デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~ 作:ちっく・たっく
こぎと、えるご、すむ、だったか。
我思う、故に我あり。なんかカッコいい中二心くすぐる文句ランキング殿堂入り確実なフレーズである。
人間存在、魂あるものの価値とは自らを自覚して思考するにあるのであるまいか……つまり、何が言いたいかと言うと。
ひ ま だ よ。
赤ん坊って暇。
マジで暇、本当に暇、絶望的に暇。
そりゃ体の自由が効かないわ食べることと寝ることしかやることがないわ愛しいママンにありがとうもスンマセンも言えないわで泣きたくなって、そしたらそのまま泣いちゃうし。
……世の赤さん達がなんでギャンギャン泣きわめくのかようやく分かった、こりゃ泣くわ。
「オギャーーーッ オギャーーーッ」
「あらあら、フレちゃん、ほんと元気ね、頑張りやさんだわ……よしよし」
だがまあ、これもボイストレーニングだと思って泣くときはしっかり泣こう。
なるべく夜泣きはしないようにするから耐えてねママン。
……情けないし申し訳なくて泣きてえよ、泣いてた。
鈍くてしかたない体の感覚を意識しながらじたばた、ちっちゃい指ぎゅっぎゅと動かす。
筋トレとかすぐ投げ出してきた実績を持つ俺だが、暇と自責があれば力も入る。
……うごけえ、はやく、うごけえ。
全力で動く、全力で泣く、全力で飲んで出す。赤ん坊業は年中無休のブラック具合。……余暇で出来るのは考えることだけ。
っかーつれー。ネタじゃなく、つれー。……ねむい。
*****
時は流れて乳児から幼児に進化。
……非常に早熟なお子さんですねとメディサンは驚いていたが、そりゃそうだろう。
こっちは意識高い系の赤ん坊だったんだよ。
そこらのべべちゃんとは目的意識が違うのだよ。
よちよち歩きができるようになったこの段階で、将来を見据えて自分磨きをしようという赤ん坊が他にいたらやだけどさ。
さてさて、アイドル道を歩まんとするなら日々これカラテあるのみ。古事記にも多分書いてある。
パパンママンの会話から察するに、どうやらママンは昔はバレエでずいぶん鳴らしたらしいのだ。
トロフィーや賞状が飾ってあるくらいだもんね。
お膝にのせてバレエDVD見せてくれたし、昼間に流す音楽はクラシックばかりなのだから筋金入りだ。
……運動を始めるのは早ければ早いほどいいに決まってるよね。
「ママン、あのねー、フレちゃんねー」
「ええ、なあにフレちゃん」
こちらをにこにこ見つめるママン。
私を育てながらの主婦姿も板につき、美人ぶりも眩しいばかり。
「バレエやってみたいの」
「えっ本当?」
だが板についたのはこちらの幼女も同じことよ。
もとよりネットの片隅のとある界隈じゃあボイスチャットでも恥ずかしげなく女性から子供、あらゆるキャラを全力ロールプレイする「声が野太いあの人」としてそこそこ有名だったのだ。
……あれ、おかしいな、赤ん坊卒業したのに、なんか泣きそう。
ともあれ実物になったからにはこちらのもの。
近所のジャリガキを参考に鏡の前で12度の試行を経て習得したおねだりスキルをいかんなく発揮する。
これで落ちないママンはいねえ!
バレエをやりたい、というアタシのおねだりを聞いたママンは顔を赤らめて頭をかいて、照れたような仕草を見せた。かわいい。
「あの人から聞いたの? もー……でも、フレちゃんが興味持ってくれて、うれしいわ」
「うん、フレちゃん、ママンみたいになるの」
まだフランス語読めないと思ってるだろうし、そういう反応か。
写真も貼ってあったけど、よく考えたら、あれ何やってるの? から入るのが普通だったかな。
だけどまあ、このままママンの勘違いに乗じるとしよう。
……打算を混ぜて話すアタシを許してほしい。
ママンみたいになりたいのは嘘じゃあないよ。
マジで天使だし。結婚してえ。
自己嫌悪はさておき、私、バレエやる。
一流アイドルたらんとするもの、出来ることは多くないといかん。
フレちゃんがバレエ経験あるかどうか忘れちゃったけど、母さんが経験者でこんだけプッシュしてくるのだ。
本編フレちゃんも結構なものだったに違いない。天才肌っぽかったし。
彼女になった(奪ったとは考えないようにしてる)自分としてはフレちゃんを追い越すほどには頑張らないといけない。
「か、かわい、……でもフレちゃん、バレエって結構大変よ? ヤになったら、やめたいって言うのよ?」
「えへへ、ありがとママン。でも、フレちゃん、がんばります!」
「……」
おおう、ママンが無言でぎゅっとしてきた。流石は大天使ウヅキエルの聖句である。
なんだね、パパンが仕事でいなくて寂しいのかね、尊み出したつもりがバブみ出ちゃったかね。
……ちょっと、キツいよママン、あとブツブツかわいいかわいい言うのちょっと怖いよ。
……どうにか気を失う前に解放してもらえました。
この日、ママンはずっとご機嫌だったとさ。
*****
「いってきまーす!」
「朝ごはん、すぐできるからねフレちゃん。すぐ帰ってくるのよー!」
「気をつけろよフレデリカ。転んだら誰かに助けてもらえ」
「はーい!」
転生者フレちゃんの朝は早い。
朝起きる、トイレと洗面、歯みがきを抜かりなくすませるとすぐに外に飛び出していく。
手際よく朝ごはんの用意をするマンマと、コーヒーを飲みながら新聞を読むパパも笑顔で見おくってくれた。
ここはパリの中でものどかな区画だし、御近所との付き合いもある。
「おや、フレデリカじゃないか、朝から元気だな」
「うん! 元気は得意技なのだー♪」
「ボンジュール、フレちゃん、いつものとこ行くんだろ? 牛乳持ってきな」
「おじちゃん、ありがとー! 今度ママンとパン買いにいくね!」
「あらあら、フレちゃん、前見て走らないと危ないよ」
「はーい♪」
流石はフレちゃん、人気者だ。
元気なお返事と天使の笑顔をふりまけば、老若男女にもってもてよ。
軽くステップを交えながら街を走る。夏の太陽がまだ低い位置から光を投げ込んでくる。
思わず目を細めるも問題ない。馴染んだ街と道なのだ。
軽いランニング感覚で走って五分、目的地の森林公園についた。
漂うマイナスイオン、溢れる木漏れ日。うん、いつ来てもいい感じ。
「んぐっんくっぷは……よーし、やるよー♪」
牛乳飲んで、気合いを入れる。ここなら大声をだしても大丈夫。
発声練習こそ勝利の鍵だ。目指せ如月千早、もっとでっかく日高舞!
せーの……
「フンフンフフーンフンフフー♪ フレデリカー♪」
おっと、ついつい♪
子供が板についてるのは頭よくても空っぽの主人公スキル「おバカ」がはまってるからです。ワザマエ!
だいじぇすとだから、もちろん、他に色んなことがあって人生観変わったり、拗らせたり、吹っ切れたりもしてます。自己管理メント重点!