人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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〜合流前

アンリ【オイオイ、【アレ】を使う気かよリッカ…そこまでするヤツとは思えないけどなぁ?】

リッカ「これからずっとやっていくんだから、二度とマシュを傷つける気にならないようにしなくちゃいけないの。…すっごく、残酷な事をするけどね」

アンリ【まぁいいんじゃね?痛みってのは味わわなきゃ解らないもんだし、誰かが言ってやらなきゃだ。【お前は頭がおかしい】ってな。じゃなきゃ、何度だって繰り返されちまうぜ。マシュへの【求愛】がさ】

リッカ「させない。だから──私がやる」

アンリ【なら、コイツを持て。使い方は、自然とわかるさ。なんせ──】

リッカ「…」

【櫛】

アンリ【私達の【始まり】だもんな?気をつけろよ?浄化されたといえ、それを使って出てくるアジ・ダハーカは…】

──とんでもなく、おっかないぜ?



リッカ【────決着を、付ける…!】


リッカ討伐クエスト〜人類愛級〜

『やりすぎかとは思ったが、念には念を入れるってのは大事だよな。昔の人間はシャレや道楽で言葉を残さねぇって訳だ』

 

リッカの周囲が変容を終え、異界へと変質を終える。それは赤錆びた大地に曇天の空。まさに、目の前にいる存在が起こした世界の中に食い込む異界。固有結界とは似て非なる大魔術。それをするに相応しい存在へとベリルは姿を変えたのだ。

 

『なぁ、後輩よ。まさかコイツじゃなきゃ手も脚も出ないとは思っても見なかったぜ。コイツが正真正銘…オレの切り札よ』

 

【これは…】

 

見上げる程に巨大な、白き狼。天に届かんばかりの威容。世界的知名度を持つ、終末の狼にして神獣。ラグナロクにて主神を食い殺す、魔の巨大狼。

 

【フェンリル…!】

 

そう、北欧神話のフェンリル。よもや神に類する獣が、リッカの前に姿を現したのだ。力を僅かに再現したに過ぎぬとしても、その巨大さと圧倒的迫力はロボに似ていながら比較にならぬ重圧をもたらす。刀を握る手に、汗が滲み背が粟立つ。それ程の大物であるからだ。──例えそれが、聞き及んでいたとしても。

 

『さぁ──最終ラウンドと行こうじゃねぇか!後輩よォ!!』

 

【っつ──!!】

 

その巨体が、動いた。リッカが構えたと同時に疾走したフェンリルの膂力は、鎧を纏ったリッカを紙屑の様に吹き飛ばし、遥か彼方の壁へと叩き込む。

 

【ぐっ、ぁ────!!】

 

泥で編まれた鎧でなくば、バラバラになっていた程の衝撃に息を肺から絞り出すリッカ。呼吸を整えようとした刹那、フェンリルの爪が迫り来る。そのスケールは最早、鋭利に磨かれた隕石が振り下ろされるといっても過言ではない。

 

『抉れちまえよォ!!』

 

刹那の瞬間、リッカのいた岸壁諸共にフェンリルの爪は引き裂く。その巨大さはまさに天変地異にして驚天動地。人間一人など容易く粉々に出来る程の偉大にして凄烈な一撃だ。生半可な防御を、全て抉り取る程の。

 

【ぐぅっ──く…っ!!】

 

刀を二本重ね受け止めはしたものの、最低数百メートルはあろうかと言うほどの狼の一撃の衝撃を殺し切る事は叶わない。周囲を巻き込んだ大破壊に、リッカはまともに巻き込まれる事となる。

 

『ハハハハハハ!どうした後輩!もうギブアップか!?』

 

そのまま、力任せの乱撃を見舞うフェンリル。雑ではあるが圧倒的スケールにより全てが一撃必殺となる攻撃を、リッカがいたと思わしき場所に怒涛の勢いで叩き込む。人間など、微塵も残らぬ程の終末の暴風雨。まさに神話の終焉たる魔狼の力の顕現、オーディンの最期の相手に相応しい暴虐を誇示し続けるベリル。

 

【────、…】

 

『おや、動かなくなっちまったな。悪い悪い、大人気なかったか?お前さんならもうちょいいけると思ったんだがな』

 

攻撃を止めて見てみれば、まともに動かなくなった黒鎧を見つけ鼻を鳴らすベリル。どうやら邪神の仕込みは、予想以上に上手く行き過ぎたらしい。

 

(ここらで終えてやるか?せめてその自慢の鎧くらいは砕いてやるか。解らせってヤツだ。女だてらに男に勝つなんてのは色々と苦労するだろうからな。嫁の貰い手とかによ)

 

黒鎧をむんずと掴み、目の前にぶら下げる。力無い人形のようにぐったりとした龍鎧を垣間見、その異形ぶりに舌を巻く。

 

『随分とロックなデザインだよなぁ、それ。もうちょっとキュートめに出来なかったのかい?よくないぜ、人並みの美的センスは持っとかないと巷のブームに乗り遅れるぜ?』

 

【……】

 

『いやまぁ、今回はオレが大人気無かったからよ。そう気に病むなって。こんな隠し玉、予想しろってのが無理な話だ。お前さんは悪くない。オレの気合が勝ったってだけの話だ。そうだよな?後輩』

 

【……】

 

『…おい?何とか言えって。大丈夫だよな?死んでないよな?おーい?』

 

ゆさゆさと揺さぶってみても、力無く鎧は揺れるのみ。生気がまるで感じられないその反応に、ベリルは困惑を隠せない。

 

『おい、まさかマジで死んでないよな?力の差が強すぎてアッサリとかそんなんじゃないよな?おい?おーい!?』

 

(やべぇ、やっちまったか!?だってあんなにやるんならこっちも切り札出すしかねぇと思うじゃん!フェンリル出すしかないって思うだろ!?や、やべぇ…キリシュタリアに殺されるんじゃねぇかこれ!?)

 

ケジメをつけるとはいったが、命を取りたかった訳では断じてない。自身の全能感を過信した報いが来てしまったと狼狽するベリル。よりによってこんな自己満足に付き合わせ死なれたとあっては、カルデアの連中は誰一人納得しないだろう。早急に蘇生を試みなければ自身の命が危ない。

 

『おい、殺すつもりだったが死んでほしい訳じゃ無かったんだからな!?死ぬなよ後輩!今蘇生させるからとりあえずその鎧脱いで──』

 

そしてあわてて兜に細心の注意を払い、爪先で器用に取り外し生身の状態を確認する。まさか本当に死んでしまったのかの確認の為に──。

 

『──は?』

 

そう、素っ頓狂な声を上げたのは無理もないだろう。何故なら取り外した鎧の中には『何も入っていなかった』からだ。リッカの姿が、影も形も無かったからだ。もぬけの殻、まさに空洞である。

 

『───どこだ!?ヤツは、ヤツはどこに行った!?』

 

ここにいない、即ち──必ず何処かで反撃の機会を狙い待ち構えている。この僅かな戦いで、あの女は逃げを打つような女々しいタマでは無いことを理解している。必ず、必ず反撃の機会を狙っている筈だ。

 

『何処に行った!?何処に──どこ、に───』

 

……瞬間。ベリルは自分の見ている光景が理解できなかった。思考が空白になり、全ての思案を放棄するような、絶望的…いや、絶望そのものと言って差支えない程の光景を、目の当たりにしてしまったからだ。

 

【───────】

 

フェンリルが…見上げていた。数百メートルを越える筈のフェンリルが、遥か上を見上げていた。それは、フェンリルを上回る程に巨大で、遥か高みにてフェンリルを見下ろしていた。

 

『………へ、へへへ。なんだよ。なんだよこりゃあ──』

 

異界の空を埋め尽くす、十二翼の翼。世界を塗り潰さんばかりの、宵闇と漆色、暗黒を全て折り重ねたかのような龍鱗纏う逞しき四肢。禍々しき六本の角。爛々と輝く金色の瞳。世界そのものを掴み取り喰らい尽くすような、圧倒的な威容と迫力。フェンリルよりも雄大かつ、荘厳なる姿を示す、畏怖と恐怖そのものの姿。

 

ベリルは言葉すら喪った。それらを忘れたとすら思った。それはまさに魔王そのものだ。死と恐怖が翼を広げこちらをじっと見つめていた。それは真っ直ぐに、自身を射殺す眼差しで見つめていたのだ。

 

…ベリルの預かり知らぬ事であるが。これはかつてのキャスター・リンボが藤丸リッカを神の座へと押し上げる為に用意した呪詛の空想樹…即ち【呪詛の銀河】【邪神の器】でもある満ち満ちた呪いと魔力と、空想を具現化させる程の力を持つ空想樹を全て取り込んだアンリマユの霊基が神霊…すなわち、ゾロアスター教の最高神の一角の領域に辿り着いたもの。神の領域、魔龍王たるアジ・ダハーカを更に越え、真性悪魔にして、絶対悪の領域に階梯を引き上げた姿。

 

【─────グゥウゥウオォオォオオォオオォオオォオオォオァアァアァアァアァアァァアァアァアァアッッッッ!!!】

 

そう。愛と希望、尊重の龍アジ・ダハーカ・ウォフ・マナフの対極に位置する魔王龍神。アルターエゴ・リンボの最愛の存在に贈る、神の座。それらが顕現した、楽園最悪のマスターの人類悪の側面たる究極の姿。

 

その名も、アジ・ダハーカ・アンリマユ。平安京以来にて現れた、藤丸リッカ最凶最悪の力の顕現である───!!

 

『あ、あぁ…う、うぉおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

恐慌、錯乱を起こしたベリルは、破れかぶれに吶喊する。生きとし生けるもの全てを染上げる魔王龍神を直視してしまったならば、正気を保てる筈もない。

 

【喚くな】

 

その抵抗に、アジ・ダハーカは言霊を返したのみ。指一つ動かさぬ、ただの一言。それだけで──

 

『ぐはぁあぁあっ!!?』

 

地面に縫い付けられたように這い蹲るフェンリル。人類愛たるアジ・ダハーカは対話を武器とするもの。それらは龍の息吹のように絶対の作用を見せる。ウォフ・マナフ、並びにリッカはそれを分かり合うため、歩み寄るためだけに使用する。だが、このアンリマユは全く異なる。敵を踏み躙り、抹殺し、滅ぼす為だけに吹き放つ。万の軍勢、あらゆる知性体すら傲慢に平伏させる、ディスコミュニケーションの極地。ネガ・コミュニケーションの単純な出力。

 

【噛み締めろ】

 

『うぐぉおぉおぉおぉおぉおぉお…………!!!』

 

言霊が世界を揺らし、全てを重圧として叩き付ける。アンリマユの言葉が理解できてしまうならば。意図を汲み取れてしまうならば逃れる術はない。世界そのものが、ベリルを押し潰した。

 

『………ぅ、ぐ…ぐっ…』

 

フェンリルは最早虫の息だ。いや、戦いにすらなっていない。アンリマユは、リッカは言葉を発しただけ。真っ当な戦いになど、発生すらしていない。

 

『こ、れが……藤丸、リッカ……』

 

むんずと首根っこを掴まれ、静かに大きさを調整しているアンリマユを目の当たりにし、ベリルは呆然となすがままになる。

 

……思い上がりにも程があった。たかだか4匹の魔獣で勝とうなどと極めて滑稽な話だった。

 

『そりゃあ、世界も…救えるよなぁ……』

 

目の前の、邪悪と畏怖が形となった様な龍に魂を砕かれる感覚を覚えながら、ベリルは力無く笑いを零すのだった──




リッカ【勝負はついたね。なら、ここからはケジメと落とし前の時間】

ベリル『なん、だと…?』

【あなた、マシュの指を折ったでしょ。苦しむ姿がみたいって、愛情表現だって名目で】

アンリマユが逞しき両手で、フェンリル…即ちベリルの首から下を握りしめる。今までのものは、ベリルのモヤモヤを受け止めていたに過ぎない。リッカにとって、ケジメとは今からだ。

【マシュは助けも呼べなかった。初めて会う人に傷付けられて、怖くて不安でいっぱいだった。ロマンが助けたマシュは震えてたって聞いた】

底冷えするようなリッカの声。抑揚のつかない淡々とした声音が、ただ恐ろしい。

【一方的に傷付けられる事がどれだけ苦しいか。自分だけ解る愛情がどれだけ破綻しているか。あなたに知ってもらう為に、これから仲間として笑い合うために──】

ベリル『ぐ、あ──』

ミシミシと、握りしめた手に力が加わっていく。───そして。

【今からマシュにした事、1万倍にして返すから】

────全力を込めて、リッカはベリルの身体を握り潰した。

『ぐわぁあぁあぁあぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!!!!!』

一瞬で首から下の感覚が消失する。骨が粉々になった事を理解する。確かにこれは因果応報だ。間違い無くこれはかつてマシュに自分が行った事だ。

苦しむ姿が見たいと、マシュの指をへし折った。文字通り、これは1万倍にして帰ってきたのだ。リッカが、ベリルのやり方に合わせて想いを叩き付けたのだ。

【……………】

当然殺すつもりはない。握り離した際に、ベリルの頭部だけは残してある。邪心に【頭があれば蘇生はできる】と聞かされていたからだ。

ベリル『あ、が…ぉあ…ぐ…が…』

最早人間の骨格をしていないベリルだったものを無感情に見下ろすリッカ。だが、ベリルはその意図を理解した。把握した。皮肉にも、彼が一番理解できるやり方で。

【二度とマシュを、私の大切な人を傷つけるな】

『あが、が───ぐ──かっ───』

…自身にとっては愛情でも、される側、受け取る側が理解できなくては意味がない。

そんな当たり前の事と、破綻の報い。龍の逆鱗に触れた人狼は、激痛と苦悶の中で意識を手放したのだった。

【………………】

そしてリッカは、その様を静か見つめ続けていた…

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