銀時と神楽のほのぼのした感じ。
Pixivからの転載です。

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ジャンプは仰向けで読むよりうつ伏せで読む方が読み易い

 仕事が立て込み忙しくなく駆け巡っていた日々が落ち着ついた万事屋銀ちゃんの事務所兼居間は、とても穏やかな時間が流れている。

 

 暇が出来たらどこか遊びに行くかと先日仕事帰りに言われ、万事屋従業員であり同じ屋根の下で居候をしている神楽は今日をとてもとても楽しみにしていた。

 

 

 ―――ところがどっこい。

 

 

 遊びに行くかと言ってきた当の本人は出掛ける用意を始める素振りも見せず、ソファに寝転び愛読書(ジャンプ)を手に『今日は一日のんべんだらりと過ごします』オーラをムンムンと醸し出している。

 起きて早々万事屋主人であるこの白髪天パ――坂田銀時は『そういえば先週のジャンプ読んでねぇじゃん!』と忙しさでまともに読書ができていなかった事を思い出した。そして部屋から先週の分と既に発売されていた今週の分を持って来るなりソファに寝転び読み始めたのだ。

 静かな空間にペラペラとページを捲る音と時折クククと笑いを堪える息遣いの音が響く。

 

「…………」

 

 ガジガジと酢昆布を齧りながら、神楽は目の前のソファでうつ伏せでジャンプを読みふける銀時を睨んだ。

 もう一度言うが神楽はとても楽しみにしていた。

 もう一人の従業員である新八はお通ちゃんのイベントがあるとかで今日は来ないから邪魔者はいない。

 大好きな銀ちゃんと二人で楽しく過ごせるのが嬉しかった。そんな銀ちゃんがどこに連れて行ってくれるのかとわくわくして昨日は良い子に早寝したのだ。

 それがばっさりと裏切られた気分である。

「銀ちゃん、今日どこも行かないアルか?」

「んー…あー……」

 そう神楽が尋ねるも銀時から返ってきたのは気の抜けた声だった。

「……銀ちゃん、昨日どこか遊びに行こうって言ってたアルね」

「んー? あー、そうだっけ?」

「言ったアル! 『ねぇキミ一緒に遊ばない? 俺いい店知ってるんだよねー』って言ったアルね!」

「言ってねーよ! ていうかそれナンパする奴のセリフじゃねぇか!」

 すかさず銀時からツッコミが入るが神楽はそれを無視して続ける。

「銀ちゃん、どこか遊びに連れてくアル!」

「あー、ジャンプ読んだらな」

「ジャンプは後でも読めるネ!」

「いつ読むの? 今でしょ!」

「流行りの過ぎた流行語なんてダサいだけアルよ!」

 こんなやり取りをしていても銀時がジャンプから目を離す事はなかった。それだけでなくクスクス笑ったり憤慨したりと感情移入する余裕さえ見せた。

 

 ――――これは非常に不愉快アル、誠に遺憾アル!

 

 というわけで、神楽は強行策に出る事にした。

 スクっと立ち上がると神楽はスタスタと銀時の横に移動する。

 神楽の気配に気付いた銀時が怪訝そうに神楽を見上げる。

「なんだよ――って、ちょっとぉぉ!?」

 銀時は神楽の行動に大きな声を上げた。

 

 神楽の強行策……それはソファの背もたれと銀時の間に無理矢理身体を捩じ込み、銀時の視線をジャンプから外す事だった。

 

「ちょっと神楽ちゃん!? 落ちる、オレ床に落ちちゃうよ!?」

 

 大人の男一人が寝転がってちょうどいい幅しかないソファに、小柄な女の子とはいえもう一人入り込めば必然と一人が床に放り出されそうになる。銀時はそれを身体を横に向け神楽と向かい合う形になる事でなんとか回避する。しかしバサリと何かが床に落ちる音が聞こえ、見ると手元から愛読書が消えていた。ジャンプは犠牲になったのだ……。

 

「…………」

 

 至近距離でジーっと見つめてくる神楽。

「あのね神楽ちゃん……少しだけジャンプを読ませてくれる時間をくれませんかね?」

「…………」

「あのー、神楽ちゃん?」

 神楽は黙っている。

 そして、暫しの沈黙の後神楽はポツリと一言漏らした。

「どこか遊びに行きたいアル…」

 それはもう寂しげな声で。上目遣いで可愛く見つめられたら、さすがの銀時も動かない訳にはいかない。

 銀時はボリボリとうなじを掻くと、ハァ…と一つ息を吐いた。

 

「あーもう、しゃーねぇなあ……」

 

 銀時の手が動き、神楽の頭を優しく撫でた。

「……んで? どこへ行きます、おじょーさん?」

 そう面倒くさげに呟きつつもどこか優しげな表情をしている銀時。

 

 この顔だ、この顔を向けられるとなんだか安心する……と神楽は思った。

 お兄ちゃんのような、お父さんのような、家族にだけ向ける優しい顔。

 神楽は途端に頭を撫でる銀時の手が擽ったく感じて、思わずフフッと笑みが零れた。

 

「んーとねぇ……とりあえず腹減ったアル! 何か食べたいネ」

 

 そう言って嬉しそうな笑みを自分に向ける神楽は、頭を撫でる度に擽ったそうに目を細めていた。

 娘……にしては大きいが、妹がいるとこんな感じなのかねぇと銀時は思った。

 何かと世話が焼け、食費のかかる妹分だが可愛い可愛い俺の家族だ。

 ついつい甘やかしたくなってあとで懐が寂しい思いをするのはここだけの話。まあ懐が寒いのはいつもの事だが。

 

「じゃあとりあえず飯でも食いに行きますかね。そういや朝飯もまだだったな」

「そうアルよ! もう腹と背中がくっついてしまいそうネ!」

 

 二人はそう言いつつもソファの上を離れる気配を見せない。

「出掛ける支度しろよコノヤロー」

「銀ちゃんこそ。早く歯磨きして顔洗ってくるネ」

「お前もやるんだよコノヤロー」

 それでもやっぱり動かない二人。

 しばはくすると神楽がモゾモゾと動き始め、ようやく支度を始めるかと思いきや。

 

「……何してんだよ」

 

 神楽はモゾモゾと下へと移動し腹の辺りにぎゅっと抱きついて来たのだ。

 ちょっと位置的に微妙ですよね、神楽ちゃん。新八にこの状況見られでもしたら間違いなく変態的行為として誤解されそうな気がするんだけど神楽ちゃん。

 なんて事を銀時が考えている事を気にもせず神楽はグリグリと顔を腹に押し付けてくる。

 

「……もうちょっとこうしててもいい気がしてきたアル」

 

 神楽は顔を腹に埋めたまま一言そう呟いた。

 

「……奇遇だな。実はオレも同じ事を思ってたんだよ」

 

 銀時がそう言うと神楽は少し顔を上げ、ニッと目を細めて笑った。

 

「……ホント可愛い奴だよお前は」

「んー? 何か言ったアルか?」

「なんでもねーよ」

 

 思わず本音が口から零れ出てしまった。幸い聞こえてなかった(フリかもしれないが)ようだが、なんとなく照れ臭さで顔が赤くなっているような気がした銀時はあくびをするフリしながら手で隠した。

 

 目を閉じると腹から感じる温もりが心地よくて、ぬるま湯に浸かっているような感覚が身を包み始めた。

 銀時はその感覚に身を委ねてこう思った。

 

 

 ――――たまにはこうして触れ合うのも悪くねーな、と。

 

 

 

 

 心地良さを感じていたのは神楽も同じだった。

 銀時のお腹に顔を埋めて、銀時の匂いを胸いっぱいに吸い込む。

 匂いと言っても銀時が臭いとか加齢臭を感じるとかそういうわけではない。服から漂う洗剤の香りとかボディソープの残り香とかそういう生活感を感じる匂い。

 居候している神楽も同じ洗剤を使って服を洗濯し(ているのは銀時だが)、同じボディソープで身体を洗っている。きっと自分も同じ匂いをさせてるんだという変な嬉しさと、銀時は自分の家族も同然なんだと実感する。

 

 ふと銀時の大きな手が伸びてきて再び神楽の頭を撫でた。

 さらさらと髪を撫でる優しい手つきに合わせて瞬きしていると、段々眠たくなってきた。このまま寝てしまおうか……でもお出かけもしたい。けれど銀時から離れるのも嫌だ。

 睡魔が支配し始めた頭の片隅でぼんやりと悩むも頭を撫でるその手の動きが徐々にゆっくりとしたものになっている事に気づきもせず、気持ちよさに身を委ねその手が動きを止めた時には既に神楽は眠りに落ちていた。

 

 

 ――――たまにはこうしてのんびり甘えるのも悪くないネ…。

 

 

 

 

 そうして二人が眠りに落ち、起きたのは数時間後の昼さえも通り過ぎ空が赤みを帯びてきた夕方の事。

 

 うっすらと目覚め始めた二人が早々に感じたのは、極度の空腹感だった。

 しかしぼんやりとした思考の中、身体を包む心地よさは変わらず……二人は更に眠りこけ最終的にちゃんと身体を起こしたのはすっかり月明かりが空を支配していた夜である。

 

 

 

 結局、久しぶりの休日は一日眠って過ごすなんとも堕落したものになってしまったのだった。

 

 

 

「銀ちゃん……デートはおあずけアルね……」

「あー……」



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