人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「お邪魔しまーす…」
オルガマリー「来たわね、リッカ」
マシュ「こっちです、先輩!さぁこの、マシュ・キリエライトの隣に是非どうぞ!あなたのオンリーワン後輩の隣に!」
リッカ「〜。貸し切りかぁ…贅沢だけど、しんみりするよねぇ」
オルガマリー「一つの区切りよ。お祭りが始まったら、こういう時間は取れないもの」
マシュ「はい!私達だけの時間ですからね!大切にしましょう!」
リッカ「そだね。じゃあ烏龍茶で!」
マシュ「オレンジジュースで!」
オルガマリー「アイスコーヒーで」
「「「乾杯───!!!」」」
「もう、六年にもなるんだねぇ。私達の旅路の軌跡」
貸し切られたアーネンエルベ。『君の願い』を奏でるジュークボックスに、たった三人だけのパーティー。賑やかな訳でなく、それでいて湿っぽい訳でもない。静かに噛みしめるような3人の時間が、しっとりと過ぎる一時。リッカは感慨深げに、天井を見上げる。
「私達が倒すべき敵の輪郭も帯びてきたし、旅路もますます苦難と愉快に満ち溢れたものになるでしょう。まぁ…今更でしょうけど」
「はい!私達の旅路は、退屈だったり苦痛だったりといった感情は無縁と考えていいでしょう!私がそうなのですから!」
マシュがぴしりと手を上げ宣誓し、オルガマリーが肯定とばかりにコーヒーを運ぶ。それは今更、確認するものでもないとばかりに。
「二人とも、本当に立派になったわ。リッカは勿論の事、マシュ…あなたはギルに、グランドシールダーの名前を冠されるまでに至った。友人として、こんなに誇らしい事はないわ。本当におめでとう」
マシュはギルに裁定を受けた。それはギルガメッシュ、並びにエアの全身全霊であり、それをマシュは雪華の防護で受けきった。人理の熱量と穢れぬ守護。二つを手にしたマシュは今、カルデアが輩出した紛れもないグランドクラスのサーヴァントと言えるだろう。
「ありがとうございます!しかしそれを私が受け取るのは、私だけが受け取るのは不適切です!何故なら、守護には護るべき大切な何かが無くては駄目なのです!」
「マシュ…」
「マスターであるリッカ先輩、友人たるオルガマリー所長!そして二人がいる世界の全て!それを護りたいと願ったからギルガメッシュ王と、ギルガシャナ姫に私の全霊を伝えられたのです!ですから御礼は是非私から!あまねく全てに!ありがとうございました!!!」
しゅばっ、と立ち上がり深々とお辞儀をするマシュの姿に、リッカとオルガマリーは顔を見合わせ笑い合う。どうやらこの茄子は、どこまでも傲慢とは無縁らしい。
「これからもよろしくね!私だけのマシュ!」
「あなたとリッカは私の誇りよ。これからも、お願いね」
「〜〜〜〜!お任せください!!あの、録音したいのでもう一度よろしいでしょうか!!」
「リッカ。あなたの生い立ち…自尊の獣が深く関わっていたのね。あなたの…」
「うん。びっくりしちゃった。まさか私がアーラシュみたいな神代の先祖返り…現代に転生したアダムとイヴの子供、だったなんてさ」
アダム先生とパパポポ、そしてルシファーにて伝えられた真実。自身は始まりの人類の母胎から生まれたもの。始まりの人類の、直系の子孫であると。それは、アダムとイヴの免罪の証として生みだされたもの。
「何故、あの人達があんなにも完璧に拘ったのか。何故、あんなにも完璧にならなくちゃいけなかったか。今なら解るよ。…あの人達は、ただ。楽園に帰りたかったんだって」
自らの罪に永劫苦しみ、祝福ない荒野を終わりなき歩みを重ね続ける。誰も助けてくれず、罪の重さを枷として歩き続ける。それに、二人は屈してしまったのだ。それを、リッカは責める気にはならなかった。
「二人はただ…赦してもらいたかったんだなって。今ならちゃんと、あれだけ完璧に拘った気持ちが理解できるよ」
「私は決して容認しないわ。どんな理由があれ、子供を私物化する親など肯定されて良いはずがない。あなたの生い立ちを肯定されて良いはずがないのよ」
「そうです、先輩。先輩の人生は、先輩の全ては先輩のものなのですから!」
「うん、ありがとう。でも…ね。実はね。本当は…今は、二人に感謝してるんだ。ジブリールさんにも」
リッカの中では、最早蟠りも燻りも、恨みもない。とうに決着をつけ、とうに割り切り、とうに自身の生きる意味を見つけた。
「私の生まれは皆と違うかもだし、普通の人間とはとても言えないかもしれない。でも…私はこう生まれることができたから、今こうして皆の生きる世界を護れてるんだよ。それは例え、神様に捧げられた免罪符として望まれたのだとしても。完璧を証明する自分達の分身だったのだとしても」
生まれる事は、自分自身ではできない。どんな思惑が荒れ、自分は確かに生まれ落ちた。ならば自分に出来ることは、自分をどう定めるかということ。
六年間、支え続けられた今なら言えると彼女は告げる。彼女を支え続けてくれた全てに言える。
「私は…アダムとイヴの子供で、良かったなって思ってるよ。最高の育ての親たちに恵まれたから、自分を自信を持って肯定できるようになれた今を…良かったなって、思ってるよ」
「リッカ…」
「オルガマリーにも、ありがと。カルデアを作ってくれて。夏草と同じくらいの居場所を、作ってくれてありがとう!」
リッカの笑みは、晴れやかで何処にも屈託のない差し込む朝日のようなものだ。オルガマリーが、その顔を見て咄嗟に潤んだ眼を隠すほどに。
「…御礼をいうのはこちらもよ。カルデアの非道な実験で生み出してしまったマシュ。世界の命運なんてものを背負わせられながら、完璧以上に完璧に走り抜けてみせたリッカ。あなた達だからギルは私達を助けてくれた。皆だったから、姫は答えを示してくれた。…私なんかを信じてくれて、本当に…」
「マリー、なんかは禁止!」
「はい!ゴルドルフ副所長もドクターもシオンさんも、スタッフ全員が皆、所長はオルガマリー所長しか有り得ないという結論に至っているのですから!」
「…えぇ、ごめんなさい。そして…ありがとう…」
クールビューティなようでいて、一番人情家で感情豊か。そんな愉快な人間味溢れる存在になったオルガマリー。心の贅肉メタボリックになった彼女は、マシュに優しく背中をさすられ平静を取り戻す。
「…二人に言ってなかったけれど、実は私、暇を見つけてはアダム先生の下で教育実習生をやっていたりするの。教え方や、目下の人との触れ合い方とかね」
「学園都市で!?」
「教育実習生を!?」
「ええ。偉そうにすると嫌われてしまうから、礼節の勉強になるのよ。…銃撃音が絶えないけれど…」
それで、とオルガマリーは続ける。教育実習生としての、問いかけがあるのだと。
「二人には今、何か夢はあるかしら。成し遂げたい事や、目標などといったもの。使命ではなく、人生の目標よ」
「私はあります!!」
マシュが手を挙げる。よほど語りたいようなので二人が促すと、マシュは殊更元気よく告げる。
「私は平和になった世界で、先輩と一緒にオルガマリー先生の生徒になることです!!」
「…教育実習生の話は今言ったのよ?」
「今夢ができました!ですのであらゆる厄災から、真っ当な教育を受けれる平和な世界を護っていくと誓いますっ!先輩やカルデアのみなさんと一緒に!!」
マシュの願いは、平和な世界。教育を、当たり前の日常を送れるような。
「ふふ、頑張らなくてはいけないわね。…リッカはどう?マスターとしてではない自分を、ちゃんと考えてる?」
「勿論。まずは平和を脅かす敵や脅威を一つ残らず討ち倒す!マスターとしての夢は…人類の平和と未来、今を生きる皆の当たり前の日常の味方!!」
ぐっ、とガッツポーズを繰り出すリッカ。マシュはうんうんと深く頷いている。それでこそマイマスター、藤丸リッカだと。
「それで…いつか戦いが全部終わって、戦う必要がない未来が来たら…」
そして──この夢は。六年間の歳月で培ったその夢は。
「素敵な人と結婚して、幸せな家庭を築きたいなぁ…って、思ってたりするんだよね。夢として!あくまで夢として、ね!」
「──ふふっ。良かった。正義の味方とか、全人類の救済とか、根源に至るとかじゃなくて」
「はい!先輩という存在の真ん中は…そういった、誰もが頷ける真っ直ぐなものであってほしかったので!」
「あはは、普通でしょ!でも。…でもね」
普通だから、当たり前の尊さが解る。
普通だから、その大切さが解らない奴が決して許せない。
平気な顔をして普通を踏みにじる者から、命を懸けて守り抜ける。
「どれだけ力をつけても。どれだけ普通から、かけ離れても。私は、ずっと。これからも、ずっと──」
──護った世界の中で掴む、大切な幸せを夢見て戦い続ける。
それが、これからも戦い続ける理由なのだと。
数奇な運命の中で生きた少女は、決意の眼差しと共に語るのだ。
マシュ「あ、ちなみに先輩の御相手は入念にチェックさせていただきます!生半可な相手は決して許しません!」
オルガマリー「ふふ、大丈夫よマシュ。カルデア総出で相手を試すつもりだから」
リッカ「遠いなぁ!?私の夢遠いなぁ!?」
オルガマリー「心配しないで、リッカ。これは確信よ」
マシュ「はい!先輩に相応しい人は必ず、現れます!」
リッカ「……〜。うん。そだね!生きていれば、世界が平和に続いていけばきっと!」
六年より先も、明日は続く。
遥かな夢を、叶えるために。
「さぁふたりとも!明日に備えて今日は飲み明かそー!!」
「「おー!」」
誰も欠けることなく。
少女達は、新たな一つの轍を刻む。