人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
(と言っても、ウマ娘の事はこちらの馬も含めさっぱりわからない。まずはデータベースやリッカに聞くべきだったな…)
カドック「まぁ、アナと一緒にやった魔術師オークションのようなものだろう。地道に…ん?」
青薔薇を挿したウマ娘「あ、あの…あなたは、マスターさん?」
カドック「あ、あぁ。カドック・ゼムルプスだ。君は…」
ライスシャワー「ら、ライスシャワー…ライスシャワー。その、あの…これ…」
カドック「…!ウマ娘令呪!じゃあ、君は…」
ライスシャワー「…………」
カドック「グランドウマ娘、なのか…」
「ライス、そんなに凄いウマ娘なんかじゃない…これ、何かの間違いじゃないのかな…」
カドックにコンタクトを取ってきた、一人のウマ娘。大きいウマ耳と外に跳ねているロングヘアで、右目が前髪で隠れており、小柄な体躯。
メカクレしている右側にかかる様に青いバラが付いたダービーハット様の紺のミニハットを載せている、可憐な様相をしている、内向的気味な印象を懐かせるライスシャワーなる彼女は、カドックと共にベンチに座っていた。
「間違いで令呪は刻まれない。そこに令呪が刻まれたというのなら、そこには意味が…いや。君が選ばれた意味が必ずあるはずなんだ」
「そ、そうなの…かな。ライス…そんなウマ娘、なのかな…」
「…僕は君というウマ娘をよく知らない。君を無価値だと言えるような知識を持っていない。だから…良ければ教えてくれないか。君という、ウマ娘を」
「う、うん。ライス…実は…」
「───!」
瞬間、カドック目掛けてどこからかボールが飛来するのを彼は悟り、瞬時にそれをキャッチする。
「す、すみませーん!ボール飛んでっちゃいましたー!」
「あ、あぁ…うっ!?」
同時に、カドックのシューズの紐が千切れてしまう。かがんだ際に確認したところ、空から鳥の糞が落ち、カドックに直撃を果たしてしまう。
「…不幸のピタゴラスイッチみたいだな…」
「ご、ごめんなさい…!ライスと一緒にいたから、こんな…」
「どういう事なんだ?」
「ら、ライスは…皆を不幸にするウマ娘なの…私が皆に不幸を、分けてしまって…あなたの事も、今みたいに…」
「人を不幸に…」
確かに、カドックに立て続けに巻き起こった不運は、ライスシャワーと話をした直後の出来事だ。ともすれば、ライスシャワー自身がそれを招いたようにも思えるのかもしれない。
「だ、だから…ゴールドシップさんは、グランドウマ娘は世界を救うために走るウマ娘だって、言ってたけど…ライスが走ったら、カルデアの皆や、世界の皆を不幸にしてしまうから…そんなライスが、グランドウマ娘だなんて…」
「…………」
「も、もしかしたら…マスターさんは特別だから、ライスがいても大丈夫だと思ったんだけど…ごめんなさい、全然そんなことなかった…やっぱり、ライスが世界を救うウマ娘にだなんて…なれるわけ…」
…運命だと思った。やはり、サーヴァントと同じ様に、ウマ娘とも惹かれ合う運命があるのかもしれない。カドックは、心からそう思った。
「──そんな事、ないさ。君はグランドウマ娘なんだ。間違いだなんてありっこない」
かつての自分も、そうだった。できるわけない。どうせ無理だ。無駄なことだ。挑む壁の高さに、最初から諦め目を逸らし、逃げる言い訳を探し、みっともなく彷徨っていた頃がある。
「ライスシャワー。僕と契約してほしい。僕は君というウマ娘を、自信を以て推薦する」
「え、ええっ…!?ど、どうして、ライスを…?」
彼女からしてみれば、不幸を招く体質は百も承知だったろう。本来なら、近付く事は憚られただろう。ならば、何故カドックに語りかけたのか。声をかけたのか。
「君は間違っている。いるだけで誰かを不幸にするなんてあり得ないし、ただ君はたまたま、間の悪い時に居合わせているだけなんだ。卑屈になる必要なんてない」
「……ぇ…」
「口や態度は卑屈で、臆病な印象を与える君だけど…僕はそれを本質とは思わない。令呪を僕に見せて、僕を見出してくれたじゃないか」
本当に嫌ならば、隠して黙っていればいい。自分には関係ないと耳を塞いでいればいい。だが彼女は、それをしなかった。自分から、その選ばれし証を見せてくれた。その勇気は、カドックが努力の果てに身に着けようとしているものだった。
「弱気の裏に、君は勇気と決意を宿してるんだ。自分にできることがあるならやってみたい。誰かを幸せにできるならしてみたい。君にはそういう、芯の強さがあるはずだと僕には思う。声をかけてくれたのは、そういう想いが君の本質だからだと思うんだ」
「!……」
「そういう想いを、僕は手に入れたくて毎日を過ごしている。大したことのない凡人でも、周りにとってあまりぱっとしなくても。『望む自分を目指す勇気』だけは見失いたくないって、思うんだ」
「カドックさん……」
カドックは今も牙を、爪を研ぎ続ける者だ。目指す頂きは遥か遠い。ゴールどころかいつ麓に行けるかどうかもわからない。
「これは予想で、間違っていたらすまないが…君は、不幸を招く自分を変えたいと考えているんじゃないか?自分の走りで、皆に幸せを届けたいと思ってはいないか?」
「!!」
「もし、君が僕の考えているようなウマ娘だというのなら…契約をお願いするのは僕の方だ。逆境やままならない現状を打破するために足掻く決意、理不尽に負けない強さ。今の僕が最も願い望むものだから」
カドックは手を伸ばす。その強さを持つ、目の前の小さなウマ娘に。
「一緒に目指そう。理想の自分、理想の未来を。君が走ることで誰かを幸せにしたいというのなら、僕がその第一号にきっとなれる」
「か…カドックさん…」
「君の強さと決意と、皆に幸せをもたらすウマ娘になる瞬間を一番近くで見せてほしい。僕からお願いするよ。僕と契約して、世界を救うために駆け抜けてくれないか。ライスシャワー」
カドックは手を差し伸べる。それは共に歩むパートナーとなる事を願うもの。対等な関係であることを望む握手。
「…ライス、すごく悩んであなたに声をかけたの。もし、迷惑がられたらどうしようって…」
「……」
「でもカドックさんはライスの事、あっという間にお見通しにしちゃって…ライスが誰かを幸せにできるって、信じてくれた…」
その表情は、先程よりも朗らかで前を見つめていた。カドックの視線を見つめ返すように、しっかりと。
「ライス、頑張ってみる…!信じてくれたカドックさんに、勇気を出した自分に恥ずかしくない為に、グランドウマ娘として…走ってみる!」
「そうか…!じゃあ、契約成立…で、いいのか?」
「う、うん。なんだか、凄くウマ令呪が熱くなってるから…」
見れば、燃えるような真紅に輝く令呪が熱く疼いている。それこそが、カドックとライスシャワーが契約を結んだ証…なのだろう。
「どこまでできるか解らないけど、ライス…頑張る。カドックお兄様の為に、世界の皆の幸せの為に。頑張るから!」
「あぁ。僕も全力でサポートを…ん?お兄様?」
「う、うん。マスターの事は、お兄様って呼ぶことにしてるから。カドックは、お兄様。…迷惑、かな?」
お兄様…自分はあくまで一人っ子だが、フランドールというふてぶてしい自由な妹分は既にいる。今更一人増えたところで支障はない。
「解った。君の呼びたい名前で呼んでくれて構わない。君のパートナーとして、全力を尽くさせてもらうよ。だからこちらこそ、よろしく頼む。ライスシャワー」
「うん!一生懸命頑張るから…よろしくね!お兄様!」
こうして、カドックは自身が担当するグランドウマ娘ライスシャワーと契約を交わすことに成功する。
「じゃあ早速、打ち合わせを始めよう。君の特性や得意なバ場、距離を教えてくれ。専用の調整を計画する」
「う、うん!あと、ライス…ちょっとだけ、いっぱい食べるから…」
「大食いって事か?解った。食堂でメニューも考えよう。全員が揃うまで、お互いを知るレクリエーションでもしてみようか」
「うん!いっぱいお互いのこと、話そうね!カドックお兄様!」
(背徳感がないわけじゃないが…ウマ娘はメンタルが大事なようだし、慣れていこう)
こうして、ギルガメッシュとシンボリルドルフに続くコンビが誕生する。
不撓不屈の餓狼、カドック・ゼムルプス。
黒きヒーロー、ブルーローズチェイサー。ライスシャワー。
…残るグランドウマ娘は、果たして誰と契約を果たすのか。それは三女神のみが知っている。
ウマ娘食堂
『ロールパン5つににんじんサラダ、にんじんハンバーグ、ベーコンと目玉焼きにミネストローネ、デザートのゼリー』
ライスシャワー「ライスのお気に入りメニュー…お兄様、召し上がれ!」
カドック(お、多い…!!)
「ちょうどそろそろお昼ごはんだから、お昼ごはんも食べれるよ!」
(朝ごはんなのか…これが…!!)
カドック「……い、いただきます…!!」
(挫けるものか、諦めるものか!リッカなら食べる!僕もリッカに追いつくためならなんだってやる覚悟だ!!)
ライスシャワー「ふふ…お兄様、これからよろしくね」
…カドックは昼飯も含め、気合を込めて完食した。
その日トイレから出てこなくなったのは、言うまでもない。