人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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たくさんの感想、一言。本当にありがとうございます
嬉しくとも、慢心と油断が許されるのは英雄王のみ
けして天狗にならず。身の程をわきまえつつ頑張りたいと思います!


決断

「ヒュウ、まさか一命を取り止めるくらいはやると思ったが、マスター共々無事とはな。褒めてやれよマスター。ソイツは紛れもない一級品の英霊だ」

 

 

太鼓判を押し、朗らかに笑うキャスター

 

 

見事だ、と、素直に思えた

 

力を合わせ、困難を撃ち破る。それは物語や童話の中のお伽噺だとかつて諦めていた

 

そんなものはとうに価値を失った世界で生きてきたし、友情や努力は、打算と策謀で踏みにじられるものだと目の当たりにもしてきた

 

それが今、目の前で否定された。確かに残るものがそこにあり、確かに成し遂げた事がここにある

 

――とても、胸のすくような結果に。思わず笑みが零れてしまう

 

 

「そら、声をかけてやれ。お前の友はようやく雛行きを始めたぞ」

 

トン、と肩を押すが早いか、オルガマリーはダッシュで彼女達に駆け寄っていく

 

 

「大丈夫!?リッカ!マシュ!」

 

「もちろん!私はこの通り、元気に生きています!マシュのお陰で、ね」

 

「はい……ありがとうございます。所長……所長の呼び掛けと、先輩の力添えのお陰で……宝具を発動できました……」

 

「いいのよ、そんなの……!良かった……無事で、本当に……!」

 

 

 

「ガッツのある嬢ちゃんたちだ。もちっと歳食ってたら口説いてたんだがな」

 

「ほう?獣の割には道理を弁えているのだな。狗にしては上出来だ」

 

「一々憎まれ口を叩きやがるなテメェは。固唾を呑んで見守りやがって。妙に熱をあげてるテメェに言われたくねぇ」

 

「熱もあげよう。我を呼びつけ使役するマスターだ。半端な仕事を許す気は無いのだからな。まぁ、真名の開放は至らなかった辺り、花丸はやれんがな」

 

「花丸、ねぇ。テメェは100か0かしか許さねぇ質じゃねぇの?」

 

「まだ裁定には早すぎる故な。ようやく筆を持ち始めた者に完璧を求めるのは酷であろう?」

 

そうだ、完璧でなくてもいい。少しずつだっていい

 

 

立ち止まらず、手を抜かず。日々を揺るぎなく進んでいってほしい

 

こんな極限の状況にだって、いや、だからこそ

 

本当に価値のあるものは輝くのだから

 

……自分も気を引き締める

 

この器を頼る以上、己の戦闘スタイルも、いつまでもふわふわしていてはいられない

 

サーヴァントたる英雄王に次はあっても、そこに宿る魂に次がある保証はない

 

次の戦いが正念場になるであろう予感を感じながら、改めて気を引き締めた

 

『やっぱり、同年代の存在がいると違うみたいだね。いいなぁ、あぁいうの』

 

「医師。声が聞こえぬと思えば何をしていた」

 

『働いてたんだよぅ!いよいよこのファーストオーダーも終わりが近い。特異点の原因を突き止めたんだ!』

 

「あ?原因?それなら俺が知ってるぜ」

 

『嘘!?じゃあ僕は後追いでマシュの成長を見逃したって言うのかい!?』

 

「たわけが。子の成長から眼を離すとは親を名乗るものとして言語道断。後で誅罰ものだ」

 

『そんなぁ!うぅ、慣れない見栄は張るもんじゃないなぁ……』

 

 

~ 

 

ロマンの特定、キャスターの案内により、この特異点を発生させた原因、に続く地下の洞窟を一行は進んでいた

 

器の眼の見立てでは、これはフユキにて根源を目指したどこぞの名家三つが寄り合わさって広げていった工房、のようなモノらしい

 

理解が及ぶのはここが手作りの洞窟という点だけで、その名家が何を目指していたかは解らない

 

或いは、この器の興味が湧かない出来事故に見る価値すらないということなのか

 

「少し休憩を挟みましょう。急激に普段使わない回路を励起させたせいか、リッカのバイタルがいつもより落ちているわ」

 

「おう、よく見てるな嬢ちゃん。次でいよいよ大詰めだ。万全を期すに越したことはねぇ」

 

『随分と気配りがうまくなりましたね所長!いやぁ、ぼっちを抜け出して精神的に余裕ができたのはいいことだ!』

 

「今度余計な口を挟んだら給与をカットするわよロマン」

 

『横暴だ!』

 

「わーい、休みだ~。きゅう」

「よろしいですか、英雄王……?」

 

「決戦で倒れられても面倒だ。構わんぞ」

 

万全を期すのは決して悪いことではない

 

――そして、いよいよ定められた別れが近付いている

 

「……」

 

結論から言えば、オルガマリーはこの特異点からは出られない

 

器の見立てでは、とうに肉体は滅んでいるのだ。ここに至ることができたのは精神の残り香、残留思念といったところだろう

 

――リッカとマシュは、出会ったばかりの友を喪うことになる、と言うことだ

 

「……どうしたの?ギル。所長を見つめて」

 

「いや――」

 

仕方のない、という言葉しか送れないのかもしれない

 

尽くす手もなく、彼女の生命の灯は消えてしまっているのだから

 

……自分は甘いのかもしれない

 

別れが避けられないのなら、初めから助けるべきではなかったのかもしれない

 

結果的に、死が待っているのなら。せめて自分が介錯をしてやったほうがよかったのかもしれない

 

……だけど、そこに意志があり、精神があれば。なんであれ生きていることには代わりが無いはずだ。

 

そうでなければ、魂だけしかない自分など、とうに生きているとはいえないのだから。サーヴァントになっている身でまともな生命とはいえないが

 

「いや、何。急に我の秘蔵の菓子を振る舞うのも悪くはないと思ってな」

 

過ぎたことを言うのは栓なきことだ。助けないほうが良かったなど、傲慢にすぎる

 

一度拾った命なら、細やかな奇跡に懸けてみよう

 

自分という不確定な存在を許容しているのだから、多少の掟破りは今更だろう

 

「ほんと!?わぁい!飴!」

 

「先輩、良かったですね」

 

「全く、これじゃあ餌付けじゃない……」

 

「ま、いいんじゃねえか?コイツが気前よく何かを渡すのは珍しいんだぜ。本当はな」

 

『それは同感。僕にも何か賞与はないのかな王様』

 

「そうさな。貴様の贔屓にしているネットアイドルとやらのスキャンダル画像でもくれてやるか」

 

『止めてくれ!僕にアイドルの暗部を見せないでくれ!』

 

「偶像崇拝とはまた業の深い……そんなだから貴様は行き遅れるのだ」

 

『辛辣にもほどがあるだろう!というかなんで君がマギ☆マリを知っているのかなぁ!?』

 

 

「英雄王、どうしました?皆は先に行っちゃったけれど……」

 

オルガマリーを呼び止める

 

「……何、先程の判断は見事であった。マスターの不調にいち早く気付いた機知、誉めて遣わす」

 

「――――!」 

 

反応を見て確信する

 

彼女は、誉められなれていない。むしろ、周りには敵しかいなかったのだろう

 

高い立場には、やっかみが湧くのだろう。双肩が震えていた 

 

――これは、賭けだ。自分という不確定な存在を担保にした賭け

 

規格外の英雄である英雄王故の反則。それを見越した故の

 

否。英雄王のみが、なし得る反則を。今ここで為す

 

「そら、取っておけ」

 

黄金の波紋に手を伸ばし、つかんだソレを投げて寄越す

 

「あいた!……何、これ」

 

「使い道のない容器だ、お前にくれてやろう。好きに使え、特に許す」

 

渡したのは、マグカップ大の黄金の杯だ

 

「は、はぁ……ありがとう、ございます」

 

 

――ここから先は、神のみぞ知る

 

否、神に祈りは捧げない。この器で神を頼りにするのは、最悪の禁忌な気がした

 

後は、オルガマリーに『ソレ』が応えるかどうかである




ようやく初期特異点も大詰めです

数奇な英雄王の介入で何が変わることがあるのか、ちょっとでも期待していただけると嬉しいです

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