人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『──出番みたいね。エア、ちょっとだけ待っていて?相手が相手だから、行かなくちゃダメみたい』

──・・・ん・・・ぅ

『きっと、彼女は両親みたいにならないわ。きっと大丈夫。だから・・・祈ってあげて。彼女が無事であることを。もう、大丈夫だと言ってあげて』

──・・・リッ、か・・・ちゃん・・・

『えぇ、私達のマスターを・・・手助けしに行ってくるわね』






・・・その者、生来の気性より向上心と自尊心の塊であった

あらゆるものをそつなくこなし、あらゆるものを平均以上に執り行い、何不自由なく喝采と称賛を浴びる事となり将来を約束され幸福を確信していた

だが、その性根ゆえに・・・どれだけ満たされようと彼の願望と渇望は決して満たされることはなかった

『もっと万全でありたい、輝かしい人生でありたい。己の総てが満たされていたい』

そう満たされぬまま送る人生にて、彼は社会の頭打ちへと至る。どれだけ個人に力があろうと、他者を一切省みないその在り方では大成など出来る筈はなく。当然のように可もなく不可もなき平凡な存在へと成り果てた

その事実に、彼は己以外の総てを呪った。自らを評価せぬ社会、足を引っ張る他者、自らの思うままにならぬ総てを憎悪した

己が思い通りにならぬは、己以外の総てがくだらぬものだからだ──そう本気で考える彼は、間違いなく狂っていたのだろう

これ以上自分の人生は輝かぬ・・・ならば、己はなんのために生きてきたのか。発狂寸前の中、彼は新たに生殖活動に目をつける

自らが不可能ならば、自らが造り上げた模造品、完全なる分身が在るならば・・・もしくは、子を自らとするならば。それは己の人生が終わらずに続くのではないかと、彼は、思ったのだ

故に──【獣】が囁いた【己】を造る計画を、二つ返事で受け入れた。魂の形、同じく満たされぬつがいにして母胎を、彼は受け入れた

今度こそ、産まれる【己】に完璧な生を。今度こそ、自らの為し遂げられなかった完璧な人生をこの子に送らせる

そうすることで──自らの生は輝くことになる。第二の自分が、自らの望んだ生を全うすることによって

何故なら──自らの胤にて生まれた存在なのだから。自らの遺伝子が、存在が、正しかった子とへの証しとなると彼は信じていた

──当然のようにその目論見は破綻し、娘は新たな生命として羽ばたいた

・・・──彼の破綻した論理は、彼女の飛翔を認めなかった

そして、怨嗟と呪詛を返され、身を焼き付くされていくその時まで──

彼等は、娘の破滅を心より願っていた。

そして・・・──


【庭】

『な、なんだこれ!?空間歪曲のレベルが尋常じゃない!妙な磁場にまみれて、こちらの観測を阻むほどにねじれきっている!建物の外だって言うのに、いったいどういう事なんだ!?』

 

ロマンの驚愕に満ち溢れた言葉が、通信モニターより飛ぶ。そこはヴィマーナにて訪れた建物外の敷地。木々が立ち並ぶうらびれた森の中。其処に何か・・・式曰く『元凶』と呼ばれる何かが潜むことを感じ取ったリッカ達は、ヴィマーナにて四階より舞い降り、この閑散とする地形に足を踏み入れた。だが、其処は──閑散としていながら、敷き詰められた漆のような【黒】に満ち溢れていたのだ。空間そのものが、辺り一帯を握り潰し塗り潰すようなおぞましき感覚。その場に踏み締めている足から、怨念が身体に侵入していくような不快感。込み上げる嘔吐感など、ロマンの言う通り尋常ではない程の戦慄が、その庭より発せられている

 

『通信状態不安定、観測光、停止──リッカ、気を付けなさ──』

 

「ロマン、オルガマリー・・・!」

 

カルデアからの通信が途絶される。強化に強化を重ねられた楽園たる施設からのバックアップすらも遮断するその不安定さ。その拒絶と剥き出しの殺意、敵意。もはや語るまでもなく・・・いる。此処に。この場所を致命的に変えている、何かが

 

式が無言でナイフを引き抜く。その眼は虹色に煌めき、切り捨てるべき何者かがここにいる事を如実に示している。リッカの傍に、庇うように立ち、じっと一点を──焼却炉を見詰めている

 

リッカも即座に、鎧を纏う。あの少女──何者かは解らないが、自分達を此処へ導いた少女。あの彼女の姿が見えない。こんな場所へいてはいけない。なんとかして保護をし、身柄を確保してあげなきゃ。そう考え、決意したリッカの前に──

 

それは、現れた

 

 

立香(りつか)

 

ズシン、と巨大な重り、鉛、鉄塊を叩き付けられたような重圧と共に、言葉が投げ掛けられる。それは、リッカの名前とは微妙に異なるもの。だが、それでいて──【彼】が付けたとされる名前

 

空間がひび割れたかのように軋む。大地が揺れ、おぞましく震える。辺りから、人の慟哭のような絶叫が響き渡る。その声は、ただの一言で──世界を塗り潰すやもしれぬ【憎悪】に満ち満ちていた

 

【お前は、赦されない】

 

心からの拒絶。心底からの拒否。絶対的な否定。聴くだけで喉をかきむしりたくなるような、吐き気を催す響き。スピーカーから響き渡る重低音を、極限まで鈍くしたような人間の肉声とすら呼べぬおぞましき声音。それが、焼却炉から発せられる

 

【私達の手から離れたお前は、無価値でなければならない。お前の成すべきものは、全て無意味でなくてはならない。お前の成功など、お前の人生など、私達がくれてやった生命を無駄遣いして得たまやかしに過ぎない】

 

【その、声・・・!】

 

『人理を臨む龍心』がなければ、即座に発狂していたかもしれないその正気を浸す怨嗟の声。言霊の一つ一つが辺りを絶望に汚染する声音に、その発声の妙に、リッカは答えを得る。まさか、そんな──そんな筈は無いと。それでも、彼女の対話の力は、無慈悲に結論を導き出す

 

【・・・お父さん・・・!?】

 

【私に娘などいない、子などいない。いたのは我等の模造品、そして──そうあるべきだった出来損ないに過ぎない。それがお前だ、藤丸立香】

 

這い出る。ありとあらゆる憎悪、ありとあらゆる怨嗟。それらを身に付け力とし、狂気を促す様な恐ろしき【ソレ】が、確かな形を以て産まれいずる。焼却炉より這い出でる

 

【産んでやった、生命をくれてやった。その恩に報いることなく諦めた出来損ない。朽ち果てていたなら家庭の悲劇の一端として活用できたものを、何の間違いか希望と未来なる『まやかし』を抱き、我等の手より離れた穢らわしい配偶者未満の失敗作。──そんなお前が、赦せない】

 

異様な風体だった。あまりにも醜悪で、あまりにも異形で、あまりにも直視に堪えない、そんな・・・既存の生物とはあまりにもかけ離れた、醜悪極まりない見た目の【何か】が、現れたのだ

 

【な・・・に、これ・・・】

 

その姿は悪魔のような翼を生やしていた。焼却炉より抜け出、羽ばたかせ、三対の巨大なもの。下半身は蛇であり、ゆっくりと、ずるりともたげる蛇身。上半身には二本角の悪魔、ヤモリ、山羊、牡牛、蝗、蛇、青白い炎に焼かれ苦悶する人間の上半身。この世で不浄とされたものが全て集められ、混沌と破滅を煮詰めたようなおぞましいキメラがごとき怪物が現れ出たのだ。その上半身の人間の体は──リッカがかつて、共に過ごした男性の姿となり、青白き焔で焼きつくされ苦悶を浮かべ呻いている

 

 

それは、世界の全て、不浄の全てをかき集めその怨嗟を形とした姿。その様は巨大で、見上げるほどに雄大で、ただひたすらに──穢らわしくおぞましい。他者を恨み、世界を恨み、自ら以外の全てを恨んだ救われぬ魂の成れの果て。顕現した──【霊長の殺戮者】にすら手を掛けた、【無銘の怪物】・・・

 

 

【幸福であるお前が赦せない。自分達の手を離れたお前が赦せない。生きているお前が赦せない。お前の全てが赦せない。認めない。赦せない、赦せない、赦せない、認めない、認めない──】

 

【この特異点は、父さんが・・・!?じゃあ、母さんも・・・!?】

 

【ここに集められた死は、お前が味わうべき総てだ。お前を取り込み、億を越える死をお前に与え、魂を抹消し肉体のみを回収する。そして我等が・・・【藤丸立香】として、新たなる生を全うするためのもの。お前という人格は不要だ、お前という存在は無用だ。お前という認識は不潔だ。お前という在り方は不必要だ】

 

【う、っ──ぐ、ぅ・・・!!】

 

放たれる呪いの言葉。真上から叩き付けられる傲慢なる呪詛。まともに立ち上がる事すら叶わないほどの圧倒的圧力。リッカの鎧がなければ、たちまち潰されていただろう程の、純然たる拒絶

 

【死ね──その肉体のみを回収する。お前の人生など不良品。在ってはならぬバグであることを自覚しろ】

 

【・・・!!】

 

お前(藤丸龍華)など、産まれてこなければ良かったんだ──】

 

吼え猛る無銘の怪物。激震する空間。おぞましく、一点の揺らぎもなく、ただ純粋に──リッカを拒絶する狂い果てた怪物。ソレが、リッカを潰し、システムに組み込もうと狂い猛る

 

「あーあ。いけません。いけませんよマスター・リッカ」

 

メフィストが・・・笑顔もなく、苦悶もなく、ただ・・・『諦めきった』様相で、現状を告げる

 

「アレは超回復・直視に体力・超スキル、無辜の怪物。人間を恨みすぎたものの最終形と申しますか。魔術世界には霊長類だけを確実に殺害するなんとかマーダーというものがいるそうですが──アレはその領域にまで手をかけている名もないかいぶつのようでございます」

 

残念です、とメフィストは項垂れる。巨大にして悪辣なる怪物を見詰めながら、がっくりと肩を落とす

 

「最早リッカさんの破滅を見るという私の望みもここまで。だってほら──私達、此処で全滅しますし?」

 

その言葉はけして大袈裟、虚飾ではない。数々の頭から放たれる魔力、身動ぎするだけで大地が抉れ、吹き飛び、大気が震え空が啼く。オガワハイムの外様にて配置され、無際限に怨霊と魂を招く役割を担われた怪物の猛威は、辺り一帯総てを呑み込み、空を覆い尽くさんとする

 

トップサーヴァントが何人かかろうと手を焼くであろうおぞましき集合体。磁場の歪曲により、召喚もままならず呪詛にてリッカは這いつくばったまま動けない。絶体絶命──まさにその形容は相応しい

 

あわや、本当に──目の当たりするものがあれば、そう考えてしまうような恐ろしき結末をもたらしかねるその状況を──しかし、決して受け入れぬ者が、確かにいるのだ

 

「ふざけるな!!」

 

振るわれる蛇の身体、メフィストの絶望に──否を突き付けるナイフ使い、動けぬリッカを護る影がある。虹色の眼を輝かせ、そして吼える者。それは──式だった

 

「全滅なんぞさせるか、リッカを殺させなんぞさせるか!だってこいつは『まだこれから』だ・・・!」

 

自分を覆い尽くす蛇の尾を切り捨てながら、式は告げる。こんな陰気な場所で、死なせるわけがない、殺させるはずがないと。何故なら・・・

 

「とんだ毒親もいたもんだ、久々に本気で頭に来てるぞ・・・!何が失敗作だ、産んでやっただ・・・!『子供を親の都合で振り回すな』・・・!」

 

【式、さん・・・!】

 

「こんなヤツの言葉なんか聞き流せ!親から子は自立するものだってウルクでも言ってたろ、リッカ!お前の生き方、お前の進み方はバカで、真っ直ぐで、誰かが笑ってみていられるもんだってことは、俺が保証してやる!」

 

でなければこんな場所には来ない。でなければ、一緒にアイスを食べたりしない。でなければ・・・カルデアの奴等が、お前の為に残ったりしない

 

「本当は、両親が真っ先に言ってやる事なんだろうにさ・・・!なんでお前ばっかりこんな訳の解らない業を背負わされるんだ、前世の因果にしたって馬鹿馬鹿しいにも程がある・・・!もうちょっと、なんていうか・・・!祝福や祝い事くらい、何で用意してやらなかったんだって仏様や閻魔様に怒鳴りこみたい気分だよ、全く・・・!」

 

【何故庇う。そこの出来損ないはお前と・・・】

 

「──お前、少し黙れ・・・!」

 

【・・・】

 

 

「リッカの配偶者、血が繋がってる事だけを鼻にかけた頭のおかしい気狂い野郎・・・!俺はいい加減──」

 

死の線はあまりにも太く、巨大で、ナイフでは切り裂けぬ程の遠大さ。距離感すら掴めない死に難い存在でありながら、式は微塵も退きなどはしない

 

単純な理由であった。式はまず、『一緒にいて良いヤツか悪いやつか』を判断に数える。そして気が合う奴には、色々とちょっかいを出す程に気をかける

 

リッカの事は、無邪気で、快活で、馬鹿でがさつで、でも、何の気がねなくいられるヤツで。一緒にいて・・・気が休まるヤツだと彼女は思っている

 

目の前で──そんな『一緒にいていい』人間を、存在もろとも否定すれば。如何な気紛れの式であろうとも。──激昂するのは至極当然の帰結と言うものだろう

 

「頭に来た・・・!有給のツケだ、お前は絶対──」

 

【──】

 

凄まじい力にて、式を叩き潰す。人間が見上げるほどに巨大なその怪物が、尻尾にて彼女を邪魔と認識し叩き潰したのだ。その圧倒的な質量に、リッカの目の前の式が、圧殺される様を──

 

【式!!!】

 

『──ふふっ。そんなに心配しないで。大丈夫、本気になった私はそれなりに強いんだから』

 

瞬間──あらゆるものに、劇的な変化が起こる。蛇の身体たる尻尾が細切れに両断され、同時に暗雲立ち込める空に、月光が一筋雲を切り裂き『』を照らす。殺害されるはずだった運命をねじ曲げた其処に立つ、日本刀を構えた着物姿の麗人・・・

 

『こんばんは、リッカちゃん。こうして会うのは初めてね?相手が相手、聞くに堪えないから出てきちゃった。ちょっとだけ本気を出すから、見失わないように見張ってあげて?』

 

風光明媚を形にしたような物腰。大和撫子の体現とすら言っていいたおやかさ。日本女子の理想を形にしたような、あまりにも可憐な姿。場違いなほどの白さに、リッカは息を飲み──

 

【・・・綺麗・・・】

 

その言葉しか発せられない程に見とれざるを得なかった。あのときの、英雄姫の降臨。あれ以来となる、単純にして陳腐な真理が口を突いて漏れ出たのだ。『尊さ』を形にしたのが姫ならば、『女子』を形にした理想が、このような形なのかとすら思うほどに

 

『エアの言う通りね。綺麗なものを綺麗と思える。素敵なものを素敵と言える。あなたはやっぱり、素敵な子だわ。リッカ』

 

【笑わせるな、ソレは紛い物、出来損ない、失敗作に過ぎない。此処で──】

 

『──こんなものから貴女が産まれてきた奇跡を、私は知らないわ。そう、本当に・・・あなたは誰よりも前に進んできたのね。本当に──』

 

優しく、暖かな気持ちのまま、日本刀を『』は軽やかに振るう。──ただ、それだけ。それだけの仕草であった

 

【・・・!!?】

 

自らの身体が、自らの威厳が、自らの怨嗟が、17分割程度に細切れに両断され消失する。その顏には、物悲しさと・・・強き決意が浮かび上がる

 

『リッカを失敗作と言ったわね?笑わせないで。子は親を見て育つもの、親は子を慈しむもの。右も左も分からない子に自分勝手な未来予想を押し付けて、それが出来なければ失敗作なんて──誰もが言わなかったことを、私が言って差し上げましょう』

 

恨みと怨嗟の空間を、涼やかな刃鳴らしで浄めるかのように。しゃらりと刀を振るい、その破綻しきった親を名乗る怨霊に毅然と告げる

 

『あなたたちの計画なんて──何回やっても成功は有り得ないわ。立案しているあなたたちが狂い果てているのだもの、当然でしょう?』

 

【何を、何を言う──!私達は完璧だった!私達の人生は、何の綻びもなく万全だった!間違えて、誤っているのはこの世界そのものだ。認められん、認められるものか!だからこそ私達は、『やり直し』の為に立香を──】

 

『──あなたたちには行き場はなさそうね。何がそうさせたのか、最初からそうだったのかしら。無間の地獄も、あなたたちを浄めるには不足でしょう。なら──』

 

たっ、と軽やかに、速やかに。刀を振りかざし、人の尊厳を踏みにじり、喚き散らす怪物に・・・確かな、終わりと安寧を与える

 

【ガ────】

 

『見果てぬ夢ごと、両儀の狭間へ消えなさい』

 

虹色に輝く瞳が、その醜悪に折り重なった線を見抜く

 

 

手にした刀が、遥か彼岸より、幽世より迷える魂に安寧を与える、無垢の一太刀

 

『──もうすぐ夜が明けるわ。別れの時は、すぐそこまで来ている』

 

醜悪な身体が、怨念の集合体が速やかに霧散していく。生きた怨念、活きた情念。それを──『線』ごと両断したが故に

 

『もう見果てぬ夢から醒めなさい。子供は必ず、自立するものよ』

 

それ故に──平穏と安楽は、平等に

 

『負けないでね、リッカちゃん。遠い場所から、応援しているわ』

 

彼女は振るい、告げる──その、一刀を以て。怨嗟の庭は、穏やかな静寂へ。その奥義の名は──

 

 

 

 

 

 

────無垢識・空の境界──────




【──】

リッカは歩み寄る。まさに消失寸前の魂。自らをこの世に産み落としたつがいの一人。その彼に・・・ゆっくりと近付く

【立香・・・!立香・・・!!】

凄まじいまでの憎悪にさらされながらも、兜を取り、膝を折り・・・そっと手を差しのべる

【!?】

【お父さん。あなたとお母さんがいなかったら、私は産まれてこれなかった。どんなに拒絶されても、拒絶しても・・・それは絶対に事実だから】

そう。これ程恨まれたとしても、憎まれたとしても。それでも・・・実の両親、血縁である事は決して覆せない。どれだけ失敗作と言われようとも。親と、子の関係は断ち切れない

【ありがとう、お父さん。お母さんと一緒に私をこの世界に産んでくれて。それだけは──ちゃんと伝えたかった】

【・・・・・・──】

リッカは手を差しのべる。皆がそうしてくれたように。どんな想いにも価値があると告げてくれた姫の言葉に、倣うように

【・・・・・・】

その手を、怨霊と化した父の魂は──

【──代替品風情がァ!!】

今更理解など出来ない、憎悪と怨嗟にて──リッカをあくまで拒絶する。彼の心に、正気と理性はとうの昔に燃え落ちているのだ

【お前さえ!お前さえ私達の期待に応えていればこんな事にはならなかったんだ!私達がこのような目に合うこともなかった!総て、総てお前のせいだ!】

【──】

【お前を赦しなどするものか!何度覆されようと、何度跳ね返されようとも呪ってやる!この世総ての不幸を背負い生きていけ!!我等の手から離れたお前なぞ所せ──】

瞬間──もうそれ以上、狂い果てた怨念が言葉を紡ぐことはなかった

【赦さない?・・・やっぱり親子だね。『私も同じ気持ちだから』】

【──え?】

左手にて口を塞ぎ、パイルバンカーを起動し、振るい上げる。もう伝えたいことは伝えた。後は──

【サーヴァントの皆を、ビルの人達を。自分勝手な理屈で歪めて巻き込んだ。私だけを憎んでいれば良かったのに──あなたたちは、越えちゃいけない一線を越えた】

全力で魔力を練り、虐げられ、変質させられた者達の無念と怒りに、胸をたぎらせ・・・【元凶】となった存在に、ゆっくりと拳を振るう

変えられ、変質させられ、涙のうちに消えていったもの。絶叫していったもの。──自分の事じゃない。変えられ、利用された皆への思いが身体を突き動かす

【──私、本気で怒ったのは半年ぶりだよお父さん!!私は、誰かを自分の都合で利用する相手を絶対に赦さない!!】

【──!!!】

【もう二度と──この世界に出てこないで!!私は藤丸立香じゃない!!藤丸龍華!それが私の、皆から貰った・・・!!】

渾身の拳が、この特異点の元凶に振るわれる。みずからを恨んだ報復ではなく、誰かを貶めた怒りを込めて──

【名前だあぁあぁあぁあっ──!!!】

【──!!!!!!??!?】

言葉にならぬ断末魔をあげる怨霊に止めを刺す。聖人により浄化され、死霊に絶大なる効果をもたらす拳を父であった存在に叩きつける。爆音、大轟音、衝撃が響き渡り、残りかすであった魂が、為す術もなく霧散消滅を果たす。今度こそ、今度こそ・・・自らを呪詛にて縛り上げていた元凶の完全消滅を確信し、拳に目を落とす

【──地獄で待っててよ。お母さんも含めた三人で、出来なかったお話をしよう】

そうして、式を起こしメフィストに声をかける

【行こう。あと一人──倒さなきゃいけない人がいる】

その元凶は、五階に。もう二度と、こんな恨み辛みの吹き溜まりを作らないために

リッカは──自らを産み出した片割れに、決着をつけるために行き出す──

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