人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
フォウ『任せて!ギロチンだろうとなんだろーと、全部やっつけるよ!!』
──あ、ちょっと待って!考えがあるのですが、よろしいでしょうか?
《ほう?アイディアは歓迎だ。胸を張って告げてみよ》
──はい、実は・・・!
~
『・・・だ、大丈夫!?本当に!?』
《大胆不敵という他無いが・・・本当に良いのだな?》
──はい!寄り添うというなら、それくらいは覚悟しなくては!
《──良かろう!フォウ、覚悟を汲め!》
『あぁ、解ったよ!キミを信じて信じて、信じ抜くから!』
──はい!・・・どうか、見守りください。マルドゥーク神!
【どうか、どうか私にあなたを殺させてくださいませ!フランスの象徴、マリー・アントワネット!私のこの手で!何よりも残酷に!何よりも凄惨に!あなたを、この手で!】
マリーの力を手にした事により、オルタの憎悪の対象と定められたエア。先程とは比べ物にならない規模のギロチン、兵士、憎悪の結晶が白百合のドレスを血に染めようと殺到させる。
【えぇ、殺したいのよ!殺したいの、フランスを愛した愚かなあなたを!マリー・アントワネット!!】
「ギル、フォウ!マリー!──行くよ!」
しかしエアは恐れず、躊躇わず。決意と共に闘志を奮い立たせる。そしてその決意は、余さず傍らにある者達へと伝わり比類なき奇跡を起こす。
《語るに落ちたな、マリア!戦いとは数ではない比類なく質よ!──跳べ!エア!》
傍らに魂として在る王が、ギロチンを敷き詰められた空間の、僅かな隙間を高次元の視点で見通し回避地点を示す。その地点を把握、呼応し、フォウがその奇跡をエアに引き起こす。
『プレシャスパワー!マリー王妃に向かって──行けぇーッ!!』
「──!!」
フォウのプレシャスパワーを、エアに伝えることによる奇跡、それはエア自身を跳躍『転移』させる事。令呪により引き起こされるものと同じもの。それを引き起こし、エアは飛翔する。マリーへ向けて、憎悪の王妃へと向けて。
【ッ!生意気なッ!私の分際で!衛兵!!】
【【【【【!!】】】】】
エアに向けて差し向けられる衛兵達。漆黒の鎧に包まれたそれらにも怯まず駆け抜ける。黄金の宝物庫より、エアを護る様に飛び出す白銀の鎖。
《お前も手をこまねくばかりではつまらなかろう!道を拓いてやれ!天の鎖よ!!》
天の鎖──ギルの秘蔵の財の一つを、現代にて獲得した至宝に寄り添わせる。兵士達の脚を払い無力化し、マリーの足許へと突き刺さり、道を示す。
「ふっ──とうっ!」
瞬間移動を繰り返し、鎖に着地し一気に駆け抜けるエア。ドレスが輝き、憎悪に満ちた欧州をすり抜けるように天の鎖に添い駆け抜ける。それを忌々しげに見上げながら、マリーは首の無い馬を差し向ける。血染めのようなルビーの馬。ガラスと対象的な真紅の馬だ。
【私に近付かないでくださらない・・・!?】
「そういう訳にはいかないよ、マリー!」
エアもまた、マリーの力を借りガラスの白馬を召喚する。憎悪の紅馬と、絢爛の白馬が激しくぶつかり合い、激しい火花を散らす。エアはそれでも前進を止めることはない。天の鎖を白馬に巻き付け、ワイヤーフックの要領で反動を利用し、一気に距離を詰める。もうその距離は、目と鼻の先。
【あぁ、もう忌々しい・・・!いいわ、私が直々に殺して差し上げます!初めからそうするべきだったのよ!誰の手も借りない、私の手で!】
憎悪の王妃は叫び、右手をギロチンで切り落とす。吹き出た血流が、ギロチンの刃を搭載した右手を再現、顕現させる。眼前へと着地したエアの、白き王妃の首に目掛けて振り下ろされる。
【貴女の血で、フランスを満たすといいわ!愚かなる王妃、愚かなる小娘!私の過ちそのもの!】
「──!」
エアの頭上から、地面から、周囲四方から。ギロチンの刃が現れエアを取り囲む。それは憎悪が形を成した、エアとエアに宿るマリーを全て断ち切る為の怨嗟の刃。
【滅びなさい!フランスと共に!その輝きを、私は決して赦しはしない──!!】
「──」
振り下ろされるギロチンが殺到する。一度食らえば身体の、魂の尾が叩き斬られる事は必至な必殺の刃。だが、エアは落ち着いていた。冷静に、目の前に迫る死を見つめている。
(大丈夫。ワタシは一人じゃない。何故なら──!)
怨嗟と憎悪の刃が、エアを切り刻む。絶えることの無い真紅の、血染めの刃。それを受けた者は一たまりも無く──
【!?──ッ!?】
しかし、驚愕に目を見開くのはマリーオルタの方であった。エアに殺到させた筈のギロチンが──『粉々に砕け散った』のである。それだけではない。次々と差し向けたギロチンが、全て破壊されていく。エアの、マリー自身の力では無い。それよりも、遥かに強力極まる力の発露が起きた。そしてそれを、マリーは垣間見る。
【・・・両腕・・・!?】
エアを守護するように、寄り添うように顕現している、質実剛健な黄金の両腕。それが、エアに到来する全てのギロチンを排除し、蹴散らし、活路を拓き続ける。
《ふははははははははははは!!お前が憎悪を撒き散らすというならば、こちらも全霊を尽くしてやろう!王妃たるお前の格に免じ特別に拝謁を許す!》
これこそは、エアを巫女と定めた英雄神の両腕。白金の鎧を纏う魂を守護せんと顕現した、マルドゥークの腕部ユニットである。エアの決意に応じ姿を顕したのだ。これこそ、乖離剣、終末剣、天の鎖、英雄姫に連なる英雄王の最後の至宝。
《その名も!英雄神の豪腕よ!マリアを狂わせし憎悪よ、この秘匿の至宝達を砕けるものならやってみるがいい!!ふははははははははははは!!》
英雄神の両腕が、全てを打ち砕く。ギロチンも、兵士も、紅馬も。一撃で、或いはラッシュで。マリアに向かうエアを守護しながら、豪腕が振るわれていく。
【ッ──】
「・・・・・・」
とうとう、辿り着いた。真正面にて向かい合う距離。目と鼻の先。憎悪の王妃の下へと来るエアが、マリアを目線を逸らさずに見つめる。
【───ッ!!】
マリアが憎悪に満ちた表情で、エアの首に両手を伸ばす。怪力・・・とはいかないまでも、渾身の力で締められた首には、手の痕が残ると確信できる程だ。絞められ続ければ、意識も危うくなるだろう。
【憎い、憎いわ!あなたが憎い!殺したくて堪らない・・・!】
「──、・・・・・・」
射殺さんばかりの視線と、憎しみに満ちた表情をエアは静かに見つめ続ける。フォウにも、英雄神にも、ギルにも助けを求めず、ただ受け入れている。
【フランスが憎い、民達が憎い!私を裏切った民達が憎い!憎くて、憎くて、堪らないの!何より、そんな無様な生を送った自分が憎くて堪らない・・・!!】
「・・・・・・・・・」
『え、エア!大丈夫!?本当に大丈夫なのかい!?』
《黙って見ていろ。誰も否定せず、傷つけぬというならば。それでも王道を貫くというならば。これが、我が至宝の覚悟だ》
どれだけ強く締められようと、睨まれようと。決して抵抗しないエア。否定せず、拒絶せず。ただ、その憎悪に寄り添うために。その為の、何もしないという最も困難な戦いを選ぶエア。マリーの憎悪を受け止め続ける。怨嗟と呪詛を受け止め、いつ終わるとも知れないマリーの憎しみを受け止め続け──
【・・・・・・・・・私は・・・】
変化は、訪れた。マリーの金色の瞳から流れ落ちる、涙。それをエアは確かに目の当たりにする。少し、ほんの少しだけ緩む力。
【私は・・・何をしているの・・・?フランスが憎いと、フランスを赦せないと叫んで、誰かを憎んで。あなたは、違う。あなたは違うのに】
「・・・・・・」
【あなたは、あなたたちは・・・私に会いに来てくれた大切な御客様なのに。大切にするべき人達なのに。フランスだから、それだけの理由で・・・そんな大切な方たちも殺そうとしてしまうなんて・・・】
・・・エアに、プレシャスパワーに触れたマリーに訪れるは、神がごとき力にて歪められ、潜んでしまったマリーの、本来の人格と精神。芯なき憎悪に対する、確かなマリーの自我という真芯。
【こんなにも、自分を止められなくなってしまうなんて。これが、私自身の復讐の為だというの?私自身の為なら、フランスではないあなたたちさえも傷付けてしまうというの?】
「──マリー、どうか教えて。何故、あなたは・・・フランスを憎むの・・・?」
エアの問い掛けと同時に、憎悪の発露が微かに薄れていく。彼女の憎悪の理由を、肥大化させられた憎悪の根源を見極める。
【私は、私は、私を裏切ったフランスが憎くて・・・フランスを、赦せなくて・・・いいえ、違う、違うわ。私の事なんて、どうでもいい。私が、本当に恨んでいたのは、憎んでいたのは・・・】
「───」
【・・・夫と、子よ。私の最愛の家族達。私の愛する者達。それを奪い、汚し、裏切って、弄んだ・・・それが、英雄として成った後でも・・・私の心に残り続けた。晴れない憎しみとして。許せない哀しみとして・・・】
マリーの憎悪の根元、マリーの根幹へと辿り着く。ただ、無制限に肥大化するばかりの憎悪の根源を見極めた。
【私は、憎んでいたのよ・・・。私の大切な家族を奪った全てに・・・私の大切なモノ全てを、傷つけたフランスの全てを。──けれど、その憎しみを・・・あなたたちに、ぶつけるのは・・・おかしいわ】
それでは、あの狂った時代と同じになってしまう。狂っていた、暴走していた時代と同じになってしまう。
【ごめんなさい。もう、自分では止められない・・・止められないのよ。もう、自分では・・・】
「──止まりたい?」
【・・・えぇ。私の憎悪で、あなたたちを傷付けた時点で、それは復讐でもなんでもない。私はもう、復讐を謳う資格はないわ・・・】
完全に戦意を喪失し──
【・・・こんな事をしても・・・ルイは、あの人は・・・絶対に喜ばないもの・・・】
マリーは、偽らざる本心をエアに告げる──
ギル《憎悪は使えば薄らぐもの。マリーは聡明な女だ、憎悪に狂い果てる程弱くはない。フランスのみに向けられた憎悪を我等が受ける事で、その絶対性に破綻が起きたようだな》
マリー【・・・・・・】
「・・・マリー」
エアは、崩れ落ちるマリーに寄り添う。涙に暮れる王妃の憎悪を、照らすために。
「話してくれて、ありがとうございます。──あなたが懐いた憎悪の肥大化を、終わらせます」
【・・・お願い、するわ。私にはもう・・・どうしようもないの。自分で止めることも、もう・・・】
『・・・──やろう!エア!』
素早く頷くエア。ギルと頷き合い、自身に宿るマリーのカードの宝具を解放する。
「どうか思い出して。あなたが宿す憎しみは、そのままあなたの愛を示すものだということを・・・!」
憎しみも、それに類するものも確かにある。誰の力を借りる必要もない。マリーの輝きを届けるために、そしてそれは今──
「『
エア達によって確かに、復讐の王妃自身の下に届けられる──