人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「ウラネキー!!(ひしっ)」
温羅「おおっ・・・。泣いてくれるか、リッカ。アタシの為に」
リッカ「だって、だってウラネキ、そんな世界で、私達人間を想ってくれて、私達の為に怒ってくれて・・・!母上に怒られたっていい!ウラネキ!大好き!!」
イヌヌワン『鼻と口から・・・エーテルが・・・逆流する・・・!!イヌヌワァアァアァン!!』
フワイサム(哀しみのどらみんぐ)
アンク『道理で強い訳よ・・・鬼の力なんてほんの一部。日本に伝わる全ての妖怪の超絶集合体の鬼神だなんて・・・むしろ、私達だけで勝てた事が奇跡だったのね・・・』
モモ「・・・・・・。やっぱり」
「よしよし・・・ん?」
「温羅は・・・いい鬼、だった」
「ばぁか。いい鬼は泣いた赤鬼と青鬼だけだって」
リッカ「ウラネキぃい・・・」
「よしよし・・・。ちゃんと続きはあるからな。アタシは今でも人間が好きだ。──そうさせてくれたのも、人間だからな──」
(な、そうだろう?花代・・・)
アンク(・・・その長老は、自身の歴史が剪定される事を知っていた・・・?その為に、温羅を世界と引き換えに世界を穿つ楔にしたという事・・・?)
「・・・そんな世界の仕組みを、一体どうやって・・・?」
──アタシが迷い込み、治療を受けたその地の風景は今でも思い出せる。暖かな風が吹き、緑と綺麗な河のせせらぎが響く。花が咲き、青空の遠くでつがいの鳥が飛んでたっけ。そんで、桃色の桜と、これまた桃の木々がたくさん生えた綺麗な場所だった。そこには少ないが、人間が寄り添って暮らしている村落があり、静かでのどかな場所・・・。アタシが一度も見たことのない、感じたことのない平穏ってヤツが充ちてたって訳だ。そこで、アタシは一家族に拾われ手厚い看護を受け、一命をとりとめた。・・・まぁ、殺したくらいじゃ死なないんだけどな、アタシ。
「大丈夫?痛くない?もうお腹すいてない?おにぎり、あるよ?」
「花代?お姉さんはようやく起き上がれたくらいに疲れてるの、迷惑にならないようになさい」
そこの家族は、父と、腹が膨らんでいる母、そして黒曜色の目がくりくりとした可愛い一人娘、花代の三人家族でな。貧しいとは言わんが裕福でもない、清貧といった様子の家族だった。その家族は、アタシを見るなり誠心誠意介抱してくれた。薬を作り、包帯を巻き、暖かい布団で寝かせてくれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
「どうした、まだ何処か痛むのか?無理はするな、おなごがこんなに傷付くとはかなりの訳があるのだろう、深くは聞かない。ゆっくり休んでいくといい」
アタシは正直な所、半信半疑というか・・・夢見心地だった。そして頭が回らなかった。目の前にいるのは、人間で間違いない。記憶を読み取り、それは確かに確信になった。だが、その思考と行動が、あの時のアタシには良く分からなかった。
「アタシを助けて、何か得があるのか?何故喰らわなかった?何故、わざわざアタシを生かした?」
「──!」
優しさ、慈悲。そんなものがこの世にある事すら分からなかった。だから本気で、なんでアタシを助けたのかすら分からない。
死んでいれば良かった。誰も悲しまない、帰る場所もない。せめて土の肥料にでもなれば、殺す以外で何かの役に立てたのに。・・・心から不思議に思ったよ。その時はな
「アタシは鬼だぞ?死んで当たり前のヤツを何故殺さない?人間、お前らはなんでアタシを助けた?殺す以外に旨く喰らう方法があるのか?」
「──」
それを聞いて・・・泣きそうになりながら、アタシを抱きしめたのは母さまだった。まるで自分が痛いかのように涙を流し、アタシを強く抱き寄せたんだ。
「なんて、なんて可哀想な子だろう。誰にも優しくされなかったんだね、誰にも慈しんでもらえなかったんだね。あんたは悪くない。あんたは死んでいればいいだなんて言っちゃいけない」
「・・・何の真似だ?殺すならもっと力を込めろ」
「──。傷が癒えるまで・・・いいや、気の済むまでここにいなさい。もう、今のお前さまを放っておく訳にはいかない」
「生きているだけで嬉しいんだよ、生きているだけで素晴らしいんだよ。それを、あんたにも解ってもらいたいんだ。あんたは今から・・・私達の娘だ。その深い傷を、私達に癒させておくれ」
父も、母も。アタシをそっと抱き寄せ泣いた。・・・その行いの尊さを、その優しさの価値を理解できないままにアタシは成すがままだった。
「わぁい!お姉ちゃん!お姉ちゃんはお名前なんていうの?」
「・・・。・・・確か・・・」
「無いの、名前?じゃあ、『うら』!家の裏で倒れてたから、うら!うらねぇちゃん、よろしくね!はい、これ!」
小さい手で、懸命に握っただろうおむすびを、アタシは口にしてな。腹が減ってたのか、心が擦りきれてたのか、或いは塩加減がきつかったのか。
「・・・・・・うまい。・・・あぁ、うまい・・・」
「えへへ、いっぱい食べてね!」
アタシは・・・涙を流しながらそのおむすびを噛みしめてたよ。その味は、今も忘れない。未だに、花代が作ってくれたおむすびより旨いもんは食った事が無いくらいの、優しい味だったんだ。
~
そんな訳で、優しい家族に拾われ療養しているアタシは、花代や両親、そして村落の連中を見て人というものを少しずつ学び、知っていった。・・・驚きの連続だったよ。カルチャーショックってやつ!まさにアレだ!
「牙も無い、爪もない、非力で脆い。・・・大丈夫か?ちゃんと毎日を生きていけてるのか?」
アタシのいた肥溜めに蔓延ってた小鬼よりも脆く儚い生き物。指先で弾いてみれば粉々に吹き飛ぶくらいのやわっこい豆腐みたいな生き物に、アタシは大層心配したもんだ。強さと野蛮さで生きてきた中のアタシから見れば、とてもじゃないが半日も生きていけないくらいに身体がよわっちい連中って印象が強かった。だが・・・
「花代の新しい家族というのはお前さんかい?これ、お近付きの印の桃だよ。これからよろしくね」
「わぁっ!すっげー!角だ!四本も生えてる!かっこいいー!」
「背も高くて、肌も真っ白。綺麗だなぁ、すごいなぁ。ね、だっこして?だっこ!」
「わたしも!」 「ぼくも!」「うらねぇちゃん!腕相撲やろうぜ腕相撲ー!」
「お、おぉ・・・」
いっぱいいる。沢山いる。一人一人はよわっちいが、とにかく沢山いて、一人一人がそれぞれ違う姿に考え方を持っている。そんで懐が深い。アタシを蔑む事も、疎んじる事もなく、仲間として受け入れてくれた。そんな風に誰かと触れ合うのは初めてだから、最初は面食らったが・・・ガキどもの楽しそうな顔と声は、聴いていたらこっちまで笑ってるくらいに弾んでいてよ。アタシはあっという間に子供が好きになっちまった。そんで、アタシは更に知りたい事に挑戦することにした。
「何でもいい、仕事を手伝わせてくれ。人間が何故こんなに沢山生きていられるのか、知りたいんだ」
「はははっ、勉強が好きなんだなうらは。花代、お前もうらを見習いなさい」
「む~・・・本当は私がお姉ちゃんなのに!」
そうして人間の仕事を手伝った日から、アタシは驚かない日は存在しなかった。人間は弱い。一人一人はどうしようもなく脆い。が・・・そんなもんをいくらでも補える『発展』と『進歩』が満ちていた!
「こいつが、これが・・・人間の、力か・・・!」
丁寧に懇切に組み立てられた家を作る建築物。少しでも美味しくなるように工夫に工夫を重ねられた食事。心を揺り動かす芸術品、読むことも書くことも、小さな子供が出来るようになる勉学。そして何より、弱い人間同士が支え合い、懸命に今を生きていくその生き様。弱い、脆い人間が何よりも誰よりも多く増え、生きている事の理由と理屈に、アタシは深く、大層深く感動したもんだ。
「いつもありがとう、うら!」
「息子が毎日あんたの話をするんだよ。あの立派な角、おれも欲しい!なんてねぇ」
「いつも娘と遊んでくれて、ありがとうねぇ。大きくて、優しい。鬼っていうのは、素敵な生き物なんだねぇ・・・」
一人一人が、可能性と想いに満ちた生き物。誰一人同じ者がいなくて、それでも違う誰かを受け入れられる。
「うら。俺達人間はお前さまと違って余りにも弱い、余りにも脆い。儚い生き物だ。それに気付いているから、お前様も驚いているのだろう?」
大工として、村人達の家を直す仕事をする親父様の言葉に、アタシは深く頷く。だが・・・もう、弱いとも、儚いと人間を決めつけはしなかった。
「あぁ、親父さまよ。だが人の強さは、アタシに刻まれた『強さ』とはまるで違う。儚いくせに、弱い癖に、キラキラ輝いてやがる。弱い誰もが懸命に生きる様子が、胸をこんなにも打ちやがる」
「それだよ。弱いからこそ支え合う、儚い命だからこそ、俺達は他者を労り、弱さを分かち合い今を生きていく。人は一人では弱く儚い。だけど、弱いからこそ、儚いからこそ。『人は誰かの弱さを知り、支えてあげたいと思える』。それが、人間の美しさであり、美徳なんだ。──うら」
「、!」
「鬼であることを、疎外や迫害の理由にはしない。自分は違うとは、どうか思わないでくれ。お前さまは花代を、ここを、俺達を良いものと思ってくれた。──人も、鬼も。関係無いんだ。お前さまは、俺達の大事な娘だ」
・・・その親父様の言葉は、人の事を知りたがっていたアタシの心に答えをくれた。そうだ。強さなど、誰かを殺す強さなんぞいくらあろうが何の意味もない。壊す事など、誰にだって出来る。
「──今、解ったよ。爪もない、牙も無い、寿命も短い人間が、親父さまが懸命に働き、生きている理由が」
あの肥溜めには無かった感情、あの場所には無かった、弱さが産み出す本当の強さ、美しさ。そして──尊さ。
「おーい!父さま!うらー!」
「今日も良く頑張ったねぇ!美味しいご飯、沢山用意してるよ!」
「──大切な誰かと過ごす幸せを『護る』。その強さを持っているから、あんたは、人間は生きていけるんだな」
「恥ずかしい話だが、な。人間はな、自分より大切な誰かを護る時、誰よりも強くなれるもんなんだよ──」
・・・その村で過ごした事は、アタシの心に一つの答えをもたらしてくれた。それは数ヶ月経った頃、出産を迎えたお袋に、お袋たってのお願いでお産を手伝った事により、教わったんだ。
「ううっ!ううーっ!!ううーっ!!!」
「頑張れ!頑張れお袋さま!頭が見えた!もう少しだ!」
「わかって、る・・・!うら、みてておくれ・・・!どうしても、あんたに、みせたいんだ・・・!」
「見せたい・・・!?何を・・・!」
・・・やはり、あの肥溜めは滅んで正解だった。あの世界には、生き残るべき理由は何にも無かった。
「──おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあ・・・!!」
「──!お袋!お袋!!産まれた!産まれたぞ!女の子だ、親父様とお袋の子だ!花代の妹だ!!良かった、良かった・・・!よく頑張った!よく、よく・・・頑張った・・・!」
よく・・・頑張った・・・!」
「はぁ、はぁ・・・。・・・ふふっ、うら?その子を、抱いてごらん。今のお前さまなら、解る筈だよ」
「?・・・、・・・」
「おぎゃあ、おぎゃあ!おぎゃあ・・・!」
「それが、人間の生きる総て。短い命を未来に『紡ぐ』事。誰かを愛して・・・命を育む。今のあんたなら・・・解ってくれるだろう?」
「・・・・・・あぁ・・・・・・」
「おぎゃあ、おぎゃっ・・・きゃはっ、きゃははっ・・・!」
腕の中で、泣き止み笑う新しい命のずっしりとした重みを、鬼のアタシに託してくれた。大切な命の誕生に立ち合わせてくれるくらいに、アタシを信じ、愛してくれた。
「・・・ひっく。ぐすっ・・・わかる・・・わかるよ。・・・命は、人間の命は、こんなにも──」
・・・こんなにも、美しく。こんなにも、重く、こんなにも、尊い。
「良かった、良かったよ・・・この世界に満ちる命が、
アタシは、本当に良かったと思えた。腕の中で笑う命を抱え、新しい命を未来に紡いだお袋に寄り添い、赤ちゃんの代わりに涙を流した。
「ありがとう、ありがとう・・・。本当に、ありがとう──」
「いいんだよ、うら。あんたも、産まれてきてくれて、ありがとうね・・・」
「きゃははっ、きゃははっ!あぅ、ぅー!」
アタシは・・・人間が、大好きになった。こんなに眩しく、輝かしい人間が大好きだ。その気持ちは、今も微塵も変わってない。
命を、可能性を無限に育む、弱くも美しい人間たち。その素晴らしさを、アタシは片時も忘れた事はない。
・・・産まれてきてくれて、ありがとう。全ての人達よ。アタシは、お前様らの歴史の一部になれたこと・・・
「アタシを・・・、愛してくれて、ありがとう──」
──愛を教えてくれた事。心から感謝し、誇りに思っているよ──
やがてアタシは、その地を後にする。娘さまが一人増えた以上、負担になるわけにもいかない。・・・いい加減、流浪の身として迷惑はかけらないしな。
花代「やだ!やだ!!やだー!!!」
母「ワガママ言わないの!うらの新しい門出なんだよ、見送ってあげないでどうするの!」
花代「離れるのやだ!やだ!うらがいなくなるの、やだー!!」
父「すまない、うら・・・。・・・これからも、人間を見たいんだろう?」
うら「あぁ。アタシは確信した。人間こそが未来を作る生き物だ。アタシはもっともっと人間を知りたい、人間を見たい!あなた様がたが教えてくれた素晴らしさを、前のアタシみたいなヤツに教えてやりたいんだ!」
父「・・・。感謝しているよ、うら。お前さまは鬼だ、いつでも俺達を見限り、喰らうことが出来た。でも、お前さまの綺麗な心は・・・俺達を見つめ、素晴らしいとまで言ってくれた」
母「あんたは鬼でも、妖怪でも無い。──私達の、大事な大事な、娘だよ。どれだけ離れていてもね」
うら「・・・、~~~長い間、大変世話になり申した。どうか、いつまでも御元気で。御母様、御父様!」
父「・・・~~、ほら、花代・・・お姉ちゃんを困らせてはいけないだろう?」
なつき「あぅ~、ぅー」
花代「ぐすっ、ぐすっ・・・うら、これ・・・」
『鶴の折り紙』
「ずっと、ずっと一緒だから。いつか、いつかまた・・・戻ってきて。私達、ずっと一緒だから」
「・・・うん。ありがとう。『お姉ちゃん』」
「~~、・・・うわぁあぁあぁん!!うら、うらぁ~!!」
「元気にね。立派な大人になって、幸せになって・・・。いつかまた、必ず帰ってくるから・・・!」
・・・流浪の呪詛を受け、二度と同じ世界には来れずとも。繋いだ心は、決して離さない。
村長「うら様や!どうか、どうか御元気でー!!」
娘「うらー!私も、立派な女の子になるからー!!」
子供たち「おっきくなったら!結婚しようなー!!」「かぜひくなよなー!!」「いつも遊んでくれて、ありがとー!!」
大人たち「忘れない!優しく強い、我等の鬼神!」「どうかいつまでも、誇り高きままに!」「あなたの事を、末代まで語り継ぎまする!」
うら「ありがとう!人間達よ!!あなたたちに誓おう──人間の歴史と未来を!いつまでも愛する事を!!」
・・・──その後、アタシは無数の世界を巡りに巡った。だが、ここより美しい世界は、高天ヶ原くらいしか無かった。
だからアタシは名付けた。人が生き、人が紡ぎ、人の美徳が、桜のように桃のように根付く、二度と立ち入れぬ夢の里。
──桃源郷。その想い出がある限り、アタシは人を愛する事を決して止めはしないだろう。
アタシは・・・──人間が、大好きだ。そんな風にアタシを変えてくれたのは・・・桃源郷の皆がいてくれたお陰なのだから──