鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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第八話:Shot down the dragon

 推力を上げ、レーダーに映った敵と正対する。怒り狂った羽ばたきが俺を狙って疾駆してくるのがはっきりと分かる。

 

『Rocker、飛竜の攻撃は強烈な音波攻撃だ。食らえば機体の部品が共振してバラバラに吹き飛ぶ。空気の薄い高高度につり出せ。』

 

 有り難い忠告だ。戦闘機の部品を共振させるほどとなると人間も無事では済まないかも知れない。

 

「了解。」

 

 今や飛竜ははっきりと目視できる距離まで来ている。その口が開かれる寸前、スロットルを空け、操縦桿を引き、急激に機体を上昇させる。

 

『がっちり食いついてるぞ。直線的に動くなよ。』

 

 そんなことは百も承知だ。飛竜と一直線に並ばないよう機体をロールさせ始める。飛行試験で行ったクライムロールだ。

 

「Hopper、どこにいる?」

 

『飛竜の少し下。追いかけて上昇してる。いよいよ頭に血が足りてないらしいな。こっちに気付いてない。』

 

 飛竜も生物である以上、体液の流れがある。それが戦闘機を追い回すような速度とGで動けばどうなるかと言えば、当然頭に血が行かなくなり判断力が鈍る。まして耐Gスーツだのそれに近しい身体構造だとかいったものを持たなければそれは顕著になる。

 

「クライムロールを終了してマイナスGで判断能力を奪う。後は頼む。」

 

『了解。』

 

 機動を長く続けると高度が上がりすぎる上に機体の運動エネルギーも失われる。このあたりが頃合いだろう。

 

 機体を切り返さないように水平に戻し、上昇をやめる。飛竜が付いてくるのを確認し、即座に反転降下。

 

『ロックした。だがギブアップらしいな。』

 

 振り返って探すと、飛竜はゆっくりと錐もみしながら落下していくところだった。

 

「仕留めるんですか?」

 

 ほぼ確認だった。我々は騎士ではない。正面切ってぶつかり合うより、巨大な力が市民の生活を脅かすことがないよう、確実に脅威を排除することを優先する。だから、ここで飛竜を追い討つ事は確定事項と言える。

 

『ああ。ホワイトアウトしただけなら凍死する前に復活するかもしれん。確実な手を取るさ。』

 

 落ちていく飛竜を追ってF-15が降下する。弱った飛竜を追う姿は、手負いの鳥を捕り食らう鷲のようにも見える。その目が、飛竜を捉える。

 

『FOX2』

 

 F-15の翼から空対空ミサイルが飛び出す。ガラガラヘビの異名をもつAIM-9だ。

 

 やがてパッと火薬の花が咲く。飛竜が残っていた揚力を失い、急激に落ちていく。しみ出しては共に落ちていく紅い飛沫(しぶき)が、ひととき雲に色を着け、やがて消えた。

 

「飛竜の撃墜を確認。」

 

 見届けて一番機に報告を上げる。

 

『こちらでも確認した。Backpack1、そちらは全機無事か?』

 

『ああ、助かったよ札付きさん。あの短時間でやっつけるとは、やっぱり腕が違うんだな。』

 

 通信相手は手放しに賞賛を送ってくる。やはり、昼間の爺さん連中とは随分当たりが違うようだ。

 

『なに、そっちだって撃ち落とされずによくやってたじゃないか。札付きでも翼なりエンジンなりに被弾するヤツはいるのに。』

 

 稲佐も褒められるだけは性に合わないらしく、相手のフォローに入った。

 

『だがBackpack1、ゆっくり話してる暇はないんだ。巣の掃除をしなきゃならなくてな。』

 

 巣の掃除というのは、戦闘が始まる前に言っていた、一度飛竜が棲むと、その後も飛竜が居着くようになるという話からして、巣があった島をどうにかしようと言うことか。

 

『巣の掃除はこっちがやる!お前等は黙って帰っとけ!』

 

 不意に通信が割り込んだ。よく見るとF-104が接近してきていた。あからさまな喧嘩腰は気分の良いものではない。

 

『そっちの機体・・・ふん、稲佐か。姿は見せんくせに機体ばかり飛ばす燃料浪費人間が、今さらマトモなパイロットの振りか?』

 

 エマージェンシーコールが出てから十分は経っている。今更ノコノコ出てきて言うのが難癖とはどういう神経なんだ。

 

『おー、爺さんあんたか。何、新しい機体も導入できたのに、未だに栄光なんか乗ってるって聞いたから、ここじゃ燃料の無駄遣いが仕事なのかと思ってたぜ。』

 

 稲佐は稲佐でそんな姿勢は分かりきってるとでも言うように自分への嘲弄を受け流し、口撃を始める。

 

『何だと・・・!我々は誇りをもって栄光を使っとるんだ!お前らにとやかく言われる筋合いはない!』

 

 声を荒げる相手パイロットに稲佐はつまらなそうな声をだした。

 

『ふーん、誇り、ねぇ・・・。あんたらが出てくるまでに十五分そこそこ掛かってる。飛んでくる時間を含めても遅すぎだ。それに加えて立ち上げの遅いエンジン。何分立ち上げに掛けてる?それがどれだけスクランブルに影響する?手前の我儘でトロい機体を使って、チンタラ出てきて、味方のパイロットが死んだら仕方ねえってか。今日のことだつて若いパイロットを見頃しか。そんで誇りだと?同じ穴のムジナだな、え?ドラゴンキラーさんよぉ。』

 

 いらだちをぶつけるように次第に声を荒げる稲佐。“同じ穴のムジナ”という言い方からして、自分らへの不満をぶちまけるだけの一般傭兵の姿にはうんざりしていたのだろう。

 

『何を・・・!』

 

 栄光のパイロットはまだ何か言い返そうとしたが、それは言葉にならなかった。それを見計らったように新しい通信が入る。周波数からして管制塔か。

 

『ハリス、リード、もう良かろう。稲佐のようなライセンス持ちは、基地全体の能力を向上させる為に、こちらが頼んで在籍して貰っているパイロットだ。お前達の気持ちは分からんでもないが、これ以上は堪えろ。いがみ合うばかりでは残るものも残らんぞ。』

 

 少なくとも管制塔に普段いる人間ではない。それに言動からして大分上の役職のようだ。

 

『ぅ・・・。了解・・・。』

 

 俺たちとの調子ならまだ何か言っただろうが、どうやら余程頭が上がらないか、信頼しているのか、しょぼくれながらも素直に従った。

 

『すまないな稲佐君。彼らの態度にせよ、運用にせよ、落ち度は私にある。かつて彼らを説得できなかった為に、今のパイロットにまで禍根を残す事になってしまった。』

 

 過去に何があったのか、管制塔の男はただ悔いるようにそう言った。

 

『事情は承知しています。だが、私は若者が命を落としかねない状況は看過できない。・・次から我々がスクランブル待機に入ります。』

 

 実質的にF-104パイロット達への戦力外を通告しろと要求しているようなものだ。しかし、意思確認なしで“我々”と言うあたり稲佐もまだ頭に血が上っている。

 

『・・・帰投する。Backpack、先行しろ。我々は君等の着陸を確認してから着陸に入る。』

 

『了解。』

 

 しばらく身の置き場に困っていた訓練部隊が機体を翻していく。その隊列の後方へ加わるように機を動かす。

 

「ASROCK1、Hopper、大丈夫ですか?」

 

 編隊の後方で機体を安定させた後、稲佐に通信を繋ぐ。言葉こそ頼もしかったが、頭に血が上っていてはどんなミスをしでかすか分からない。何かしら頭を冷やして貰うための手立てが必要だ。

 

『ASROCK1、大丈夫だ。大分頭も冷えてきた。あー・・・Rocker、悪いんだがスクランブルの経験はあるか?』

 

 ようやく、俺のことに思い至ったらしい。まあ、有る無しに関わらずやらされることにはなるのだろうが。

 

「アラフティア時代に何度かあります。空戦もそのときに。」

 

 その時に求められたのは正規軍と同等の五分以内での離陸。単発で起動の速いF-2なら三分そこそこで上がる自信がある。

 

『そうか。・・・すまない。』

 

 安心したように一息ついた後、今度は詫び始めた。

 

「気にしないでください。彼らに任せていてはいつか死人が出る。多少なりとも他の傭兵達が命を落とすリスクを下げられるなら喜んで協力します。」

 

 答えを聞いて稲佐は満足げに頷いたようだ。低く、穏やかな声が通信機から帰ってきた。

 

 

 

「おお禄哉、無事だったか。」

 

 駐機場で出迎えてくれたのはやはり鷹田だった。

 

「いやー、機体のテストだけのつもりがなかなかとんでもない目に遭いました。」

 

 つくづく空では何が起こるか分からないものだ。それでも、気付かないうちに曳航していたデコイがきれいさっぱり消し飛ばされる空よりはマシだったが。

 

「そりゃそうだよな。そもそもここいらってそうそう飛竜が来るような空域じゃないし、今日はツキがなかったな。」

 

 鷹田は笑っているが、武装なしで戦闘を行うのは肝が冷える。レシプロ機だの旧世代のジェット機だのに比べればかなり優位に立てるが、どのみちまともに攻撃を食らえば助からない。

 

「確かにツキはなかったが、腕は確かだったぞ。伊達に戦場をくぐり抜けてないな。」

 

 隣にやってきて賞賛をくれたのはやはり稲佐だった。

 

「戦場と言っても、随分相手が違いますよ。前は火薬入りの電柱が音速でぶっ飛んでくるSAM陣地で、今は・・・」

 

 そう言いかけて、自分が出そうとしている言葉は、今の戦場の方が楽だと言っていると捉えられかねないものだと気付いて目を泳がせた。

 

「ま、SAM陣地に比べりゃ簡単な戦場だな。相手の目の前に出たが最後だが、逃げ回ってりゃ相手が勝手に息切れするし、そうなりゃこっちから一方的に撃って終わりだ。俺だって最初はそう思った。」

 

 言葉に困っていると、稲佐が笑ってそう言った。だが、最後の言葉からして簡単なばかりではないのだろう。これは、心して掛からなければ命はなさそうだ。

 

「おい、あんたらASROCKのパイロットだろ?さっきは助かったぜ。」

 

 不意に声が掛かり、振り向くと訓練に出ていた部隊らしい飛行服を着たパイロットだ。

 

「そういうアンタはBackpackの隊長さんか?よく新米つれて帰ってきたな。」

 

 いち早く稲佐が応じた。尋ね方からして、F-104のパイロットが言っていたように普段から一般傭兵との関わりを絶っているのだろう。その割に気さくに応じているが。

 

「まあ、戦闘中だと新米は乗ってるだけで操縦するのは俺だからな。」

 

「それでも複座の後席から操縦するのは楽じゃないだろ。アンタも撃墜されなかっただけたいしたもんだ。」

 

 稲佐はあくまで相手を持ち上げる。

 

「アンタ方みたいな腕の良いパイロットに褒められると嬉しいね。ジジイ共はくさすだけくさして褒めもしなけりゃ、どこを直せとも言いやがらねえ。」

 

 気を良くしたパイロットは次いでF-104のパイロット達への文句を言い始めた。

 

「鬱陶しくて仕方ねえなそりゃ。で、いいのか?俺たちと話してると爺さん共がまたへそ曲げるだろ。」

 

「曲げたくて曲げてんだから曲げさせときゃ良いんだよ。どうせ、もう何年もしないうちに引退なんだから。」

 

 余程ストレスなのだろう、言葉に遠慮がない。ついでにとっととくたばりやがれとまで言い出しそうな勢いだ。

 

「おーい、リーダー戻ってこーい」

 

「いけね、デブリーフィングか。そんじゃまた。」

 

 呼ばれて、パイロットが慌てて向こうへ走っていく。その姿を見送って稲佐がぽつりと呟いた。

 

「・・・面倒な連中がいなければ、彼らにも教えられることがいくらでもあったな。」




 珍しいですね、お掃除当番の取り合いなんて(違う、そうじゃない)。取りあえず基地での話は一区切り。
 と言うか、ヒロイン?妹枠?の出番少なすぎですね。そういうわけで次回は少し基地から離れます。
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