鎖蛇の空 作:只のカカシBです
「着いた着いた。ここが食堂。食券式だから結構自由度高いよ。」
大北の言うとおり、食堂の入り口には色とりどりのボタンが付いた券売機が据え付けられていた。
「ふーん、定食とかでその日のメニューが決まってるって所もあるのに珍しいな。」
大抵、メニューを増やすと仕込みの量が増え、食材が出きらなければその分ロスが出るというのを嫌っているのだろうが、ここはどういうシステムにしてるんだろうか。
「まあ、大半レトルトとか冷凍品とかでまかなわれてるから出来ることらしいけど。」
尋ねる前に答えてくれた。なるほど、確かにそれならある程度保管が効くし、近頃の冷凍食品は品質が高いから文句も出にくいだろう。
「なるほどね。自由度高くてそれなりにちゃんとしたものが出るんなら文句はないな。」
そうこう言う内に先に二人がさっさとメニューを決めたので、自分も目に付いたうどん定食に決めてボタンを押した。
「うどんかー。俺ら午後からまた飛ぶからうどんじゃ足んねえな。」
「そっちはそうかも知れないけど、俺こっち帰ってきてからまだうどん食ってないんだよ。向こうじゃ麺つったら大体パスタだったし。」
そもそもそれも向こうの人間の味覚にあったものだから最初の内はかなりきつかったのを覚えている。
「あー、そっか。」
そういうつもりはなかったが、少し気を遣わせたようだ。
「あ、そうだ。俺先に席取っとくから盆任せて良い?」
思い立ったように瀬田が言った。確かに昼時で賑わい始めているから取っておいてもらった方が良さそうだ。
「分かった。じゃ、俺が持ってくよ。」
「サンキュー禄哉。んじゃ行ってくる。」
言うなり手近な四人がけのテーブルに陣取ると、三人分の水も汲みに言ってくれた。
「はい、カツ定とうどん定ね。」
そのうちに注文したものが出てきた。出来合いと言えば出来合いだからその分出てくるのも早い。
「よっと・・・あ、」
自分の食事を持って、こちらを振り向きかけた大北が不意に固まった。その視線を追って首を傾げると、壮年の男が目に入った。
「・・・。」
そして理解した。爺さんと呼ばれるパイロットが何故栄光に固執するか、何故若者から嫌われるか。その答えがパッチに刻まれていた。
―1991 Political Reverser Cross―
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この地において傭兵の役割は大きく二つ。一つはこの地への外部からの侵入を妨げること。もう一つは民衆の懐疑心の代理人となること。
その起源は一世紀も前にまで遡る。
その頃はまだ軍隊でも航空機は珍しい戦力だった。偵察の他これと言った役割は持たされていなかったが、パイロット達は誇りを胸に任務に就いていた。
だがあるとき、一部のパイロット達が戦火の最中に無闇な戦線拡大と侵略に反感を持ち始める。やがて彼らは国家の信条に反旗を翻した。そのときは第三勢力として。その結果、彼らの祖国は侵略には失敗したが彼らの誇りを掛けた行動により周辺国と平等な条約を結ぶことになる。
そして彼らは監視者となった。民間の中にあって戦力を有し、国家の軍事行動に目を光らせた。
要員はそれだけではなかったものの、それから三十年ほどの間に彼らの仕組みは一斉に広がった。民間人の所有する軍事力、すなわち傭兵という形を以て。
それが生かされたのが、その頃に起こった新たな世界大戦だ。多くの傭兵達にとってそれは白人至上主義との戦争だった。
始め、その戦争は小国による侵略戦争だと見られた。だが、傭兵達の一部はそれが白人至上主義者らによって、有色人種の国を弱体化させるために仕向けられたものだと気付いた。そして、彼らは各地の傭兵達を集結させ、国際社会の新たな秩序を構築しようと奔走した。時に小国と大国の双方に刃を向け、民間人の保護にも努めた彼らの努力は、大国の指導者の失脚と、新たな国際体制の発足という形で決着を見た。
戦後、これらの功績が市井に広がると、傭兵は公のものと認められるようになり、安定した基盤を持つようになる。それは国際傭兵協会と名付けられた。れっきとした国連組織である。
大戦が終結すると、二つの大国エスマリとアイルナスがいがみ合うようになる。兵器開発競争が進み戦闘機は高速化し、高度なシステムを持つようになった。
困ったのは傭兵だ。国連組織として成り立ってはいても、傭兵はあくまで民間のものという立場を取っていた傭兵協会は、国連の資金を傭兵達に利用させることを嫌ったため、傭兵達はこうした高度な戦闘機を維持、運用する資金及び能力を持たなかった。また、なにより新国連の戦時法の下では、傭兵達は国家に徒なすテロリストとして取られかねず、企業などの支援を受けられない可能性が危惧された。
そこで提案されたのが現代ではライセンスと呼ばれる特別資格を、基準をクリアした傭兵に対して付与する方法だった。これは戦時戦闘員資格と名付けられ、大戦での功績を無視できなかった国連によって承認された。
この方法の採用により、資格を得た傭兵は公的に企業の支援を受けることが出来るようになり、民間という立場を維持したまま軍への抑止力であり続けられた。
それからしばらくの間、傭兵が軍に対して介入を行うような事態は発生しなかった。しかし、大戦から二十年ほど経過した頃にエスマリとアイルナスの軋轢が思わぬ方向へ飛んだ。エスマリから海を挟んで南西の小国で起きた国を二分する内紛で、アイルナスの関与が疑われたために、エスマリは小国について碌に調べもせずにアイルナスへの傾倒を防ごうと武力介入を始めた。始め、独立政権の保護という名目だった介入は次第に激化し、二大国共に無差別な破壊を招き始める。そうなれば、やはり傭兵も動く。
実際には、介入が始まった当初から不信感を抱いていた傭兵のとりまとめ役達は行動を始めていた。それが、当時まだ新鋭だったF-4やMiG-21への機種転換。強固な基盤を持つ正規軍に対抗するため、ライセンス持ち達の能力の平準化を図ったのだ。これは実際に功を奏した。
新鋭機で揃えられ、規律ある行動を示す傭兵の集団は前線の兵士に衝撃を与え、戦意を大幅に喪失させ、特にエスマリ側には介入戦争への疑念を抱かせた。そうなれば戦線は自ずと崩壊する。各所から方針の転換を迫られたエスマリはアイルナスの撤退を条件に軍を退き、当事国の内政はその国民に委ねられた。
しかし、傭兵の介入がなかったとして、エスマリが勝利できた可能性は極めて低いものだったという見解が示されるまで、傭兵達は小国の戦況の泥沼化を招いた張本人と扱われることとなった。
この事実が認められた頃から、傭兵は民間資本や自治体の協力を得て、軍事企業の生産レーンに自身等専用のレーンを設けておくようにもなった。
それから三十年ほど、傭兵の介入は行われなかった。その間に、傭兵達は民間軍事会社と同じように報酬を受けて各紛争などに参加するようになった。その頃には本来の役割は忘れられつつあった。
だがある時、再び彼らの時代が来た。
この地から西南へ飛んだ場所にある大陸、アラフティア。その大陸は大きな争いもなく、比較的平穏に発展してきた土地だった。
だが、ここでもエスマリはそこにある国々が強力な軍事力と強固な結束力を持つことを恐れた。
そこでエスマリは極秘に行動を始めた。その活動が表に出たのはアラフティアの主要国とエスマリが、自国民同士の行き来を可能とする条約を結んだ時だった。
当然、この条約について何ら不審な部分があったわけではないが、過去のエスマリの行動、侵略パターンから、猜疑心の塊とでも言うべきほどの状態になっていた傭兵のとりまとめ役達は、この時点で警戒を始めた。
結果から言えば、その警戒は的中した。エスマリは、自国民がアラフティアで一定の信頼を得るようになると、工作員を使い彼らを操り、アラフティアの市民を戦争へと先導させた。そして、紛争がアラフティア全土へ広がるのを見るや、自国民の保護を名目に戦争へ参加した。
それは国際社会からの批判を招いた。当然、傭兵の出番だった。警戒もしていた。だが、傭兵は出遅れた。
三十年前の介入での経験から、最新鋭の機体を使用し、能力を平準化することを優先した傭兵達はしかし、当時エスマリ空軍の実験機だったF-15S/MTDの能力をフィードバックした機体、F-15Mの製造に、それまでの機体とは違った操縦系統、それらを習得するための訓練に時間を取られ、ようやく体勢を整えた頃にはアラフティアの基盤はほとんど破壊されていた。
しかし、エスマリはそのままアラフティアにいくつかの拠点を設置する動きを見せていたために、傭兵には未だ介入の余地があった。そこで傭兵達が執った方針は、エスマリ本土への侵攻だった。アラフティアの為に手薄になっている本土のエスマリ軍基地を攻撃すれば、軍を引き返させざるをえなくなると考えてのことだった。
実際に引き換えさせることには成功した。しかし、それが想定よりも早かった。エスマリは本土防衛に当たっていた部隊に余力を残させたまま、アラフティアから引き上げてきたエース級部隊と交代させ、更には敢えて本土近くへ引き込む戦法を採用するようになった。そこで問題になったのが、同じように引き上げられてきた
考えあぐねた傭兵は、禁忌的とも言える行動に出た。
それが、今もライセンス持ちとそうでないものとの間に長期に渡って尾を引く問題を発生させた。
“一般傭兵による
ライセンス持ちは上空のエスマリ空軍機を排除し、一般傭兵は対空ミサイルを沈黙させる。三十年前の紛争への介入でエスマリが用いた戦法を、傭兵が用いようとしたのだ。刻々と進む戦況の中で下せた判断はそれだけだったのだろう。
だが、一般傭兵の使用する機体はとうに陳腐化したF-104などのセンチュリーシリーズに、引退したライセンス持ちから譲渡されたF-4世代の機体が関の山。ワイルドウィーズル装備など持ちようがなかった。当然、すり潰されるように傭兵達が消えていった。美談のように言うなら、それがライセンス持ちを奮起させた。
エスマリ空軍機を確実に高空へ釣りだし、各個撃破する戦法を定着させた。アラフティア大陸で成果を上げたエースが瞬く間に姿を消した。そして民意が傭兵を支えた。エスマリ国内で起こったデモが軍事企業の生産レーンを封鎖させ、エスマリ政府に戦闘継続が困難であることを悟らせた。
やがて、アラフティア崩壊に関する資料が暴かれると、傭兵達への支持は高まり、こうした傭兵達による正規軍への介入は“
しかし、傭兵間ではライセンス持ちとそうでないもので大きな対立を招いた。戦闘への介入を行うか否かはライセンス持ちによって決められる。つまり、一般傭兵からすれば、ライセンス持ちが始めた戦争のために、多くの友人を失ったということだった。
以来、当事者だった傭兵達の間には互いに険悪な雰囲気が漂い続けている。
よし、歴史も大体書いたし、そろそろ空を飛ぶ話を書かないと・・・。最近、気分の浮き沈みが激しくて上手く筆が進まないんですよね。とはいえ、今週も無事投稿できたし、次も頑張るぞー!(深夜テンション)
次回、突っかかってきたパイロットとの話を書いて、出来れば機体飛ばしたい・・・!