこの間モスボール?」

 

「そそ。んで、F-2のエンジンじゃなくてね、132の方。」

 

 つまり、F110エンジンの129を機体に戻すのではなく、その改良型を搭載したと言うことか。ただ、見る限り機体重量の増加は避けられていないようだから推力としては元と五分五分というところだろう。確か微妙にサイズが違ったと思うがよく入ったな。

 

「はい、了解。」

 

 記録と機体とを見比べながら項目を確認する。目視でどれぐらい分かるかと言われれば俺にはさっぱりとしか言えないが、目視でなくても同じことだ。

 

「うん、大丈夫です。」

 

 一通り目を通してサイン欄に署名する。後はこれのコピーを持って所属する基地の事務室で機体の所属登記手続きをしてもらうだけだ。

 

「どーも、じゃ、コピー取ってくるわ。説明書の類はコクピットに置いとくから、待ってる間目通しといて。」

 

 そう言って鷹田は整備員の控え室へと消えていく。折角なので、言われたとおり説明書を見ることにした。

 

「大体は同じなんだろうけど、HMDとかどうやって使うんだ?」

 

 知識程度に知ってはいるが、これまで見たことも触れたこともない代物だ。手をつけるなら先ずこれだろう。こう言っちゃ何だが、かなりワクワクする。

 

 

 

-*-

 

 

 

「禄哉、コピーできたよ。書類持ってるよな?」

 

 しばらくHMDと説明書とを交互に睨んでいると、コピー片手に鷹田がやってきた。クリアファイルには整備側の書類も一緒に入っている。

 

「大丈夫、持ってきてる。免許証やらと一緒にファイルに纏めてある。」

 

 パイロットとしての基地要員登記は郵送とワイヤレスで済ませてあるが、機体の登記は整備記録を自分の目で確認する必要がある。郵送不可ではないが、基地に隣接した格納庫を持つ飛鳥技研なら直に事務室へ赴く方が早い。

 

「そんじゃ、行ってくる。」

 

 これを登記したら今週中には新しい機体での訓練を始められる。そう思うと、少しばかり足取りは軽くなった。




 なるほど親馬鹿だ。のあとの禄哉の台詞、ゲームしながら寝ぼけながらぼけーっとかいてたら、“「いえ、それは親馬鹿――”と書きかけました。直ぐ修正しましたが、そのままにしてコメディターン作ってもおいしかったかなぁと思いつつ、戻れそうになかったので辞めました。
 さて、今回主人公機が出てきましたね、F-2VZT。自分でも思うんです。変な機体だなぁって。でも、F-2そのまんま出すのも面白くないなぁとか思って、こんなんなりました。F/A-18でも良かったんじゃね?って言われそうですが、この機体の設定、別の小説書こうと思って作ってたヤツで、その小説では主人公はアンダーセン空軍基地じゃないけど、それに近い島にある基地に配属するつもりでした。んなもんで、「島にある基地なんだから、海上戦力ボコりたいなぁ。なら分かりやすくF-2だな。でも、格闘戦能力ってどうなんかな。なんか改造するか。ついでにステルス能力も上げて・・・まてよ?そもそも日本からどうやって傭兵にF-2譲渡する?存在しないはずの試作零号機とか?」ってやってたらああなりました・・・(グダグダ)。イメージ図も作りたいんですけどねぇ・・・。
 さて次回、多分札付きじゃない傭兵達に禄哉が辟易する話です!・・・多分!(自信なし)
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