人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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カドック「成る程な。フレンドを助けに特異点に行っていた訳か。・・・三時間そこらで倒してきたんだな、ビーストを・・・」

リッカ「いやあの、輪を掛けて相手に塩を送るのが好きなビーストだったから・・・実力は本当にスゴかったんだよホントに」

カドック「成る程・・・まぁ確かに、サーヴァントバトルは相性第一なところがあるからな。なんにせよ、お疲れ様だ。他人を助けられるのは、心と力に余裕がある証、だな」

リッカ「えへへ、これから皆に挨拶周りに行くんだ!カドックは?そのフルーツは?」

「あぁ、これはな・・・ケジメをつけにいくんだ。今までの・・・何も見えていなかった自分への、な」

リッカ「・・・か、カッコいい・・・!」


孤狼の友宣

「・・・あんな風邪を引いた時に見るような夢から、随分とあっという間な再会だったな。キリシュタリア」

 

『あぁ、本当にね。御見舞いに来てくれるなんて嬉しいな。やっぱり君は変わったよ。勿論いい方にだ。ありがとう、カドック』

 

非番、休憩中の昼下がり。治療、療養中のキリシュタリアのカプセルの前に現れた影が一つ。傍らにイニスを控える彼が出会った相手・・・それは、楽園にて研鑽を続けるグランドマスターの一人。サブマスターのリーダー格たる少年、カドック・ゼムルプス。人目を避け療養中だったキリシュタリアの姿を見て、やっぱりかと息を吐いた。

 

「ちょっと注目してみれば解る事だった。あんたは随分と露出が低いし、何故かあの特異点でも自身になんらかの隠蔽魔術をかけていた。何故かと疑問に思ったけれど・・・。まさか此処まで酷かったなんてな」

 

腕や掌、それに身体全体が平均以下に細く皺が深い。服を抜いだ上半身に至ってはあばらが浮くレベルの痩せすぎぶりだ。全身を巡る回路になんらかの方法でダメージを受けたんだろう。・・・カドックには、それを行う動機がなんとなく理解できていた。理由があれば、人は簡単に凶行に走るものだからだ。

 

「魔術回路そのものを壊す一撃、或いは攻撃を受けたんだな。・・・傷の進み具合からして今よりずっと昔。子供の頃のいつかの日に」

 

 

『御明察だ。父に仕向けられた刺客にちょっと、ね。これでも大分良くはなったんだよ?少なくともピッチリと肌を隠す必要も無くなったし日常生活の魔力消費も大分軽減された。こうしてカプセルで集中治療も受けているしね』

 

やはり、とカドックは頷いた。リッカを見れば解る事だが、高潔な人間が高潔な人間から生まれるとは限らない。キリシュタリアに至っては責める気にはなれないが・・・彼の父は息子の才能を誇るより危惧するタイプの人間だったんだろう。自身が追いやられてしまう、そういった事情を危惧し息子を排斥した。これだから、魔術師というのはろくでもないんだとカドックは溜め息を吐いた。

 

『カプセル内はとても快適で生き返るようだ。まさか魔術回路まで問答無用で治してくれるなんて。人類最先端のベースは伊達では無いんだね!あ、でも皆と一緒に楽園を見学できないのは残念だなぁ。自走装置とか・・・つかないかな』

 

「シュールすぎて却下だよ。・・・楽園も僕たちも、もう逃げない。楽園に来たからには全員に役目がある。あんたのこれからのやるべきことは、誰にも心配をかけずに楽園を歩けるようになることだ。・・・心配しなくても、案内くらいはさせてもらうよ」

 

本当かい!?目を輝かせるキリシュタリアに約束を交わすカドック。彼はその胸中と共に、約束を交わした。

 

「・・・すまなかった、キリシュタリア。僕はここに来て、世界を救う大役の矢面に立つ事の大変さを知ったよ。皆に支えてもらわないと、こんなものとてもやっていられない。それなのに、僕は・・・」

 

『カドック?』

 

「・・・正直に言うよ。かつて僕は、君をやっかみ、嫉妬し、卑下していた。自分とあんたはこんなにも違うと、なんでこんなに不公平なんだと自分勝手に嘆いていた。君を仲間としてサポートなんて、一度もやっていなかった。自分の事しか見ていなかったんだ」

 

此処に来て、周りに目を配るようになれて漸く気付いた重責と、かつての愚かしさ。それを理解し、把握し、再び現実で会ったのならしっかりと言わねばならないと決めていた、かつてのリーダーへの言葉。

 

「・・・すまない、キリシュタリア。僕は君が、とても羨ましくて眩しかった。かつては仲間として、何一つ君にしてあげられなかった。君だって辛かったし、何より不安だっただろうに。本当に・・・ごめんよ」

 

『カドック・・・』

 

彼は頭を下げた。リッカを懸命に支え、お礼や笑顔を見せてくれたり受け取るようになってから、過去の自分の愚かさを省みる。リッカもキリシュタリアも、同じ人間だ。天才でも英雄でも、超人でもあるかもしれない。でもその前に、一人の人間なんだ。

 

ずっと一人で、大いなる目的の成就を願い続けて来た。リッカには、正真正銘世界を救うなんて重責を背負わせてしまった。同じマスターとしての仲間は、殆どいないままで。自分はその時、いてあげることが出来なかったし、いたとしても役に立てたかも解らない。そしてキリシュタリアもまた同じ。彼は天才で、超人で、顔色一つ変えずに世界を救える逸材だと。自分とは違うと拒絶してしまっていた。本当の君を知って、それがどれだけの寂寥になったのかを知りもせずに。

 

「これからは、仲間だ。対等の存在として、対等のパートナーとして君を、リッカを、皆を支えてみせる。そして、過去を有耶無耶にしたりはしない。──これは、僕なりのけじめだと思ってくれ」

 

そして、真っ直ぐに見つめカドックは告げる。かつて、そうすべきだった選択を、そうすべきだった行いを今度こそ。

 

「僕と、友達になってくれ。一緒に、皆で一緒に。誰よりも上手くやってやろう。皆で、彼女の先輩として恥じない活躍をしてみせよう。君も含めて、僕達は・・・グランドマスターなんだ」

 

『────』

 

キリシュタリアは、ただ、絞り出すように言葉を紡いだ。何故か?なんのことはない。

 

『ぐすっ、ずびっ、ずまない、じぶん、涙いいかな?ごめんよちょっと感極まっちゃって・・・まさか、まさか君が私の友達に?いいのかい?こんなんだよ?自分で言うのもなんだけれどとっても残念な男だよ?』

 

涙で上手く喋れなかっただけである。カドックは、それこそ万感の思いを以て言葉を返した。

 

「見れば解るよ(きっぱり)・・・。この世界に完璧な人間なんていない。不完全な人間同士が支えあって生きる。それが人生っていうゲーム・・・らしいからね」

 

『は、ハードボイルドだ・・・!魔術の腕なんかより、人間として大いに差をつけられている・・・!カドック、君は本当に変わったね!あの特異点の時から確信したが、本当に君は誇り高くなった!』

 

「人は環境で大きく変わるものなんだろう。・・・僕を変えてくれたものは間違いなく、カルデアの皆。善き人々と言うべき、僕の誇らしい仲間たちさ」

 

それだけは、はっきりと告げるカドック。間違いなく、楽園に来る前と後の自身は別人だ。なぜ別人のように変わることが出来たのか。そんなの語るまでもない。

 

『君にとっての──運命、というヤツかな?(ドヤッ)』

 

「言っていて恥ずかしくならないか・・・?」

 

『ならないとも。ハッタリOKさ。男の子はいくらでもカッコつけていいんだよ!そのうち、真実や風格が向こうからついてくるのさ!カドック、君も精一杯カッコつけよう!いつか理想の自分になれたとき、それが自分の理想になるのさ!』

 

「─。努力はしてみるよ。あんたを見習ってね」

 

『あははっ、ハッタリは私が一番上手いからね。ガンガン参考にしてほしい!いつかカジノとかで、ワンペアだけでテーブルを席巻してみせるとも!その時はカドック、一緒に荒稼ぎしようじゃないか!』

 

身体がそんな状態なのに、カジノで暴れる事を疑いもせずに夢見る豪胆さに呆れながら笑い、カドックは頷く。まぁ、自分はもともとマスター皆を助けるのが仕事な訳で。

 

「・・・君が熱くなって、ホテル宿泊代まで賭けないよう見張らせてもらうよ。イニスも頼む。もう見知っているだろうが、彼はリッカと一緒に突撃するタイプだ」

 

「はい。私達がきちんと、フォローしてあげなくちゃ・・・ですね?」

 

『よーし!いっぱい頑張るぞ!マスター一人につき、一つ合体技を作るのが私の夢だ!カドック、手伝っておくれ!』

 

「・・・合わせられるものにしてほしいけどな・・・」

 

笑い合う二人の男性マスター。本当の意味で・・・カドックとキリシュタリアはここから始まるのだろう。その触れ合いを、イニスは微笑ましく見守るのだった──。

 

 

 




閻魔亭・温泉

キリシュタリア「男が二人、腹を割って話すときはやっぱり!温泉だよね!いやぁ湯治はいいなぁ・・・生き返るよね・・・」

カドック「発想が日本人だなキリシュタリア・・・」

キリシュタリア「そうかい?リッカちゃんと文化の違いが現れないよう、日本の文化を学んだからね。こう見えて桐之助なんだよ?私」

カドック「知ってるよ。のぼせないようにな・・・あと、キリシュタリア。一つお願いがある」

キリシュタリア「背中流しかい?」

「それは別にいい。・・・身体が完治したら、僕と戦ってほしい。一人のマスターとして、君に挑戦したいんだ。ヴォーダイム家を支える君に、今の僕がどれだけ通じるか・・・」

キリシュタリア「──フッ。先を越されてしまったね、君に私が挑むべきだったのに。今のたくましくなった君に、私こそ挑ませてほしい。本気でね」

カドック「考える事は一緒か。・・・なら」

キリシュタリア「あぁ!」

「「恨みっこは無しだ!」」

温泉にて二人、ぐっと拳を交わし合う。同性ならではの約束を、交わし合う。

アナスタシアの声「カドック?私は上がるけど、御風呂上がりの牛乳用意しておいてね」

「はいはい・・・」

キリシュタリア「あ、じゃあイニスにも上げちゃおう。イチゴ牛乳とか!」

二人のマスターは、これより頼もしく歩む仲間として旅路を支えるだろう。──彼らもまた、グランドマスターなのだから──

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