人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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コロンビア博覧会

バニヤン「ここが・・・」

カドック『マタ・ハリが経営していた魔術クラブに潜入して情報を集めたのと、リッカが手に入れた情報を照らし合わせた。間違いない、そこにいるのが元凶だ』

マシュ『誰、なんでしょうか・・・』

リッカ「誰でもいいよ。まずは話を聞かなくちゃ」

バニヤン「見て、リッカさん。たくさんの建物。凝った作り。大工さんや左官さん、庭師の人達が頑張ってる」

リッカ「──バニヤンは、建物が好き?」

バニヤン「うん。壊すのも好きだけど、それは義務だから。何かを作るのはとっても楽しい。人が作ったものを見るのも大好きだよ」

リッカ「──そっか。じゃあバニヤン、忘れないで」

バニヤン「?」

「ジャックも、ナーサリーも、私も、皆も。そんなバニヤンが大好きなんだってこと。たくさんの色んな世界には、バニヤンが好きな人がいっぱいいるんだってこと!」

ジャック「うん。バニヤンは友達だよ。大切な、大事な」

ナーサリー「物語を本物か偽物かを決めるのは、原典や出展じゃないわ。それを書く人と、それを受け取った人達の心。だからバニヤンが好きな人達が、バニヤンを本物にするの!」

バニヤン「・・・みんな・・・」

リッカ「行こう、バニヤン!あなたの存在を護るために!」

「うんっ──!」




虚構と現実とプレイスタイル

「ここが・・・」

 

コロンビア万博会場、日本館。中心に何故か位置されていた日本コーナーに脚を踏み入れたリッカ達が見上げる其処は、この特異点の終着と終わりの場所であることを感じさせる。もうこの場所の他に繋がる場所は何処にもない。

 

『これは・・・城?いいえ、砦ですかね?それにしても、なんだかハリボテ感が漂ってると言いますか・・・』

 

『わびさび、が足りないのでは無いかしら』

 

無節操に突き刺さった剣、『ガチャは悪い文明』という旗が立てられた廃棄された砦。最終決戦の場としては寂れているその地。本当に此処が特異点発生の原因なのか、──そう、一同が考慮した瞬間だった。

 

『──迷走に迷走を繰り返し、妄言をひたすらに積み重ねてきた物語。無意味な脱線と引き延ばしを垣間見たあなたたちの終着駅は、今ここ。そう・・・あなた達の快進撃は此処までです』

 

リッカ・・・とは似ているようで似ていない声。それでいて何処か諦めと怒りを感じさせる抑揚の声が日本館に響き渡った。一同は誰か、何事かと辺りを見渡す。──だが、リッカには解ってしまう。その言葉の源泉が、比類なき悪意であるものだと理解できるがゆえに

 

「姿、見せなよ」

 

『動じもしないか。その鋭く確立したリッカというキャラクター・・・ソシャゲ主人公のアバターとして君は落第点だと言っておこうかな?』

 

現れたのは──オレンジ色の髪、狂気を孕んだ濁った橙の瞳。破けた衣服・・・雰囲気こそ異なっているが、パーツの一致は否定しようもない。しかし二頭身のその意味不明な存在は語りだす。

 

『私の名は◼️◼️◼️◼️。無数に広がる平行世界、楽園カルデアとは違うカルデアから来たマスター』

 

「おかあさん・・・おかあさんだよね!?」

 

『そう。すり抜けで現れたジャック、ナーサリーを衝動のまま放逐し、低レアをノータイムで駆逐、放棄したのも私です。すべて、ガチャで引き当てまた敗北したと言えば解りやすいかな。これは全プレイヤーの業だしね』

 

あっさりと容疑を認めし名もなきマスター。ジャック達のマスターでありながら、癇癪めいて存在を放逐したと。そして──

 

「あなたでしょ。バニヤンを『造った』のは」

 

「・・・──えっ?」

 

リッカは目を細め、告げる。バニヤンの生い立ち、伝承、都市伝説。それを鑑みればわかること。新宿の数々の存在、そしてアイリーンと同じ──

 

『そう。バニヤンはサーヴァントではない。召喚などされるはずが無い。ただの、移ろい行く北米開拓民達のジョーク。都市伝説でしかない。それを三文新聞が書き立てたおぼろげな影。伝説もなく、存在を信じる者もない。それをうどん生地の塊に憑依させ、私が形を与えた』

 

『はっ?うどん生地?は?え!?』

 

『・・・幻霊としての線は失念していたわ。疑似サーヴァントとしての可能性しか考えていなかった。まさか、サーヴァントに迫る存在をうどん粉で・・・』

 

意味不明の理論と結果に、流石のオルガマリーも度肝を抜かれ唸らされた。バニヤンの構成素子はうどん粉の塊だという。FGOの拡大解釈、此処に極まれりである。ちなみにシオンの並列された思考の一部がエラーを起こしたのは言うまでもない。

 

「一応聞いておくね。──何でそんな事を?」

 

リッカの問いに、名もなきマスターは逆に問いを投げ掛けた。根底に、ある意味根源とも言える疑問をだ。

 

『──ソーシャルゲーム、ひいては課金。そして生まれたFGO。これらの全部は・・・どうしようもなく醜い』

 

「・・・」

 

『始まりは平等である、無課金でできると謳いながらも課金を煽り、ガチャを引かせ、そして一喜一憂させ金を回収する。そして搾取される奴隷(プレイヤー)達はインスタグラムで自慢気に己に課せられた課金額と、ガチャで引き当てたキャラを自慢する。さながら首輪と鎖を自慢する奴隷のように。──私は外食の際に気付いたんだ。ファミレスで贅沢して食べた会計が、FGO最小課金単位の3000円と同じだった瞬間に悟った。『美味しいものを食べた3000円』と『爆死しゴミへと変わった3000円』の価値が同じという狂気に。ソーシャルゲームという、規制されない麻薬の存在に』

 

ソーシャルゲームは最早ゲームではない。どれだけ課金できたか、どれだけ強いキャラクターを持っているか。それを不特定多数の誰かにひけらかす装飾品でしかないのだ。その考えに思い至ったのは、ファミレス帰りのTwitterにて溢れたガチャ勝利ツイートと、それを大量いいねする者達。そして爆死したユーザーに勝利スクショを送り付ける者達を見た瞬間だという。

 

『ソーシャルゲームという存在、そして値段に不相応な結果を押し付けるガチャという存在に私は嫌気が差した。それを作る運営も、そんなものをありがたがるユーザーも。それを私は変えたいと願い──神を創ろうと考えた。全てに平等な神を』

 

『・・・──そういう事か、解ったぞ!バニヤンの伝説には、人類の開拓の概念が産み出した創造神の伝説も含まれている!神となる、人造神となる存在を作る過程で、バニヤンを造ったんだ!』

 

『ロマニ・・・。そう、だから私は溜め込んだ聖杯とQPを注ぎ込み、平行世界のカルデアを束にしても匹敵しない大量のリソースが眠るあなたたちのカルデアを襲撃した。ロマンに跳ね返されはしたけれど。──悪いことは重なるもので、出来上がったのは誰にも見向きもされない星1のモノだった。こんなモノでは、全世界からソーシャルゲームの因果を消せなど──』

 

「自分の失敗を棚に上げて、バニヤンをモノって呼ぶな」

 

リッカの言葉は静かで、穏やかだった。──見る者が見れば、戦慄するほどの無表情と共に放たれる言葉は、淡泊にして無機質である。

 

『モノはモノだよ!星1!フレポで出てくるアレ!そんなものに価値なんてない、あるのは自分の好きな、大切な推しサーヴァントだけ!』

 

「価値のないサーヴァントなんていない。いるのは価値を見出だせないマスターだけだよ」

 

『いいや、サーヴァントに価値なんて無い。もっと言えば善良にして善のマスターなんていない。藤丸立香という存在などプレイヤーの自己投影のアバターでしかない。ライター毎に二転三転する性格、周回でアーラシュとかいうのを爆散させ知らん顔、極め付きは陳宮とかいうヤツにフレンドのサーヴァントを自爆させ面白がる人類悪!サポート編成を90レベルサーヴァントで埋め、カレスコを山のように持ち、イベント礼装を持たなければ人権が無いと初心者の助けを無視する歪みきったFGO、ソーシャルゲームの界隈を私は終わらせたいんだ!』

 

堰を切った様に吐き出される恨み辛みを静かに聞き入れるリッカ。次元が異なる恨み節、他の者らには理解が及ばない言葉に、リッカは言霊に込められた想いを読み取り言い返す。

 

「──それ、全部あなたがされた事なんでしょ?」

 

『────』

 

「自分が堪えられないから、自分が嫌だから。だから他の人の事も考えずに『やられて嫌な事をやり返す』。──プレイスタイルは人それぞれだよ。あなたが無価値と言ったものの全部に、『好き』だと思っている人は必ずいる。あなたがゴミ扱いしたマタ・ハリも、バニヤンも。大好きな人は必ずいるってどうして考えられないの?」

 

『尊重などは嘘っぱちの概念だ。皆違って皆いいなんて綺麗事だ!ニーズのないものに存在価値はない!団体の、全ての価値を認めようと増長し思い上がる輩は必ず現れる!私が欲しいのは誰にもマウントを取られない唯一無二のサーヴァント、そして概念!百歩譲ってアストルフォきゅん!だからバニヤンなんてハズレには、さっさと消えてほしかったのにここまで連れてくるとか──』

 

それ以上・・・リッカは、そして楽園の皆は語る言葉を持たなかった。

 

【──尊重を、嘘っぱち。今、そう言ったね】

 

『え?』

 

リッカの影より現れた鎧が、装着される。魔力が吹き出し、全身に刻まれた真紅の紋様が禍々しく輝く。

 

【──私は綺麗事が大好きで、尊重っていう言葉が大好きなの。・・・私の好きを踏みにじったあなたを──生かして帰しはしないから】

 

・・・その概念で、自分達を導いてくれた人を知っているから。

 

『は?え?同じ人類を救ったマスターだよ?それにあなた藤丸でしょ?自分の手を汚すとか──』

 

綺麗事を、鮮やかに叶えてくれた奇跡を知っているから。

 

【誰かが決めた私になんて興味無い。私が信じるのは、皆が創ってくれた私だけ。──リンボと同じくらいに頭来た。私は、私の好きを護る為にあなたを潰す──!】

 

それを踏みにじる奴を、赦しはしない。心から譲れない想いを汚そうとする異世界の存在に、リッカは己の信念の牙を剥く──!

 




名もなきマスター『酷いイキり具合だ。いい加減気付くべきだ。藤丸立香なんて都合のいいアバター。サーヴァントとイチャイチャできる投影先。個性もキャラクター姓も誰も望んでいない。乳上、穀潰しなどとサーヴァントに罵倒を浴びせてきた癖に鯖太郎呼ばわりが許せないのはそういうこと。藤丸立香にキミなんていらないんだよ』

リッカ【どれだけ否定されようが、私が受け入れられなかろうが知った事じゃない!私は私として此処にいる、バニヤンやマタ・ハリが大好きなマスターだって必ず何処かにいる!そんな人達を、私の大好きを!否定したあなたを、私は絶対に赦さない!!】

『サーヴァントは自尊心を満たすためにある!プレイヤーの玩具だ!』

【サーヴァントの皆がいてくれたから、今の私がいる!!サーヴァントは未来を切り拓く力!人類の奇跡だッ!!】

『いいだろう!元から違法サーヴァント製造を知った君達を逃がすつもりはない!どちらのカルデアが、どちらのプレイスタイルが優れているか!勝負と行こうじゃないか!!』

負けられない戦いが此処にある。サーヴァントの、藤丸立香の尊厳を懸けた戦いに、今度はリッカとカルデアが挑む──!

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