「なあ、ヘルメス。こいつ、このままだと死ぬけどいいのか?」
「…………」
「見捨てたのか、衝撃でだんまりしてるのかわかりかねるが。痛めつけたのは俺だけど、自分の眷属が大切ならすぐ動いた方がいい」
お前がやりたかった事も、それが少年を成長させる為だという事も全部わかる。
少年だって常日頃ストーカー紛いの視線を浴びてるわけだし、それくらいじゃへこたれないだろうって気持ちはある。
けど。
「そのやり方、気にくわないな。お前らにお膳立てしてもらわなきゃいけない程、
何故こんな事になったか、それは少年達を追ってヘスティア達が18層に転がり込んで来た時から遡ろうか。
かんぱーい! という合図と共に、皆が飲み始める。
【ロキ・ファミリア】の面々に囲まれて恐縮しまくっている少年や甘味に目を輝かせる
リヴェリアの回復魔法の効果もあり、普通に歩けるし喋れるようになっている事に安心した。死にかけてる傍でふざけてる場合では無かったのをもう一度反省する。
「しっかし、少年の周りにはいつも女の子がいるな」
アマゾネス姉妹にアイズまで、強さの秘訣を聞きたがっているらしいが。
「何をしみじみしている」
「ん、リヴェリアか……一杯飲む?」
「遠征中に酒は飲まん。万が一があったときに上の者が酔ってまともな指示が出せなかったら駄目だろう」
「それもそうだな」
はは、と小さな笑いを漏らす。
うちの嫁さんはいつでも真面目だよ。ベッドの上でなんてあんなに可愛くおねだりしてくれ━━おっと、嫌な予感。
「ハル」
「何かな」
「周りに聞こえてないからいいが、漏れてる」
笑いだけじゃなく声も漏れていたようだ。
多分、酔いが回っているんだと思う。
昔からあまり酒には強くないから普段は飲まないようにしているが、今日はなんか飲みたい気分だった。
「ごめん、少し酔ってるかな」
「全く、昔からそうだ。少しの酒でいつも酔うからいつも━━」
小言を言いながらも俺の頭を自分の膝に持ってきたリヴェリアに甘えようとした時。
『うわぁああああああ!?』
聞こえるはずのない神の声が聞こえてきた。
「ッ!」
ゲートを開きルーナ印のポーションを呷る。
月の加護の効果で強化されたポーションが酔いをも醒ます。市場では殆ど出回らない希少なポーションだが、作り出してる女神のファミリアに所属する俺は使い放題だ。ゲートの中は時間が経たないのをいい事にダンジョンに行く度持たされていた。
「ちょっと行ってくる」
「ああ、気をつけて」
18階層入り口へ向かう俺を見送ったリヴェリアは流石の切り替えの速さで団員達に指示を出していた。
「ヘスティアにヘルメスにリューにその他大勢、か」
取り敢えず怪我とかは無さそうなので遠巻きに眺めているが、神がダンジョンの中に2柱もか。
ヘスティアは少年が心配だったんだろうが、少年と明らかに関わりがなさそうなヘルメスは何をしに来た。
そして、その他大勢と少年達との何やらギスギスした感じ。
「あの雰囲気……何やらひと騒動ありそう!」
またも野次馬根性を発揮させ、気配を消しつつベル達が入って行ったテントを覗く事しばらく。
「ふむふむなるほど……モンスターを押し付けられたのか」
マナーとしては最悪。だが、あの桜花とかいう青年の言い分もわかる。
赤の他人よりも身内の方が大事なのは誰だって同じだ。
「ほら、少年が困ってるじゃないか」
部外者の俺が出て行くのは良くないし、何とか仲裁をとも思うが、悲しい事に俺はこの光景を眺める事しか出来ないんだ……!
「ほう、随分と楽しそうじゃないか」
「やあリヴェリア。君も一緒に覗きしない?」
「死ね」
冗談なのに。
「あっ、逃げるな!」
「逃げに徹しても俺は最強なのだ! あーっはっはっは!」
我が最高速度について来れる者などいない!
「おや、リューじゃないか」
「ッ!?」
驚かせてしまったようで。
はっはっは。避けなきゃ俺の眉間にぶち当たっていたが、腕に覚えがあるようで何より。お兄さんは嬉しいよ。
「ハルだ。覚えているだろう? いや、覚えてない可能性の方が高い……?」
「ハルさん、でしたか」
「少年達と合流したと思えばいつのまにかいなくなっていたからおかしいなとは思ってたんだけど、こんなところにいたとは」
「口外はしないでほしい」
「りょーかいりょーかい。俺としちゃみんなで輪になって酒飲んでとかやりたかったんだけど、ゴタゴタでそうもいかないようだ。君達のせいだぞ!」
「はあ……」
「てなわけで」
ドン、と拝借してきた酒を置く。
「晩酌に付き合ってもらうぞ」
「私はお酒は飲めないのですが」
「嫌だと言われないあたり嫌われていない事に喜ぶべきか。……いや、そんな事を言ってる場合じゃない」
ならばとルーナが貯蔵してたジュースを出す。もちろん勝手に持ってきた。
「酒じゃなくてジュースならいいだろう?」
「それなら、構わないですが……」
ルーナは神のくせに酒が飲めない。
だから俺が各地に出向きジュースを調達して来るわけだが、出来るだけ美味しいものを飲んで欲しいという眷属心だけどたまには持ち出してしまうのも眷属心。ルーナのお気に入り持ってきちゃったけど許してねと心の中で謝っておく。
カチン、とグラスを当てる音がする。
最初は2人とも無言で、グラスを傾けた。
「美味しい……」
「お気に召したようで良かったよ。これは俺が作ったものでね」
「貴方が……?」
「無駄に長生きしてると色んな事をやってしまうもんだよ。まだ夜は長い、少しばかり話してもいいか?」
「少し、興味があります」
「そうか、そいつは何より。それじゃあ……」
うちの主神は酒が飲めなくてね。そう、神なのにだ。何度か勧めた事はあるんだが、いつもは俺に甘い主神は頑なに酒を飲もうとしない。何でかってのは今は省くが、酒が飲めないならジュースをプレゼントしようと思って主神に何を飲みたいかって聞いたんだ。
そしたら主神は「ハル君が作ってくれたものなら何でも」って言ってな。
その頃の俺はまだ若くて、Lv1の後半に来たくらいの弱さだった。死んでしまった親が残してくれた財産と、ソロでダンジョンに潜って稼いだ極少量の金で日々を食い繋いでいた。
え? 何でソロかって? 弱いやつで他のファミリアである俺を入れてくれるパーティーなんていなくてな。
まあ、そんな最中だ。日頃お世話になってる主神に贈り物をしたくてな。酒は飲めないって言ってたからジュースでもと思ってたけどあの頃の俺じゃジュースなんて手が出なくてな。
うん、親の財産を使えばそりゃ買えたさ。でもそれじゃ意味ないって思って、自分の稼いだ金で買おうって思ってがむしゃらにダンジョン潜ってたら心配した主神に怒られてな。
「ハル君が作ってください」って。果実を買えるぐらいの収入はあったから買って一生懸命作ったんだ。
味? 不味かったよ。主神の為にと思って美味しくしようとしたのが空回りしたんだな。何の知識もないガキにできるような代物じゃなかった。
でも主神は渋い顔しながら「美味しい」って言ってくれた。
それからレベルも上がって収入も安定してちょっといいジュースを買っていっても俺のジュースの方が美味しいって言ってくれる。
千年もジュース作りしてりゃそりゃ美味いもんが作れるようになるってな。
あれ、言ってなかったっけ。俺、千年生きてんの。あっ、その顔保存しておきたい。基本的に無表情なエルフの唖然とした顔ってとても需要あると思わ……ないですよねわかります。
「あんまり喋るのは上手くなくてな、伝わったか?」
「ええ、優しい主神ですね」
「ああ、俺にゃ勿体無いくらい優しい
本当に、いい神だよ。ルーナは。
「おかわりをいただいても?」
「おっ、いいねえ。じゃんじゃん飲め!」
リューにジュースを注ぎつつ、俺は酒を取り出して呷る。
小っ恥ずかしい話をしてしまったからにゃあ酒を飲まなきゃやってらんねえ!
「あ、やべ。酔った」
「まだ一杯しか飲んでないのでは……?」
いくら飲んでも酒だけは慣れない。ルーナの酒嫌いがうつったか。
リューが、少し笑っているのが見えた。
「ああ、やっぱり笑ってた方がいい」
「気のせいではないでしょうか」
「気のせいじゃないな。エルフの表情の変化を捉えることには自信がある」
「何の自信ですか……」
「まあ気にしなさんな。酔っ払いの戯言だと思ってくれ」
あ、そういえばリヴェリア達に何も言ってねえや。
……さて、酒飲も。
「どうしたのですか? 心なしか顔から生気が無いような気がしますが」
はは、気にしないでくれ。気にしたくないんだ。
小ネタ。
我が最高速度に着いて来れるものはいない!
「ふっ、それはどうかな」
「ッ!? キサン、誰ものじゃ」
「我が名はディムロース……」
「お前があの……? 証拠を見せい」
「見よ、この輝く竜紋を!」
「あっ……」