デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~ 作:ちっく・たっく
乳幼児たーいむ。
汝、フレちゃんなりや?
異世界転生という言葉をご存知だろうか。
そんなものは一般教養だというあなた、握手しよう、マイフレンド。
なにそれ、知らんけどなんかキモいとか言っちゃうあなた、すまんな、ブラウザバックよろ。
……おいおい黙って目をそらしちゃったそこの君、胸はって好きって言っていいんだぜ?
さて、今どき、ちょっとでもオタ趣味嗜む紳士淑女には常識だろうけど、この異世界転生ってやつは意外にいろんな細分化ができる。
……なかでも俺が今体験してる「コレ」は、ちょっとよろしくない方かな。……いや分からんけど。
「オギャアアァァアアーーー! アアァァアアーーー!」
「****** ****? *** *****」
すまねえ母ちゃん、異世界語は転生してもさっぱりなんだ。
力いっぱい泣きわめいてミルクを要求する赤ちゃんin俺ちゃんと、そんな迷惑怪獣を慈愛の表情でもってだっこしてあやしてくれる金髪ねーちゃん(推定かーちゃん超絶かわいい)
いや転生っていっても最近じゃあさ?
知らない世界にそのまま飛ばされたり、ゲームのキャラになったり、魔王退治に呼び出されたりもひっくるめて転生じゃん?
なんで古式ゆかしき、トラックに轢かれて気がつきゃベイビーパターンなのかねアラサー野郎にゃキツいってのよ。俺ってば独り暮らしの在宅労働者よ、他人に触られたの自体久々よ。……にしてもだ。
「******……***」
歌うような美しいお声の謎言語。
さしだされた豊かなお胸に飛びつき、本能に任せて吸いまくる。
……腹が減ってるだけで、別にイヤらしい気持ちはこれっぽっちもないぞ。そういうリビドーは息子といっしょに前世においてきてしまったらしい。
こんにちは可愛い女の子。さよなら一度も使われなかった哀れな男の子。
ちらり、と飲むのをやめずに上目づかいで、かーちゃんの顔を見る。
生まれたばっかりでぼやける視界でも分かる美しく整った目鼻立ちを、流れる黄金のようなさらっさらの金髪がまばゆく彩る。
特徴的なくりくりの瞳は翠色に輝いて、活力に溢れた童女のような可愛らしい印象を伝えてくる。
うん、もうね、どこの絶世の美女かと。これはかーちゃんじゃないわ。
ママだなママと呼ぼう心の中で。
もしもママに似たらワテクシも美少女な訳なんだけど男に寄ってこられても正直困る。
薔薇趣味はないのだ。
どうせなら、咲かせて見せよう百合の花。
馬鹿なことを考えていたら、唐突に部屋のドアが開かれ、ママが驚いたようにそちらに目を向けた。
気のせいか少し怯えのようなものを含んだパチクリおめめは、しかし入ってきた人物を認めると花が舞うような、うっとり恋する乙女の笑顔に変わった。
俺の胸が高鳴った。マジで惚れるかと思った。
「****!*******!**……****」
「*** ****……**** ああ、待たせてごめん。でも大丈夫。大丈夫だから……」
駆け寄るママを腕のなかの俺ごと優しく抱き止め、黒髪黒目のイケメンがそう言った。
……あれ、パッパあんたジャパニーズ?
結論から言って、この世界は剣と魔法のファンタジーじゃあなかった。ママがまんま天使だったから少し期待してたんだけどな。
今生の俺あらためアタシの名前はフレデリカ。
生誕の、というか意識覚醒の地はフランス、パリの片隅のアパートメント。
ママの話していた異世界語はフランス語。教養なくってすまんね、0歳のかわいい乳幼児だから許してしるぶぷれ。
話を聞くに今生のアタシんちの事情は中々に波瀾万丈だ。
家具やインテリアを主に扱う個人貿易商である黒髪イケメン野郎ことパッパは、フランスのさる名家に呼ばれ、屋敷を訪れた。
そこでパッパの仕事姿を目にしたママが、一発で一目惚れしてしまったらしい。
取引先の大事な娘さんに手を出すのは色々まずいとはいえ、純粋無垢に自分を慕ってくる年下の金髪碧眼女子を邪険にできるようならその男は健常じゃない。
ホモでも異常性愛者でもなかったパッパは対応に迷いつつも交流を重ね、ほどなく押せ押せのマッマに食われちまったとさ。
……一発で既成事実とガキを作ったママったら本当パねえ。
さて、驚いてはいけないこの世の当然の真理として、男と女がやることヤったら子供ができる。
だがこの場合、色んなことが急展開すぎるわなあ。ママの実家は当然の大激怒。ついでにパッパにとってはほぼ頼る先もない異国の空の下と来たもんだ。
丸くおさめるには時間と距離が必要だと判断したパッパは身重の妻をつれて駆け落ちを決行。フランス版の上京をかまして花の都パリに居をかまえて出産に備えつつ、甘い生活をおくっていたんだと。
で、この度めでたくアタシちゃんが産まれたので報告と、その他の色々なケジメをつけるべく、ご実家の方に顔を出してきたんだってさ。
フランス語交じりで聞き取り難かったけど、たぶんこんな内容だ。子供に聞かせるもんじゃねえ。
分からないと思ってるんだろうけど、察してますよご両人。……前世よりも脳みその性能いいかもしれん、切ない。
赤ん坊ボディだよな。サクサク頭回るんだけど、すげーなベイベー。
あと、アタシのフルネームも判明したぞ。これからはパッパの姓で通すということなので『宮本フレデリカ』になるらしい。
ん?
あれ?
デレマスじゃねこれ。
*****
異世界転生という言葉をご存知だろうか。
『俺』が前世で好んで読んでいた二次創作界隈では人気の商業作品などの原作に、作者の考えた最強の主人公を放り込んで、救われないキャラを救ったり、いけすかないキャラをぶっ飛ばしたり、登場する女キャラと片っ端からイチャイチャさせたりさせてたもんだ。
……マジで? 俺ちゃん、いやアタシ、二次オリ主人公? メアリ・スー的なポジ?
それでなくたってあの小悪魔エンジェル・フレデリカ?
偶然の一致、いや、ママの容姿を見ればもうドンピシャだし、俺の記憶を持っているこの異常事態がもう、なによりの証明かもだ。
証明してどうなる、間違っててどうなるって話だけど。……これからの人生に関係あんの?
あー、でも、あるよなあ。ここがデレマス、ひいてはアイマス世界だとしたら、俺が夢見た世界だ。輝かしい主人公たちが歌って踊る、画面の向こう側に今、俺はいる。
……いいねえ。ここに転生させてくれたのが鬼か悪魔かちひろか知らねえが、俺にとっちゃおまけの人生、前の世界で絶対できなかった大きな夢を追ってみるのも、悪くない。
トップアイドルにアタシはなる!
しかし、彼はこの時、気づいていなかったのです。
ここがシンデレラガールズの世界でないことを。そして自分が非業の死を遂げることを……
そういうの、いいから!
続きはいつになるやら。
万が一応援してもらえたら頑張る。