人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ガウェインコック「ようこそ我がブリテン食堂へ!グドーシ殿、我等が渾身のおもてなしをご堪能ください!」
『マッシュポテト定食』
グドーシ「いただきまする」
騎士(嘘だろ…あの食材への冒涜笑顔で食べてるぜ…)
騎士(獅子王すら『雑。悪よりの雑さ。アウトに限りなく近いセーフ』とキレる逸品をああまで…何者だあの青年…!)
グドーシ(幸せですなぁ。楽園にいる際はなんと素晴らしいものをいただけていたのか。それを気付かせてくださったマッシュポテトに感謝を…)
モードレッド「いい食いっぷりだな!追加行け追加!はいドーン!!」
『マッシュタワー』
マッシュタワー「ははは、感謝を」
((食べごたえしかない暴力…!?客人が見えない!?))
この後楽園への感謝を胸に黙々と食べた。ガウェインとモードレッドは第二支店に(物理的に)ぶっ飛ばされた。
「待たせてすまない!私はギャラハッド、カウンセリングと聞き馳せ参じ…!?マッシュ!?」
食堂にて慌てて駆け込んできた、マシュとパーソナルカラーを同じくするメカクレの騎士、清廉なるギャラハッド。彼が懐いた感想はまず自分が受けるカウンセリングの相手の席に山盛りに積まれたマッシュポテトであった。聳え立つすり潰された芋の向こうから、穏やかにして泰然自若な声が響く。
「いえいえ、人生マイペースが信条な故、向こう十年は楽に待てるでござるよ。今日はよろしくお願い致しまする、ギャラハッド殿」
グドーシは相変わらずマッシュポテトを頬張っている。食べられるだけ至福と考えていれば大抵のものは素晴らしき糧と出来るもの。サーヴァントは精神の、人間は肉体の栄養という違いがあるのみである。役者は揃ったと、二人は対話を開始する──。
「すまない、彼に調味料を…!」
その前に、プレーンマッシュポテト山盛りというブリテン式雑料理を客人に振る舞ういたたまれなさに敗北したギャラハッドによりグドーシにマッシュポテト用調味料が送られるのであった──
〜
「お話は聞いていられると見受けます。私…いや、僕ギャラハッドは、ランスロット卿の一人娘マシュ・キリエライト嬢との婚姻を前提とした付き合い…縁談が控えております。それはランスロット卿が獅子王に、世代を越えた盤石な関係をと上申したものでした。…婚姻とその思慮自体は、僕も理解できるものでした。僕は物心ついた頃から天涯孤独、獅子王に拾われ、見出されこのラウンドナイツ・コンツェルンにて自身を研磨し、今この十三席…【出生不問叩き上げ】の席についております」
(災厄の席といった立場ですかな?)
グドーシのにこやかな笑顔の前に、ラウンドナイツ専用個室食事ルームにてギャラハッドは胸中を語る。それは、彼が懐いた正しさへの煩悶であった。
「ランスロット卿は娘の幸福を第一に考え、躊躇いなく僕を相手に選んでくださいました。お見合い写真に映る彼女は儚げで、しかし芯の強そうな麗しき女性。不満などあろう筈もありません。この縁談を僕は恐悦を以て受け入れました。僕で良いのなら、喜んで相手方となりましょう。…そう決めた際、僕はふと質問をしたのです。気にかかった、一つの質問を」
「質問、それは如何なるや?」
「『この御方には、恋愛経験はございますか?』…私は物心ついた頃より獅子王の教育、育成の下育って参りました。そんな僕はまだ、人を愛する事に疎い。もしその方が情愛に長けた方であったなら、人間的な情緒の先達として頼りたい…そんな質問です。…その質問が、僕の苦悩の始まりでもありました」
その、例え誰かを好きになっていたとしてもむしろ教えを請い賜りたいといった願いに対するランスロットの答えはまず、沈黙だったという。
「どうした事かと問い直さんとした際、獅子王は問いました。『我が白亜の玉座にて、邪なる取り繕いは赦されない。ランスロット、騎士の誇りに掛けて返礼せよ』と。…ランスロット卿は、王の言葉に応えたのです。『我が娘には、今も愛する者がいる』と」
それは、縁談を持ちかけた数日後に判明した事実だという。マシュにその事を伝えた日に、彼女は苦しげに問うたのだと。『私には今、最愛の方がいます』と。
「しかし、マシュ嬢はその婚姻を受け入れたと言います。『父に、我が家名に育てられた御恩に報います。せめて婚姻が完全に結ばれるまでは、最愛の方といさせてください』…ランスロット卿に告げられた答えはそれであり、彼女は自らの意志と感情を訣別し、家名と恩のために僕を選んだのです。…まだ、一度も出会っていない僕の事を」
「成程…間が、あまりにも悪い巡り合わせ。マシュ殿も薄々勘付いていたのでしょう。立場が、自由な恋愛の終わりを告げると。故にこそ、想い人を父に告げなかった」
その決断に、異議を唱えたのは何よりもギャラハッドその人だった。彼は異論を申し立てた。この縁談、婚姻は歪んでいると。
「既に相思相愛の者を立場で引き裂き、立場と家名に嫁がせ自由を奪い、心を蔑ろにする。これが誉れと誇りのある騎士の振る舞いである筈がない…!騎士とは人々の安寧と平和を護る者。護るべきか弱き者の心を踏み躙っては意味が無いと。私は婚姻を白紙にするべきと伝えました。心に決めた者がいるなら、その心に殉じるべきだ。僕には無かった、自由意志を持つのならと」
「気高き判断、そして魂。感服致します、ギャラハッド殿」
「ありがとうございます。しかしこれは人として当然の事。…しかし、獅子王はこの婚姻を『是』としたのです。我等が王は、この婚姻を良しと定められた」
〜
『心では社会と規律は保てはしない。お前に授けられた絶好の機会、我が白亜の城と世界の秩序を満たす婚姻を受けるのだ。騎士達も、私も。お前を祝福するだろう』
「し、しかし王よ!それはマシュ嬢の幸福には繋がりません!良家の跡取り、良家の妻!それはマシュ嬢個人ではなく、まるで部品ではありませんか!生まれや立場など気にもせず、私を大切に育ててくださったあなたが、その様な事をお許しになるのですか!」
『──。そうだ、ギャラハッド。お前の幸福とその娘、そして名も知れぬ馬の骨の慟哭、破局に慚愧。私がどちらかを選ぶかなど悩むまでもない。王とは、騎士とは、何よりも誇りと格式を重んじるもの。これはお前に与えられなかった名誉を掴む機会なのだ』
「王…!しかし、しかし僕は…!」
『……聞き分けなさい、ギャラハッド。私は騎士を率い、護り、秩序を担う責務がある。その為に、最善を選び取るのみだ』
〜
(……王は人の心が解らない。なんと、残酷な勘違いがあったものか)
グドーシには、獅子王の気持ちを理解できた。彼女の懐いた、確かな想いを。
「王に身命を捧げ、忠義を捧げ、そして栄光を捧げ生きてきました。僕が仕えるのは獅子王ただ一人。しかし…此度の勅令にだけは…納得できないのです…!僕は営業にて、感謝される喜びを知りました。家庭を持つ者達の幸福を目の当たりにしてきました。皆、幸せそうで。僕はそんな人達の心を尊び、護りたいと願った。そんな僕が今、立場と名誉で一人の、いや二人の人間の幸せを壊そうとしている…!その事が…無念でならない…!」
悲痛な顔で、涙を浮かべるギャラハッド。彼は何よりも痛みが、苦しみが、幸せが解る騎士なのだろう。そして──
「何よりも…!立場を厭いながら、その立場を捨てる選択が出来ない自分がもどかしい…!しかし僕にもまた恩義がある…自分に道を示してくださった獅子王への、生涯尽きぬ大恩が!それを蔑ろにする出奔など、できる筈がない!」
「ギャラハッド殿…」
「しかし、王の聖断は下されてしまった。もはや騎士の我々には、どうする事も出来ない。私は…マシュ嬢を伴侶として迎える事になる。いずれ詳しい日取りも、また…」
それきり、ギャラハッドは肩を落とす。彼は結果的に、間男として不義理を果たす自身に心底失望してしまっているようだ。
「大恩ある獅子王への忠義、私が護るべき平穏と幸福…そして、捧げるべき騎士道。その正解は何処にあるのか。…まだ、解らない。答えがあるのかすらも…」
彼の想いを、グドーシは静かに受け止めた。そしてグドーシは、現実のギャラハッドの言葉を思い出す。
──此処に、悪意は一切ない。誰もがただ、誰かの幸福を願っているのみ。それが今、不和を起こしている無情さに、グドーシは静かに目を閉じた。
グドーシ「…お悩み、確かに聞き届けました。お辛かったでしょう、ギャラハッド殿」
ギャラハッド「いえ、一番辛かったのは、誰にも胸中を語れなかったこと。真摯に聞き入ってくださったあなたに、私は確かに救われました」
グドーシ「それは何より。聞き上手ですので。──ギャラハッド殿。今回の問題は絡まった糸にござる」
ギャラハッド「糸…」
「然り。しかしこれは決して解けぬ問題ではない。──解決致しましょう。拙者…いや『我々』が」
ギャラハッド「グドーシ殿…」
「数日内に必ずや行動を起こします。どうか我々を信じ、任されよ。必ずや…あなたの曇りを晴らしましょうぞ」
「──あなたに、感謝を!」
硬く握手を交わす二人。そしてグドーシはギャラハッドと別れ、帰路に付く最中。
獅子王『………』
「おや、獅子王殿。こんにちは」
『こんにちは。…ギャラハッドは、どうでしたか?』
「素晴らしい御子息でした。あれほどに誇り高く育てた親御様の顔が見てみたいものです」
『…そうですか。…さらばだ。善なる魂よ』
獅子の仮面の王は、言葉少なく立ち去る。その後ろ姿を…
「…苦労しますな、獅子王殿」
グドーシは、穏やかに見送った。