鎖蛇の空   作:只のカカシBです

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第九話:休日のお出かけ

「禄哉、HMD外すって?」

 

 基地で戦闘報告書を製作して帰り、今は夕食の後。新聞片手に親父さんがそんなことを聞いてきた。戦闘後、鷹田に次回以降は通常のヘルメットを使うと伝えたことを聞いたのだろう。

 

「外すって、丸ごとオミットする訳じゃないけど、ヘルメットのサイズが合ってないし、照準出してみたけどやけにぐらつくし、HMDで照準するような兵装は積まないだろうし、って思うと普通のヘルメットの方が楽だなって。」

 

 昼間、稲佐とも話したことだ。結局、今のところHMDに対応した兵装がないため、HMD越しにHUDでミサイルの照準を行うという、馬鹿馬鹿しい事になっているから、無くても同じだろう。

 

「そうか・・・サイズもネックか。んじゃ、いつか使うってなったときに大丈夫なように再調整できねえか検討しとこう。」

 

「そうしてくれると助かる。」

 

 俺もライセンス持ちである以上、ポリティカルリバーサが発動されればまた実戦に参加する。その時、また新型機が与えられるか、F-2を使うか不明だが、後者なら武装は最新鋭のものを使用できる可能性は高い。ならば、HMDの調整はやっておいて損はない。

 

「他は不調とか無かったか?」

 

 訊きながら、その声には不調など起こりえるはずがないという自身が滲み出ていた。

 

「まあ、エンジンの慣らしが要る以外に不調らしい不調は無かったよ。」

 

 エンジンは新品のものが搭載されていた。恐らくどこかの部隊がF-16Eの導入か、F-16の換装用か何かで一斉発注したときに一緒に発注したのだろう。傭兵の使用機体を整備する工場では珍しいことではない。

 

「そうか。なかなか運良く新品のエンジンが手に入ったからな、しっかり慣らしてやってくれよ。」

 

「そうするよ。」

 

 今日は予想外の敵襲があったため慣らし飛行まで出来なかったが、次の飛行で慣らし運転を終えたいところだ。あまりのんびりすると、スクランブル待機に着くようになってからでは自由に飛べなくなる。

 

「ねえねえロッキー、明日って休み?」

 

 話が一区切りしたと見て取ったか、飛鳥が新しい話題を振ってくる。明日は日曜日、休みは取ろうと思えばいつでも取れるが、二人しかいないライセンス持ちがバラバラに休むと編成上都合が悪いため、休日は稲佐と合わせられている。

 

「休みだね。別に基地に行っちゃいけない訳じゃないけど。」

 

 何ならフライトプランを提出して滑走路の使用許可が下りれば飛行も出来るが、それをすると整備士に嫌がられるためわざわざやろうとは思わない。

 

「じゃ、明日どこか出掛けよ?」

 

 どこかに出掛ける。世間一般の日常生活から長く離れていた身としては随分と懐かしい響きだ。因みに出掛けたいかどうかは別問題だったが拒否権はなかった。

 

 

 

「それじゃ、一日子守よろしくね。」

 

 翌朝、そんな言葉と共ににこやかに送り出される。子守と言うほどの歳か?

 

「もー、子守じゃないって言ってるのに。」

 

「・・・ま、いちいち言い返すあたりまだまだ子供か。」

 

「あー!ロッキーまでひどい!」

 

 そんな叫びを横目に、奥さんは含み笑いを残して玄関の中に戻り、飛鳥はふくれっ面。思わず頬をつつきたくなるが、あまりからかうと怒られそうだ。

 

「さて、行きますか?」

 

 顔をのぞき込むと、むくれたまま歩き出す。こういう性格は昔のままで、少し安心した。

 

 

 

 

 

「そう言えば、ロッキーって彼女とかいたことあったっけ?」

 

 様々なテナントが軒を連ねるショッピングモールを歩きながら、不意に飛鳥がそう尋ねた。随分なキラーパスだ。

 

「ないよ。」

 

 モテたモテないではなく、学生の頃は他人の恋愛模様を眺めたり、少しばかりの手助けをしたりするのが気楽で良いと考えていたから、恋人を作ろうと思ったことがない。そもそも相手から願い下げだったのかも知れないが。

 

「そっかぁ、ロッキーモテるタイプだと思ったんだけどなぁ・・・。」

 

 何故そんなに残念そうなのか知らないが、向こうの見込み違いだったという他あるまい。

 

「それはそうと、そっちこそたまの休みくらい友達とか、いるのか知らないけど彼氏とかと出かけたりしないのか?」

 

 彼氏がいるとしたら奥さんが一言二言何か言ってきそうなものなので恐らくいないのだろうが。

 

「彼氏はいなーい。友達もまあ、大事だけど、ロッキーは本当にいつ一緒にいられるか分からないでしょ?たまの休みだからロッキーと遊びに出掛けるんだよ。」

 

 なるほど、俺は思いのほか大事にされているようだ。

 

「ありがとな。」

 

 思わず、目線より下の頭をなでると、にっこりと言うよりニヤっとした顔で振り返った。

 

「ふっふーん、私の優しさに気付いちゃった?そんな飛鳥ちゃんに思わず惚れちゃっても良いんだよ?」

 

「はいはい、そういう冗談は良いから。」

 

 飛鳥の頭に乗せていた手を離し、先へ歩き出す。

 

「あ、ひっどーい!けなげな女子高生の心は傷ついたよ?」

 

 心を傷つけられた女子がそんな物言いをするものだろうか。

 

「はいはい。もうすぐ昼だし、どこかでパフェなり何なり奢ってやるよ。」

 

「やったー!さすがロッキー!」

 

 なんとも現金な・・・

 

 

 

 それから暫く飛鳥の買い物に付き合ったり、食事に行ったりした後、本屋に向かった。

 

 久しぶりの祖国の本屋をあっちへこっちへと見ていると、ある雑誌の表紙に妙な既視感を覚えた。

 

『傭兵基地に未確認機体!シルエットからF-35ではないかとの憶測も!!』

 

 吹き出しこそしなかったが、頭を殴られたような(マンガでガン!と擬音が付くタイプの)衝撃を受けた。表紙には更に、『早くも飛竜とも交戦か!?』などとも書かれている。

 

「どしたの、ロッキー?」

 

 ようやく見慣れ始めた景色を表紙に据えた雑誌を前に暫く固まっていると、飛鳥が寄ってきた。

 

「いや、これさ・・・」

 

 そう言って雑誌を見せると、神妙な顔になって暫くその表紙を見つめた後、あっ、と手を打った。

 

「おー、ロッキーの機体?・・・何で?」

 

 それは俺も聞きたい。

 

「うーん、俺の機体ってかなり特殊仕様で目につくし、いつも基地の周りにいるマニアたちに抜かれたかな・・・あ、抜かれたって、写真撮られたって意味な?」

 

 ついでに基地の誰かに話しかけて行動についても何かしら憶測を立てたのだろう。

 

「へー、やったねこれで有名人だよ!」

 

 何も嬉かねぇ。

 

「別に顔撮られた訳でなし、有名ってほどじゃないだろ。」

 

「ふーん・・・これって大丈夫なの?」

 

 何が、と聞き返し掛けたが、そもそもこっちが何を言わんとしているのか伝わっていないのかもしれない。

 

「いや、ゴシップ雑誌の類いじゃなくて、航空機好きの人たちが情報を集めたかったり共有したかったりして出す雑誌だから、問題じゃないよ。ただ、こうも早く出てくるとは思わなかったっていうだけ。」

 

 記事化の速さが朝刊並みだ。興味を引きそうな話題だから情報が入るなり記事を差し替えたのだろうか、中を見ると、数日前に基地内を動いていたとか、昨日飛んだとかいった情報がやや素人風の写真とともにちまちま乗せられており、後はF-2、F/A-18、F-35の情報に終始している。

 

「まあ、ついでに言うと実験機自体は色んな会社が作っては傭兵にも性能試験を依頼してくるから、傭兵業界全体で見ると俺みたいなのは珍しくないんだよ。だから興味は引いてもゴシップ化することはないよ。」

 

 何か事故なり問題なりを起こさない限りは、だが。

 

「そうなんだ。じゃあ、これは買って帰ってお父さんとお母さんにも見せてあげよっと。」

 

 そう言うなり、飛鳥は俺が手に握っていた雑誌を取り上げてカゴへと放り込んだ。

 

「それは良いけど大分買い込んでるな。」

 

 カゴの中の大半は流行り物の漫画本で、何冊か勉強用の本が混ざっているようだ。

 

「いやー、本屋さんってなかなか来ることないし、友達とじゃあんまり沢山買えないからつい欲張っちゃって。」

 

 気持ちは分からなくもない。俺も学生時代は色んな本を買いあさっていたものだ。外国へ行ったところで連載系のものは電子書籍に切り替えるか、追えなくなってしまったから今日は殆ど本を買っていない。

 

「まあ、漫画でも何でも活字を読むってのは良いことだからな。」

 

「えへへ・・・。ロッキーは一冊?」

 

 飛鳥が取り上げたのは『飛竜のすべて』と書かれた本。

 

「一応、敵のことを知る事位は出来るだろうから、こっちの本へのリハビリもかねて買っておこうかと思って。高校まで読んでた本は絶版になるか連載終了で書棚になくてさ。」

 

 敵について知るなら基地の資料室の方が詳細に分かるが、そこから資料を持ち出すことが出来ないので、この手の本も外で情報収集をする上で重宝する。

 

「そっかぁ、知らないうちに終わっちゃうって何か寂しいよね。」

 

「まあ、いまどき多少は電子書籍で追っかけられてるから、それほどじゃないよ。それより、買うものそれで全部か?」

 

 尋ねると頷いたので、カゴを受け持ってレジへ向かった。まあ、仮にもこっちは社会人なので、支払いはこちら持ちだ。

 

 

 

「あ、ごめんロッキー、お花摘みに行って良い?」

 

 長らく東洋人と関わっていなかったせいで意味が分からなかったが、しばし後その意味するところを思い出した。

 

「ああ、行っといで。荷物は持っとこう。」

 

 飛鳥を見送って、今日の買い物に目を落とす。服飾品やらお菓子やら雑貨やら本やら、去年までの何を手に入れるにも苦労した時期とは大違いだ。

 

 と、そこへ不意に影が落ちた。

 

「・・・禄哉か?」

 

 怪訝な声に顔を上げると、そこには白基調の服に黒縁眼鏡、学者然としたという形容詞の似合う男が立っていた。誰か、などと記憶を探る必要はなかった。

 

「おお、遥人(はると)か。久しぶり。」

 

 自分でも驚くぐらい平凡な再開の挨拶で、それでも高校時代からの親友の呆れたため息にすら安心感を覚えた。




( ^ω^)・・・
危なかったぁ・・・
いや、昨日の朝の時点で二千字到達してなかったのでどうしようかと思ったんですが、何とか間に合いました。
後何か書こうと思ったんだけどなぁ・・・何だっけ、忘れちゃった。あ、因みに作者は電子書籍より紙媒体派です。何か安心するので。

次回は最後に出てきた親友の話書いて、一回章を区切ろうかな?という感じです。
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