人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
──たった一度の?・・・彼女のみが成し遂げられる事象のために、彼女は世界の後押しにより現れた・・・という事でしょうか?
《然り。おそらく長く生きれぬ生を世界との契約にて借り受け、そして履行したのだろうよ。赤子の身分、選択の意志すら無かったであろうがな。──今のヤツがいるならば、敗北はあるまい。だが・・・その霊基は最早生還を考慮されてはいまい。純度、精度に不純は無かろう。使命を果たした瞬間・・・最早欠片も残りはすまい》
──時たま見せていた物憂げな顔、それは、そういう意味だったのですね。・・・決意と、覚悟。そして・・・避けられぬ別離の・・・
《・・・さて、契約の破棄は最早叶わぬ。ヤツは確実に使命を果たすであろうよ。まずは見守ろうではないか。──ただ一度きりの契約の成就を、な》
──はい。・・・ギル、どちらへ赴かれるのですか?
《なぁに、特等席で眺めると共に結末を見定めるのよ。──奇跡などに興味はないが、我の裁定の所在は未だ下ってはおらぬのだからな》
──はい!最後まで見届け、そして願いましょう!誰もが笑顔で在る、無二の勝利を!
フォウ(ブラックな契約、選択の余地のない書類の推し印・・・当然、道理が通らないよな?ギル?)
ギル《然り。──やりようはある。いくらでもな。だが、全てはマスターを初めとした者共の奮闘ありきよ。さて、どんな結末が運ばれるか・・・見物よな?》
【抑止力・・・だと・・・!?ふざけるな!】
終わりもなく、始まりもなく。ただこの場で完結せしめる空間、無にして穹の狭間。──世界の後押しを受け、人類、世界の存続の為に遣わされし存在との相対を前にした意味。・・・世界に害と認定され、世界に敵対を示された魔王・光秀は血を吐くように慟哭する。それは即ち世界の拒絶。滅ぶべき、消え去るべきと告げる裁定に他ならぬからだ。懸命に、ただ傾倒し為し遂げた成果すら、不要と。無用と断じられた光秀は、呪詛と癇癪を吐き散らし。苦悩を、絶望を吐き出さんとする
【世界も・・・、信長公だけではなく、世界までも私を否定するのか!?】
「──それは違う。まず始めにお前を否定したのは、誰でもない・・・お前自身だ」
マジンさん・・・いや、魔神人・沖田総司は告げる。己を騙し、欺き、そして誰よりもそれを悔やみ絶望していたのは他ならぬ、光秀自身であるのだと。最早この場に、取り繕うものは何もない。つまびらかに、魔神人は心中を手にするように本懐を穿つ
【何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ!!何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故!!何故、誰も私の言葉に耳を傾けない!何故私を・・・私を・・・!!私をおぉおぉおおぉ!!!】
「・・・終わりにしよう。お前の悔恨、お前の慟哭、お前の絶望。私が、共に持っていく。──せめて、次なる出逢いが善きものであるように」
大刀・・・『煉獄』と名付けられるであろう無銘の兵装を抜き放ち、真っ直ぐに相対する。背中に、最愛にして今生に巡り会えた・・・最高の
「リッカ。──私は、リッカと出逢えて本当に良かった。知らないこと、知りたいこと、世界のこと、これからの希望を、明日を、名前を。たくさん・・・たくさん私にくれた」
【マジンさん・・・?】
「──この生命は、使命を果たすために・・・ううん。違う。私は・・・私は、そうだ」
やっと、この場にて。──何も繋がらぬ果てにて、漸く伝えられる。彼女が手にした、生きた意味
「私は──リッカ。貴女に出逢うために、産まれてきたのだと・・・心から、信じられる。だから・・・ありがとう」
【・・・もう、水臭いよ!ずっとずっと一緒なんだから!そんな、終わっちゃうような事言わないの!】
・・・リッカの人類悪としての力は、対話にこそある。故にこそ、気付いている。確信がある。彼女は先程『完全勝利』と告げた。・・・敢えて、無欠を無くしたその意味は・・・
「──うん。ずっと一緒だ。最期まで・・・最期まで、ずっと」
自分は独りではない。自分は孤独ではない。その事実の、その在り方のなんと暖かいことか。だからこそ、最早迷いなどする必要はない。世界にたった一度託されたこの生命。世界のために・・・そして、その世界に生きる
「──行くぞ、キャスター。いや、仮初めの偽神よ。その全てを、此処にて断ち切らん」
万感の想いを込めて──神へと、歩き出す。ただ一歩一歩。ゆっくりと、今までの道行きを振り返るかのように、踏みしめるかのように
【何故だ───何故だぁあぁあぁあぁ!!!】
狂乱に陥った光秀、第六天魔王の乱心による攻撃が打ち振るわれる。不定形なる魔力の奔流、一撃一撃が、サーヴァントを容易く砕く一撃だ。だが・・・
「──塵刹を穿つ」
歩き、剣を振るう。ただそれだけの所作にて、その全てが討ち果たされ打ち落とされる。彼女の使命を、彼女の歩みを、彼女の決意を阻むことは出来ないと、世界が告げているかのように
───────
『じゃあ、マジンさん!私の知ってる魔神セイバーにそっくりだから!』
『マジン、さん・・・・・・よし、おぼえた、ぞ』
───────
【何故だ、何故誰も私の言葉に耳を傾けない!?何故、私の示した天下を共に見ようとしない!?】
更に振りかかる莫大なる魔力。その全てを意に介さず、静かに魔神人は刃を構える
「無辺の光を以て、天命を断ち──」
───────
『あめんぼ、あかいな、あいうえお!』
『あ、あめんぼ、あかいな、あいうえお』
───────
【何故、何故です!!何故、私ではなくあやつに微笑みかけるのです!!】
抜き放たれた魔神人の剣閃に余さず切り刻まれながらも、彼は問い掛ける事を止めない。何故だと。私は貴方のためだけに生きてきたというのにと、慟哭の告解が止むことは無い
「───無量、無碍、無辺、三光束ねて無穹と成す」
───────
『私には、負けられない理由がある。行くぞ、ニーハオランサー』
『名前をくれた、共に戦ってくれた。信じてくれる。世界で一番、リッカが大好きだぞ』
『今の私は、守護者でも宗次郎でもない。──藤丸龍華の刃だ』
───────
「無穹の狭間に、墜ちるがいい。その業、一切の苦難を断ち切らん。・・・行くぞ、仮初めの哀しき魔王よ。この刃を以て・・・この戦いに幕を退く」
───────
『頑張れ!マジンさん!』
『アーマータイム!いっけぇえぇえ!!』
『私は、マジンさんを信じてる!』
────────
胸に去来する想い。短いながらも、魂に刻まれた最高の想い出。消え去ろうと忘れない、煌めく宝石のような記憶
「────終わりだ!魔なる神よ!!『絶劔』───!!!」
全てを燃やし、全てを束ね、全てを重ね、一直線に穿ち貫く。──胸に残った寂しさも、胸に懐いた惜哀も注ぎ込み、自らの全身全霊を込め、気迫と気合い、覇気を込め空間を揺るがす怒声を、ただ一度のみ張り上げる
それは、あらゆる超常たる存在、はたまた存在しておらぬ外の世界の者すら世界より弾き飛ばす無穹一撃。リッカの雷位を目の当たりした瞬間より、刃へと宿らせし抑止の理。この世界の守護の証にて、その霊基が。あり得ざる沖田総司がたどり着いた、至高にして無二、此処にただ一度きり振るわれる世界を守護する一刀
その名は───
──────
『何を思いだそうが、何を為すべきであろうが。何も変わらない事がある』
『・・・それは?』
『・・・私は、リッカのサーヴァント。リッカのナンバーワンサーヴァント見習い───』
──────
「【無穹三段】────!!!!!」
・・・──大刀より放たれる、神すらも呑み込み消滅、退去せしめる究極の一撃。白く広がる空間に、一筋の黒が駆け抜けていく
防ぐことも、かわすことも叶わない。この攻撃は在るべきでないものを抹消し、そして有り得ざるものを消し去る。それ故に──無であり、何処までも広がりゆく穹である。神ですら、この刃からは逃れ得ない。だからこそ──黒き奔流に包み込まれながら、末期の瞬間を迎えながら。心酔し、すがり、やがて狂い果てた男の、偽らざる独白が空間に響き渡る
【・・・そんな馬鹿な。私は、なんの為にこれまで。】
「───・・・」
【あの時、あなたを討ち・・・あやつに敗れ・・・信長公・・・教えてください、信長公・・・】
「・・・・・・リッカ。最後の一押しを頼む。・・・せめて、自らが望んだものくらいは」
【・・・うん】
消え去る最中、消え行く最中、譫言のように呟き続ける光秀に、リッカは手向けを与える。彼が望み、彼が欲しているもの。彼が気づいていないものを
【私は、ただひたすらに信長公の為に・・・汚れた聖杯を呑み、幾年月を重ね・・・信長公をお救いせんと・・・私は、私とあやつ・・・一体何が・・・】
【違う。あなたは、誰より上になりたいわけでも、天下をとりたい訳でも、・・・ノッブが憎いわけでもない。ただ──】
・・・愛した者を手にかけた者が、すがるもの。取り戻せずとも求めてしまうもの。リッカはそれを──告げる
【あなたは、ノッブに。許してもらいたかったんだよ】
「・・・・・・許し?」
そう。魔王でもなく、神でもなく。ただ、信じた者に。忠を尽くし、付いていくと誓ったあなたに。──そんなあなたを、討ってしまった自分に。ただ・・・許してもらいたかった。また、共に天下を・・・否。他愛のない時間を過ごしたかった
「そんなものが欲しかったのか、私は・・・?信長公を殺めた、この私がか・・・?」
「・・・起きたことは変えられなくても、未来は変えられる筈だ。魔王の名は此処に捨てていけ。今度こそ・・・望んだものを手放すな」
「・・・・・・私は。私は───」
最早、魔王でもなく、神でもなく。ただひたすらに、許しを・・・再びの再会を祈った何者かは。最後の最期で、答えを得たかのように笑みを浮かべ。安らかに消え去っていった。──かつて、信長をみつめていた、天下を見据えていたような、穏やかな表情に立ち返りながら
【・・・終わった、ね】
「あぁ・・・終わった、リッカ。・・・最期まで、あなたを護りきる事が出来た」
──天命は、此処に果たされた。契約は切れ、かつての少女は全てを世界に擲った
【──ぁ・・・あ・・・!】
魔神人の身体が消え去り、希薄となる。──此処に、終わりの時が来た──
マジンさん「リッカには、感謝してもしたりない。契約を果たし、世界の奴隷となり。ただ虚無へと帰るだけだった私に、『誰かの為に戦える』という素晴らしさを教えてくれた。・・・うん、うん。こんなにも、こんなにも・・・あったかい気持ちを教えてくれたあなたに出逢えて、本当に良かった・・・」
リッカ【──っ、・・・っ・・・!】
マジンさん「・・・お別れだ、リッカ。契約は果たされた。世界を救う、ただ一度きりの為に、私は世界と契約したのだから。──一度きりの、抑止の守護者となる為に。でも・・・」
【・・・うん、うんっ・・・】
「・・・私には、本当に沢山の宝物が出来た。龍馬はいつも飄々としていたな。お竜は、いつもカエルを食べていた。イゾーはキャンキャンと吠えてばかりで心配だ。おぼろ丸は真面目で、とってもストイックだ。茶々はやかましいけれど、料理はとても上手だった」
【・・・・・・マジンさん・・・・・・】
「土方は怖い見た目だが、優しい人だとちゃんと解って・・・解って、る。沖田は、自分の半身だと言われても、・・・っ。言われても、じっかんが、わかない。・・・リッカ、リッカの事は・・・、っ。・・・っ・・・」
【・・・~~~・・・ッ・・・ぐすっ、えぐっ・・・】
「いつも、いつも、一生懸命で・・・っ、へっぽこだった私にも、やさ、優しく、して・・・くれて・・・一緒に、たたかって・・・しゅわって・・・なって、たまに、きえたりし、て・・・私の、大切な、たい・・・せつな・・・」
【・・・・・・~~~!!】
「たいせつな、マスター・・・で・・・世界で、いちばん・・・いちばん・・・、・・・~~・・・いやだ、いやだ・・・嫌だ・・・!!」
【───うわぁあぁん!!やだ!やだぁっ!消えちゃやだ!逝っちゃやだぁあっ!!】
「~~~~~私だって嫌だっ!!リッカと離れたくない!もっと一緒にいたい!ずっとずっと、リッカを守りたい!!一緒に生きたい・・・!!消えたくない!死にたくなんかない!嫌だ、嫌だ・・・!!こんな別れなんて、嫌だ・・・!!」
抱き合い、涙を流す少女達。痛みでは屈しない。苦難など踏み越えるまで。──されど、龍の少女には、ただ一つ。『別離』という・・・心の奥に眠りし傷が、逆鱗が在ったのだ。・・・かつて、自分を導いてくれた者と、末期を看取ることすら出来なかった悔恨が
「──でも、でも・・・リッカ。聴いてくれ・・・私は、リッカに出逢えた事を微塵も後悔していない。・・・辛くて、苦しくて、胸が張り裂けてしまいそうなくらい寂しいけれど・・・」
【えぐっ、ぐすっ・・・ひっく、ひっく・・・えぐっ・・・】
「・・・──こんなに生命を惜しまれて。こんなに別れを惜しんでもらえて。消えるときには、独りじゃない。そんな終わりを、リッカから貰えたから・・・だから・・・私は・・・生きていて、本当に良かった。──リッカに会えて、本当に・・・」
【終わりだなんて言わないで!!私は、もう嫌なの!大切な誰かに置いていかれるのは嫌なのッ!!】
「・・・──私を、大切だと。そう言ってくれるのか。リッカ・・・。・・・──」
そっと、リッカに手をかざす。最後の最期、手向けに、最後の触れ合いに・・・
「・・・顔に、触れさせてほしい。・・・そう、それでいい・・・」
【ぁ・・・──】
「・・・・・・ああ。流れてくる。・・・これが楽園の、マスターの大切な人たちの記憶。リッカが護り抜くと、誓った宝物・・・」
カルデアにて垣間見た、少女の姿。思い至る。それは、消え去る前の彼女の・・・
「・・・・・・リッカ。・・・産まれてきてくれて、ありがとう」
【!!!】
その中で。彼女が大切に懐く言葉にて、最後の別れを告げる。──せめて、彼女に残せるものが、あるように
「──私は、リッカと、リッカの生きるこの世界の総てが大好きだ。だから・・・どうか。これからも、善き旅路を・・・」
【・・・それっ、ずるい・・・ずるいよっ・・・】
「──ありがとう。可愛くて、素敵な女の子のリッカ。どうか貴女の旅路に、有らん限りの祝福がありますように・・・──」
──無穹の空が、全てを呑み込んでいく。消え去るマジンさん、在るべき場所へと還る、リッカ
【──!!──!!!】
最早声も遥か遠く。届かぬ場所へと向かうリッカを、泣き晴らした笑顔で見送る、消滅間近のマジンさん
「・・・ありがとう。──ありがとう・・・」
最後まで、御礼と笑顔を浮かべることが出来た生に、感謝を込めて。塵すらも消え去るその瞬間まで、マジンさんとして、彼女は微笑み、見送り続け・・・
「───いや、それはない。よもやそんな涙と鼻水にまみれた結末で我が叙事詩を汚すつもりではあるまいな」
「──!?」
消え去るばかりであった、役目を果たした抑止の守護者に降り注ぎしは──
──完全なる勝者が消え去るなど、筋が通りません。例え世界の総てが貴女を認めずとも・・・──王の裁定は世界の総てに先んじます!
「然り!!貴様を世界が破棄し捨て去るというのならば──その身柄!我が貰い受けよう!!」
「──あなたは、・・・まさか──」
その言葉を最後まで紡ぐ事なく、空白の空間を黄金の輝きと、柔らかな白金の光が包み込む。その輝きの中に、マジンさんは呑み込まれ──