人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ニャル【貴様…どの面を下げて戻ってきた?】

ダンテ『この顔だよ。やつの悪辣さにはうんざりした頃でしょ?僕が一つ、ここでカタルシスを提供しようかなと思ってさ』

リッカ「…あなたはダンテじゃない。何を考えてるかは全然解らない。信用と信頼、私達はどっちをあなたに向ければいいの?」

ダンテ『そうだな…信用はしなくていいけど、信頼はしてほしいかな。僕は常に、愉しい事を追い求めている。君の親の魂を掠めたのも、君たちが楽しんでくれるかなと思ったんだけど、イマイチだったみたいでさ』

リッカ「……」

『だから、次はとびきりの面白いものをみせたいんだ。題材は【悪の魔王の踏んだり蹴ったり】!あいつの企み、全部台無しにしたら楽しいかなってさ。それなら信頼できるかな?』

リッカ「……」

ニャル【──手段を教えろ。頼ってやる】

アフラ・マズダ『ニャルさん』

ピア「いいの!?」

【全責任は私が取る。リッカちゃん、ここで君を失うわけにはいかない】

「──解った。その主義と信念を信頼するよ!とびきりの面白い劇、見せてあげる!」

ダンテ『ふふっ、ありがとう。じゃああのクソ野郎の用意した罠に向き合うために道を開くよ、準備はいい?』

ニャル【芋虫はハデス夫妻が止めてくれている!頼むぞ、ふたりとも!】

アジーカ『解った…!』

ダンテ『君達に幸あれ。さぁ──行ってらっしゃい!』

リッカ「───!!!」

そして二人は、中核へと飛翔する──。



無限の残骸

『ここは……』

 

ダンテの導きとアフラ・マズダの示唆により、業以外の何かに縛られし魂を解放するために深層心理へと突入したリッカとアジーカ。そこはかの芋虫の内部にして内面である心象風景とも言える場所。活路はここにある。元凶たるものを探し、解決せねばならないと決心した二人の目の前に、その探すべき光景と原因が展開されている。

 

「あれは…!」

 

リッカが呻くように声を上げる。そこには、リッカとアジーカの血縁のつながりを持つ魂が祭壇に捧げられている。中心に安置されるような形で取り置かれている、かつて打ち払った筈の魂。

 

しかし、その有様は凄惨の一言だ。黒き炎のトーチが祭壇と一体化しており、魂を黒き炎で焼き尽くしている。魂は祭壇内部に閉じ込められている形で逃げる事叶わずにその身を焦がされ続けている。

 

【ううぅうぅ……どうして、どうしてなの…一体、どうして…】

 

その焼かれている魂は、炎や責め苦にも悶えながら懸命に何かを行っているように見受けられる。注視してみれば、それは実の娘には惨すぎる試み。

 

【どうして、立香以上の子が産まれないの…私の子、私の新しい子達は何故、あんな親不孝の恩知らずを越えられないの…】

 

「………」

 

そう、ザッハークと交わした契約。『立香以上に優れた子を産めば願いを叶える』。それこそが、彼女を縛り付けた鎖であった。彼女は、自分の思い通りにならなかった存在であるリッカを上回る子を生産しようと躍起になっていた。炎で焼き焦がされながらも、その苦痛を厭う素振りすら見せずに。呪詛を口にしながら。

 

【あんな子じゃない、私の子はあれじゃない。私が欲しかったのは私を裏切らない子供。優秀で、従順で、私の全てを肯定し、私の全てを高みに上げてくれるような子。あんな恩知らずは私の子じゃない。あんな親不孝ものは私の子であるはずがない。ただの出来損ない、ただの失敗作】

 

「お母さん…」

 

【だから産める筈なのに。あんな、産む必要の無かったものよりも立派な子を私を産める筈なのに。どうして、どうしてお母さんの下へ来てくれないの…あんな奴より立派な子なんて、すぐに授かることができる筈なのに…】

 

目の前の娘には目もくれず、芋虫たる自身の受肉体から際限なく生み出し続ける救われぬ魂。この存在は最早リッカを省みる事などない。慈しむことなどないのだ。

 

欲しかったのは、自身の在り方を完璧に引き継いでくれる分身。もう一人の自分であり、自身の優良さや優秀さを示してくれる二周目の自分。歪みに歪んでしまい、世界への怨嗟と克己心を子へと捧げ続けた者の成れの果て。血の繋がり以外に、リッカと彼女を繋ぐものなど何もない。親子としての絆など、あの魂は微塵も望んでいなかったのだ。例え娘が、どれほど親を気にかけようとも。だから彼女は永遠に子を産み続けるのだ。自身が授かった奇跡の重さと素晴らしさを理解できない限り、永遠に。

 

【!…あぁ、やっと。やっと来てくれたのね。私の娘。私の大切な娘…】

 

そんな彼女が、遂にと言わんばかりに目を向ける存在があった。それはリッカでは当然ない。その隣りにいる、アジーカだ。

 

『!』

 

【あぁ、ようやく産むことが出来たのね。私の素晴らしい子。今度こそ、今度こそ失敗しない正真正銘の愛娘…】

 

アジーカを娘と呼び、リッカなど眼中にもなく歯牙にもかけない。彼女が新たな子に求めていた素養、それはアジーカの領域だった。即ちアジ・ダハーカ…。世界を呑み込む程の力を持つ存在を目指して、産卵と迷走を続けていたのである。彼女はアジーカを招く。

 

【あなたこそ、私の娘。あなたこそ最愛の、私の娘なのよ。ようやくできた。あれとは違う、あんなのとは違う。私の本当の本当に望んだ娘…】

 

『…ママ…』

 

「…子供を求めるだけの気持ちは、まだ残っているんだね。母さん」

 

彼女にはアジーカしか見えていない。リッカなどまるでそこにいないかのようにアジーカのみに語りかける。それはもはや、リッカにかける情など全く残っていないことを意味している。

 

これがリッカへの呪いなのだろう。他人であればどれほど単純な話だったか。家族でなければ、親子でなければどれほどシンプルな敵対関係となっていた事か。無関心でありながら、生み出したリッカの有する価値に目を向けられないが為に無間地獄と地獄の業火に焼かれ、二度と産めない最高の存在に囚われる。そして娘は自身になんの感慨も懐いていない相手を、親子の繋がりがあるが故に何度でも殺めねばならない。

 

これが今回のザッハークの用意した趣向。血縁の呪縛にして【親子】という呪詛そのもの。血の繋がりを極限まで悪用した、究極の呪いであった。

 

『ママ…あなたの本当の娘は、私じゃない』

 

そして、アジーカもまた自身で親子の絆を否定せねばならない。彼女の優しさは、リッカを差し置いて自分を娘と言えるようなものではないのだから。自身を娘と認めてくれた喜びを、自分自身で否定しなくてはならないのだ。それでも、アジーカは悩まず迷わない。あくまで自分はリッカの半身。この世に藤丸リッカは一人しかいないのだから。

 

『だから、もうやめて。リッカより素晴らしい子なんて産めるはずがない。だってリッカは、自分と皆の頑張りで素晴らしくなったんだから』

 

そう、アジーカは見ていた。人とは助け合い、支え合う事で苦難や哀しみを乗り越える。グドーシに救われたリッカの中で、不器用ながらも人の心や機微をなんとか理解しようとしていた彼女。だからこそ、リッカは人間としてのギリギリを保っていられた。カルデアで人の悪性を限界まで詰め込まれるその瞬間まで、彼女は覚醒に抗っていた。本能と理性の狭間にいたからこそ、リッカの今を彼女は母にも肯定してみせる。

 

「アジーカ…」

 

『だから、もうやめて。本当はもう、終わっているから。だから──、!?』

 

また、安らかに眠ってほしい。そう告げようとしたアジーカを──魂が掴む。

 

【さぁ、私の素敵な愛娘。こちらへいらっしゃい。こっちへいらっしゃい。私の為に、私の為にその全てを使ってちょうだい】

 

アジーカを捉えた触腕が、自身に引きずり込まんと殺到する。すかさずリッカが断ち切るが、その腕は無限無数に湧き出てくる。その意志を反映しているかのように。

 

【私の子。もうひとりの私。あなたに証明してもらいたいの。私が完璧だということを。私の人生が素晴らしいのだと言うことを。まずは初めに──【私の代わりにこの苦しみを請け負ってほしいの】】

 

『ママ…』

 

【痛いわ。痛いの。熱くて、苦しい。何故私がこんな目に逢わなくてはならないのかしら。私は何か悪いことをしたのかしら。そんな筈ない。そんな筈無いわよね。ただ素晴らしい人生を送りたかっただけ。そのために、男に抱かれて気持ち悪い想いをしながら子供を腹に抱え続けた。そしてまた、私として生きてほしかったと願っただけなのに】

 

童子切安綱がリッカとアジーカに近付く腕を切り裂き、龍哮が魂を断ち切らんと気を窺う。

 

【あぁ、痛い。痛くて苦しい。助けてちょうだい、助けなさい。親が苦しんでいるのよ、報いるのが子供の役目でしょう。何をしているの。早く私を助けなさいよ。私の子供なのでしょう】

 

「いい加減にしてよ、母さん!私の事はいい、でもあなたを心から慕う娘まで傷付けないで!」

 

雷位を開帳し、辺りを一掃する。アジーカはへたり込んだまま動けない。子として、どうするべきかを彼女は選べない。

 

【あなたの全てを私にちょうだい。その代わりに、私の人生の不備と苦痛を全てあなたにあげるから。子供はもう一人の私なの。子供は思うままに出来る自分なの。そうだと信じているから、親は愛なんてまやかしで子供を騙し続ける事が出来るのよ】

 

「あなたって人は……!!」

 

【さぁ、いらっしゃい。名前は…名前なんていらないわよね。私はあなたよ、あなたは私よ。さぁ、こっちに来て苦しんで。私の苦しみを引き受けて。代わりに私が、何倍も素敵な人生を送ってみせるから…】

 

アジーカに告げられる、親の願い。アジーカはそれを受け…立ち上がる。

 

『……ママが…そう、望むなら…リッカがもう傷つかないなら…』

 

「!?アジーカ、だめだよ!行っちゃだめ!」

 

アジーカはもう、否定されるリッカが見ていられなかった。叶わぬ願いに苦しむ母を見ていられなかった。自身が母と一つになれば、願いは叶い成仏するかもしれない。その可能性を見出したのだ。

 

 

『だからもう…リッカを傷付けないで…』

 

「アジーカ───!!」

 

【あぁ…リッカって、一体誰の事?】

 

アジーカが、母の願いに答え。ザッハークの契約が果たされんとする。その瞬間は今訪れ──。

 

 

 




パパの声【噂に違わず酷いものだ。鳶が鷹を生むなんて諺じゃ到底収まらないなこれは】

リッカ「!?」

?「ストップストップ!リッカもアジーカも、そんな奴の言うこと聞く必要ないから!」


瞬間、声が響き渡る。二人を護り、教育に異を唱える声が。

優しい声『アジーカ。なんでも言うことを聞いてあげるのが善いとは限らない。あなたは、あなた。誰でもない』

怪物【何ぃ…!?】


そこに現れしは──善の使徒、そして家族を知る無数。最後に、誰よりも善き家族を目指し求めるクソ野郎。

ニャル【はっきり言ってお前は親でもなんでもない。いい加減、リッカちゃんやアジーカちゃんに纏わりつくのは止めてもらおうか】

リッカ「ニャル!ピアにアフラちゃん!?」

アジーカ『親では…ない?』

ニャル【あぁ。家族は──血じゃないからね】

きっと、この特異点での役割はこのために。ニャルが確信を以て、ピアとアフラ・マズダをリッカたちの元へと導いたのだった──。

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