世界でただ1人のLv.9   作:しぐ

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幕間 無能の少年のお話

「ただいまー」

 

「大丈夫でしたか? 眷属になってくれたにもかかわらずこんなに苦労をかけてしまって……」

 

「それはもう終わった事でしょ。俺は望んでルーナの眷属になった。それはルーナであろうとどうこう言われる謂れはないよ」

 

「ですが……」

 

「あーもー終わり! そんな事より今日の稼ぎ!」

 

 ちゃらん、と腰に下げてあった袋から出てきたのはあまりにも少ない金額。

 

「今日も一層で頑張ったんだけど、やっぱりこのくらいしか集められなかった」

 

「…………ッ! 今日も食べられそうな野草とか探しに行きますか?」

 

「そう、だね。ルーナはここにいて。俺が探してくるから」

 

 はい、と葛藤はあったが神に野草漁りなんてさせたくないというハルの意思を尊重して、待っている事にした。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 オンボロのドアを開けて駆けていったハルを見送ってからふう、とため息を1つ。

 

「ハル君はあんなにも頑張っているのに……」

 

 毎日朝から晩までずっとダンジョンに潜って稼げるのはその日の夕食にもならない程度のヴァリス。帰ってきた後は休む暇もなく、野草探しでオラリオ内外を走り回る。

 あまりにも弱い。あまりにも才能がない。

 1日頑張って、それでもステイタスの上昇が1、もしくは0だった時には伝える時に涙を止めるので精一杯になる。

 

()()()()()()()()()

 

 ハルがルーナの眷属になってから、そのステイタスは殆ど変わっていなかった。

 その弱さ故にパーティにも入れてもらえず、ソロでも安全な階層でただひたすら狩る事しか出来ない。

 ハルの為に出来る事が殆どない事が、ルーナにとっては歯がゆく、悔しかった。最低限の手助けとして数少ないポーションには月の加護を付与しているが、それは死なない為であって強くなる為の手助けではない。

 

「何かないんでしょうか……」

 

 考えても、考えても答えは浮かばず、時間だけが過ぎていく。

 そうして、いつもならもう野草を採取し終えて戻ってくるはずのハルが戻って来ない事に気がついた。

 

「群生地を見つけたからはしゃいでるのであればいいんですけど」

 

 冒険者が出来たのは最近だ。

 神が降りてきてから急速に変わっていったこの辺りも、ようやく落ち着きつつある。

 それでも変わった環境に慣れたとまではいかない微妙な時期でもある。

 

「……早く、帰ってきてくださいね」

 

 椅子に座って、ルーナはハルが帰ってくるのをひたすら待ち続けた。

 

 

 

 

 

「ただいま。遅くなってごめん」

 

 椅子に座ったまま耐えきれず寝てしまったルーナは、そんな声と共に跳ね起きて。

 

「お帰りなさ……ッ、その、怪我は」

 

「これ? いやー、中々食べられそうな野草が見つからなくてさ。走り回ってたら転んじゃって」

 

「嘘」

 

「…………」

 

「神に嘘は通じません。誰に、やられたんですか?」

 

「……さあ、後ろから一発殴られて、いいだけ殴られた。相手の顔がなんて見てないし、気を失ってて目が覚めたらせっかく集めた野草も服もボロボロ。ごめんね、服も野草も駄目にしちゃって。さーて、今日もダンジョンに潜って稼いでくるか! 幸運な事に服の予備はまだあるからちょっと着替えてくる」

 

 早口で捲し立て、ボロボロの身体で、今にも死んでしまいそうな雰囲気でそれでもダンジョンに向かうと言うハルの腕を咄嗟に掴んだ。

 

「それで貴方が死んだら意味ないんですッ!! もっと、もっと……自分の身体を労ってください。お願いですから……お願い、ですから……」

 

 叫んで、涙が溢れてくる。

 この世界はハルという少年に対して理不尽すぎる。

 食べ盛りの年頃なのに毎日毎日野草や少しばかりの食糧だけ。寝る場所は快適とは言えないし、周りの人のあたりはとても強い。

 それはそうだ。バベルが建ってモンスターが無制限に外に這い出てくる事は無くなったが、つい最近まではそれが当たり前だったのだ。その時代において並ぶ者無しと称された男女の間に生まれた無能(ハル)

 

 『お前がいなければあの二人は死ななかった』

 

『弱い役立たずは野垂れ死ね』

 

 罵声。暴力。嫌がらせ。

 パーティに入れてもらえず、上層で頑張るハルを街の人は嘲笑う。

 それでもハルは、歯を食いしばって頑張ってきた。それでも諦めずに、折れずに、今だって頑張ろうとしている。

 

「貴方が、ハル君が死んでしまったら。後にも先にもハル君しか入らないこのファミリアはどうなっちゃうんですか? まだハル君は若いです、時間はたっぷりあるんです。お願いですから、そんな死に急ぐような真似はやめてください……ッ!」

 

「……ごめん、ルーナ。今日は休む事にする」

 

「ちゃんと身体を拭いて、あ、手当ては私がしましょうか?」

 

「大丈夫、一人で出来るよ」

 

 奥の部屋から、時代に押し殺した泣き声が漏れてくる。

 

「何で、こんなに頑張ってる子が、こんな仕打ちを受けなきゃいけないんですか……」

 

 バタン、とドアを開けて外に出る。

 ハルには、聞かせたくなかった。

 

「ふざけるなッ!! あの子が何をした! あんなに、あんなに頑張ってる子が! 何であんなに苦しんで、苦しんで、苦しんで! 踠いて踠いて踠いても、どうして! こんな悲しい生活を送らせなきゃいけないんですかッ!!」

 

 何よりも、ハルがあんなに苦しんでいるのに、ただポーションに加護を付与する事しか出来ない自分が悔しかった。

 ヘファイストスのように、鍛治が出来れば、ハルのために武器を作れたのではないか。

 装備の点検が出来れば、ポーションが作れれば、他にも、他にも。

 

「……はぁ、こんな姿、ハル君には見せられませんね」

 

 少なくともハルの前では、しっかりとした女神でいたかった。先程は少々取り乱してしまったが。

 

「よし、切り替えましょう」

 

 パチン、と両頬を叩いて気合いを入れる。

 他の誰が見捨てても、私だけは絶対に側にいると心に決めて。




ちょっとハルの過去を書いてみようと思ったら以外と話が広がりそうな予感。
本編に戻って不定期に不定期を重ねた番外編として少しずつ続けていくか、過去編に書き換えて、どれだけの長さになるかはわからないけれど、書いてみるか。
さて、どっちにするか迷いどころ。
ちなみに、我らがベル君と決定的に違うところは成長促進系スキルなんて芽生えないので、がむしゃらに努力しても殆ど上がってくれないところですかね
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