人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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アポロン【これから一秒単位で、お前に弓矢を放ち続ける。やれ、アルテミス】

アルテミス【はい、御兄様】

オリオン「う、う、うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!」



イアソン「・・・輝かしい冒険も。夢見た王座も。こうして残骸になって消えていった」

(オレは・・・何のために生きていたんだろーな・・・)

【イアソン様?】

「!」

灰の花嫁【見て、イアソン様・・・焼かれてしまったわ。苦しいの・・・】

「う、うわぁあぁあぁあぁあぁぁ!!!?」



エレシュキガル「・・・・・・誰もいない、のね」

(いいえ、それが当たり前だもの。私はずっと、一人きり。それが、冥界の女主人の役割)

ネルガル【エレシュキガル様。責務を】

「えぇ、わかっているわ・・・」



シャルルマーニュ「ボンクラがよぉ!!!」

マンドリカルド「ぐげはっ!!」

「テメェみてぇなダセェ一山いくらのゴキブリ野郎がよぉ!!ブラダマンテとロジェロに勝てるわけねぇだろうが、あぁ!?」

マンドリカルド「うぐうっ、すんません・・・すんません・・・!」

シャルルマーニュ「身の程弁えろ、あぁ!?解ってんのかドマイナー野郎がよぉ!!ヘクトールも草葉の影で泣いてんなぁこりゃあ!」

マンドリカルド「うっ、うっ・・・うぅ・・・っ!」



ヘスティア「皆!皆しっかり~!どうして、こんな影響が・・・!」

【ヘラ・クリロノミアは、あらゆる加護を貫く。神々の女王らしいじゃん。優先権的な?アンタの祝福も今、貫通して精神汚染は続いているわけね。・・・まぁ、アンタには効かないわけだけど】


ヘスティア「そんな・・・!」

【──あと、訂正】

「!?」

【醜いって言ったのは・・・内の三女神で。あんたらじゃないから。そこ、勘違いしないで】


箱の底に残るもの

【で・・・どうする?黙って殺される?端末を殺して神体がどうなるかは知らないけどさ。アタシ的にはこの、慢性つわりが収まってくれるならやる価値はあるしね】

 

鞭、盾、そして圧倒的な神威を纏う女王エキドナがヘスティアに相対する。ヘスティアを守護するアルゴノーツ達は、アフロディーテの力・・・重大な精神汚染により心身喪失へと陥ってしまっているためまともな戦闘態勢を取ることが叶わない。完全に、最重要防衛対象が丸裸の状態だ。丸腰のヘスティアでは、瞬く間に殺されてしまう。しかし──

 

「むむむ・・・ぅ」

 

【・・・・・・】

 

しかし、ヘスティア神は自ら握る武器を持たない。司るものは家庭の守護、そして安寧と絆。極めて穏和で優しいヘスティア神は武器に値するものを所持していないのだ。取り出したる神威の武装は・・・神鍋の蓋と、竈に火をくべる容器のみ。それを、エキドナに掲げる。

 

【──馬鹿にしてる、って訳じゃないか。本気で戦闘とは無縁ってワケ】

 

「言っておくけど~!私は真面目も真面目、大真面目なのよ~!私は必ず、皆を護るわぁ~!」

 

それでも挫けずめげず、アルゴノーツを庇い立てるヘスティア神。自らの神威を優先させるヘラ・クリロノミアの効果で撒き散らされたアフロディーテの神威にも、ヘスティア神は揺らがない。ゼウスの姉、オリュンポスの母の神としての格は、それほどまでに高いのだ。エキドナは、三女神が此処で排除するべき存在と訴える女神の真意を知る。

 

【成る程ね。その強靭さ、確かにこれはどさくさ紛れに殺りたくもなる、か。まぁアタシとしてはあんたらの序列なんて知った事じゃないけ──ど】

 

「あぁ・・・ッ!」

 

アテナ・クリロノミアで強化された身体能力と鞭が軽く振るわれる。エキドナとしては、細胞に任せ些細な力加減で振るったのみ。たったそれだけの事で、ヘスティアの握っていた神威の具現が弾き飛ばされる。三女神の力と殺意が、あまりにも鮮烈にヘスティアを打ちつけた。吹き飛ばされ、転がり床に這うヘスティアを、エキドナは静かに見やる。

 

【家庭を守護するから、誰かを傷付ける力を持たない。例え、自分が傷付こうとも・・・】

 

「・・・そう。血に濡れた手で料理を作る母親なんていない。鉄錆びた匂いで帰りを待つ女神なんていないもの。私は誰かを傷付けないし、自分の在り方を曲げたりしない・・・」

 

ヘスティア神の矜持とは、家庭の幸福。都市の幸福。そしてそれは、ヘスティア自身の幸福に繋がる。育まれる生命、託される未来、輝く明日。それらは、家庭に生きる者達が作るのだから。

 

「決して、誰かを傷付けない・・・!それが、私の戦いなのよ・・・エキドナ・・・!」

 

【・・・ふーん。あんたらはそうなんだ。自分じゃなくて誰かのために戦う、ねぇ。それって──】

 

鞭を──エキドナは、下ろした。それは、ヘスティアの言葉を聞き届けたが故の、ヤンママの気紛れに等しいものだ。殺意と敵意はあるが、エキドナとしてはそれに従おうが抗おうが、どちらでも構わぬが故にだ。

 

【気合い入ってんじゃん。そういう女神のプライドっての?アタシ、嫌いじゃないわ】

 

「へ、へぇっ~?」

 

思わず女神の威風が抜け落ちる言葉。エキドナは魔獣の女王であり女神である。望まぬとはいえ、心と美徳観念が備わっている。その観念から見て、自身より他人を優勢するヘスティア・・・それらを初めとした仲間たちを好ましく感じたのだ。少なくとも、自身らの利権と名誉を浅ましく護らんとする自身の細胞達より、ずっと。死んでも自分を貫く気合い入ってる女神に、敬意を表した。致命打を打つ一手を引っ込めたのはそれが理由。

 

【まぁ・・・でも、それはそれ、これはこれだから。きっちり殺すのは変わんないんだけど】

 

一手だけ、敬意を表した一手だけは行わず。後は首を目掛ける鞭の一撃を放つ。殺意のままに、淡々と止めを刺さんとする。彼女を構成するクリロノミアが、エキドナの自由を容易には許さない。

 

『ヘスティア神!』

 

「~~ッ!」

 

せめて生き残らんと身を丸めたヘスティアだが──その防御は、異なる形で身を結ぶ。或いは、エキドナ自身の自由意志と敬意が真の平和に繋がる道を救ったのやもしれない。

 

『ブモォオォオォオォオ!!』

 

「!?ぜ、ゼウス・・・!?」

 

【フヒヒーン!】

 

【──聖獣?二匹も・・・】

 

エキドナの次元や万物を抉る鞭の一撃から、ヘスティアを護り抜く影が二つ。機械にて構成されし、雄々しい牡牛。そして、太い手足と不格好な身体、しかし何より気高い眼差し。ゼウスの牡牛、そしてロバ。ゼウス、ヘスティアの聖獣。やってきたのはそれだけではない。

 

「大丈夫ですか!ヘスティア様!」

「無礼を御許しください。私達も、貴女を護ります!」

 

「アデーレ、マカリオス~・・・!?あなたたちが連れてきてくれたの~!?」

 

【───】

 

エキドナが鞭を振るう。音速を遥かに越えた縦横無尽の乱打が、周囲一帯の全てを抉り取り破壊の限りを尽くす。サーヴァントですら抉り取る戦女神の鞭。

 

「護れ!ゼウスの牡牛!!」

『ブモォオォオォオ!!』

 

マカリオスの指示に従い、吠える牡牛。周囲一帯にゼウスの威光たるバリアが張られ、戦闘不能のサーヴァント達を含めた一行を守護する。ゼウスの聖獣は、三女神の力に一歩も劣らぬ力を示す。

 

「お願い、ロバさん・・・!」

【フヒヒン】

 

ロバとアデーレは、その強靭な四肢とパワーにて全員をのしのしと回収。安全域へと退避させ避難させる。少なくとも、これで無闇な犠牲を出すことは防がれた。そう、マカリオスとアデーレが船より駆け付けやってきたのだ。

 

「あなたたち~・・・!どうして・・・!」

 

「ヘスティア様だけはやられるわけにはいかない!あなたは俺達の、ギリシャの、宇宙の未来を変えてくれる女神なんだ!」

 

「ハデス様、ヒュプノス様、そしてヘスティア様・・・その皆様が治め、皆が笑顔になる秩序のギリシャを・・・見てみたいんです。私達は。だって、ヘスティア様や皆様は・・・」

 

「俺達をペット扱いじゃなくて、人間として扱ってくれた神様だ・・・!アデーレ姉さんの未来を託すなら、ヘスティア様や皆がいい!だから、護らせてください!ヘスティア様!あなたを、皆の未来を!」

 

ギリシャの神々は、人間を気分や気まぐれで翻弄する。人間の命運は本当の意味で人間にはない。今、その人間の在り方が変わる瀬戸際にいるのだ。くしくも、ギルガメスがもたらした破壊と言うゼロへの挑戦により。

 

「二人ともぉ~・・・!だからって、こんな無茶を・・・!」

 

『───。・・・!皆さん!警戒を!!』

 

その光景を見たエキドナに変化が起きる。──髪がざわりと持ち上がり、無数の蛇、否・・・蛇の鞭の束となり、一斉に一行を睨み付ける。

 

「「──!!」」

 

エキドナが浮かべた感情は、殺意とは違うもの。これは、エキドナが感じたもの。それが──エキドナを本気にさせた。

 

【──エッモ・・・ゴメン、殺すわ。殺さないとアレ。情が移っちゃうってヤツ?うん、殺しとかないとアタシ自己嫌悪で死んじゃうマジで】

 

彼女は美しいものを見て、自己嫌悪に陥った。自分より他人。自分より世界。護りたいもの。・・・自身の内側から沸き出る、醜悪極まる衝動と、おぞましい自己保身。それらで構成される事実に、心が堪えられないからだ。

 

【アンタらの方が綺麗だよ。アタシやこいつらと違って。──だから死んで。眩しくて死にたくなるから】

 

自身の役目が果たせなくなる前に、全てを消し去るエキドナ。一斉に──放たれる無数の蛇鞭。辺り一帯を、丸ごと全て蹴散らし吹き飛ばし、蹂躙する魔獣女神の嵐が、殺意を以て放たれる。

 

「皆──!」

 

ヘスティアの叫びと同時に、それは辺りの宇宙もろともを飲み込む破壊と破滅となって巻き起こり──




ケイローン『皆さん!どうか返事をなさってください!無事ですか、皆さん!』

ヘスティア「う、ぅ・・・!──!」

牡牛『ブモ、モ・・・』

マカリオス「──!お、お前!俺を庇って・・・!」

ロバ【ブ、ブヒヒ・・・(ニヤリ)】

アデーレ「私達を、皆を庇って・・・!?」

ヘスティアの周辺は無事だった。──聖獣達の、命懸けの献身にて。半壊したゼウスの牡牛。片目が血に閉じたロバ。──被害は甚大だが、生きている。皆生きているのだ。

エキドナ【~~・・・・・・萌え萌えポイントPPPなんですけど・・・なんなのあんたら、眩しすぎるんですけど・・・】

ヘスティア「──!」

自己嫌悪が高まり、それを殺意と敵意に変えるエキドナ。眩しく、尊いもの、そしてヘスティアを殺すための力を、再び振るわんとする。

【もう無理・・・死んで、マジで死んで・・・アタシの心が死んじゃうから──ああ、アタシもあんたらみたいにキラキラした奴等につきたかったって感じ──】

自虐と共に、怒濤の蛇鞭が襲い来る。次は防げない、破滅の一撃が直撃し、皆殺しにされる──!

ヘスティア「──!!」

ヘスティアはそれを受け──アデーレとマカリオスを抱き寄せ庇う。せめて、神として。自らを信じる世界の希望を護る為に──

マカリオス「ヘスティア様!?」
アデーレ「駄目──!!」
ヘスティア「ッ──!」

その破滅が、女神達を喰らわんとした時──

エキドナ【!?】

瞬間、ヘスティアに飛びかかった蛇達が皆【吸い込まれた】。まるで、宇宙に穿たれた孔に消え行くように。

ヘスティア「──、・・・?」

──顔を上げたヘスティア神は、その後ろ姿を見た。鮮やかな手足に、星達が吸われていくような白黒の衣装の鎧。

マカリオス「・・・!?」

マカリオスはその後ろ姿を見た。腰に手を当て、飄々と立つその姿を。

アデーレ「あな、たは・・・」

僅かに振り返る顔をアデーレは見た。単眼の怪物の様な、向かい合う蛇が眼となった様な恐ろしい表情。

エキドナ【──何アンタ】

深淵より来る。──人の美徳と親愛を愛し万物を嘲笑する、おぞましきもの。

E・N・B【よっ!】

鎧と仮面を纏った、無貌の邪神。かつての相棒の歴史を纏い、ギリシャの希望を護り抜いた──

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