世界でただ1人のLv.9   作:しぐ

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始まり

 千年前。

 まだ神々が降りて来ていなかった頃。

 彼がまだ幼い少年だった頃。

 

『逃げれるか!?』

 

『駄目! 道が無い!』

 

 周囲には夥しい数のモンスター。無数の人とモンスターの死骸が混じった、地獄。

 まだ幼い少年をモンスターの猛攻から必死に守る父と母。

 

『くそっ!』

 

 父が、モンスターを屠りながら悪態をつく。

 手が回らない。モンスターの数が多すぎる。どうしても、道が切り拓けない。

 

『覚悟を……決めましょう』

 

 母もモンスターを屠りながら父にそう告げる。

 

『……ああ、そうだな』

 

 一刀一殺。

 父と母共にその剣技は神業の域。

 全方位から迫り来るモンスターから少年を守れているのはひとえにその剣技故。

 完璧な連携と神業の剣技で辛うじてそのギリギリのラインを保っている。

 

『さて……死のうか』

 

 なんでもないように父が言う。

 諦めた? 否、その眼は死んでない。

 

『ハル君、ごめんね。お母さん達はここまでだから』

 

「━━━━」

 

 上手く声が出ない。

 死ぬ? 何で? あんなに強かった父と母が?

 理由は単純だ。

 

━━ただ、弱い。

 

 足手纏いにしかならない弱さ。

 小さくても充分に戦えないといけないこの時代。しかし少年は弱すぎた。

 

『愛してるわ、ハル君』

 

 母が微笑み、父が笑う。

 不思議と、モンスターが止まっていた。怯えていた。

 

 父が、剣を振るう。

 

 一刀。たった一刀で、無数のモンスターが半分以下まで減っていた。

 

 母が剣を振るう。

 

 轟音が天地を揺るがす。モンスターの数は、数える程まで減っていた。

 

『お別れだ、ハル。生きろよ』

 

 父はこちらを振り返らなかった。

 

「━━━━まっ」

 

 ようやく出た声。だが、遅すぎた。

 

 もう、モンスターはいない。

 そして、父と母もいない。

 

 その直後だ。神がやって来たのは。

 放心する少年の元に、一柱の女神がやってきてこういった。

 

『私の、ファミリアに入りませんか?』

 

 ルーナと名乗るその女神は言った。

 父と母を亡くした少年は少し逡巡した後、その手をとった。

 

 

━━それから、もう千年が経った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

「ねえ、本当にいいのですか?」

 

「いいよ、構わない」

 

「だって、これを公表すれば貴方はこの都市全域に知られて」

 

「いいんだ。いくら強くたって、俺はこの時代の人間じゃない」

 

「でも、Lv.9なんて。かの武人でさえLv.7なのに」

 

「俺は今の生活に満足してるよ。確かに俺を知ってる人は少ない。だけど、それでいいじゃないか」

 

 俺の言葉に、ルーナは渋々納得してくれたようだ。

 ただルーナは息子を自慢したいだけ。

 『私の息子はこんなに凄いんだぞ』とオラリオ中に言いたいだけだ。

 

「はぁ……じゃ、行ってくる」

 

 ここのところそうだ。事あるごとに公表はしないのかなどと聞いてくる。

 

「あ、待って。ハル君」

 

 はいこれ、と包みを渡される。

 

「ロキから頼まれてて」

 

 なるほどおつかいか。ちゃっかりしてやがる。

 

「了解」

 

 短く答えてホームから出る。

 それにしてもルーナには困ったものだ。神のくせにかなり子供っぽい。よく泣くし。

 しかし、他ならぬルーナの頼みだ。仕方ないからロキのホームに乗り込むとしよう。

 

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】はいつも新人が交代制で門番らしき事をやっていた。

 それは今も続いているようだが。さて、今の【ロキ・ファミリア】の実力はどうなのかな?

 仮面にローブ。変装した俺は怪しい事間違いなしだ。

 

「止まれ!」

 

 無視。

 

「【ワープ】」

 

 無詠唱で魔法を使う。

 視界がブレ、次の瞬間には……ほら、もう本拠地だ。

 

「て、敵襲だぁああああ!?」

 

「団長に報告を!」

 

「各員武器を!!」

 

 ふむ、緊急時の対応もそこまで悪くない。だが。

 

「ちょっと動き出しが遅いかなぁ」

 

 手刀で全員を気絶させると、俺は悠然と歩を進める。さて、次は誰かな?

 

「うっわー、どうなってんのこれー」

 

「侵入者? ロキ・ファミリアに?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、アマゾネスの2人がやってきた。

 警戒は怠ってないようだが━━しかし、胴がガラ空きだ!

 距離を一歩で詰めた俺は、胸の無い方に掌底を繰り出す。狙うは鳩尾。

 

「かはっ!?」

 

「ティオナ!?」

 

 崩れ落ちるが、まだ俺を睨みつける気概があるとは。しばらく都市外にいたから名前はわからないが、多分Lv.5。

 

「このっ!」

 

 即座に攻撃してくるのはさすが第一級といったところか。沈めてもいいが、しかし邪魔が入ったな。

 

「ストップだ。落ち着けティオネ」

 

 槍を俺とティオネと呼ばれたアマゾネスの間に突き出し、俺を止めるというよりアマゾネスを止めたか。

 

「でも、団長! この侵入者が」

 

 【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。彼が出てきたということは俺の遊びも終わりか。

 

「さて、久し振りに帰ってきたかと思えば随分な挨拶じゃないか。ねえ、ハル」

 

「仕方ない、フィンの顔に免じてここらでお遊びはやめてあげよう。ロキはいるかな、取り敢えずルーナからのおつかいを済ませたい」

 

「……まあ、君はいつもそうか。こっちだ」

 

「あの団長━━」

 

「すまない、彼は知り合いだよ。後で紹介するから幹部達を集めておいてくれ。頼めるかな、ティオネ」

 

「まっ、任せてください!」

 

 おっ、あれは速い。

 

「なんだ、随分惚れられてるんだな」

 

「ああ、全く疲れるよ」

 

「俺にはそうは見えないけどな」

 

 会ったばかりのフィンからは想像できない。随分と楽しそうだ。

 

 

 

 

 

「おー、戻ってきとったんか、自分」

 

 仮面にローブなんていう怪しさ満点の格好をやめた俺はロキのいる部屋に通されていた。

 

「ああ、ルーナからおつかいを頼まれてね。はい、これ」

 

 俺が取り出したのはポーションである。

 月の加護が付与されたポーションは通常の物より効果が格段にあがる。

 月の女神であるルーナが下界で行えるただ1つの奇跡。

 

「おー、ありがとなぁ。遠征の為にこいつは欠かせないんよ」

 

「遠征か」

 

「……なんやその顔」

 

「砲竜の所為でおめおめ帰ってきたって何処かで小耳に挟んだんだけどどう言う事?」

 

「うるさいわ。ソロで深層に行ける自分がおかしいねん」

 

 ロキをからかうのもその辺にして。

 

「アイズ、久しぶ……り?」

 

「お久しぶり……です。ハルさん。どうか、しましたか?」

 

「いや、大きくなったな。あの時とは大違いだ」

 

「ハルさんには追いつけなかった……」

 

「はははっ、こんな数年で追いつかれたらたまったもんじゃねえよ」

 

 ぐしゃぐしゃとアイズの頭を撫でてやる。

 

「なになにー? アイズ、この人と知り合い?」

 

「おっ、さっきのアマゾネスじゃないか。殴ってすまんな」

 

「もう痛くないから大丈夫! それにしてもお兄さんすっごく強いんだねー! 名前はなんていうの?」

 

「ハルっていうんだ。よろしくな」

 

「あたしはティオナ。よろしくねー!」

 

 ふむ、胸の無い方がティオナか。覚えた。

 

「あっ、今変な事考えたでしょー!」

 

「いやね、見事に無いな……って」

 

「なにおう!?」

 

 むきーっと殴りかかってくるティオナを軽く受け止める。Lv.5であろうと俺からすれば児戯とさして変わらん。

 

「で、こいつは何なんだ? 【ロキ・ファミリア】じゃねえんだろ?」

 

 狼人(ウェアウルフ)の青年の問いに答えようとしたところで。

 

「ベートの問いには僕から答えよう。ちょうどみんな集まったようだしね」

 

「……へえ、結構増えたんだな」

 

「ああ、自慢のメンバーだ」

 

「まだまだひよっこじゃがのう」

 

「久しぶりだなガレス。くたばってなかったのか」

 

「こやつらがひよっこじゃ無くなるまで死ねんわい」

 

 さて、他に挨拶してない人は━━もういないよね、うん。

 

「何故私を無視する? なあハル。私に何も言わず何年も何処かに言っていたのか説明する責任があると思うんだが?」

 

「やだなあリヴェリア。俺がそんな無責任な人に見えるか?」

 

「ああ、見える」

 

「ぐさっ」

 

 まあ確かに何も言わずに出て行ったのは確かだけどそれは止むに止まれずな事情があってだな。

 

「……私がどれだけ心配したと思っている」

 

「あら、てっきり怒っているものだと」

 

「確かに怒っていた。が、無事なハルの顔を見れたからそこは不問にしておいてやると言っているんだ」

 

 ここまで素直なリヴェリアは久しぶり、なんだけど。

 

「他の連中がいるっちゅうのに……」

 

「え、どういうことー!?」

 

「なっ、ババア……」

 

「みんないるぞ? わかってていってる? おーい」

 

「…………」

 

 あら、ショートしてら。

 

「リヴェリアとハルって結婚してるんだよね」

 

「うむ、そういうこった」

 

 代表してフィンが答えてくれた。

 

「聞いてねえぞ!?」

 

「リヴェリアとハルさんが……私も、知らなかった」

 

「あれ、言ってなかったっけ」

 

「聞いてませんっ」

 

 パンッ、とざわざわしてる幹部達を嗜めるように柏手を一つ鳴らした。

 

「リヴェリアと結婚している事も十分驚いただろうが。改めて紹介する、彼の名はハル。【ルーナ・ファミリア】のたった一人の団員だ」

 

「聞いた事ねえファミリアだな」

 

「そもそも主神のルーナが殆ど表に出てこないし、団員であるハルが都市外に出てたのもある。けど、彼は特殊でね」

 

「特殊って?」

 

 ティオナが首を傾げ、フィンに質問したところで、今日最大級の爆弾を投下する。

 

「彼のLvは9だ」

 

『………………は?』

 

 一同が口を開けて固まる。

 

「私……それも聞いてません」

 

「そりゃそうだ。あの時お前に言ったらそれこそ今ここにいなかったろうな」

 

「……彼は特殊だと言ったね。その続きだ。彼は何歳に見えるかい?」

 

「フィン達と同じくらい?」

 

「団長達よりは下じゃない?」

 

「ババアより上か?」

 

「ガレスさん……くらい?」

 

「うん、ベートが一番近いね。正確にはハルはまだバベルが出来てない頃━━つまり、一千年前から生きてるって訳だ」

 

「そんなの……」

 

 あり得ない。シーンとなった室内から、そんな空気が漂ってくる。

 まあ無理もない。百年生きれば上等なヒューマンが千年も生きてるんだから。

 

「ホンマやで。ウチが保証したる」

 

「ロキ」

 

「ウチら神が地上に降り立ってから千年も経っとる。そんだけ時間が経っとるからコイツの事を知らん神はおらん。そういう訳や、ウチにはコイツが千年生きてる理由はわからんけどな」

 

「ロキ無乳よく言った!!」

 

「余計な事言うなやぶっ殺すでホンマ!?」

 

「と、言うわけで千年生きてるLv.9のハルだ。改めてよろしく。この調子だとまだまだ死ななそうだから、リヴェリアを一人残す事が無いのだからね。寿命が長すぎるヒューマンも捨てたもんじゃない」

 

「みんなの前で何を……っ!」

 

 さて、と一段落ついたところで、フィンがこう締めくくった。

 

「一週間後に迎えた59階層への遠征。それにハルにもついてきてもらおうと思っている」

 

 え、何それ初耳。

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