「あれ、言ってなかったかな?」
「おう今聞いたつまり初耳だ」
大人数の『遠征』で余所者の俺が着いて行くって、やっかみを受ける気しかしないんだが。
「報酬は弾むよ?」
「金は生憎とたくさんあるんでな。そんな事より何故俺を誘う」
それは、非公式とはいえ都市最強の一角を名乗るファミリアが俺というイレギュラーを迎えて楽に攻略しようという風に取れなくもない。
俺の事を知っている人は少ないが神々は知っているし、俺が着いていけばその事は嫌でも伝わる。そのリスクをフィンが承知してないわけがない。
「親指が疼くんだよね。僕たちだけで行ったらそれこそ取り返しのつかないような事態になる気がする」
「へえ」
「ああ、もちろんそんな事態にならないのが一番なんだけど。ただどうしても嫌な予感が拭えない」
「はぁ……わかった。着いて行ってやろう。ただし」
「わかっている。その時まで君の力を借りるつもりはない。これは【ロキ・ファミリア】の遠征だからね。ああ、ちなみにロキの許可も取ってあるからその辺も大丈夫」
被せ気味にフィンがそう言ってきた。
まあ、わかってるならよしとしよう。
なんせ59階層程度俺が前に出れば簡単になってしまう。
ロキが知っているなら話は早い、か。
「そういうこった。ああ━━そういえば」
やってない事があった。と、俺は手を叩く。
「アイズ、久し振りに模擬戦でもしようか。俺の実力に納得してないのがいるみたいだし」
な? という視線を向けて見ると、その場にいる全員の視線が集中した。
「全部デタラメって事があるかもしれねえじゃねえか!」
ベートと呼ばれた
若干リヴェリアが小言を言いだしそうだったので、視線で制しておいた。
「さて、やろうか。何処まで強くなったのか見てあげよう」
「よろしく……お願いします」
あの頃とははるかに違う瞳が、しかし、同じ好戦的な光を携えて俺を見ていた。
所は変わってダンジョンの深層。
「もうあの中庭じゃ全力を出せなさそうだ。他の冒険者もいないだろうし、この辺が丁度いいだろう」
「それじゃあ早速だけど二人とも準備はいいかい?」
リヴェリアの結界の中で、フィンが俺とアイズに呼びかける。
「ああ、良好だ」
「大丈夫……です」
その返事に頷くフィン。
「うん。リヴェリア、結界の維持頼んだよ」
「任された」
さあ━━闘おう。
「始めッ!!」
「━━━━ふッ!」
まさに神速の一撃。
初速から最速までのラグが殆どないこの全身全霊の突き。
これを真正面から止められる相手など、この世界に数えるほどしかいないんじゃなかろうか。
しかもまだアイズは風を纏っていないから驚きだ。
「強くなったんだな、アイズ」
「━━ッ!」
ガキンッ! と金属と金属がぶつかったような音が響く。
まあ、この場合は金属ではなく、
「……また」
「ひひっ」
俺の歯、なんだけどな。
ぺっ、とアイズの剣を戻してあげる。
いつの間にか、モンスターの気配が消えていた。いかに深層であろうとこんな戦闘に巻き込まれれば死ぬだけだ。そこら辺は本能でわかっているんだろう。
というかこの戦闘を邪魔したら俺が消す。
「さて、そろそろ風を纏った方がいいんじゃないか? あまり悠長に構えてっと━━死ぬぞ」
少し殺気を込めて言ってやる。
するとアイズは弾かれたように後ろに下がりながら叫んだ。
「【
丁度風を纏い終わった頃に突き刺さるかのように俺の蹴りがアイズの脇腹にめり込む。いくらかを風に軽減され、それでもアイズの身体は真っ直ぐダンジョンの壁目掛けて飛んで行った。
「……ん? おっと」
壁にいたはずのアイズの姿は既になく、風を纏ったアイズは先程よりも格段に速い速度で的確に俺の目を狙ってきた。
危ないな、失明しちゃうだろ?
「━━ッ!」
更に連続攻撃。
人体の急所と呼べるところばかりを狙ってくる実に趣味のいい攻撃だ。
単純な突きだけではない、過去に教えられ、新たに自分で覚え、それを昇華してきたであろう多彩な剣舞。
たった数年でここまでとは、嫉妬しちゃうね。
だからこそ、その才能を、その努力を潰さなくちゃならない。この程度で満足するとは思えないが、一応な?
「やり直し━━だっ!」
連続攻撃の一瞬の隙をついて蹴りを叩き込む。が、俺が手を抜き過ぎたのか、アイズの反応速度が素晴らしいのか、間一髪ガードが間に合ったようだ。
それでも吹き飛ばす事には変わりはない。
「あぁッ!?」
「あまりやり過ぎるなよ」
「わかってらぁ」
リヴェリアから注意の声が飛ぶ。俺としたことが予想よりもアイズが強くてハメを外していたらしい。飛ばしすぎか?
「さて、そろそろフィナーレか?」
気がつけばあたりは暴風と化していた。
それもアイズが起こす風。
「リル・ラファーガ」
暴風が、1つになって突っ込んでくる。
そう、暴風だ。だけどな、その程度の風は俺にとっちゃそよ風と変わんねえ!
「いやぁ……強くなったな、アイズ」
がっちりとその刃を手で掴み、軽々とアイズの技を受け止める。
そして。
「参り、ました」
ピタリとアイズの首に添えられた手刀を見て、潔く負けを認めた。
しかし20にもなってない少女がこれだけの強さか。
「才能って怖い」
「そう言うハルは?」
「俺は下の下だ。ヒューマンでもエルフでも寿命がある。特にヒューマンは長くて100年程度だ。例えばアイズが千年生きてたら俺の数倍は強いさ」
「千年強さを求め続けられるってのも才能だと思うけど?」
「千年、千年自分を鍛えても俺の両親の足元も見えてこない。あと何年経てば見えるのやら」
「君の両親は何千年も前から生きていてハルの何倍も鍛えてたって事は?」
「お前天才か……!?」
俺もずっと若いままだしそういう事があっても不思議じゃない。
さすが【ロキ・ファミリア】の団長だ。
「ハルって時々馬鹿だよね」
「あ、お前俺を馬鹿にしたな消し炭にしてやってもいいんだぞ?」
「ンー、やられないのはわかってるけど、笑えない冗談だね」
「ダンジョンでそんな事してる暇あったら地上に行きたい。と言うわけで帰るぞ」
全員を集めるのはフィンに丸投げして、俺はみんなを連れて帰るだけの簡単なお仕事だ。
「さ、ハル。準備はできたよ」
「了解。【ワープ】」
人数が多いから魔力が吸われるがまあなんとかなる範囲だ。
一瞬視界がブレればもうそこは【ロキ・ファミリア】のホームだ。
「いやー、詠唱も無しにこの効果。やっぱり反則じゃない?」
「はっはっは。羨ましかろう」
魔法は親の形見だからな。強くなきゃ俺が納得できない。
とはいえ、習得するのは苦労したのだが。
「さて、遠征は一週間後だ。遅刻しないでね?」
「ああ、善処するよ」
さて、俺も帰るとするか。
ルーナが心配してるし。
「【ワーぐえっ」
首がきゅって、きゅって。
「今夜、いつもの場所で、待ってるからな」
「……ああ」
アイズの成長にびっくりしててリヴェリアの事をすっかり忘れてたって事は墓場まで持っていこう。
「…………はあ、覗き見されるのは好きじゃないんだが」
いつもの場所で待ってるはずのリヴェリアの所へ歩きながら向かう途中、久し振りにこの視線を感じた。値踏みされてるような、非常に上からの視線だ。正直言って気分が悪いぞ? なあ、フレイヤ。
「……【ワープ】」
1日にそう何度も使う魔法じゃないんだが、まあいい。【フレイヤ・ファミリア】に少しばかり灸を据えてやらんとな。
何が寵愛だ。俺の嫁さんの方が100倍可愛いって事を教えてやらぁ。