人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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オルガマリー「実感が籠っていましたね、狂人の演技」

モリアーティ「そりゃぁ見てきたとも。あれくらいの人間なんて軽く千は量産してきたのが私だしね。しかしダンテス君は優しいネー・・・子供一人くらい・・・あぁいや、マスターの影響かナ。みっともない悪は容認したくない。悪は吐き気を催すのではなく、思わず喝采したくなるような清々しいものであってほしいネ」

オルガマリー「えぇ、貴方や、アヴェンジャーのように」

「ははは、ありがとうマイガール。・・・しかし、劇とはいえ息子で良かったヨ」

「?」

「娘だったら殺していたからネ、ダンテス君を」

「・・・芝居ですよ?」

「オルガマリー君殺されたらなんて仮定、芝居でもしたくないものだネー・・・うっかり脚本家を消してしまいそうだよネ!」

「・・・・・・真顔で変な事言わないでください」

「照れてる?」

「照れてません!」

アイリーン『ふふっ、嘘つきね。マリー?』


セミラミス「我にこのような粗末な役を担わせたなマスター!許さぬ!

リッカ「アイエェエ、首締めはお許しをぉ」

天草「ははは、楽しんでいたので問題ありませんよ。ね?」

「別問題だ!反省せよ!全く、次は毒の監修に我を呼べ!よいな!」

「ひゃい」

(ふふっ、次、ですね)


昼 劇演目──モンテ・クリスト伯 エデ──

復讐を終え、全てに決着を付けたモンテ・クリスト。・・・いえ、彼は最早、自分の存在になど頓着しておりません。否、復讐の為に生きてきた彼は、復讐を終えた瞬間に誰でもない、何者でもない存在に成り果てていたのです。皮肉にも、復讐という焔が魂を、彼の生を燃やしていたのは疑いようもない事実でありました。・・・しかし、その復讐は決して彼の味方ではなく。焔が燃やす相手を選ぶ筈もなく。エドモンもまた、焼き尽くす焔であったのです。

 

【財も、名誉も、栄光も。何も得られず、何も無く。・・・手にした旅路の報酬の、なんと空しき事か】

 

モンテ・クリスト・・・エドモン・ダンテスの心に吹き抜けるは空しきもの。復讐すべき相手の破滅。・・・彼の胸に、喜びはありませんでした。最早、その資格は自らには無いと痛烈に、己を悔いているが故に。胸に去来せしは、失意の風のみでした。

 

彼は財も、何もかもに手をつけずに旅立つことを決めました。それは、あてもなく行く先もない旅路。ただたださ迷い、死に果てるもの。自らの全てを成し遂げたものとしての旅としてはあまりにも寂しく、そして空しい最後の巡礼。それこそが、自分の最後の行き着く先だと。獣は飢え死ぬのが最後の運命であると自らに定めて。・・・誰にも、行き先を告げぬ旅でした

 

【本当にいいのだな。最早何の希望も無いと?】

 

(あぁ。・・・復讐に生きたものの最期はこんなものなんだろう。・・・きっと、復讐は何も生まないと、皆知っていたんだ。神の啓示も、僕らが都合よく解釈した妄想だったのかもしれない)

 

【・・・】

 

(・・・僕は知らなかった。世界は、残酷で悪意に満ちていると。僕が信じ、目を輝かせていたものは・・・妄想に過ぎなかったんだ)

 

失意の底にて、希望すらも見失った彼は今度こそ、誰の目より消え去らんと歩き出しました。モンテ・クリストの生涯が幕を下ろさんとした、その時。──彼に、最後に残されたものがやって来たのです。

 

「ダンテス・・・!いえ、エドモン!」

 

【!】

 

彼の消失を阻んだもの、そして、彼を思いやりしもの。それは、エデ。かつてのダンテスが、救いしさる国の姫が彼を呼び止めたのです。彼の孤独に気付く事が出来たのです

 

「何処へ、一体どちらへ赴かれるのです?誰にも、何者にも行方を告げぬままに・・・」

 

【・・・私の復讐は終わった。私の全ては復讐に費やしたもの。燃やし尽くした後の灰がこの身だ。ならば最早、生きる理由は何処にもない。私には最早、何も残ってはいない】

 

それは彼の本心でした。燃え盛る復讐の炎は彼から、彼である全てを焼きつくし奪い去ったのです。彼は優しき笑みも、誰かを思いやることも喪ったと自嘲します。モンテ・クリストは、子を殺した瞬間に虎では無くなったのだと

 

【エデ、財産の受取人はお前にしている。喪われた時間、奪われた時を裕福に過ごせ。お前は最早、自由なる身だ】

 

「──いいえ、いいえ。私の奪われた時間はもう、取り戻しております。あなたが、全てを喪った私を取り戻してくださいました。貴方は私に、愛と希望を渡してくださったのです。貴方は、全てを喪ってなどおりません。此処に、此処にあるのです。あなたが優しき人である証は、確かに此処にあるのです」

 

【・・・何・・・?】

 

「愛しています。私は貴方を愛しているのです。財ではなく、名誉や栄誉ではない。あなたという人間を、私は愛しております。エドモン。あなたが救ってくださった私は、貴方を心から愛しています!」

 

モンテ・クリストは目を見開きました。彼は復讐に生き、全てを捧げ、それのみを見据え生きてきたと信じて疑わなかった。その道に、愛や夢などといった感情など生まれる筈はないと。尊きファリア神父は最早おらず、待ち受けるものは苛烈で凄絶なる怨唆の螺旋であると。それを覚悟して進んできた暗き道筋でありました。

 

(・・・愛している、だって・・・?こんな、僕を。どうして・・・)

 

【・・・思い出せ。復讐に耽る前、我等は何を成し遂げた?最早吼える必要も、焔に薪をくべる必要もない。今のお前ならば理解に至る筈だ。エドモン・ダンテス】

 

苛烈なるモンテ・クリストの前。エドモン・ダンテスとして、彼が最初に決断した選択。それは『恩に報いる』事でした。モレル商会を救い、父の屋敷を買い取り、そして奴隷であったエデを救ったエドモン。其処にあったのは、人が人を助け、また信じ合うといった想いに、自らを信じてくれた者達に報いたいという純粋な想いでした。そして──彼が積み重ねてきた因果は、此処に応報を、奇跡を招いたのです。──愛という、尊き感情が、エドモン・ダンテスという情深き男に与えられた報酬に他ならなかったのです。

 

「私を傍に置いてください。貴方の新しき人生を、傍らにて支えたいのです。私は貴方を愛しています。裏切られ、傷付いた貴方を、少しでも癒したい。私は、私自身の想いで貴方に報いたいのです。エドモン・・・」

 

【・・・】

 

そして、彼は再び決断を迫られました。復讐のモンテ・クリストとして生きるのか、それとも。尊きエデと共に、エドモン・ダンテスとしての生を選ぶのか。どちらも、自らの大切な姿にして己の生きざま。片方を選ぶなど出来る筈もないほどに一心同体であったもの。彼は──

 

【──往くがいい。お前が手にした只一つのもの。エデと共に、何処へなりとも消え失せろ】

 

モンテ・クリストは、自らの役割の終焉を告げました。復讐に生きた虎のごとき男は、その旅路には不要なものだと。エドモン・ダンテスの生を選んだのです。

 

(何を言うんだ、モンテ・クリスト!君は僕だ、復讐をずっと思い続けた僕だ!切り離す事など出来はしない!)

 

【黙れ、エドモン・ダンテス!我等の復讐は成らなかった、貴様も俺も、三人の男を手にかけはしなかった!これより先も俺を求むるならばそうはいかん!お前は血に染めた手で愛しきエデを抱くのか!】

 

(・・・それは・・・)

 

【我等は知っている筈だ。変わらぬ愛など無いと。愚かなる人は生涯の愛を貫けぬと!愛など矮小なものだと!──だからこそ、お前は護るのだエドモン・ダンテス!奪われるな、今度こそ手放すな!復讐のクリストではなく、一人の男として足掻き続けろ!矮小だからこそ──人は愛を尊び、護りたいと願うのだから!】

 

(モンテ・クリスト・・・いや、僕よ。それでは君は、復讐を成せない君は、永遠に・・・)

 

【慈悲など要らぬ!往くがいい、その傍らの少女を連れて!我が身、勝利を知らぬまま世界に怒り、燃え続けよう!我の牙にかからぬよう、懸命に生きる事だ!あらゆる理不尽、あらゆる不義に我は来る!恩讐の彼方より、必ず──!!】

 

(──復讐者よ!)

 

【待つがいい!そして希望せよ!如何なる窮地にも、如何なる地獄にも、尊きものはあるのだと──!!】

 

・・・こうして、モンテ・クリストはエデによりエドモン・ダンテスへと引き戻されました。復讐者ではなく、人を愛する当たり前の人間として・・・

 

「・・・エドモン?」

 

「・・・ありがとう。エデ。喪われた時間は戻らない。けれど、新たに紡ぐ事は出来るはずだ。愛を、忘れぬ限り」

 

「・・・はい。何処までも、お傍にいさせてください。貴方の心が、癒えるその日まで・・・」

 

「ありがとう。・・・行こう。僕たちの、新しい未来に──」

 

・・・こうして、彼は最愛の人と共に旅立ちました。彼等の旅路の門出を最後に、この物語の結びと致します。

 

そして、劇を御静聴いただいた皆様。かのモンテ・クリストの希望への願いを、どうか御受け取りいただき、帰路へとつくことを御願い致します──

 

 




復讐者【この世には幸福もあり不幸も存在し、艱難辛苦もこの世の春も確かに介在している。そしてそれは、一つの状態と他の状態との比較にすぎないということに他ならない】

少年「・・・」

少女「・・・」

【大きな不幸、地獄を経験した者のみ、人を繋げる愛、幸福を感じることが叶う。今を生き、我が生きざまを垣間見た者達よ。生きることのいかに楽しいかを知るためには、一度死を思ってみることが必要なのだ】

大人達「「「「・・・」」」」

【・・・敬虔に生きる者達よ。力を合わせ生きる者達よ。・・・幸福に暮らすがいい。騙し、欺き、謀るような事などないように。貶める事などないように】

ラヴィニア「・・・・」

【そして主が、人間に将来のことまでわかるようにするであろうその日まで、人間の慧智はすべて次の言葉に尽きることを忘れるな。──生を謳歌する権利は、誰にでも赦されている】

リッカ「アヴェンジャー・・・」

【待て、しかして希望せよ!・・・──俺はいつでも、お前達人間の傍らに在る者だ──】

アビゲイル「・・・欺き、謀るような事などないように・・・待て、しかして、希望せよ・・・」

ラヴィニア「・・・泣いているの?」

「・・・えぇ。人を救うのは、痛みではなくて・・・誰かを思いやる、愛と、希望なんだわ。ラヴィ・・・」

カーター「・・・・・・そうだ。よく気付いてくれたね、アビゲイル・・・」

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