デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~ 作:ちっく・たっく
生粋のソロである俺にとって、それは正しく驚天動地であった。
デスゲームとなったこのソードアート・オンライン、ことに迷宮区では、そもそも他人に、つまりプレイヤーに出会うこと自体が稀だ。
HPの全損が即ち死に繋がる。
そんな弩級のリスクを飲み込んでまで攻略に励もうという酔狂者が少ないのは道理であろう。
そんなシチュエーションで、たて続けに出会った二人のプレイヤーが両者ともに女性、しかもソロプレイヤーである……コレは類稀な珍事と言える。
更に更に、二人ともが現実のものと信じられないほどの美貌の持ち主であり……二人ともが、俺の前で意識を失っているとなると……遭遇するには天文学的リアルラックパラメータが必要なのではなかろうか。
一人目は名も知らぬ凄腕のレイピア使い。
迷宮区深層にて、儚くも美しい細剣をもって流星を再現してみせた少女。
攻略に、ゲームそのものに挑むように戦っていた不思議なフェンサー。
その疑うほどの強さと奇妙な振る舞いに思わず話しかけ、(女性と気づいていたら無理だったと思う)
いくつかの簡単なやり取りのあと、立ち去ろうという瞬間。
糸が切れた美しいマリオネットのように倒れこみ、そのまま意識を喪失してしまったのだ。
そんなフェンサー少女を救うべく、俺は工夫をこらした搬送作業にのりだした。
普段なら少女を見捨てかねない非情なベータテスターである俺が、何故にそんな行動に出たのかは、非常に多くの要素が絡み、乏しい俺の国語力では言語化が困難であるため別の機会に語るとして、問題はその後だ。
ゆっくりしたペースで(そうならざるをえない)薄暗い迷宮を俺の前に、【二人目】は唐突に転がっていたのだ。
「……くかー……くかー……むにゃぁ、むにゃぅ……」
「……おいおい」
……俺は彼女のあまりにあまりな姿に、二の句がつげずに言葉を失った。
……寝ている。
明らかに熟睡している。
壁の四隅に設置された特徴的なここは迷宮区に一定の間隔で存在する安全地帯だ。俺も復路で寄った覚えがあるから間違いない。
しかし【安全地帯】とはいうものの、もちろん街の広場などとは訳が違う。
暗く冷たく、モンスターの足音や唸り声が響くダンジョンの一角なのだ。
例え如何なる勇者であろうともこんな所で満足な睡眠などとれるはずがない……というのが俺の持論だったのだが……。
「……すぴー、すぴー……」
「……」
続いて彼女の格好に注目してみると、これまた大変特徴的だ。
銀髪女サムライ……なのだろうか。
ノースリーブの紺色の着物に短い帯を締めている。
腕と足に揃いの黒い布装備を付けているが、薄すぎて視覚的防御をなしていないだけでなく攻撃的ですらある!
太股、絶対領域!
腕を枕に男らしく寝てるもんだから脇が丸見えだし!
いかん! これ以上見てると俺の青少年の何かがアブナイ!
「おい、あんた、こんなとこで寝てるとアブナイ! 起きろ、いや起きてください!」
「……んあ?」
トラブルで気を失っているとかでは無いとは思うがフェンサー少女の例もある。
万一のことを考えると声をかけざるをえない。
アブナイサムライは意外にもすんなりと目を開き、身体を起こすとググッと猫科の動物がするように伸びをした。
……【艶】という漢字が何故か俺の脳裏をよぎる。
「……ふぁぁ。 あら、スッゴイ美少年、おはよう」
「ああ、おはよう」
……いや、何を自然に返してるんだ俺は。
呑気すぎるだろこの女!
こっちの気も知らないで!(よく考えたら知るわけないのだが)
「こんなところで寝てたら危ないだろ! 気を失っていると思うじゃないか! 女の子は自分を大事にしろ!」
「お、おう?」
「……あ、いや、ゴメン」
……しまった。
思うに、どうもフェンサー少女から続いてのことで溜まっていた憤りが出てしまい、感情的に怒鳴りつけてしまった。
「……くくっ」
バツが悪くなって俯くと、押し殺したように笑う彼女。
「……なんだよ」
「いえいえ、笑ってごめんなさいね。そして、ありがとう。……改めるとは限らないけど、気遣いはとても嬉しいから、有り難く受け取ります」
華の咲くような笑みに毒気を抜かれる。
「はじめまして、私はムサシ。……優しい美少年くん、キミの名前を教えてほしいわ」
「……美少年はやめろよな。この女顔、気にしてんだから。……キリトだ。よろしくムサシ」
キリト、キリト。
ムサシは口で転がすように俺の仮の名を繰り返し、とても、奇妙なことに。
「キリト、いい名前ね。……貴方に出会えて、本当に嬉しい」
言葉の通り、本当に嬉しそうに、微笑んだ。
ちなみにアスナさんは寝袋に入れられて転がってます。