鎖蛇の空 作:只のカカシBです
「やーれ片付いた・・・。」
呻くように呟いて、鷹田が作業机に突っ伏した。F-2VZTの整備書類の整理やら、工具類の運び込みだのを怒濤の勢いで片付けたのだからそれは疲れるだろう。正直ここで手伝っているだけでも結構疲れた。
「お疲れ様です・・・。もう昼ですよ、どうします?」
「うぅーん・・・。」
水を向けられた鷹田がくたびれた呻き声をあげた時、ふと外からの声が耳を掠めた。
『――ここだろ、札付きなんだから。』
どうやら俺を探しているらしいが、声にはさっぱり覚えがない。それで、不意に悪戯心が働いた。
『よし、開けるぞ』
それが聞こえた瞬間、俺は戸を思い切り引いた。
「「おわわっ!?」」
不意を突かれた二人組が泡食った声を上げて転がり込んできた。
「おう、誰か知らんがいらっしゃい。」
声の大きさからして隠れる気は無いだろうし、それなら裏手でなく機体を入れた正面の方から来れば良いものを、よく分からん二人だ。
「あ・・・ども、初めまして・・・」
わやくちゃになりながら答えた片割れの顔にはでかでかとアレェ?と書いてあった。まさかバレないと思ったのか。
「お前ら。何やってんだ?」
鷹田の方は二人と面識があるようだ。
「いやー、新しい機体が入ったって聞いたから見に行こうぜって言って来たんすけど・・・。」
ひどい目に遭ったぁ、等と言いながら体に付いたほこりを払う二人。記章を見るに今年入ったばかりのパイロットだろう。何より学生らしさが抜けきっていない。
「見るのは良いけど、触らんでくれよ?まだ首飛ばされたか無いからな。」
「え、飛ぶの?」
何をそんなに不思議そうにするんだか。何のためにライセンス付きの傭兵がいると思ってるんだ。
「言っとくが、入るだけでも本当は良くない。普段一体どうしてるのか知らんけど、札付きってのは守秘義務あるし、機体にだって管理、監視の義務が発生する。見学会とかで一般人にしょっちゅう触らせるからどこまでセーフか分からないけど、お互いのためにも普通は出来るだけ触れさせないのが不文律みたいなもんだな。」
ええー、としょんぼり肩を落とされてもこればっかりは我慢してもらおう。そもそも、この二人の素性すらこちらは知らないのだから。いや、するとこのまま何も聞かずに帰すのもまずいな。
「禄哉、自己紹介かねて二人に案内してもらって来いよ。ここもう片付いてるし、鍵俺が閉めてくから。」
タイミングを見計らったかのように提案されたので、ここは完全に乗っかるしかない。
「そりゃ良いな。二人とも頼めるか?」
「もちろん良いぜ!俺たちも札付きの人と話すチャンスが欲しかったし。」
ということは、この基地にいるはずのもう一人の札付き殿は周囲と積極的にコミュニケーションを取ってはいないと言うことか。さもありなん。普通の傭兵は空飛ぶ走り屋、札付きはプライドの高いエゴイストと呼ぶ人もいる位だ。エゴイストとは言わずとも、プロ意識からか、何か原因があってか普通の傭兵と話したがらない札付きは一定数いるものだ。
そう考えながら、自機の奥に置かれた機体に目を遣った。自機ほどではないが、独特な機体。世紀が変わる直前、空の傭兵がその役目を果たすため導入した機体。F-15M。それを駆るパイロットがどんな人物か、近く知ることになるだろう。
「えーと、禄哉・・・だっけ、取りあえず飯行こうぜ?食堂まで案内するから。」
気遣わしげな声で我に返った。思ったより機体を凝視していたようだ。
「ああ、すまん。直ぐ行く。」
目の前にいない人間のことを考えても仕方が無い。まずはこの二人の話を聞くことにしよう。
「そうだ、二人とも名前は?」
「あ、そっか、まだ言ってなかったっけ。俺は
ということは、大方大学へ行きながら休日を利用して資格を取得してきたというところか。最近では珍しい方だろう。最近の傭兵は新卒より社会人から夢を追ってくるパターンが多い。
「
学生出身ならそれもまたよくあるパターンだ。免許を取ったは良いが留年してそのまま辞めて傭兵になる道を選ぶのもよく聞く話だ。
「卒業したなら偉いじゃないか。あ、俺名字教えてないか。千波禄哉だ。俺は大学も行かずに外国のフライトスクールに突っ込まれて、三年でいわゆるライセンスまで取った。」
その翌年、いきなり戦地へ行かされたのはとんだ誤算だったが。
「んん?フライトスクールに三年?禄哉って何歳?」
やはり話さなければならないらしい。
「あー、あんま話したくないけどさ・・・フライトスクール出た後、戦地に行ってた。授業とかで少しは聞いてるんじゃないか?“アラフティア”の紛争。」
その大陸はこの国から遙かに西南へ向かった所に浮かぶ大陸だ。ある大国の介入によって大陸規模で国家の基盤が崩壊した。
「で、そこで一年過ごして、こっち戻る前に四ヶ月くらい国防軍に機種転換手伝ってもらってたから、今二十一。」
因みに早生まれなので誕生日は一月だ。
「あ、じゃ俺たちと同い年か。つか、結構スゴイ経歴なんだな。同い年で戦争行ったヤツなんていないだろ?」
凄い経歴、か。そんなに目を輝かせて言われても、あんな戦争に参加したところで誰にも誇れはしないというのに。
「俺の知る限りいない。同期の連中はみんな普通の基地へ行って、飛行隊ごとの教育を受けてる。・・・でもそれが普通だ。」
新人のパイロットなど、戦場に出たところで右も左も分からず撃墜されるのがオチだ。それでも俺が生き残ったのは貸し与えられた機体が対地任務に向いたトーネードで、僚機が経験を積んだ優秀なパイロットだったことが大きい。
「そっかぁ。いやー、新米パイロットながら敵機を大量に撃墜したエースってカッコいいと思うんだけどなぁ。」
残念ながら戦闘機が戦闘機を撃墜する時代ではほぼ無くなっているんだが、まあ、ロマンの話をしているから無粋な真似はほどほどにしておこう。
「まあ、憧れるのは分かるけどさ。」
実際、戦闘機同士の撃ち合いになると幾ばくかの高揚感を覚えることはしばしばある。というより、そうでなくては軍人ではない自分が引いた引き金で相手が死ぬという現実に耐えられなかった。そういう意味では俺もエゴイストか。
「あ、見えた。あれがスクランブルの格納庫らしい。俺はまだ入ったことないけど、たまーに出動してる部隊じゃ対応できないって言って出てくの見ることあるぜ。」
曖昧な返事ばかり返していたせいか、話題を変えるように滑走路脇の格納庫を指さした。
「へぇ、ちゃんとスクランブルとかやってるんだな。」
基地や飛行隊によっては人員不足や年齢を理由にスクランブル待機を行わない方針を執っているところもあるため、多少なり余裕があると言うことだろう。
「ん、そういえば機体は?まだ
昨日の飛鳥の口ぶりから勝手に栄光まみれだと思ったが、新人パイロットの採用やスクランブルを行うだけの能力が残っているなら機体の更新があってもおかしくはない。
「いやー・・・半々?何か歳いった人は栄光に固執してて、そこそこ若くなると
「そうそう。栄光とかもうほとんど共食い整備らしいぜ?あの爺さん達いつまでやるんだろうな。」
やはり機体更新自体は始まっていたのか。しかし、三ヶ月そこらのパイロットに爺さんと呼ばれて嫌がられるとは、どういうパイロット達なのか。
「A-4か、操縦しやすいし運動性高いし整備しやすいし、導入するなら妥当なところだな。」
ライセンスを取るときに訓練で正規軍のA-4に追い回されたが、ほとんど太刀打ち出来なかったから栄光からすれば相当な発展だろう。
「そうらしいけどさぁ・・・まだ栄光の爺さん達に勝てないどころか一人で操縦桿握ったこともないんだよ。」
何を当たり前のことを。
「まだ入って三ヶ月そこらだろ?俺、ジェットの乗り換えだって練習機に一年近く乗ったし、フライトスクールで教官に勝てたのなんか最後の方に数回しかないぞ。」
しかもそのうち一回は、卒業目前に自信を持たせるためにわざと勝たせるという方針による勝利だから自慢にならない。
「げー、札付きでもそのレベルかよ・・・いつになったら勝てるようになるんだ?」
そもそも、事業用操縦士免許取得までの課程がほとんどレシプロ機なんだから、いきなりジェット機に乗せかえて操縦を一人でどうのこうのって言う方がおかしいんだが。
「さて、な。機体を意のままに操れるようになれば栄光ぐらい軽くあしらえると思うけど。」
まだ頭に入れるべきことが多い時期だろうからあまり深く考えないようにと思って言ったが、訓練あるのみかぁと肩を落とした。負け続けなら嫌気も差すだろうが、こればっかりは耐えてもらうしかない。
「そういう禄哉は、機体何に乗ってるんだ?あれ、何か見覚えない感じだったけど。」
そりゃ、そう思うよな。
「F-2の改造機。まだ飛ばしたことないから飛行特性が分かんねえんだよな。」
正直かなり不安の方が勝ってきたが、資料を読む限り操縦感覚自体は大きく違うということはないらしい。
「え、それちゃんと飛べんの?」
「原型機で訓練は受けたし、機体も飛行実績はあるから多分大丈夫だけど、あとは俺の腕次第だな。」
と言いつつ、実戦でも目だった空戦があったわけでなし、自慢するほどの腕があるわけじゃないが。
「そうかー、じゃ、初飛行楽しみにしとこ。」
勘弁してくれと思ったが、二人が楽しそうなので口に出すのは憚られた。指示書通りに行けば明日あたり訓練飛行をすることになるだろうから、せめて明日の好天を祈ろう。
全然物語の核心まで来なーい・・・。書いてる途中に気付いたんですが、架空世界ってタグにつけるの忘れてましたね。すいません。
あとなかなか本文で触れられないのでついでに出しときます!舞台は浮遊大陸です。
それはそうと、本文に出てきたF-15Mですが、元ネタはF-15S/MTDです。
次回、ちょっと歴史の様なものを書くつもりです。