人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
彼は何度も、そう問われた。救世主たる彼女に、妖精達全てに失望しきっている彼女とはいえ、人間である彼の身を案じる情と、感情は残っていた
もう決めた事だから、と彼は応える。そう、彼は彼女の見た未来に殉じる事とした。
自らが死した後、かつて死した妖精達の怨嗟を全て引き受ける受け皿となり、妖精達の憎悪を、概念的なものから物理的にランクダウンさせる『厄災』となると。
それは無論、死後の安寧など約束されない。汎人類史から見て紀元前3500年程の試みを、トネリコは何度も問いかけた。
それでもいいと、彼は覚悟の上だった。安寧など、彼女に比べればずっとマシであろうと覚悟していた。
彼女の國。彼女が見つけ出した希望が作る國の礎となろうと、彼は決意していた。
彼女は素晴らしい救世主だった。そして彼女の仲間たちも、彼女を支え続けた英雄たち。妖精国の希望たち。
一つだけ、過ちと間違いがあった。
仲間達が迎える幸福な未来に必要なもの。彼女が見落としていたものがあった。
それは……──
「よし!グランドマスターズ、集まっているな!」
ギルガメッシュメンバーの『探索組』、リッカメンバーの『巡礼組』と分けるならば、こちらは『討伐組』とも呼ぶべき、ブリテンに満ち溢れる厄災の対処を目的としたグランドマスターズメンバーの招集。その音頭を取りしは我等が副所長、ゴルドルフ・ムジーク。カドックらメンバーを統括する、重要なポジションだ。
「ではこれより、ブリテン厄災の討伐戦そのブリーフィングを開始する!詳しい話はシオン君、君より伺おうではないか!」
オルガマリー、ロマン、ダ・ヴィンチがリッカらのオペレーター、ゴルドルフとシオンがグランドマスターズを支えるオペレーターと分けられた今回の戦い。呼ばれたアトラス院の仲間が現況を説明する。
「目下優先度の高い厄災は、北の領域を拠点にブリテン中を疾走する『獣の厄災』、制空権を確保している『炎の厄災』です。この二つの厄災を祓わなくては、リッカさんら巡礼組の行軍のスピードが著しく落ちるのです。空を飛ぶことも、目立つ乗り物も使えないという極めてシンプルな理由でね」
「まずは機動力を確保する。北部はリッカ達の向かう目標でもあるものね」
「オフェリアの言う通り、リッカらの目標地点でもありホープ達の警護にも繋がる大事な戦いだ。全員でなんとしても成功させよう」
カドックの言葉に一同は頷く。さらなる情報の摺合せが、グランドマスターズの中で行われていく。
「厄災達の動向はというと、獣の厄災たる存在は、ブリテン中に発生している呪い…モースと呼称したこれらを偏執的、狂気的なまでに追い立て殺戮を行っていると同時に、北部への侵入を防ぐかのような立ち回りを見せています」
「北部には巡礼組の向かう理由、救世主トネリコが婚儀を開いた場所だ。我々の予測によれば、これは会場を護っているのではないかとの見立てをしているのだ」
「あの地になんか、お宝があるってことかい?」
「どうかしら、ベリル。もしかしたらあの厄災、救世主に縁深い存在が変容していたのかもしれないわ。だから、護っているのかも」
「結婚式とは女性が最も輝く瞬間。それを護り続けているとは獣の厄災、さぞかし紳士と私は見た!」
『私ほどではないがジェントルマンであるのは間違いないな。安らかに、看取ってあげよう』
(突っ込んではダメ、オフェリア…)
(スルーするのよヒナコ、突っ込み待ちよ絶対…)
「炎の厄災は上空、雲海上部をひたすらに飛行している。これに動きは見られないが、恐らく対空…領空に侵入した輩を撃ち落とす働きを持つ為だろう。この対処にはアトランティス・ボーダーを動かし、同じ土俵ならぬ同じ空で戦うつもりだ」
『こちらネモ。アトランティス・ボーダーは神の肉体を使った神秘の船。現代機器の助けが必要ないギリシャのオーパーツで出来ている。炎の厄災にも、ポセイドンは決して負けないはずだ。海の神であるしね』
「頼もしいですね!まぁそれはそうですよ。とんだ宇宙戦艦ですもんね、これ」
「アルトリアもロマンを感じるタイプかしら?カッコいいわよね!超弩級戦艦って響き!」
「その性質上、炎の厄災と獣の厄災は同時に戦うことはありません。上空、地表の両面から各個撃破が可能です!」
「モニターに、厄災の姿を映す。これはムーンセルからの映像に加え、ケイオス・カルデアの探査組からの情報だ。まずは、獣の厄災」
モニターに映し出されしは、北部を護る獣の厄災。最初にエンカウントした時は四足であったが、その手に赤熱した爪を携え、立ち塞がるように北部地方との境目に佇んでいる。
「なんか…フォルムが洗練されてないか?」
ベリルの指摘通り、それは野蛮な獣ではなく、鎧を纏った騎士にも見えた。憎悪と怒りに満ちた、高名な獣騎士。そんな印象を抱かせる、遠吠えを繰り返す厄災。
「見るからにステゴロが強そうな厄災だが、怯んではならん!そして炎の厄災がこれだ!」
カメラが映したのは、マッハをゆうに到達している超音速戦闘機もかくやなメカニカルドラゴンの飛翔の様子。その機体の色は赤であり、翼を畳めば戦闘機だが、広げれば悠然とした赤き竜にも見えるもの。
「こちらも色合いが変わっているように見える。最初の戦いでは気づかなかったが…」
デイビットの言葉通り、それは赤き竜とも言える様相を取っており、自身に装填されている武装は、かつて施設があったとされる地点を入念に爆撃していた。ブリテンの何もかもを決して残さない。そんな、怨嗟に満ちた厄災であることを思わせる。
「正直なところ、この二つを倒したとて予想される六妖精の逆恨み、何よりケルヌンノス神の正当な怒りを鎮める作業も待っている。諸君らには恨みと憎悪、死骸に溢れた地獄の中で戦ってもらうことになる。メンタルケアを決して怠るな。しんどくなったら無理をせず、カルデアで治療を受けるように!」
「助かるよ、ゴルドルフ。でもまだこれなら大丈夫だ。カルデアは神の怒りと憎しみを乗り越えた事があるじゃないか」
「伊耶那美命神が作り出したロストベルト、禍肚ですね?確かにあれは当時の戦力でよくぞ突破されましたとするウルトラCの超難関でした。伊耶那美命神が母であることを捨てていなかった為に和解の目がありましたからね」
「正直な話、ノウハウは全部イザナミおばあちゃんが教えてくれてる。呪いの神も、その尖兵も、回収も。…ロストベルトがもたらすものは、侵略や戦いばかりではないという事とだな」
『い、いやはやカドック君!そのように言ってくれるなんて妾実に嬉したもう!そしてその説は大変お世話になりましたもうや本当にありがとうございますはい…』
「呪いの解呪にはイザナミ殿をリーダーとした解呪班が活躍してくれるだろう。オーディン様が言うには癒やしの湖にも足を運ぶといいらしいがそれは現地で確認するように!」
「成る程。つまりイザナミ塾と言うわけだね?あっ!ここイザナミ様の憎しみと同じ場所だ!」
『ケルヌンノス殿は妖精への怒りだが、伊耶那美命は純粋な憎しみと殺意だったわけだからね。きっと大丈夫。これを乗り越えたくらいなんだから』
『あなや…妾キレすぎ…?』
「恐らくあなたよりカルデアを困らせたのはティアマト神くらいですよ!自信を持ってください!」
『あなやなんたる傍迷惑な記憶樹立!?平に、平に御容赦したもう〜!!』
『大変、ご迷惑をおかけしました…』
母二人の平謝りを締めに、ブリーフィングは締めくくられる。それは、最後の奮起を煽る言葉。
「異聞帯が切除されるか、根幹を解決し並行世界にスライドするかは王と姫の裁定にかかっている。その査定の在り方は君だちが向き合い加点のポイントをどれだけ稼げるかにかかっている!」
「ギルガシャナ姫の『人理を照らす、開闢の星』は不可能を実現可能にし、実行可能にする世界の理を人の無限の可能性に委ねる宝具。この宝具なくして、私達は異聞帯の宝物を汎人類史に持ち帰ることは叶いません」
「妖精国には確かに保護すべき宝があるのは知ってのとおり!そしてカース・ロンギヌスにより異聞帯を攻撃兵器にさせぬためにも、諸君らの奮闘が大いなる要である!」
「ガンバですよ、皆!もしかしたらアヴァロンが第三拠点になるかもしれないんです。気合い入れてやっちゃってください!」
「「「「「了解!!!」」」」」
シオン、ゴルドルフのエールを受け、一同が準備を執り行う。そう、これは異聞帯を手にする為の戦いであり、滅ぼすのではなく救う戦いなのだ。
厄災満ち溢れるブリテン。その地に眠る至宝を夢見て…カルデアのグランドマスターズ達は、活動を開始する。
■■■■■【償い…?許されるために妖精の死にぞこないが活動している、だって?】
【償うって、誰に?何に?どう許してもらおうっていうんだ?トネリコはもういないんだぜ?】
【ふざけた事を言うなよ、ヴォーティガーン。あいつらが許されるわけないんだわ。あいつらは滅びなきゃいけないんだ。一匹残らず】
【トネリコを裏切った妖精。トネリコを護れなかった妖精。そして───】
『この国は厄災ばかりですね、□□□□』
【トネリコの国を勝手に誰かのものにする奴等もまとめて…ボクが皆殺しにするンだわ…】
大穴の底で、復讐者は蠢く。
妖精達を、無意味なままに滅ぼす為に。その価値を、決して見出させることなどさせない為に。