デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~   作:ちっく・たっく

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前の話も読んでね。


えぴそーど・もあ・ぶれいどわーくす
鉄色の雲、空色の女


叩く、打つ……鍛え上げる。

何度も、何度もくりかえして、たった一本、無二の剣を造り出す。

 

ここは剣の世界。職人の製作した武器には、魂が宿る。

プレイヤーメイドでも、似たような武器は巷に溢れている。でも、全く同じ武器は一度だって確認されていないらしいことから、囁かれてるオカルトだ。

 

その話を聞いた時、なんだか、いいなって思ったっけ。

鎚を握る右手に力がこもる。

 

規定回数の打撃を終えたことで、インゴットが光を放ち始めた。

ふう、と息をつく私の目の前で、光は剣へとシルエットを変じて、その内から金属の光沢が現れる。

 

「……うん、良い出来ね」

 

バランスの取れた性能の、素直な片手直剣。

誰に贈るでもなければ、頼まれたから造った訳でもない。……見知らぬ誰かの為の剣。

 

ふと、共用工房から、窓を見る。

どんよりと曇った空。……いつ降りだしても、おかしくなさそうだ。

 

アインクラッド第一層、はじまりの街、そこで、リズベットは鉄を打つ。

 

 

 

*****

 

 

 

はじまりの街は、最初のうちは恐怖と無気力、退廃の漂う場所だった。

 

一歩でも、街の外に出れば即ち待ち受けるのは死である。

そう考えて只管の待機を選んだプレイヤーばかりが残った街ならば、それは必然だったろう。

 

誰かが命を賭して攻略し、自分達はただ漫然と身動ぎもせずいるという状況は人々の胸に根源的な罪悪感と強い無力感をもたらした。

 

リズベットはそんな暗い雰囲気に甘んじるのを良しとせず、自分に出来る事をやってやろうと最初に鎚を握ったプレイヤーの一人だ。

 

そんな事は無駄だと。

ゲームクリアなんて出来っこないと、やっかむように言われた事もあるが、そのたび歯を食い縛って工房に向かったものだ。

 

そんな気運が変わりはじめたのは、いつだったか、シンカーさんが街のみんなをまとめようと動き始めた時か、とうとう最前線プレイヤー集団が第一層をクリアした時か……あるいは、何故か上層で【鍛冶】や【裁縫】どころか【音楽】や【舞踏】までもが絶賛されている、なんて噂が聞こえてきたあたりかも知れない。

 

戦えなくても、街から出られなくても、何なら、人前に出ることすら怖くても、出来ることはある。

 

いつしかはじまりの街の住人は、みんな思い思いのスキルを鍛えはじめた。

 

ギルドの正式な立ち上げから一月半が経ち、いまやここは職人の街であり、芸術の街でもある。もちろん、発展途上の黎明期ではあるが。

 

一日の冒険を終えた攻略組が、はじまりの街に降りて来ることは最近では珍しくもない。

酷使した武装を鍛冶屋に預けて、奏でられる音楽を楽しみながらプレイヤーメイドの料理にありつく。

もちろん、その身に纏う服は職人のこだわりが光る一品なのだ。

 

「変われば変わるもんよねー」

 

街と、そして一端のブラックスミスたる自分を省みて、リズベットは力なく笑った。

 

ここはギルド【MTD】の第一女子寮の食堂だ。

寮母さんの作ってくれた和風の朝御飯に舌鼓をうち、グラスの水を飲み干す。

今は他に人はいない、がらんとした印象を受ける。

 

【MTD】は、今やはじまりの街のほとんどの全プレイヤーが所属する他に例のない巨大ギルドであり、リズベットの一応の所属先でもある。

 

一応、というのはあんまりにも締め付けや規定が緩く、ご近所付き合いの延長線上という感覚が抜けないからだ。

 

シンカーの下、ギルド員の調整や支援を担当する管理部は、やりがいがあると嘯きながらも悲鳴をあげているが、リズベットはじめ生産部にとっては三食に住居に資金援助に情報援助から望むなら顧客との折衝まで肩代わりしてくれる有り難すぎる組織なのだ。

 

(それだけに、なあんか、ね)

 

最近、不意に込み上げては波のように引いていく罰当たりな閉塞感を、ピッチャーから注いだお代わりの水と共に飲み下す。

……生憎の悪天候でも、今日は接客すると決めた日だ。

リズベットは自分に与えられた販売ブースへと向かう。

 

(商人のみんなに卸せば勝手にやってくれるのになんて、みんな言うけど……どんな顔したやつが私の剣を使うのか、知りたいと思って悪いかしら)

 

なぜだろう、今日はなんだか気分が逆立つ。

とんと客が寄り付かないのは降りだした雨のせいだろうか。……この眉が寄っているせいではないと思いたい。

 

現実そのままの無難な髪型と茶髪。

洒落っ気のない作業服を着た姿は、さながら土木作業員の女子中学生?

 

(かわいい服なんて恥ずかしいし……)

 

持っていないわけではないが、自分で選んだそれを堂々と着て店頭に立つのは髭面の職人親父どもと喧々諤々やりあうのとは全く違う度胸がいるのだ。

 

「ノックしてもしもーし? やってるー?」

「……あ、は、はい!?」

 

雨で足音が聞こえなかった。

元から綺麗な剣を更に磨いていたところに、多分今日の唯一の客が来た。

 

「えっと、ご用件は……」

 

慌てて対応しながらリズベットは忙しなく客を窺う。

 

……綺麗な女性だ。

まず間違いなく自身より美人と思えるプレイヤーに、リズベットは初めて出会った。

 

濃い青色の、改造された袴のような服の上から赤い飾り布を各所で羽織り、きらびやかな腹帯で締めている。

特徴的な輝く銀髪、雲の上の青空のような瞳。腰に帯びた曲剣。

 

(あれっ……この人)

 

疑問を確認するためにリズベットが再度口を開くより早く、女サムライが用件を告げた。

 

「カタナを一本、打ってほしいの」

 




リズベットは可愛い。
だから活躍させたい……当たり前だよなあ?

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