人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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ティアマト『もし、火の神たるあなた』

カグツチ『・・・?あなたは・・・』

ティアマト『えっと・・・ティアママです』

『ママ』

『母として、これだけは・・・。きっと、イザナミはあなたを憎んでおりません』

『・・・?』

『あなたは、母を不要とはしていない。だからこんなに哀しんでいる。・・・だから、きっと大丈夫
。どうか・・・信じてあげてください。母を』

『・・・』

数分後

ニャル【やぁこんにちは!日本のダウナーゴッド。ニャルだ!最愛の娘がいる身としてアドバイスしよう!】

カグツチ(なにこいつ)

【騙されたと思い聞いてごらんなさい。・・・いいかな?親の罪は、子のものじゃあないんだ。親がどれだけろくでなしであろうと、子までろくでなしでいなきゃいけない理由は何処にもない。私もね、私をバカにするのは構わんが、私の娘を同一して叩いてきた奴を宇宙毎捻り潰したりするくらいの溺愛する娘がいてね。だから解るのさ。君が悪いことなんて、きっとなーんにもないんだよ】

『・・・』

【だから、顔を上げてみるといい。きっと、君が照らすべき何かが見えるはずさ。──親を想える子は素晴らしいのさ。私の娘の次にね。以上、清らかで誠実なパパ神からの真摯なアドバイスでした♪】

(嘘だ。最後のは絶対)

茨木「御菓子のおかわりだ!・・・ん?どうした?誰かと語らっていたか?」

『ママと、不審者』

「不審者!?」


贖罪の焔、過去を想う鬼

「なぁ、カグツチよ。吾はこうも思うのだ。確かに、末路はどうしようもなく哀しいものだったかも知れぬ。別離は悲しみに満ちていたかもしれぬ。しかし、しかしだ」

 

『・・・・・・』

 

言葉なく穏やかに、山盛りに積まれたお菓子。互いが互いに無言の時間を過ごし、長い様な、それでいて短いような語らいは、今も尚続いていた。茨木に先の様な苛烈さはもう無い。目の前の存在を、畏怖と恐怖を集める神とは認識しなくなっていた。自身にも、親との確執を導けるような上等な経験は乏しいがそれでも。この小さく燻る種火を放っておく訳にはいかぬと頭領としての気遣いが発揮されていたのだ。それほどまでに頼り無く、小さく、弱かったのだ。目の前の神は。幸い、頷く位は返してくれるようになった程の距離感を感じながら、言葉を告げる。

 

「それでも、父と母は汝を愛し、望んで汝を産み出したのだ。その事実は、決して覆らないのではないか?」

 

『・・・望んで?産んだ?』

 

「そうだ。確かに、産まれたばかりにて母を手にかけ、父に殺されたなど汝しかいまい。鬼もせぬ程の壮絶な親子の確執だ。それをわかってやれるものは、この世に果たしているのかどうか・・・」

 

『(どよーん)』

 

「しかし!しかし!それでもと吾は思う。子供とは、自然には産まれぬ。其処には確かな意志があるのだ。温羅のやつめはよく解らんが、初めは侵略と破壊の為に産み出されたと言っていた。自然とポンと産み出される存在はいない。吾も厳しい母に産み出されたし。シュテンはそうだな、えーと、大明神から産み出されたとかなんとか・・・我らと違う!そう考えれば解りやすかろう!汝は間違いなく、愛され望まれて産まれてきたのだ!順序が逆だ!汝は愛され、祝福されて産まれてきた。その直後に不幸な事態が多々起きたに過ぎぬ!汝は決して、生まれを拒絶された訳ではない!」

 

『そんな事・・・解らない。私は、火神として産まれた。初めから、二人を引き裂く為に産まれたのかもしれないし。そもそも、私を望んだのかも解らない・・・』

 

「いいや解る。解るのだ。カグツチよ、母はな、子を産む為に壮絶な苦労をする。それでも生誕を願いこの世に産み落とすのだ。その証拠が──人間だ」

 

人間?その言葉の突拍子も無さにキョトンとするカグツチ。人の営みの中で、ちらほらと見てきた事を考え、言葉にする。ならばきっと、その源流たる神ですらきっとそうなのだ。

 

「奴等は幼児を腹で九ヶ月も抱え、育てると言う。異物と身体に拒絶され、不調に悩まされようとだ。それは、子の重みに堪えぬいてだ。見ろ。この二人で食べた山盛りの菓子の山を。今食べたお菓子の全てよりも重い命を、抱えてその時を待つのだ。そこには、人情がなければ到底堪えられぬ苦しみではないか?──そして、それを可能にする情とは・・・子を想う愛なのではないか?」

 

『・・・子を、想う・・・愛・・・』

 

「汝はその苦しみを乗り越えるに値するほどの存在だったのだ。汝の価値は、他ならぬ汝が証明しているのだ。・・・そもそもの話だぞ。生きるのに、誰かの赦しなど必要は無いと吾は思う」

 

そうだ。どんな存在であろうと、どんなものであろうと。産まれた事を覆す事は誰にも出来ないと茨木は考える。鬼であろうと、人であろうと。産まれたのならば、其処には自由が赦されるのだと。そして・・・何よりも。

 

「結末がどれだけ残酷であっても・・・愛され、愛した記憶はけして無くならぬ。けして消えぬ想いなのではないか?」

 

どれだけ哀しい事が起きようと、どれだけ結末が悲しいものだろうと。其処までの道筋はけして覆らない。愛され、母の胎内にいたことは変わらず、生誕を望まれた生命である事はきっと、変わらないのではないか。茨木は迷い続けるカグツチに告げる。それは食べに食べた菓子の作用か、生来の面倒見の良さが招いた結果か。カグツチの生誕を、けして無為とはしない答えを示したのだった。

 

『・・・・・・。我は、私は・・・僅かでも、愛されていた・・・?』

 

「うむ、きっと吾はそう思う。未来の事を語ると鬼が笑うと酒呑は言う。ならば、ならばだ。吾は過去を共に語る鬼であろうぞ。吾はまぁ・・・正直な話。あの二人と比べたら小さいものだ。今回も操られ、未だ母上の教えを完遂させているとは言いづらい。だから・・・その・・・」

 

『へっぽこ』

 

「はっきり言うな!?えぇい、調子が狂う!甘味を取ってくる!雲隠れするでないぞ!良いな!」

 

ぷんすこと去り、菓子を取りに行く茨木。それはたどたどしく、けれども誠実な言葉。それはカグツチにも理解が叶う。鬼は、けして嘘はつかないからだ。

 

『・・・・・・』

 

カグツチは想い耽る。いくら即座に殺されていようとも、自身はイザナギとイザナミの子。きちんとさした理性と道理は弁えている。その上で、私案に至る。

 

・・・過去の過ちは消えない。過去は刻まれた過去だからだ。これからもずっと、自身は親殺しの火の神だろう。

 

だが、『もしも』。もしもの可能性で、狂い果ててしまった母がいるのだとして。それを止められる事が叶うのならば。──其処こそが、今なのでは無いだろうか。

 

親を殺した自身の火が、茨木の言う通りに。今度は『安らぎ』を与えることが、苦しみを葬る事が出来るのだとしたら。それはきっと『今』なのでは無いだろうか?

 

今こそ・・・誰かに求められた今こそ。自身が火之神としての使命を果たす事の出来る、無二の瞬間なのでは無いだろうか。だとしたら・・・顔を背けてはいられない。自身も神として──

 

『・・・・・・』

 

・・・だが、それは恐ろしい。怖いことだ。自身の意思で、母を焼いたのではない。それだけは、誓って本当だ。誰にも、信じてはもらえなかったけれど。それでも、誓って本当だ。

 

だからこそ。だからこそ・・・今度もまた、同じ過ちを・・・。そう考えた時、ふと。頭に声が響く。

 

『信じなさい。貴女を今、誰より求めた者を』

 

『──!』

 

顔を上げる。今の声は、確かに自身に呼び掛けたものだ。確かに、自身に向けられたものだ。その声は、間違いなく──

 

『二人なら、きっと出来る。だってあなたは──私とあの人の子なのですよ』

 

『・・・──!』

 

声は、消える。何故自身に今問われたのか。何故今、自身に声をかけてくれたのか。その事は、理解するには至れなくとも。

 

『──私を、まだ・・・子と、呼んでくださるのか。このカグツチを・・・不逞の子を・・・』

 

信じよ、といった。あなたなら出来ると、二人なら出来ると、声は言った。紛れもなく、そう告げられた。ならば──

 

『・・・、・・・ならば・・・──かの者の言葉と、貴女の言葉を・・・』

 

今度こそ、自身は親に報いる。親に、子に相応しき成果を成し遂げてみせる。・・・存在そのものが、不逞の火之神ではあれど。それでも。自身を、まだ子と呼んでくださった親の為に。何より・・・

 

『・・・私を、必要としてくれた者の為に』

 

今度こそ、今度こそ誠実であれ。真摯であれ。生まれが不義の極みなら、未来の足跡を誠実であればいい。きっと、それが、償いの旅路の歩み方。今やるべき事は、慚愧と無念に燻る事ではきっと無い。

 

「あったぞ!御菓子だ!月の新王からたくさん分けてもらった・・・む?」

 

『ばらきー・・・ありがとう。私は・・・力を貸す。あなたに。今度こそ・・・』

 

今度こそ、自身に誠実であるために。親に真摯であるために決意を固める。その言葉に・・・

 

「・・・頭でも打ったか?」

 

きょとんとしてしまうばらきーであった。




カグツチ『じゃあ・・・一つだけ。そなたは、母に何を為す?』

ばらきー「・・・何を、か・・・正味な話、先までは恨み骨髄ではあったが、なんと言うのか・・・。汝の世話を焼く内、そのような感情は失せたというか・・・」

カグツチ『・・・』

「・・・うむ、そうだな。恨みや復讐などでモノを語るは人間がごとき脆弱さよ。唾棄すべき弱さだ!酒呑も温羅も。ただの一度も恨み節を酒の場で吐いた事はない。・・・吾も、出来るならばそうありたい。あの二人のように、強い鬼でありたい。ならば!」

ならば・・・為すべき事は。

「示すぞ、カグツチ!恨みではない。苦しむ母に我等が引導を渡すのだ!示すのだ。恨みに恨みで返す以外の選択が叶う──火葬にて見送る!それが、死の神に捧ぐ我等の火であらん!」

カグツチ『──、うん。・・・茨木』

「ん?」

『ありがとう』

「・・・う、うむ。吾は礼を言われるような事をしたか・・・?」

漸く、迷いの失せた二人。始まる、最後の決戦の地へ──

『よくぞ、よくぞ決心してくれました。カグツチ!ばらきーちゃんもありがと茄子!』

『──それほど時間はない。翔ぶぞ、乗れ』

「にゃんと!?」

『・・・』

白き翼が、舞い降りる。

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