鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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第六話:The dragon killers

 つまりは、この年齢を重ねたパイロットはそのワイルドウィーズルの犠牲者だったかも知れないということだ。それで、ライセンス持ちについて信頼できる連中ではないと吹聴しているのだろう。

 

「おう若いの、ライセンス持ちだってな?またどっかで俺たちを駒のように使い捨てようって考えてるのか?」

 

 その言葉に、ある種乾いた感想さえ抱いた。典型的な男。表だって何か具体的に意見するわけでなし、過去の遺恨だけにしがみついている。

 

「・・・好き好んで戦争に参加しようって質じゃない。すり潰されて死にたいならアラフティアへでも行け。傭兵嫌いのエスマリの脱走兵共がまだ居着いてるはずだ。」

 

 アラフティア崩壊はまだ片付いてはいない。ライセンス持ちや政権交代したエスマリの各軍がアラフティアに居着いた傭兵や脱走兵を掃討に乗り出しても、アラフティアの生活圏にまで入り込んだ全てを片付けることは出来なかった。アラフティア大陸の各国がようやく落ち着きを取り戻し、自国の軍を再編し、何とか収束の目が見えてきたという所だ。

 

「へっ、聞いたかよ。俺たちを使い潰すだけ使い潰したライセンス持ち様は俺達がどっかで野垂れ死ぬのがお望みだとよ。」

 

 実際そうしてくれれば面倒がなくて良い。ああでもしなければ傭兵は敗北し、エスマリは幅を効かせ、今こうしてこの老人達が戦闘機で自由に飛ぶ空はなかったのだろうから、ライセンス持ちとしても、一個人としてもあの判断はある程度理解できる。反面、彼らにとってライセンス持ちのために戦争に巻き込まれて起きた悲劇だという認識も非難できない。実際彼らを殺したのは民意の代理人であったライセンス持ちの判断だったのだから。

 

 とはいえ、やはり同じライセンス持ちとしてここで彼らの高圧的な態度に同情を示すことは出来ない。

 

「そう思ってくれてもいい。だが、俺達がいつまでもいがみ合って協調を失えば、死ぬのは更に力の無い一般市民だと言うことを忘れてもらっては困る。・・・そうだろ?“ドラゴンキラー”。」

 

 老齢のパイロットは舌打ちをした。彼本人の渾名や部隊名ではないが、ここのような基地に所属する傭兵パイロットはその役職からこう総称されている。ライセンス持ち批判に執着していようがそれへの矜持は忘れないはずだ。

 

「言うことはいっちょまえだな。おい、新入り二人、気をつけろよ。ライセンス持ちってのは自分たちの目的のためならお前等のことだって後ろから撃ってくるぞ。」

 

 また随分と使い古された脅し文句を言うものだ。大体、後ろから撃つのは裏切り者のすることだろう。やるなら正面から撃つ。

 

「その認識で結構・・・。不安ならいつでも二番機として後ろに付いておくことだ。」

 

 言って振り返ると、二人が所在なさそうな表情を浮かべて立ち尽くしており、周囲の年上の人間が意味ありげな笑いを浮かべている。大方、敵の敵、といったところか。

 

「悪いな待たせて。」

 

「え、ああ、うん・・・。」

 

 努めて負の感情が出ないようにしながら、席に着くと、戸惑いながらも二人もそれに倣った。

 

「あ、あのさ、さっきのって・・・。」

 

 どちらかと言えば当事者に近い以上、気にするなとは言えまい。しかし、俺が話せばどちらかに偏った印象を与えることになる。

 

「うん・・・、悪いけど先輩パイロットから聞いてみてくれ。俺から話すとまた爺さん方がうるさそうだから。」

 

 なおも食い下がろうとする気配は見せたが、爺さん連中と目が合ったらしくそれ以上の追求はなかった。

 

 

 

-*-

 

 

 

 昼食の後、何となく気まずいまま二人はブリーフィングがあると言って隊舎代わりのプレハブ小屋へ行き、俺は俺で格納庫に戻ることにした。

 

「お、戻ってきたか禄哉。」

 

 戻るのを待っていたかの様な口ぶりだ。そう思って機体の方を振り向くと、そこに工具箱に腰を掛けてF-2を見上げるパイロットがいた。

 

稲佐(いなさ)さん、コイツが千波禄哉です。」

 

 鷹田の呼びかけに、稲佐と呼ばれたパイロットが振り向いた。

 

「初めまして、千波です。TACネームは“Rocker”。」

 

「稲佐(もとい)だ。TACネーム“Hopper(ホッパー)”。よろしく頼む。」

 

 握手を交わして、一瞬だが相手を見定めるように互いに視線を合わせる。少しばかり堅物のような印象だ。そして不意に、稲佐がF-2に視線を戻した。

 

「この機体、まだ飛ばしたことがないんだったな。」

 

 少し目が険しい。だが当然だろう。慣れない機体に乗るパイロットと組むのは不安なものだ。

 

「ええ、そうです。・・・機体に慣れるにも、なるべく早く飛行実績を作っておきたいんですが。」

 

 この基地に札付きは俺以外には今目の前にいる一人だけ。エレメント(二機一組の編隊)を組めるのも当然この一人だけ。ここで、印象を下げるわけにはいかない。

 

「そうか・・・Rocker、午後少し付き合え。」

 

「・・・?」

 

 意図を掴みかねてしばし沈黙した。

 

「初飛行なら随伴機がいた方が良い。今から新米つれて他の連中が上がるから、それが行くの待って飛ぶぞ。」

 

 それは予想だにしない話だった。随伴機を務めてくれるのは有り難い。だが、訓練での飛行はフライトプランの提出が義務づけられている以上、今すぐは無理だ。

 

「い、いや、しかし、俺は今日フライトプラン出してません。今から飛ぶのは不可能です。」

 

 慌てて止めようとしたが、稲佐は面白がるように目尻を下げて口を開いた。

 

「大丈夫だ。鷹田さんに頼んで二機分フライトプランをねじ込んである。」

 

「な、」

 

 驚いて鷹田を振り返ると、スマン、というように手を合わせられた。いや、いっそ有り難いが、業務的に大丈夫なのかソレは。

 

「気にするな、フライトプランなんか普通は基地側の人間が提出するものだから。鷹田さんに代わりにやってもらっても同じだ。」

 

「なるほど、それなら・・・あ、それだと基地の許可は?」

 

 基地も傭兵用のものとは言え公的な機関だし、なにより滑走路の使用にはタイムスケジュールがあるだろうからフライトプランがあるからと言って勝手に使われては困るだろう。

 

「それも、元々俺が訓練で使う時間、大本を質せば札付きが大勢いた頃の名残で札付きの時間になってるから問題ない。」

 

 何もかも都合の付く日と言うことか。

 

「了解しました。準備してきます。」

 

 以前の飛行隊に比べれば固め、という印象は変わらないが彼も優秀なパイロットらしく柔軟性がある。

 

 

 

-*-

 

 

 

「俺たちが使う訓練空域は一般傭兵のとはずらされてる。途中まで同じ経路を通り、北へ転進して百五十km進出する。そこで動作チェックをする。それが完了したら、訓練部隊の帰投を待って基地へ戻る。」

 

 机に広げた空域地図を指し示して稲佐が飛行計画を説明する。これから向かうのはいくつかの島が点在する“見通しの悪い”空域だ。

 

「了解。」

 

 現時点で、基地から編隊長資格を与えられているのは彼の方、つまりここでは俺は基本的に僚機(ウィングマン)だ。相手に付いて飛ぶことになる。

 

「よし、行くぞ。訓練の連中も大分向こうへ行った頃だろう。」

 

 稲佐が席を立ったので、それに付いてミーティングに使った部屋を出る。外では、整備士達が機体を並べ、準備を完了させていた。飛行前に渡されるリストを確認しながら、搭乗し、準備を整える。

 

「こんなにバタバタして初飛行することになるとはな。頑張れよ禄哉。」

 

「ええ、どうも。まあ、都合の良いときに、なんて言ってたらズルズル先延ばしにしかねないからこのぐらい強引で良かったですよ。」

 

 少し感謝の気持ちを伝えると、鷹田は、なら準備した甲斐があったよ、と言ってコクピットを離れた。

 

『Rocker、準備良いか?』

 

 通信機から稲佐の声が聞こえる。ここからはパイロットだけの世界だ。

 

「Hopper、オールクリア。いつでもどうぞ。」

 

 言って、早く行こうと急かすように手信号を送ってみる。風防の向こうで稲佐は少し笑ったようだ。グッドサインを返してくれる。

 

『よし行くぞ。』

 

 その言葉に呼応するように、F-15が動き始める。追って、F-2もブレーキを解放。滑走路へと機を動かす。

 

 滑走路の端へ来ると、稲佐は管制と短く言葉を交わした後、エンジンを吹かし始める。飛行前の安全確認だ。それに倣ってこちらもエンジンの推力を上げる。異常はない。互いに確認して、先にF-15が離陸滑走に入る。上空から無事に離陸するか確認するためだ。

 

『よし良いぞ。上がってこい。』

 

 号令を受け取って、スロットルを押し込み、ブレーキを解放。離陸滑走は僅か数秒、瞬く間に晴れ上がった空へ舞い上がった。

 

『無事に上がったな。合流して編隊を組め。』

 

「了解。」

 

 形状が違う分、やや操縦感覚にズレはあるが、直ぐに慣れることが出来るレベルだと判断し、稲佐機の後方へ付く。

 

『左に旋回する。』

 

 ブリーフィング通り、東へ進路を取り陸地の外へ向かう。それからしばらくはまっすぐ飛ぶだけだが、このまっすぐ飛ぶという事自体が始めの頃は難しかった。いくら推力が大きかろうと、いくら制御システムが優れていようと、それで横風の影響がなくなるものでもない。つまり、自分ではまっすぐ飛んでいるつもりでも、受けた横風の分だけ本来自分が飛ぼうとした直線のラインからは、ずれが出るものなのだ。あの二人もあの様子では、それを考慮に入れて飛ぶことはまだ出来ていないだろう。

 

『Rocker、俺たちの大陸(・・・・・・)を見たことはあるか?』

 

 不意に、稲佐が尋ねてきた。

 

「ありますが、子供の頃で操縦桿は父親が握っていました。」

 

 それはまだ父親がここの基地に所属していた頃、レシプロ機の前席に乗せられてそれを見たことがある。ただ無心になれる圧倒的な雄大さで、いつまでも魅入っていたのを覚えている。

 

『そうか、もうすぐ端の稜線を通過する。今度は自分の力で見てみろ。』

 

「了解。」

 

 稲佐の言葉通り、眼下を山の稜線が通り過ぎ、その瞬間底の抜けたように宙空がぽっかりと大きな口を開ける。

 

 内陸に住んでいればまず目にすることのない景色。人が住むところより低い場所を覆い隠すように、ヴェールのような白い雲がどこまでも広がり、ごく稀に垣間見えるその下は人の生存を許さぬ極寒の世界。いつか、父親に連れられて見た浮遊大陸の世界を、今は自分の力で飛んでいた。




 ようやくそれっぽくなってきた・・・!
 因みに百五十km進出って自衛隊だとかなり近い距離みたいですけど、今回の場合、基地が大陸の外縁付近にあって、しかも外側へ向かって飛ぶ設定なので、こんなものかな、と。
 次回、多分これまで以上にファンタジーな存在が登場する・・・筈!
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