人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
強敵を戦友とできるものに受け継がれてゆく名前。
『オォォオォォァァァァァァ!!!』
ボルシャックの天を焼き尽くすかのような咆哮が開戦を告げる。彼は異聞帯を友情の火焔で焼き尽くした、勇猛の化身たるドラゴンだ。挑むリッカ達はあまりに矮小であり、生物としての格式が隔絶していた。
『腕部にエネルギー増大!思いっきり殴ってくるぞ!』
開幕を告げるかのように、ボルシャックの拳が燃え盛り、辺りの空間の温度を跳ね上げる灼熱を宿しリッカらに振り下ろされる。大気圏摩擦により熱せられた隕石の如きボルシャック・ナックル。その豪腕が迫りくる。
「皆さん、私の後ろに!」
「任せた、マシュ!」
リッカは泰然と構え、マシュに防御を任せる。それに応え、マシュはオルテナウスの防御ユニットを展開し、8割出力のシールドユニット積層防御を展開する。
そして──灼熱の拳と円卓が炸裂する。一瞬空間が歪んだかのようなインパクトの衝撃の後、熱風と爆音、轟音が空間全てに満ち溢れ、その威力の壮絶さを相殺する力場が展開される。
『うぉおぉぉっ…!?』
「くっ、ぅ…おぉおおぉぁあっ!!!」
リッカ譲りの咆哮を上げ、マシュは汎人類史の意地を見せつける。悪魔神を破り、聖霊王を討ち果たしたボルシャックの拳に、その身一つで抗ってみせた。完全な無力化はできずとも、その一撃の前に消失を避けて見せたのだ。
『うぉお、すげぇ根性だな…!ぶん殴りを堪えられるなんていつぶりだったっけな!』
「シトナイ、アテルイ、メリュジーヌ!一斉攻撃!」
リッカの指示を受け、遠距離攻撃手段を持つサーヴァント達が矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。宝具は、全てが潰えた際の最終手段。故にこれは魔力を込めた、渾身の攻撃。
『オォォオォォァァァッ!!!』
それをボルシャックは咆哮一つで容易く消し去ってみせる。エーテル、魔力といった常識を焼き尽くす劫火にして暴力の極致たる猛炎。だがそれは、直撃してはただでは済まない事への証左であった。
『ならこいつはどうだァ!!』
ボルシャックは反転し、臀部に生えた大木が如き巨大な尻尾を振り回し薙ぎ払う。乱雑なれどそれ故絶対的な攻撃が、リッカとサーヴァントに襲い掛かる。
「心配ない、止めるぞ」
その軌道に、割り込む白き影がある。それはニキチッチ。白きドラゴンに乗るロシアのドラゴンスレイヤー。
「ぬっ、ぅ…!はぁあっ!!」
手にした得物に、リッカの魔術強化を受け背丈の何倍もの太さの尻尾を受け止める。流石に勢いは殺しきれず大幅に後退はしたものの、リッカ達はその奮闘により生還する。
『休んでる暇はねぇぜ!!』
ボルシャックは両肩にマウントされた大砲『ボルシャック・ブラスター』に火を入れる。それはアーマード・ドラゴンたる彼が有する攻撃武装。かつて自然文明を焼き払った滅亡の火焔兵器である。熱波と炎が白熱するほどの威力、当たればどうなるかなど語るまでもない。
『受けて──立ぁつ!!』
リッカはそれに応え、鎧を展開しシューティング・スター・オルテギュアーを両腕に装着。頭上──衛星軌道上に展開されたアルテミスの神体より、真エーテルの奔流たる魔力流を受け止め発射台となる。
『ボルシャック・Wファイアーーーッッッッッ!!!』
『ディアナ・セレーネ・ノヴァアァアァァァッ!!!』
両肩より放たれし灼熱の火焔。右腕から放たれし、神代の月女神の神罰。それらは互いを食い合い、滅ぼし合うように拮抗し、やがて辺りの全てを粉砕する程の衝撃波を生み出し空間の全てを薙ぎ倒していく。
「ッッ…ッ〜〜…!」
マシュの防御に翳りは無い。しかしその拳を受けた円卓は真っ赤に赤熱しており接触面たるマシュの掌に伝わるほどの熱さを有していた。スパルタの半数は熱でショートを起こし冷却を挟まねばならぬ程だ。
『どれだけ驚かせてくれるんだ、この世界はよ…!まさか女だてらに俺の攻撃を捌いてくれやがる!』
ボルシャックの大砲の一撃を、女神の加護にて凌ぎきったリッカ。だが彼の大技たる一撃を相殺した反動も生半可ではなく、龍の鎧を纏ったリッカは片膝をつく。
「解ってたけど、火力が凄すぎる…!」
『まだまだやれるだろ!これから──うぉおっ!?』
瞬間、巨大なビルはあろうかというボルシャックの身体が縦横無尽に振り回される。水ヨーヨーをするかのような無軌道で、わけもわからぬままに乱れた軌道を繰り返す。
「悪いね。オニキュアとして負けるわけにはいかないのさ」
その正体はオニキュアが一人、勇儀の尻尾を掴んだぶんまわしの成果だ。自らを遥か上回る巨体すら、軽々やすやすと振り回してみせる。鬼たる怪力は、竜にすら通ずるのだ。
「ナイスだ勇儀!私に任せろ!どぉりゃー!!」
そして、それをチャンスとばかりにもう一人のオニキュア、萃香が畳み掛ける。なんの小細工もない、拳の一撃を叩き込む。
『がはぁああぁっ!!?』
だが、それは萃香の能力により極限にまで濃密に力を圧縮した規格外のもの。ボルシャックの纏う鎧に亀裂すら入れる程の必殺の一撃。ガーディアンドラゴンを倒すためのオニキュア、それは即ちドラゴンへの特効だ。
「おー!久しぶりに素面で喧嘩するなぁ!」
「そーらよっと!!」
萃香の殴りを見受け、勇儀も雑に振り回し思い切りにぶん投げる。竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ぶボルシャック。
『ぐ、痛ってぇ…!なるほど、試練も終わらせて戦士も呼んだわけだな!』
「そうだ!お前がどれだけ強いか知らないが、私達オニキュアはお前たちドラゴンを倒すためにやってきた!」
「徹底的に弱点を突くけど、悪く思うんじゃあないよ?弱き者としての全力、奮闘はそういうものさ」
オニキュアだけではない。拳を受け止めるニキチッチ、絶え間なく弓矢を放ち続けるアテルイ、シトナイ。定期的にやってくる熱波を中和し熱中症、脱水症状を防ぐメリュジーヌ。そしてクールダウンを終え即座にマスターをガードするマシュ。それら全ての魔力を賄い、必要な事を成し遂げ続けるリッカ。
『力を合わせる…!それがお前たちカルデアの強さ!カルデアの未来を切り拓く力か!』
ボルシャックはその事実を口にする。自らの為でなく、未来のために。弱くとも、強くとも、互いに助け合い困難に挑む。その在り方は、ボルシャック・ドラゴンらが手にできなかった強さ。彼らは己の使命と強さに殉じた。相手を理解し、リスペクトする事なく勝ち抜いた。
これだ、とボルシャックは確信する。力を合わせ、未来を掴む。自分たちドラゴンになく、人間やこの世界にあるもの。それこそが、彼らの歴史の『火』であるのだと。
『いいぞ!もっとだ!とことんやろうぜ、お前らの強さを、力を、素晴らしさをもっともっとオレに教えてくれ!!』
ボルシャックは歓喜した。こちらに来たことに感謝すらした。これほど弱くとも美しく、素晴らしい火が燃えている事に感銘を受けた。そしてその歓喜は、羽持つ今亡き全ての友達、そして散っていった仲間達と出来なかった事への答えともなった。死を背負う自身と、命を繋げる彼女ら。
──彼は、猛々しいものを見たのだ。
「バトルジャンキーだなお前!まぁいいや、気分いいからとことんやるぞー!!」
「温羅に悪い報告はできない。悪いが…勝つよ」
『応ともよ!!あぁ感謝するぜサンタさん!この世界に──燃え盛るような情熱よあれ!!』
ボルシャックの魂の焔が燃え上がる。それはもうとっくに限界など上回り、越えていた。そしてそれに、懸命に挑み続けるカルデアの火が共鳴し、なんの恨みや禍根もない互いを高める業火となりて燃え盛る。
拳、尻尾、大砲、そして自身の炎。ボルシャックはかつてのように哀しみと慚愧、憤懣ではなく歓喜にて己の全てを振るった。
リッカはその焔に、彼女を信じる全ての力を束ねて応えた。次の瞬間に塵すら残らぬ灼熱の戦場に、彼女の信ずる黄金の王のように腕組み泰然と構え続けた。
ドラゴンスレイヤー達はその相性にて戦線を維持し続けた。言葉はない。話す間隙などどこにもない。一人たりとも欠けてはならない瀬戸際であるからだ。
オニキュアは、最前線でボルシャックの拳と殴り合い続ける。鬼の故である真っ向勝負。身体を焼かれようと、彼女らは笑顔を極めた。
その戦いはあまりにも苛烈を極め、特殊空間内にて半日もの間極限の戦線を維持し続けた、ボルシャックとカルデア、どちらも引かぬ極限の戦いであった。
そして────
ボルシャック『────、…へへ。完全、燃焼だ…』
ボルシャック・ドラゴンは全てを出し切った。空間に残っているのはリッカ達のいる足場だけだ。空も大地も、余波で消し飛んだ。そして…
『ありがとうよ。もう…悔いは、ねぇ…』
火炎すら吐けぬほどの疲労の蓄積の果て、ボルシャックは膝をつき倒れ伏す。それは、無念の戦死でも終わりでもない。意地を貫き果たした、納得であった。
萃香「あっ、つぅ〜ぃ……」
勇儀「随分と、気合いの入った竜だったね…」
オニキュアの二人は、生きている。そしてカルデアの皆も焼けることなく生きている。
いや。生死は関係ない。彼や彼女らは果たしたのだ。心ゆくまで戦い、戦いの中で果てる事を。
ボルシャック『──合格だ。オレは負けを認める。この勝負…弱くとも信念、魂を燃やしたお前らの勝ちだ!』
殺し合いではなく、認め合い、高め合う試合ができた。ボルシャックは、この上なく晴れやかに負けを認めた。
リッカ「ありがとう…ございました…!」
マシュ「はぁ、はぁ、やりまし、た…!」
互いに背中合わせ、崩れ落ちるようにへたり込むリッカとマシュ。アテルイとメリュジーヌが駆け寄り、治療を行う。脱水症状寸前であった。
ボルシャック『テメェら…覚悟しろよ。こいつら、マジで最高だぜ!!』
ボルシャックは仲間たちに向けて吠えた。鎧は砕け散り、血塗れであっても…
『…こんな風に戦ってやれなくて、ごめんな。ルピア』
…喪ってしまった戦友たちへの郷愁を思い出しながらも。得た答えと余韻を静かに噛みしめるボルシャックであった。