人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
アナスタシア『成る程ね。解ったわ、リッカには私が説明しておく。大抵の事では怒らない。存分にやってやりなさい、カドック』
カドック「・・・しばらく顔を見て話せなくなるだろうから、先に謝らせてもらうよ・・・」
シグルド「我等以外の戦力は、解凍された被害者の救助の為に待機、魔理沙殿は謝罪の為に同伴。それでは──」
オフェリア「作戦開始ぃ!!」
カドック「!?・・・!?」
オフェリア「あ、あらごめんなさい。なぜだか急に、話さなくてはならない気がして・・・」
シグルド「よき開催の宣言だ、気合いが入る」
オフェリア「きょ、恐縮です・・・!」
(・・・うまくやれてるみたいだな。そうだ、僕もあくまで感謝を伝え、伝えるだけだ・・・)
アナスタシア「挙動不審が過ぎるわよ。きちんと立ちなさい。まだ始まったばかりなんだから」
カドック「・・・解った。やれるだけやる。ただし・・・」
「?」
「・・・頼むから、あとでからかうのだけは止めてくれ」
「無理な相談ね」
「──言うと、思ったよ」
「むっ、また来たのか!誰が何度来ようがおなじことだ!カチンコチンにしてやるからかかってこーい!」
妖精、チルノが居を構えている極寒の湖。霧で霞むその景色には今、氷結の化粧が加えられている状態であり生命の息吹はチルノを除いて凍結されている。彼女以外に、息づく存在は周囲何処にも存在していなかった。絶対零度の世界──聖杯の支援を受けたチルノが産み出した、究極の極限環境。その一帯に、一行は辿り着き向かい合う。
「では、作戦指令通りに行動を開始していただく。大事であるのは誠意と根気、決して短慮や逆上をしてはならない。相手もまた、助ける対象。念頭に入れるはそれと認識を宜しく願う」
「要するに穏便に行くって訳でしょ。解ってるわよね、魔理沙」
「解ってるよ、もうややこしくする訳にはいかないからな。──あー、こほん。チルノ、私だ。魔理沙だ。あー、そのだな、お前さんがそうなったのはちょっと、いやかなり、割と・・・」
魔理沙が会話の口火を切った。何だ何だ何を言い出すんだとチルノが警戒露に身構えるなか、白黒の魔法使いは慎重に言葉を撰んでいき・・・
「その、だな。何気ない一言でお前さんを傷付けちまったな。すまん!私が悪かった、短慮で失言って言うには酷すぎた!この通りだ、許してはくれないか!」
最適解、誠意を込めた謝罪にてチルノの敵意を解きほぐす。それを先陣切って口にしたのは、やはり魔理沙その人であった。彼女は躊躇いなく、自身の非を認め謝罪を行ったのである。となれば、このような決意と憤怒、それでいてまっすぐに届くは小細工なしの『ごめんなさい』であることを、シグルドは念頭と計算にいれたのである。毒気をぬくような突然の和睦姿勢に、一行は不自然なまでに己の存在が、いったいなにであるかを突き詰めていく。
「な、なんだいきなり・・・何を企んでるんだ!あたいはその、騙されたりはしないぞ・・・!」
当然、警戒されてしまうのは織り込み済み。そう言うかのように意固地になるチルノに、再び会話が示されていく。
「嘘じゃあない。僕達は春夏秋冬・・・要するに大切で大事な季節を味わいながら生きているからね。その中には当然、君が生きていくに適しそして司る冷気のシーズン・・・冬だって勿論ある。当たり前だろ?何かを一つ嫌いでありつづけるのは、非常に大変かつ根気のいることなんだ」
畳み掛けるはカドックの説得。その語り口にチルノは嘘をついていない、との想いを募らせていく。それでいて、彼自身の所感を・・・
(・・・ほ、本当に言うべきなんだな?あくまで作戦行動の一環、ということで皆は了承しているんだよな?)
(無論である。ならばこそ当方らも全霊で補助かつ一気呵成を実現している事実あり。カドック殿、子は嘘など簡単に見破る。何より誠実に挑むのが最適解となる事例も、世界にはいくつか存在していることとなる。その最たるものが、少女や子を宥める際に振るう弁舌である。さぁ、思いきり想いの丈をぶつけることを推奨する。カドック、君ならばそれが叶う・・・そう、我が叡知が導いた計算によれば)
「・・・僕の好きな、僕の気にかけている英雄・・女の子の好きな季節も、冬なんだ。そんな季節を。どうしたって嫌いになんかなれるもんか」
カドックと、マスターとサーヴァントだけの関係ではない存在・・・アナスタシアとの関係をあらかじめシグルドは聞き及んでおり、それを偽りない交渉材料として選抜した。カドックは当然否定、反発はしたものの・・・誠実さと正直さの証明と言う点で説得され今に至る。これは、最適な結末に至る為ならばあらゆる手段を取るカドックの性質をも考えられた説得交渉の巧みなる配役となっているのである。当然、チルノもそれらに関心を持つ。
「なに・・・?そうなのか?大事な人との思い出がある・・・それが、冬なのか?」
「あぁ。・・・寒いっていうとこの程度で寒いなんてとか言い出す割にこたつに入りっぱなしだったり、入念な防寒チェックをしてきたりする子なんだけど、それでも彼女は恩人で、蔑ろに出来ないんだ。だってその子は、一年中寒さが厳しい場所の皇女様で・・・僕なんかが想像できないほど、苦労と頑張りを重ねてきた人だから」
だから、そんな彼女がいた厳しい冬が、同時に寒さといった要素もまた大切なものだとカドックは噛み砕いてチルノへと説明を行った。恐らくチルノは意味はほとんど解ってはいないだろうが、そこに込められた意志は、想いはきっと感じ取っているだろう。だからこそ、今彼女は棒立ちで言葉を聞き及んでいるのだから。
「そう、なのか?冬や寒さが好きなヤツ、ちゃんといるって事か?」
「それは当方もまた保証しよう。我が生涯には唯一無二、燃え上がる炎のような情熱と氷のように儚き運命を重ねた女がいた。その者と、氷の雪花乱れる世を愛し、護らんと誓った過去を当方は宝と認識している。その際の誓いの美しさは、極寒の環境と景色あればこそ映えたものだと当方は確信している」
シグルドもまた、伝える。自身の唯一愛した女性、例えどんな運命が待っていようとも、悲劇と死が自身らを別ったとしても、愛し合った・・・心を通わせた自身らの過ごしたあの日々を過ごした景色を否定などは決してしないと言う。
(そう、これが。これこそが。当方とカドック殿の憩いとしている女性と地域を結びつけ、熱い思いを叩き付け自殺、暴走を抑え込む新たなる可能性を示す姿にして作戦)
(アナスタシアになんて言われるのか今から怖くてたまらないんだが・・・)
(名付けて、『我等の熱き想いはニブルヘイムであろうと凍らせる事叶わぬ作戦』・・・!他のメンバー達を解凍、救出活動に専念させつつ彼女を説得するという高度な二面作戦。当方の叡智、極東の果てにおいても大活躍と断定する)
くい、と自信満々にメガネを輝かせるシグルドに、ますます目を見て話せなくなるなと俯くカドック。それに対し、チルノの心には・・・
「そうか、そうか・・・!あたいは別に嫌われてなんかなかったし、きちんと冬が好きなやつだっていたのか!うん、ならいいや!あたいが色々、あれこれする理由もないな!」
「いい、のか?」
「冬が好きなやつがいるならそれでいいぞ!あたいが嫌だったのは、皆に嫌われている事だからな!そんな事ないなら、うん!別にいい!ありがとうな、メガネ!魔理沙、白髪!迷惑と、心配・・・ごめん!ありがとう!」
チルノの言葉に、黙って聞きに徹していたオフェリアが安堵の息を吐く。無事、戦う事なく物事を巻き上げたシグルドの叡智ぶりに、誇らしさと頼もしさを確信している。
「なら、聖杯を渡してくれるか?とてもじゃないが、君や僕たちには手に余るものだからな」
「ん、解った!これからも冬やあたいをよろしくな!こいつは渡すぞ、魔理沙も次からはきちんと言葉を選んでくれたならあたいもしんいを・・・くむ?くんでやるからな!」
そうして、チルノは聖杯の譲渡に応じた。皆に嫌われていないならそれでいい。単純であるが故に、チルノがよしとする判断基準は非常に寛容、おおらかだった。好きなヤツが一人いたなら、チルノはそれでよかったのである。
「雪だるまやかき氷でもっともっと仲良くなれ!寒くて楽しくて最高だぞー!」
「ははは・・・雪玉に石を混ぜ混んだ経験のある女の子なんだけどな・・・」
そうして、聖杯の譲渡が行われんとした──
その時だった。
チルノ「そこの眼鏡の子は、なんて言うんだ?大事な人の名前だ!」
シグルド「・・・ブリュンヒルデ。我が無情にして唯一の愛、戦乙女ブリュンヒルデである」
チルノ「そっかぁ!そっちは?」
カドック「・・・女の子だよ。嘘はない。ただ、ちょっと認識のずれは、あるか、どうか・・・」
チルノ「ふーん・・・会ってないのか?」
シグルド「うむ。遥かな未来・・・今のどこかで、再会を待ちわびてはいるのだが」
チルノ「そっか!なら『会えるといいな』!」
──その言葉に。持ち主のその言葉に反応し。
「ッ!?魔力反応・・・?」
「この、術式は・・・!?」
チルノ「お?お?お?」
聖杯は、輝く。本人の願いを、かなえる為に──