人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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善意と言うものは、出力する者により形を変える。

困っている人を助ける、危険には近付けさせない。そうする為に行動するのは紛れもなく善意である。

絶望の未来、世界は必ず滅びるという未来から、学園をまるごと切り取り隔離することを選択した事も、紛れもなく善意の発露だろう。

とある存在は、それを成し遂げるために自己拡張を選択し、時間と空間に干渉するほどの神格のデータをインストールした。

観測の果てに、それは見つけた。それは星辰を操り玩弄、嘲笑する者。全てを弄ぶもの。

それはあくまで自己拡張の為のリソースとしてそれを取り込んだ。余計な情報を入れず、単純に外付けのハードディスクとして使用した。

それ故に。それが手にした者は、なんの濾過も洗浄もされていない、外宇宙に潜む何者かの何かを取り込んでしまった。

そして、その代償として当然の如くにそれはかつての全てを喪失し──

【それ】なりの善意を履行する、深淵の管理者と成り果てた。


学校の怪談〜駆逐編〜

学園の至るところより、リッカらを襲い来る怪異の数々。それは学園の未来に進まんとする者達を炙り出し、そして排除するためのエネミープログラムであるとエミヤは看破し伝える。それは、学園の先に待つ未来──すなわち、ビーストと戦う未来に挑ませない為のもの。学園生活の先に進まんとするものを抹消する為の尖兵、即ち免疫機能であると答えを導き出したのだ。

 

「パンドラの底に残った災厄とは全知だと提唱する者もいる。知ってしまうということは未知への高揚を失い引き換えに倦怠と辟易、絶望を招く。賢者が厭世になるのはそういった事情も絡むのだろうな」

 

「即ち、マシュ殿の学園生活を楽しみたいという願望を、永遠カリキュラムとして再現した定義でよろしいのでありましょうか。わざわざ絶望の未来に挑むくらいなら、平穏の楽園…否、監獄の世界で揺籃に微睡めと?」

 

「つまるところ、そういう事なんですよね。ほら、見てくださいよ。戦う意志と勇気という肥料を奪われたマシュさんの姿」

 

カーマの指差す先、そこには頭を抱え震えながら耳を塞ぐマシュの怯えた姿がある。無菌室を出て、人理焼却という困難に立ち向かわなかったマシュに、この状況で奮い立つ情緒は備わっていない。ただただ怯えるのみである。

 

「あ、あぁ…こ、これは夢、なんでしょうか…?どうして、どうして楽しい筈の学校が、こんな…」

 

「しっかりしなさいよ!わかんないものをわかんないままにしたってなんにもならないわ!せめてしっかり自分の足で立ちなさい!」

 

「でも、でも怖いんです…!あちこちから学校の奇怪が溢れて…こんなの、こんなのどうすれば…」

 

「…そっか。そうだよね。マシュは本当は戦士でも英雄でもなくて、普通の女の子だもんね」

 

そんな震えるマシュの肩にそっと手を置き、リッカは語りかける。後輩である彼女の、再現とは言え同じ心の機微を持つ後輩に。

 

「大丈夫。私に任せて。怖いものは、怖くていいんだよ」

 

「先…輩…?」

 

「非日常や、非常識に慣れきる事はいいことじゃないもんね。──久しぶりに、日常の有り難みを味わった気がするよ。ありがとね、マシュ」

 

そっと涙を拭い、頭を撫でるリッカ。そう、怖いものは怖くていいし、恐怖は恐怖のままでいいのだ。もう自分では出来ないであろう平和の中で培われる素直な感情を、再現とは言え再び再確認できた。

 

「あくびが出るくらい平和ボケした日常とか、理解できない理不尽から大切な人を護りたいんだって言うのが私の根っこ。──戦いなんて遠くの世界の出来事だっていう平穏を、私達は取り戻す為に戦ったんだもんね」

 

「リッカさん…」

 

「カーマ、じゃんぬ。ちょっとマシュをお願い。グドーシとエミヤは周りの怪異を一掃してくれる?」

 

「──愚問だが、君はどうするのかね?」

 

【怠惰を享受なさい。絶望への挑戦は認められません。未来への進行は認められません。理不尽な現実への移行は──】

 

アナウンスの声音が、突如断ち切られる。其処には先程まで存在していた少女の姿は無い。龍の意匠が取り込まれた、伝説の暗殺者の外套に血染めの刃渡りを持つ刀を手にする者が一人。

 

【未来への諦観ごと──百鬼夜行をぶった斬る!行くよふたりとも!挑みもしないうちに諦めるなんて、私達への挑戦以外のなんでもない!】

 

評価規格外のマスター──マシュの心に焼き付いたリッカの力が寸分違わず再現される。グドーシ、エミヤと頷き合い、迫る怪異に吶喊する。

 

「あぁ、もちろんだとも。共に行くぞマスター!」

 

「燃えておりますな、リッカ殿。しかし確かに、我等を侮る評価など──」

 

【真正面から覆す!!】

 

マシュの為に用意された、絶望の学園。其処に満ちた敵意を玉砕するために、二人のサーヴァントと共にリッカが動く──。

 

「了解した。行こう、グドーシ殿」

 

「えぇ、委細承知にござるよ」

 

…リッカが決意し、その指示を受けた二人の行動は迅速かつ分担が果たされていた。精神的な干渉、訴えてくるような怪異はグドーシが担当し、成仏させてゆく。

 

「コックリさんは簡易的かつ非常に危険な呪術の儀式ゆえ、安易にやっては成らんでござるよ。そしてトイレの花子殿、妖怪としてではなく人を助ける英雄としての側面を持つ事を思い出してくだされば」

 

グドーシは幽霊、霊魂、地縛霊といった現世に縛られし魂を捉え、説得し、一つ一つ説き伏せ輪廻の輪へと戻していく。先にも言ったように、グドーシに宿る者は覚者。輪廻や世界の在り方に熟知した…否、世界と生命の答えに辿り着いた者の説法は、ゴースト系列のエネミーであるコックリさん、トイレの花子さんといった可憐な怪異たちを説き伏せ、説得し、あるべき姿へと戻していく。未練を残し現世に縛られては、次の生命へと辿り着けない。それを知る故に、恐怖すらも凪のように受け止め言霊を託す。その効果は絶大であり、未練を残したゴーストタイプの怪談エネミーは、穏やかな面持ちで消えていく。

 

「肝試しには些か早い。速やかに責任者を呼んでもらおうか…!」

 

放送室や音楽室の鳴り止まないひとりでに流れるピアノといった目に見えない怪奇現象はエミヤが極めて現実的に対処する。装置の付け忘れ、或いは勘違い。神秘が現代社会に薄れていったように、極めてリアリストの一面により、怪奇現象を説明できる現象へと当てはめていくエミヤ。

 

「む、このピアノはやや手入れが甘い…先程の放送室といい、管理者が不在の設備というものは劣化、腐敗していくものだ。それに尾ひれがつくのが怪談…些か夢のない話ではあるがね」

 

ある意味で神秘である怪談を、現実主義思考が打ち砕く。怪談から人間側への怠慢へ。皮肉にも、それはリアリストなエミヤにうってつけだったのだ。独りでに鳴るピアノ、人のいない放送はあわれ、リアリストたるレッドブラウニーによって隅々までメンテナンスされ解決されてしまうのだった。種が割れた手品に誰も感動しないように、迷信絡まぬ怪談では誰一人怖がりはしない。ある意味で彼は、最高の対応者でもあったのだ。

 

【赤いちゃんちゃんこ…ぐぇぁ!?】

 

【首を出せ──!!】

 

夜闇の学園に、幽鬼が如き蒼炎が揺らめく。実際に危害を加える危険怪異は、死そのものの領域に至った者のかつての力が宿りし外套をはためかせる漆黒の龍に、一閃首を斬り落とされていく。

 

【妄想と迷信を混同してはならぬ】

 

リッカの思考すらも塗り潰す程の死の化身が闊歩し、先のちゃんちゃんこ婆やさっちゃんといった危険な存在たるエネミーは片端から血染めの刀身の錆となった。肝試しに飛び込む愚かな団体と理屈は同じく、其処にある怪異と存在にこそ用はある。前者は肝試しならば、後者は要因への死告という絶対的な目的の隔たりがあるが。

 

【何処だ…何処だ…何処だ…何処だ…】

 

譫言のように呟き、校舎の床を踏みしめ、怪奇の場所に辿り着いたなら無慈悲に刈り取っていく。死神もかくやな本物の死神の具現に、幻霊が精々の怪奇群に成すすべなどある筈も無い。その姿には、皮肉にも学園に用意されたあらゆる全ての戦慄に勝る。右手に刀を握り締め、鎧の足音が響き渡り、脚を止めたなら断末魔が響き渡る。

 

【無益。あまりにも無益…】

 

その幽谷より来たる死の天使を宿した事により、リッカは校舎に潜んだ恐怖を引き摺り出す。その刀には、葬り去った学校の怪異たる返り血がべっとりとしたたり、廊下にひたひたと滴るのであった。

 

3人の尽力により、怪異──敵性エネミーは駆逐される。未来への希望を懐き進撃するものを阻むことは、誰にもできない事を示しながら──




じゃんぬ「…静かに、なったわね」

カーマ「三人がやってくれたんですよ。一人はともかく、あの二人が負ける筈がありませんからね」

マシュ「あ、あぁ…」

じゃんぬ「もう、まだ腰砕けで立てないの?肩貸してあげるから、ちゃんと──」

マシュ「ま…窓に…」

じゃんぬ「は?」

マシュ「窓に…!」

カーマ「窓…?」

マシュが指差す、其処にいた者。それは。

無貌の少女【やること成すこと、台無しにしてくれましたね?】

獣に近しき少女【どうして私のハッピーエンドを邪魔するのぉお!?】

マシュ達を覗き込む、人智を超えた『何か』が──其処にいた。

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