その点をご理解の上で、ご利用される事をお願いいたします。
※医療系の描写等、一応該当資料を参考にしていますが、間違いなどがあった場合、指摘していただけると助かります。
―告禍―
病院に向かう車の中で、事のあらましを鬼大仏から聞いた。
今日の4時間目、里香達のクラスは美術の授業だったらしい。教室から、美術室へ移動する途中で、里香は倒れた。驚いたクラスメートが声をかけたけど、もう意識はなかった。すぐに保険の先生が駆けつけて、救急車が呼ばれた。救急車が来るまでの間、出来る限りの緊急処置が行われた。女子生徒達が円陣を組んで男子の視界を遮り、AEDの使用も繰り返し行われた。だけど、それでも里香の意識が戻る事はなかった。
話を聞いているうちに、また身体が震えてきた。二人で病院にいた時、屋上で里香が倒れた時の恐怖がよみがえる。冷たい汗が背中を濡らして、呼吸が乱れてくる。最悪の事態が頭いっぱいに充満して、思考も回らなくなってきた。歯が、ガチガチと鳴り始める。それを止めようとして、親指を口に突っ込んだ。上下に震える歯が指に何度も食い込んだけれど、その痛みも気にならなかった。
たまらずに、頭を抱え込もうとしたその時――
バシンッ
背中に物凄い衝撃が走って、僕は飛び上がった。
隣で車を運転していた鬼大仏が、平手で僕の背中をひっぱたいたのだ。
「な、何するんですか!?」
思わず涙目で抗議すると、
「しっかりせんか!!馬鹿者が!!」
と、車が揺れんばかりの声で怒鳴り返された。
「秋庭は今、必死で戦っておるのだぞ!!それを支えなければならん貴様が、そんな有様でどうする!?」
「……!!」
「さっきほざいたあの大口はどうした!?あれは嘘か!?」
鬼大仏の大声が、ドスンドスンと腹に溜まっていく。まるで、僕の怯えを押し潰す様に。だから、僕は返した。負けないくらいの、大声で。
「嘘じゃありません!!」
「ならば背筋を伸ばせ!!丹田に力を込めろ!!日本男児としての覚悟を、しかと見せてみろ!!」
「うす!!」
怒鳴り合う、僕と鬼大仏。半ばヤケクソで、声を張り上げた。
いつの間にか、震えは消えていた。
里香が搬送された先は、私立若葉病院だった。当然だろう。この辺りでは一番大きな病院だし、何より、里香の事を一番よく知っている病院だ。
病院に着くと同時に車を飛び出した僕は、真っ先に救急外来の受付窓口に飛んでいった。訊くと、里香は救急処置室で処置を受けているらしい。そのまま、鬼大仏といっしょに処置室の方へうながされた。
処置室の前につくと、待合室にはもうおばさん――里香のお母さんの姿があった。椅子に座って俯いていたおばさんは、僕と鬼大仏に気付くと、腰を上げてお辞儀をした。鬼大仏は直立不動でお辞儀を返したけど、僕にそんな余裕はなかった。おばさんに飛びつく様にして、問いただす。
「おばさん!!里香は!?里香はどうなってるんですか!?」
「……落ち着いて。裕一君」
浮き足立つ僕をなだめる様に、おばさんが言う。
「まだ説明がなくて、分からないの……。もう少し……待ちましょう……」
そう言って僕をなだめるおばさんの顔は青ざめていて、目には何日も徹夜したかの様な隈が深く浮き出ていた。そう。一番辛いのは誰でもない。この
「裕一君。そんな顔をしないで……」
そんな言葉と共に、おばさんが僕の頬を撫でた。ヒヤリと冷たい、心地良い感覚が頬を包む。
「里香は、まだ頑張っているわ……。貴方は、きっと一番の力になる……。だから、辛いでしょうけど、戦って……。里香と一緒に……」
一番の、力になる。その言葉が、僕に大事な事を思い出させた。そう。この
さっき、鬼大仏に叩かれた背中が熱を持つ。唇を、血の味が滲むくらいに噛み締める。そして、
「……はい!!」
僕は、おばさんに向かって力いっぱい頷いた。
おばさんが、その顔に笑みを浮かべたその時、
ガチャン
処置室の扉が開いて、中から一人の医者が出てきた。僕も、おばさんも、鬼大仏さえもが息を飲む。
「秋庭里香さんのご家族の方はいらっしゃいますか?」
口のマスクを外しながら、医者は静かな声でそう言った。
続く