人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「なんだか表情が悲痛だよ陛下…血も流れないし、平和なバトルじゃない?流石はメイヴちゃんのそっくりさんだと思うけどなぁ」
モルガン「本気で嫌ならば、ブライドもラウンドナイツも抵抗するでしょう。つまりあれは親公認の扱いとなります」
〜数刻前
マヴ「という事なの。少し彼女、身柄を渡していただきたいわ!」
オベロン「あぁ、そういえばあの國にいた際は敵対してたっけ。よくもまぁ生まれ変わっちゃってさ」
ブライド『解ったわ。私達のアルビオンをよろしくね』
アルビオン『よろしくおねがいです』
マヴ「あ、あっさり?いいの?」
ブライド『あなたは悪い方ではないわ。責任感に自立心…罪なき妖精なのだもの』
オベロン「ライバルくらいいないと、女王生活もつまらないだろうしね。乱暴な扱いはやめておくれよ?」
〜
モルガン「…ですが今の私は一人ではありません。あの時に、未来の為に全てを捨てたトネリコとも違う。私には頼もしき仲間も、友も、国もあるのですから」
トトロット「トネリコ…」
モルガン「まずは、私が基本をマスターします。その後、皆に力を借りましょう。我が妻、声をかけてもらえますか?」
リッカ「はい喜んでー!」
モルガン「よろしい。まずはご覧なさい。皆の女王は、無敵である事を証明します…!」
(で、受けたのはいいんですが。根本的な疑問を告げてよろしいでしょうか、モルガン)
「……認めましょう。大体考えることは解ります。」
(チョコレートとはなんですか?)
何だかあれよあれよと導かれてしまったマヴとのチョコレート対決。受けたは良いのだが、まずは何をもって勝利であるかと共に根本的な疑問に行き当たるトネリコに、答える術を持っていないモルガン。あまりにも長き冬の時代、生きる未来の礎となっていたトネリコに、嗜好品など縁がないのは至極当然であった。
「アヴァロンにてCCAがおやつとして食べているのは知っています。カルデアのスイーツにおいてもチョコレートを扱っているのも知っています。ですがその原材料や製法など、考えたことはありませんね…」
(美味しければヨシ!と私であれば考えますものね…とりあえず知識を得てみましょう。取り組んでみれば解るものです)
そうしてトネリコらが集めた情報、それはカカオを原料としたお菓子であるというザックリとした情報共有。止せばいいものをまずは一人で基本を知るなどといった手段に踏み切った事で知識の窓口が非常に狭い。
(なんかこう、カカオをローストペースト代用樹脂5%ギリギリにしたのがチョコレートというものになるらしいですよ女王モルガン。ざっくりこんな感じの規格を護ればいいみたいです)
「成る程…じゃんぬ店長に詳しく聞けば盤石でしょうが、ここは未来の特産品事業を踏まえ、キャメロット・オークニーならではのチョコを作りましょう」
料理の失敗する絶対的要因、それは基本もおぼつかないくせにアレンジや特色を求めることである。マニュアルやノウハウは遊びや戯れでは残されない。確かに実績として後世に遺されているのだ。
…後の悲劇を思えば、ここは素直にリッカを随伴に付けておくべきだったのだろう。素人のアレンジは、地獄への片道切符に他ならないのだ。
「キャメロット・オークニーの森林には、人理がまるで知らない植物が数多くあります。資料を確認したところ、フェアリアン・カカオマースという植物モンスターがいるようです。この植物を原料にしましょう。名前も似ていますし」
(成る程…!では早速狩りに行きますか!)
「いえ、ラウンドナイツに足労を願いましょう。標高300メートルの丘陵地に生息している、とのことなので。出陣の達しを伝えます」
そうしてドラゴンスカイラウンドナイツはカカオマースの討伐に出立し、フォラステロ、クリオロ、トリタニオ族のカカオマースをボルシャックらが討伐し続け、規定値の量を収集しモルガンの制作は結実することとなった。絶命時に結実するが、その確率が極めて低い為チョコレートを作るのにかなりの数を討伐する羽目となった努力をモルガンは報奨にて評価した。
(では早速原材料から手掛けて、然る後に素晴らしいチョコレートを作ってみましょう。基本を知らなくてはまともなものは作れませんからね!)
「えぇ、少なくとも最低限の基礎知識はマスターしなくては」
そうして運び込まれたカカオマースの素材を魔術で乾燥、ローストペーストし原材料を作っていく。そしてその配合をうまく行い、正しきチョコレートを作るのだ。
(…マヴ、ですか。まさかキャメロット・オークニーに現れるとは予測もしていませんでした)
そんな作業の中、既に聖剣の人格となったトネリコがふと呟く。彼女からしてみれば、それは意外な事だったらしい。
「…私と行く道は違えども、譲れぬ夢に邁進したお前が外敵をどうするかなど理解も、想像もできる。…本来なら、不倶戴天の宿敵として無差別攻撃もあり得ただろうに」
(…そうですね。思えばブライドと別れた後の私のしたことは、未来に繋ぐために多くの妖精の屍を積み上げる事でした。マヴ達、北の罪無き妖精達さえも)
あの頃のトネリコが護るべきものは、ビリィとホープ、バーヴァンシーのみだった。トトロットとライネック、エクターは同志にして仲間ではあったが、轡を並べる戦士であり、いつ倒れるかも解らぬが故に、その心を愛しても命を重視していなかった。
マヴ達は北の妖精であり、生きていては新たなる理想郷の敵対国家として脅威にあると見ていた。故にトネリコは当たり前の排除対象としてマヴの国を陥落させにかかった。その性質上、マヴの臣民を死体に変えればぐっと計画の成就に近付いた。やらないという発想すら浮かばなかったとトネリコは言う。
「今思えば、苛烈極まる建国の旅です。皮肉なものだ。護るべきものを多く有したお前が、私より何倍も冷酷無比となろうとは」
トネリコはモルガンと違い、早々に善なる妖精を見出した。それ故に、早々に妖精達の救世主の使命を捨て、手にした救いに未来を齎すための、生きた礎となった。その見識はブライドと出会い、理不尽に失うことにより確定したと言っていい。
苛烈そのものであり、冷酷無比にして悪逆無道の所業を顔色一つ変えずに行った。集落一つを呪殺や焼き落としなど日常茶飯事であったし、扇動に暗殺、侵略や毒殺。自身に向けられた悪意を、何倍にも増幅しやり返した。
(勘違いなんてしないと思いますけど、罪悪感などありませんよ。仲間達を活かすなら、善良なる小を活かすなら、悪しき大は全て切り捨てなくてはならなかった。やるべきことをしたまでですし、後悔も躊躇いも生まれはしなかった)
トネリコは、自らの理想郷の為に不穏分子を全て消していった。罪ある妖精も、そうでない妖精も、全て妖精國の動かぬ死骸として積み上げた。
(…ですが、マヴ達のような妖精達。ブライドのような妖精も、私が始末した中にはいたのかもしれません)
あまりにも多くの妖精を殺しすぎた。あまりにも多くの敵を殺めすぎた。いつしかそれは、善良であろうと悪辣であろうと関係のないものとなった。
いや、元々関係はないのだ。救うべきは三人だけ。それ以外は自分も含め、礎でしかない。己の人生も、使命も、全て未来の国と民に捧げた。
(…マヴに結婚の話をした際に、一番喜んでいたのも…彼女、だった気がします)
もう遠い過去の折。思い出の中のマヴは喜んでいたような気がするのだ。いや、そもそもの話、ウーサーとの婚儀を蹴ったのも彼女だったか。政略結婚など、ロマンが無いと。
(感情論で動く愚かな王と私は切り捨てました。しかし…出会いや何かが違えば、此度のような…単純な争いも出来ていたかな、と思いましたので)
最早妖精達は皆死んだ。生まれ変わったというのなら、もう過去の確執など洗い流す頃合いだと、トネリコはモルガンに告げる。
「…えぇ。敵対し戦争になるよりは、このように個人間のライバルという関係に終始する。それが一番健全でしょう」
(となるとこれは…和睦の儀式という事になるのでしょうか)
「ふふ…それならば一層気合を入れてマヴに突きつけてやらねばなりませんね。理想を叶え、国を手にしたトネリコ…そしてモルガンの力を」
モルガンとトネリコは笑い、チョコレートの基本をマスターするべく作業を進める。
モルガンの冬はとうに終わった。アヴァロンに至り、カルデアに辿り着き、念願の国を手に入れた。
ならばこれは、トネリコの贖罪であり、新たなる始まりであり、利用するか排除するかでしか無かった、かつての春の乙女のもしもの可能性。
國の運営としてみれば全くの無駄、贅沢でしか無いチョコレート作り。
だが…未来のために、夢の為に、何よりも誰かのためにしか生きてこなかったトネリコにとって。
その作業は…かつて胸を支え続けた、春の記憶の暖かさと同じであったのかも知れない。
「…ふふ」
そしてそれを、半身として見守る、モルガンなのであった。
……ここまでならば、心暖まる話で終わったのだが。
リッカ「まずは皆で作る前に基本をマスターしたいだなんて、陛下は真面目だなぁ」
トトロット「ホント、そういう真面目なところは全然変わってないんだわ。トネリコ…」
モルガン『我が妻、聞こえますか?』
リッカ「あ、陛下!どう?マスターした?」
モルガン『チョコの厄災が生まれました。共に排除をお願いします』
リッカ「…………………はい?」
モルガン『………すみません、我が妻』
元・魔猪の氏族は、生まれてはならないものを生み出してしまったのであった…。