デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~   作:ちっく・たっく

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なぜ人は冒険に出るのか。


みんな、いっしょうけんめい、はたらいている!

とある階層、竹林と荒野を超えた外縁部に、藁葺き屋根の庵がある。

 

「なに、玉の鋼がほしいだと? 昔は作ってたが魔物が出るようになって廃れたよ……」

 

「……あ? 魔物は倒すから鋼を鍛えろ、だあ? ……はは、こいつは傑作だ。二つ返事で応と言ってやりてえとこだがな……」

 

親父は外の、何もない荒野を眺めて嘆く。

 

「今となっちゃ無理だぜ、まず、炉がない……」

 

 

 

*****

 

 

 

ざっく、ざっく、ざくざく……。

 

かくして、旅だってからほんの小一時間後には、三人組はスコップが大地を削る音を聴いている次第である。

 

「あはははー、しっかし、意外な展開ですねーそして心外なことですねー、ですですねー。なんで自分が粘土採掘担当なんですかねーリズベットさーん、いい加減に代わって下さいよー」

 

響かせているのは主に、口が減らないデンジャラス・陽気野郎・モルテくん。

 

ざくざく…ざっく、ざく。

 

「いや違うわよリズ。スキルアシストに乗るっていうのは……こう、ずぱぱーん! よ、ずぱぱーん!」

「なによずぱぱーん! って! ムサシ、さっきからあんた、私が素人だからって適当にやってないでしょうね!?」

 

そんなフード男を尻目に、私たちレディは個人レッスンに励んでいるのである。

私の行き当たりばったりで要領を得ない説明にも真剣に取り組んでくれるので、ついついこっちも熱が入る。

 

ざっくざっくざっく、ざくざく。

 

「……無視ですかーお二人ともーそうですかー。あはははー泣きますよー、いいんですかー見た目から不審者と評判のモルテくん、恥も外聞もなくスコップ放り出して泣きわめきますよー、いいんですかー?」

「ふざけてないわよ。なんていうか、説明が難しいというか何が難しいか分からないというか……ちょっと、もう一回スキル出して」

「……こう? 」

 

リズベットのもつ片手鎚が光り、軽快なサウンドを響かせスキルが空を薙ぐ。

それが少々【遅く】感じるのは彼女のステータスが低いからばかりではない。

 

「そうそう、で、次はその動作をあらかじめイメージしておいて再現するというか、自分の動きを上乗せする感じよ」

 

こくこく頷いて、リズベットは再び武器を構える。

 

「……てい! ……やった、今のいい感じじゃなかった!? ねえ!?」

「おー! いい感じでしたとも! 流石リズ! よっ! 天才! 日本一!」

 

ざっくざっく。ざっくざっく……ぴたっ。

 

「びぃえええーーーー! おぎゃーーーー!」

「うるさい、黙れ」

「うるさい、埋まっときなさいよ」

「あはぁ、いくらなんでも酷くないですかねーーー!?」

 

 

 

*****

 

 

 

「なんだと? もう粘土を集めてきただと? ……なるほど、おめえらが本気なのは分かった。……なら次は鋼の材料だ。……つまり砂鉄だ。竹林の中を通る川の底に積もってる砂鉄はそこらの剣には向かんが、カタナにはピタリと合うのさ……」

 

ばっしゃばっしゃ、ばしゃっ。

続いて怪しきラテンのモルテくんが響かせるは騒々しい水音。

 

「ムサシさーん、リズベットさーん。手伝ってくださぁーい、川底えんえん浚うこの作業、激激ダルダルぴーぴーぴーなんですけどー……」

 

しかし騒々しさでは本人も負けてはいない。放っておいてもクルクル調子よくそのしたが回るので、今一任せっぱなしでも罪悪感が湧かない……凄いなモルテくん。

 

ばしゃばしゃ、ばっしゃ……ばっしゃ。

 

「スイッチって私が叫んだら、リズはすかさず走り込んで一撃ね。そしたらまた間髪入れずにスイッチって叫んで私とポジション交代」

「ねえ、ムサシ、この練習やる意味あるの? 私パーティ組む予定ないし、いちいち叫ぶの恥ずかしいっていうか……」

 

眉を何やら情けなく曲げて、言外にやりたくないと訴えてくるリズベット。むむ、駄目だぞそんなことでは。

 

「もしもぉーし! もしもぉーし! あとリズベットさん、その考えはヤバいです。ヤバあまーですよぉ。実際、馬鹿に出来ない練習だと、自分も思いますねぇー」

 

おっと、台詞をとられてしまった。その通り。

 

ばしゃばしゃ、ばっしゃ。

 

「リズ、練習で叫べない人はね、本番でも叫べないもんなのよ。いざチームプレーしようと思ったら分かりやすい意思表示って凄く大事なの。……固定パーティ組む予定なくて、即席パーティ上等の貴女は尚更なのよね……てなわけで、とうっ! スイッチ!」

「……わーかったわよ。……スイッチ!」

「ベネ! ディ・モールトベネ! いい叫び!」

 

飲みこみが早いなぁ。プロデューサー冥利に尽きる。

 

「……あはぁ、なんでイタリア語なんですかー?」

「さて、なんでかしらねーモルテくん。多分私が生粋のジョジョラーだからねモルテくん」

「…………あはははーなるほど」

 

ばしゃばしゃ、ばっしゃ!

 

 

 

*****

 

 

 

「よくもこんだけ集めてきたもんだ。これなら望みはあるぜ。……あと必要なのは火力だな。いいか、あの竹で炭を作るとだな……」

 

さく、さく! すぱっすぱぱっ!

 

「いやー、これは今度こそ代わるべきですよぉムサシさーん、もしくは協力プレイを見せるときですよー。竹を切りまくっては爺さんのところに運ぶ、得意でしょぅーこういうの。スイッチ! チームプレー!」

 

すぱぱっ! ばさばさ……。

 

「いいかしらリズ。この世界でも最後にものをいうのは、本人自身の性能なのよ。分かる?」

「……いや、どういうことよ? 現実で剣道やってればこっちでも強いとか、そういう話? たしかによく聞くけれど、眉唾な気がするわね。向こうにはパラメーターとかないし、こっちじゃ関係ないでしょ。死にたくないから引きこもってる元運動部とか沢山知ってるわよ」

 

ざっざっ……さく! さく!

探索部のエース(他称)死神モルテは今日始めてその卓越した剣技を炸裂させていた。……竹に!

 

「あはははー、それはそいつらがビビりなだけですよー!」

「……まあ、関係は大有りよ。散々練習して体を動かすことに慣れていて、試合で培われた度胸でモンスターを前にして動ける。……そして、練習や実践こそが成長に繋がると実感している。すごく大事よ」

「……そう言われると、なるほどって感じね」

「モンスター相手だろうと最近話題のPK連中が相手だろうと、大事なのは観察力や冷静さ。恐怖に負けない勇気。……そもそも遭遇しないための事前の情報収集や人脈。どれも、数字の強さとか関係ないでしょ」

「ふむふむ」

 

すぱぱっ! すぱぱっ! すぱぱっ!

 

「あはははー大変いい話ですがー、そろそろ本当に、代わってくれませんかねー? 午前中いっぱい、実質働いてるの自分だけじゃないですかー。ブラックですよー! ブラッキーですよー!」

「ブラッキー君は私のダチだから問題ない。はい論破」

「ええぇーーー?」

 

 

 

*****

 

 

 

「……炭が全部仕上がるまでは時間がある。炉もまだ乾いてねえし。そうだな、日が暮れる頃合には万事準備を整えとくからよ」

 

太い笑みを浮かべた親父にやんわりと庵から追い出され、私たちは荒野の開けた場所で、大分遅れたお昼にしようかということになった。

 

今にも降りだしそうな灰色の空の下、倒れて乾いていた竹を燃やした火を囲み、各々がお弁当を取り出した。

 

「三人分のつもりで、沢山作ってもらっちゃったわ」

 

そう言ってリズベットが取り出したのはバスケット一杯に詰まったサンドイッチ。

色とりどりの具材と柔らかそうな白いパン生地のコントラスト。

付け合わせのポテトサラダと揚げ物が美味しそうだ。

 

リズベットの寮母さん謹製のピクニックセットはハードボイルドな雰囲気を和らげる穏やかさ。

 

「常に食料携帯しておくのはぁ、冒険者の心得ってやつですよーリズベットさん。さ、さ、お二人ともどーぞどーぞ。けっこーイケるんですよこのビスケット。火で炙ってもまた味が変わっていいですしぃ、そうだ、自分秘蔵のジャムコレクションを出しましょうかねー、かねー。あ、バターやクリームはジャムじゃない? いいーじゃないですかー美味しぃーんですからぁー」

 

モルテくんがへらへらと披露したのはゴロゴロと大きく焼かれたビスケットだった。

マックとかハンバーガーショップで出るようなやつより、少しゴツい。

 

そしてコルクで栓をされた色とりどりのガラス瓶。

食材の色から味の類推が困難なソードアートオンラインであるからして、例えば紅いジャムを舐めることさえちょっとした冒険だ。

……そのまんまイチゴ味っていうことは、まずない気がする。モルテくんだし。

 

「……で、ムサシのそれ、なに?」

「え、ウドンだけど?」

 

丼(に似たお碗)に盛られた真っ白の麺(かなり細くてどちらかというと素麺に近いという説もある)。そこに水筒から注がれて湯気を立てている麺汁(みたいな色あいの薄茶色スープ)。

 

かなりアレではあるものの、ウドンと言って差し支えないのでは?

 

ずるずるー! ずびずばー! ずるずる……。

 

「おおー、これはこれはまた、素晴らしいおあじですー。コンソメみたいな汁にちょっと粉くさい麺が絡まってなんとも……」

「こら、モルテ! いただきますがまだでしょうが!」

「どれも美味しそうよねー!」

「んぐ、はぁい、いただきますー」

「……はあ、いただきます!」

 

 

 

*****

 

 

 

パチパチとはぜる火に当たりながらだと、不思議と気分が高揚して、おしゃべりになってしまうのはなんでだろう。

 

いつでもうるさいモルテはともかくも、ムサシまでもが楽しそうに冒険譚や音楽家の苦労話を話してくれるのが、なんだか、思えば奇妙なことだ。

今日この日のことを芸能部の連中に話したら、相当羨ましがられるに違いない。

話し方を間違えると恨まれるまで有りそうなのがこわい。

 

「……は、ハッッシン!」

「……あはははーリズベットさん、リズベットさん、何処に発進するんですかー? 何処着ですかー?」

「……っ! うるっさいわね! ただのくしゃみでしょ!」

「寒くなってきたかしらね……」

 

ムサシはそうつぶやくと、深い紺色の甚平を取り出して、それを隅々まで見聞するようにごそごそしてから、「うんうん」と頷いて、私に羽織らせてくれた。

 

「……あんがと」

「どういたしまして☆」

「おぉームサシさん、カッコいいですねー。イケメン! 激リスペクトー!」

「いやー、どーもどーも」

 

ムサシは笑って立ち上がると木の実のような形をした小瓶を取り出した。

 

「おぉー! カレ瓶じゃないですかー! つよつよ白エルフからしか出ないって話題のレア物ですねー!」

「カレス・オーの水晶瓶ね、私ってば、色々なスキル上げてるから、こういうの無いと追いつかないのよー」

「なにそれ、どんなアイテム?」

「これ一本に、スキル一個の熟練度を保存しておける瓶ですよー! 激激レアレア! ……まあでも、スキル上げってかなり遠い道程ですしー前線組以外での需要はビミョいですかねー」

「……え、なにそれ、すっごいじゃないの!」

「ふっふっふ、顔が広いと便利ヨネー。欲しいアイテムとか売ってあげるから俺のために歌ってくれ、なんて言われることもちょくちょくよ」

 

ムサシはあれよあれよという間に瓶をしまい、ギターを取りだし、発声練習まで始めてしまった。

 

「うっしゃー☆ 一番! ムサシ! 歌いまーす♪」

「よっ待ってましたー! あはははぁー!」

「やったー! 私も聴きたい!」

 

「ではでは、この生憎の天気と楽しい冒険にこの歌を添えましょう!」

 

【曇天】

 

それは、私も知ってるアニメソングで、なんだか懐かしくて、私が求めていたもので、だから、本当に降りだした雨がありがたかった。

 

頬に伝うのは、雨だった。

……決まってるでしょう?




クエストを作るって大変ですね。
プログレッシブは偉大。

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