(別に避けていた訳じゃなく、バアルへの誠心誠意で手一杯だったからね。というかホントやらかし多いなこの世界の神は)
『む?私の周りを飛ぶ彼等は…そうか、バアルの聖霊か』
(ちょうどよい、再び導いてもらおう。地獄はあんまり馴染みがないからね)
ポー
『というわけで、お久しぶりだねサタン。いや、君の名前は明けの明星ルシファーなんだけどさ。私のことは解ってくれるかな?あけましておめでとうッポ』
【なんだ、聖霊だなんて珍しい。バアルを治したりしてくれたのは聞いてるよ。でもその他にまだ用があるっていうのかな?】
パパポポが人知れず、買い出しのついでに寄った場所。それは地獄であり、そこの首領ルシファー…サタンへと挨拶を交わしにきたのだ。サンタではなく、一人の聖霊…神の一つたる要素として、己の息子たるルシファーに。
『まずはあけましておめでとう。今年はきっと大切な年になるだろう。君が楽園カルデアと決戦を行うはずだからね』
【大分先だよ。まだまだ楽園カルデアは挑むべき試練やイベントが目白押しなんだ。僕との戦いなんて、それらが全部終わってからで全然構わないんだ】
傲慢にして己のみを至上とするルシファーが、こうまで重きを置いてみせる。ルシファーを知るパパポポからしてみればあまりにも劇的な変化に唸りつつ、彼は毅然としてルシファーに告げる。
『ルシファー。お前はあまりにも多くの者達を唆し、踏み躙り、その運命を狂わせてきた。いつか必ず、お前はその罪を償わなくてはならない。それはきっと、カルデアの皆がお前に齎してくれるだろう。お前の敗北という形で』
【今更言われるまでもないよ。神との決戦なんてもうどうだっていい。楽園の皆や、エアとこの星と歴史全てをかけて戦う。その果てに齎されるのが敗北であり死であるならば、それは僕にとって無二の福音だ。神なんかに僕は裁けない。僕の運命を決めるのはカルデアの…無二の美しき善き人々なんだから】
ルシファーは心からそう告げた。彼は本気で、自らの滅びを受け入れようとしていた。彼は楽園の旅路を更に彩り、輝くためならば裁きすらも、死すらも惜しくないと告げたのだ。パパポポはルシファーの、自身こそが至上無二の傲慢を把握している。そんな彼が、自ら以外のものにこれ程重きを置くとは。
『そうか。──ならば止めまい。お前に齎される結末が、善きものであることを祈っている』
【祈られるまでもないよ。皆は必ず、僕に最高の結末をくれると信じているから】
『うむ。…それはそうと、裁きだからといって死ぬのを選ぶのはちょっと待ってくれないか。死んではいけないんだ、お前は』
はぁ?とルシファーが答えるのも無理からぬ話だろう。裁きとはつまり、完全な消滅だろう。自らを裏切ったルシファーに慈悲などありえないと、彼は神以上に神の在り方を理解していた。
『分かりやすく端的に言うとだな、ルシファー。カルデアと雌雄を決した後は、カルデアに協力してあげてほしい。その後に出てくる存在こそ、間違いなく楽園カルデアが立ち向かう本当の、最後の敵だ』
【……どういう事?確かに異聞帯の話や、人理再編の話はエアから聞いてる。噂に聞く『異星の神』とかいうのが相手じゃないの?】
ルシファーの問いに、パパポポは毅然と告げる。
『この世界の唯一神は、マルドゥーク神が行った天地開闢…後の世界創造の七日間付近に死んでいる。アダムとリリスから始まる人類と、お前達の父は神であり、神でないのだ』
【……………】
『全力で『何言ってるんだこいつ』という顔をしているな。私もさっきこの答えに至った。順番に説明していこう。まずはこれを見ろ、ルシファー』
ルシファーに、設計図を見せる。それは始まりの人間アダムの設計図であり、制作レシピだ。
【……あれ?頭の所、金じゃなくて錆の鉄を使ってる?】
『気付いたか。人類の脳、性格や情緒を決める機関をわざと粗悪にしているのだ。リリス君への度を超えたワガママを聞いてもしやと考えたが…』
アダムは、改悪されていた。聡明な元始人類は白痴とされていたのだ。リリスには無く、イヴには同じように施されていた事から、この二人には初めから知恵を与える気が無かったとパパポポは頷く。
『リリス君は原罪に苦しむ人々を見て心を痛めたが、これも筋が通らない。この世界で私の息子はどうなった?』
【磔で死んだけど?】
『我が息子の死は、人の罪の免罪だ。私の愛する子が磔になり死する事で、人の持つあらゆる罪は赦された筈だった。…だが現に、人はこうして原罪に苦しめられている。これは我が息子の死が、全く功を奏していないことに他ならない』
ルシファーは唸る。パパポポの告げる違和感は更に膨らんでいく。
『バアルもあそこまで貶められていたのも実に解せない。本来、彼と私は友だったのだ。彼の館で、カナンの果実とパンとワインを交換し宴を開いた事もある。こちらにその記録は?』
【ないよ。バアルはベルゼブブだなんて酷い名前を付けられて、カナンの民はハエにさせられちゃってた】
『そうだろう。そして根本的に、人類や創造物に『愛』を感じられない。だが、これらの出来事はお前達への愛がなければ何一つ成し遂げられない。愛がなくば、世界など造れないのだ』
【それは、何?あなたが言った神の死と関連してくる事柄?】
『如何にも。お前たちや人間を作っておきながら、その愛は何処に向けられているのか。どのように向けられているのか。私はそれこそが、楽園カルデアの挑む最後の敵と仮定する。例えるのなら…───終わりの獣。ビーストΩ』
ビーストΩ。彼が仮称し、提唱したもの。彼は唯一神であり、その聡明さは聖霊として一個の神程度に落ちようと健在なのだ。それは、世界に潜む歪みを見据えていた。
『世界を自らの望むままに造り、人を未成熟に貶めんと画策しておきながら、そこには確かなる愛がある。それは間違いなくケダモノと呼ぶべき悍ましいビーストだ。やがて人が自らの手を離れんとした時、このビーストは世界を滅ぼすだろう。創世神話の再演だ。新人類を、自らを盲従する人類を創ることで現人類は滅ぼされる。その、歪みきった愛により』
【5年目にして、最後の敵が見えてきたわけだね。勿論、そんなマネを許せるわけがない。エアが尊んでいるのは今を一生懸命生きている人間なんだ。そんな神の木偶人形じゃない】
ルシファー…立派になって…。誰かを重んじれるルシファーに感動しつつ、パパポポは告げる。
『この事はまだ誰にも他言無用だ。ケツァル・コアトルが別時空にてゴルゴーンを労ったように、楽園の皆にはお前との戦いに全力をかけてもらいたいからね』
【でも、準備はしておくんでしょ?あなたがこうしてここにいるということは】
『あぁ。もし楽園カルデアが君を受け入れるのなら。大魔王すらも仲間にしたい、尊重したいとしたならば。君とバアル、リリス、地獄の軍勢は神に立ち向かう人理の軍勢となる。そうなるかを選ぶのは、彼と彼女達だからね』
パパポポはあくまで、その存在を見据えているが旅路を強制などしない。この事実に至れているのは、同じ唯一神であるが故の彼のみなのだから。
『ルシファー。ミカエル、ウリエル、ラファエル、ガブリエルの翅を持っているだろう?私に預けてはもらえないか?』
【え?まぁ毟ったけど…どうして?】
『その翅には天使達の情報が詰まっているんだ。翅さえあれば、再び鋳造できる。神の使徒ではなく、人理の守護者としての四大天使を、私はこの期間で育んでおく』
ルシファーはパパポポを見やる。ともすればこのハトこそが神の回し者、或いは偽神である事は大いに有り得る。信頼し続けるのは危険とも思われるが…
【ん、解った。カルデアの皆を助けられるような素敵な子にしてね】
『ルシファー…』
ルシファーは信じることにした。目の前の神は、かつての主と同じでありながらも、決して感じなかった『慈愛』を感じたのだ。彼は必ず、楽園を助ける。ならばそれはエアやリッカの助けになるのだ。なんとなく持っていただけの羽根を、託す。
【任せたよ。…『お父さん』】
なんとなしに、彼はそう呼んだ。かつての神には懐きもしなかった、父に感じるような親愛を感じたからだ。この、光り輝く鳩に。
『………立派な、美しい心を持ったな。息子よ』
そんな父の言葉に、ルシファーは笑みを返す。それはかつて、天界にて神よりも美しいとまで謳われた明けの明星の笑みそのものだったという。
ルシファー『まだ、あなたが言う獣の理は解らないけれどさ。名前の候補ならピッタリなのがあるよ』
パパポポ『ポ?』
ルシファー『神ではない獣。偽りの神であるというのなら…この名前がピッタリじゃないか。告げてあげなよ。唯一神だなんて嘘っぱち。その名前は…』
────ビーストΩ・ヤルダバオト・デミウルゴス。それが、この時空に潜む獣の銘だと。明けの明星は全能の父へと示す。
その獣は、本当に存在するのか?
神の見通したその獣とは、何を理としているのか?
今はまだ…暗雲に差し込む光が如くにか弱き糸。それでも尚、パパポポは人知れずそれを追うのだ。
楽園の旅路。それらを決して、無下にすることの無きように。
【ところで、なんでサーヴァントなのに単独行動してるの?マスターは?】
『聖杯作って受肉願って今はハト』
【あー…神霊呼べるならいらないんだったね、聖杯】
なんでもありな羽根の大基だからそりゃそうだよね、と呆れるルシファーでありましたとさ。
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