デレマスに転生したと思ったらSAOだったから五輪の真髄、お見せしるぶぷれ~ 作:ちっく・たっく
人様の顔色より読んだよコレ
「……ふう」
迷宮区最寄りの街にして風車建ち並ぶのどかな街【トールバーナ】に到着した私は、まずは見知った最安値の宿屋に突入し、安っぽい木組みベッドだけの部屋をざっと見聞し、仮想の身体を横たえて薄汚れた天井を眺めた。
あの後、私とキリトはすぐに別れた。
彼は彼の事情で、私は私の事情で、未だソロプレイヤーをやめるつもりはない以上、それが自然の成りゆきであり、事実そうなったわけだ。
「……くふふっ」
自己紹介から我にかえったキリトが寝袋の中に詰まったメインヒロインについての弁明を必死にしてくる様を思い返して、ついつい笑ってしまう。
これからの【歴史】で数多の【世界】を救うはずの【大英雄】は、会ってみたらフツーに普通だった。
……ちゃんと人間だったし、ちゃんと中学生男子だった。
二人で協力して運搬したので【原作】より大分スムーズに迷宮を出られたはずだから、外の明かりの下で、チョットだけ長い間、お姫様の寝顔を見つめたりしたのだろうか……。
「面白いのう、この浮き世は、ほんに面白いのう堪らんのう……」
目を瞑りサムライ独り言ロール。
まだ、疑いの心は残っている。この世は、俺が知ってる世界なのだろうか?
そうだとして、此処に私が居ることでどんな変化も起こらないはずはない。
どれほど気をつけようと……。
死ぬはずの人は生きるだろう。
生きるはずの人が死ぬことも、やはりあるだろう。
功罪や善悪を誰が計るのだろう?
何が裁けるというのだろう?
「ま、とりあえず寝ときなよ☆」
【はじまりの手鏡】を取り出して言ってみる。
フレちゃん可愛い。これは真理だな。うん。
攻略会議まで、しばらく時間がある。
……少し、眠ろう。
*****
青髪騎士ディアベルが仕切り、トゲトゲ野郎キバオウが吠え、褐色巨漢エギルが締める。
前世の「俺」が人様の顔色より読んだソードアート・オンライン第一層攻略会議が、今まさに真の魂を持った御本人達によって現実のものとなっている。
……予想外のノイズで、あんまり堪能できてはいないが。
「……おいあれ、見てみろよ」
見世物じゃねーぞ。
「うお、……スッゲー美人っ」
そりゃどーも。
「海外ユーザーかよ……日本人じゃあないよな」
日仏合作だよ。
「シミター以外は布装備のみかよ潔いなぁ。……プレイヤーメイドだよなアレ」
おっと御目が高いねキミ。
「……後で話しかけてみろよ」
……他人に押し付けるな。
「えっー!? むりむりむり」
かかってこいやー。
おまいらなあ、丸聞こえなんですけど?
私の自慢の一張羅に目をつけたやつ以外は氏ね。氏んでおけ。
声が聞こえて来たほうに軽く睨むように視線を投げると、ピタリとやむのがまた、情けない。
思わずため息を一つ。
私が言うのもなんだけどさ、お前ら会議はちゃんと聴いとけよ。
弁えててデキるプレイヤーにとっては、今さらベータテスターがどうとかは本当のところどうでもいいのはわかるけどさ……。
こういう奴等が一定数いることを安心材料にしていいのやら……。
そんな具合の悪さを感じるうちに、顔合わせと意思統一を兼ねた会議はお開きとなった。
実際のボス対策や戦術は、また後日となる。
……しまったなあ、この時点ではアスナはフードで美人を隠してるから、この大人数の紅一点であるムサシちゃんに視線が集まるのは道理であったか。
広場の隅っこにキリトくんとフードアスナちゃんが居るのは見えたが、この状況で絡みに行くのも悪い。
……なんかシリアスやってる空気を感じないでもないしね。
私は今からでも目立たない装備への換装を考えながらその場を離れる。
「おい、アンタ、ちょっと待ってくれヨ」
……でもなぁ、やっと見つけたお針子さんにムリ言ってせっかく揃えた第一段階武蔵ちゃん装備を……。
「おい! そこの美人のネーチャン! 待てッテ!」
「……へ? 私?」
「アンタ以外にここらに美人のネーチャンはいねーヨ。……しかし足はえーナ」
オレっちも、そこそこ上げてんだけどナー……。なんてぶつぶつ言ってる目の前の
プレイヤーをジッと鑑定する。
全身くすんだ色の布と革装備。
子供のような低身長に金褐色の巻き毛。
愛嬌ある顔に特徴的すぎる三本髭ペイントとなれば……。
「……鼠のアルゴ?」
「おお、オレっちのことを知ってくれてるなら話は早いナ。そう、その鼠で合ってるヨ」
にひひっと、この世界を代表する情報屋プレイヤーは、茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべてこちらを見上げた。
……名乗らねばなるまい。
「申し遅れました。……私はムサシ。職業は気持ち的に新免武蔵守藤原玄信やってます」
「くはっ、さっきのナイト兄ちゃんの真似かヨ。なげーヨ」
アルゴはますます笑みを深くし、こちらに予想外の問いをしてきた。
「アンタが噂の【セイレーン】なんだロ?」
「……は? セイレーン?」
なんで海の凶悪妖魔あつかいされてんのワタクシ?
「知らないのかヨ? ここ何週間かで出回ってる噂だよ。フィールドには、野良セイレーンが出るって」
「……? …………!?」
「仕方ねーナ。初回サービスでその噂のことはロハで教えてやるヨ。……えーとナー」
かいつまんで言うと、なんでもこの広いソードアート・オンライン第一層で、それぞれ時期はズレていても共通する現象が噂されているらしい。
「フィールドで歌ってる謎の美女がいる」
草原で、森で、谷で、……遺跡で。
美しい歌声に惹かれて寄って行くと、そこには銀髪の女が、歌声に負けず劣らずの美しさをもって歌ってる。
でもって見蕩れてると、同じく寄って来たモンスターに後ろから小突かれる。死にかけた。
走りながら歌ってるのを聴いて、続きを聴きたくて頑張って追っかけてたら気づいたら森の奥まで行ってた。死にかけた。
大量のモンスターに集られてるのを見て、決死の覚悟で助けに行こうとしたらもう全滅してた。男としての矜持が死んだ。
「……いや、知らないわよ特に最後! 全員勝手に死にかけてるだけじゃないの! 私は悪くない! セイレーンあつかい反対!」
「でも歌ってはいたんだロ?」
「……まあ、そうだけど」
キラリ、鼠の目が輝いた。
「やっぱりナ! 銀髪美人なんてそんないないからそうだと思ったけどやっぱりナ! なあ、なんでフィールドで歌ってんダ? 本当に強いのカ? どーして急に迷宮区に来てボス討伐に参加しようとしてんダ? 今度は踊ってたってネタは上がってんダゾ! どんなクエストやったらそーなル!?」
「ウェイウェイウェイ、落ち着きなさいってばよ」
こえーよ。なにがこの鼠をここまで駆り立てるんだよ。
原作でこんなんだっけ?
「落ち着いてられるかヨ!? この一ヶ月でわけわからんプレイヤーは星の数ほど把握してるが、アンタはその意味じゃ、ぶっちぎりダ! そのくせ足はえー、ほとんど街にいねー、全然人に関わらねーで情報が集まらねエ! 誰もが知りたがって聞きにくるのに、全くわからんって答え続けなきゃならん情報屋の気持ちがアンタにわかるカ!?」
「お、おう」
「鼠のオレっちが言うのもなんだが、やっと尻尾を掴んだんダ……今日という今日は逃がさねエ。金なら言い値を払うからサ! インタビューを受けてくれヨ! これはオレっちの意地ダ! なんなら、売ってほしくない情報は言ってくれれば売らないと誓うゾ!」
「……えー」
デメリット、もっと目立つ、恥ずかしい、アルゴの目が血走って怖い。
これに対してメリットは……絶大だ。
まずアルゴとのコネクションは大きい。
今はこんなでも優秀さは疑いようのないプレイヤーだ。
信用のおける情報屋なんて他にいないし、キリトやアスナはじめ、誰の情報も金次第で手に入れてくれるだろう。(アルゴが義理で口にできない情報を聞く気もないし)
しかもこれは請けた時点で結ばれるものであり、今回のインタビューに対する報酬をさらに要求できるときている。
……切羽詰まってるわけでなし、金は凡手どころか悪手であるなぁ。
……よし。
「……いいでしょう、その話、お請けしましょう」
「本当カ!? よっしゃ、なら早速で悪いが金額の相談ヲ……」
「いえいえ、せっかくの鼠のアルゴからの依頼だもの。……報酬も情報で貰いたいわねえ」
その言葉を聞いた【鼠】はケタケタ笑った。
「おお、いいゾー。アンタの情報に釣り合うくらい、事細かに教えてやるヨ。……で、どんな情報が要りようかナ?」
応じるように私もニッコリ笑って。
「騎士ディアベルの情報、あるだけ、詳しく。かなうなら追加で調べて、チョーダイ♪」
とある決意を秘めた私の瞳に何を見たのか、鼠のアルゴの笑みは、ここで何故か引きつった。