世界でただ1人のLv.9   作:しぐ

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四話

「ハル君。ヘスティアの根城はここだったはずです」

 

「根城て」

 

 せめてホームと言ってやりなさいよ。と思わなくもないがどうでもいいので放っておく。

 そもそも何でルーナがついてきてるのかと言うと、まあ端的に言うとゴネられた。ヘスティアの住んでる場所を探しに行くと伝えに行くはずだったのだが、何故か道案内を申し出られ、今に至る。

 此方を見上げるルーナの顔には前面に『褒めて』と出てる。ついでにドヤ顔。

 確かに探す手間が省けたのはいいが、ルーナを褒めて調子に乗らせると後が面倒くさい。けどまあ遠征についていく事を教えておくいい機会か。

 

「はいはいいい子いい子」

 

「えへー」

 

「あ、【ロキ・ファミリア】の遠征についていく事になった」

 

「え……へ!? 聞いてない! ロキめ、とっちめるッ!」

 

「あー、落ち着け。代わりにルーナの好きなものなんでもいいから一つ遠征の報酬として出させるから」

 

「いいんですかっ! じゃあ私『豊饒の女主人』の新作ケーキが食べたいです!」

 

「うん、快く食べさせてくれると思うよ」

 

 この神ちょろすぎ。

 

「ハル君の残してくれたお金を生活に必要な物以外で使う訳にはいきませんからね」

 

 ……全く、この神は変な所で真面目だ。

 

「まあいい。取り敢えずヘスティアに話を聞きに行こう」

 

「そうですねっ。レアスキルかぁ……ふふ、レアスキル……なんていい響き」

 

 例に漏れずルーナも娯楽に飢えているようだ。とはいえ所構わず言いふらして回る事はしない。俺がさせない。

 そもそもこれは、俺の好奇心故だ。ルーナに勝手な事はさせない。

 

「お邪魔するよ、ヘスティア」

 

「ん? 君はルーナじゃないか。こんな時間にどうしたんだい?」

 

「ルーナには案内してもらっただけで、用事は俺が」

 

「おや、君は【最強】君じゃないか」

 

「……その2つ名はあまり好きじゃないな」

 

「そうかい? まさに君の事じゃないか。それで、最強君はボクに何か用かい?」

 

「ベル・クラネルの未確認スキルについて」

 

「なっ」

 

 あ、図星の反応。

 

「……ほう? ハル君が話してくれた推測の話は本当だった!! さあヘスティア詳しく話を聞かせなさい!」

 

「恨むぞ最強君」

 

「代わりと言っちゃなんだが言い触らす真似はしない。ルーナも、もちろん俺も。ただ俺が『成長を促進させる』スキルに興味があってな。どんなのか知りたかった」

 

「スキルの詮索はルール違反。それは重々承知。ましてや他人のホームに押し掛けてなんて最低と罵られても文句は言えない。でもっ! 私はここでヘスティアにレアスキルの話を聞けなかったらオラリオ中の神にある事ない事言いふらしてしまいそいたいっ、何するんですかハル君!」

 

 ゴツンと一発いれておく。

 それじゃ脅しじゃないかバカ神。

 

「うちの主神の言い分は全く気にしないでくれ。情報料が欲しいと言うなら言い値を払おうし帰れと言うなら帰る」

 

「えーそんなのつまんないですよ。あ、いえなんでもないですごめんなさい」

 

 バカ神は視線で黙らせておいて、ヘスティアの返事を待つ。

 

「……ふぅ、わかった。話すよ。その前に確認だ、最強君。君はベル君にスキルの事を話したかい?」

 

「いいや、何も」

 

「ならいい。あの子は嘘が下手だ。スキルの事を聞かれたら神相手に誤魔化せるとは思えない」

 

 隠し通せないだろうから本人にはスキルの存在を教えない、と。大胆な事を考えるもんだ。

 

「ベル君に発現したスキルの名は【情景一途(リアリスフレーゼ)】。忌々しくもヴァレン何某に向けたベル君の想いの丈がスキルになった形さっ!」

 

「想いがスキルに現れる……そんな事が?」

 

「ボクだって知らなかったさ! だから未確認のスキルであって、あの純粋なベル君だから有り得た今後現れるかもわからない成長促進系のレアスキル。こんなおいしい話が流れたら神なら放っておかない」

 

 オラリオ中、もしくは全世界から注目される存在になるかもしれないってところか。

 しかしあの少年、そんなにアイズの事が好きか。これは応援のしがいがあるじゃあないか。

 

「【ゲート】」

 

「それはハル君ちょっと洒落にならないからぁあああ!?」

 

 大丈夫。死にはしない。

 ただ俺が開けないと出れないだけで。

 取り敢えず話が終わるまでおとなしくしてろ。

 

「そもそも少年とアイズが出会う機会なんてあったのか?」

「ベル君は一度、彼女に助けられてるんだ。5階層でミノタウロスに襲われてたところを間一髪でね。多分、というか確実にその時だね」

 

「ふーん……」

 

 上層にミノタウロスねぇ……まあ、何があったかは知らないがなるほどなるほど。

 

「これはもう、決定的だ。俺は、ベル×アイズ派だ!!」

 

「今の流れはボクとベル君が結ばれるのを応援する流れじゃないかー! 裏切り者!」

 

「これはアイズとベルが結ばれるのを応援する流れだろ。俺は全力で応援する」

 

「最強君が敵に回るなんて……!?」

 

「と、言うわけで聞きたい事も聞けたし俺らはこれで」

 

「……ああ、限りなく最後の流れはいらなかったと思うけどね!」

 

「娘も同然のアイズが少年と一緒に訓練してるんだ。これは応援しない手はないだろ?」

 

「……は? 最強君、今なんて?」

 

 一瞬でヘスティアの目の光が消える。

 それで俺は自分の失言を悟った。

 そういえば所属の違う人間同士が集まるのはあまりよろしくない行為だったな。

 所属してないファミリアにお邪魔する事はよくあるから普段あまり意識していなかったが、こんなところで墓穴を掘ってしまうとは思わなかった。心の中で少年に謝罪しておく。まあそう悪い事にはならないだろうと。

 

「じゃ、そういう事で!」

 

「あっ、待て! 逃げるな最強君!」

 

 ともかく、ヘスティアにそれ以上の情報を与えるわけにはいかない。少年がヘスティアに問い詰められればバレてしまう事ではあるが、まあ気にするまい。それを乗り越えてこその愛情だ。頑張って障害を跳ね除けられる程の力を手に入れてくれたまえ。

 

「【ゲート】」

 

 ルーナを取り出し、憤慨するヘスティアを背に俺は走り出した。

 

 

 

 

 

「あ、ここは」

 

 ルーナをホームに放り込んでからそういえば朝から何も食べてない事を思い出す。

 食事が出来そうな所を探していると昔馴染みが開いたという所を見つけた。

 

「『豊饒の女主人』。久しぶりだ」

 

 そういやルーナがここの新作ケーキを食べたいと言っていた。

 明らかに開店準備ではあるがそんなのを気にする俺ではない。押し通る。

 

「お邪魔するよ」

 

「申し訳ありません、お客様。今は準備中でして」

 

 見た目は可憐な少女だが、どこか腹黒そうな少女。

 

「シル、どうされたのですか」

 

 潔癖そうなエルフ。

 

「なんニャ。お客様、今は準備中だニャ」

 

 見た目バカっぽいキャットピープル。

 

「癖の強い少女達だ事。お兄さんちょっと張り切っちゃうぞ」

 

 瞬間、シルと呼ばれた少女以外の全員が戦闘態勢をとった。

 戦闘に携わっている人達は遅かれ早かれ戦闘態勢をとっているが、シルという少女はこんな状況でも笑顔を保っている。

 よほど肝が据わっているのか、あるいは━━

 

「あ、ついいつもの癖で挑発しちゃったけどこれじゃ完全に俺が不審人物じゃん」

 

 ポン、と手を叩いて納得する。

 ならば俺の無害を証明する証人を呼ぶしかない。

 幸運な事に警戒して襲いかかってくる人はいないようだし。

 

「おーい、年増! いるんだろ、出てこい!」

 

「煽りを隠そうともしない態度はハルだね。全く、面倒な奴が帰ってきたもんだ」

 

 年増呼ばわりに反応を示さないミアは随分と大人になったようだ。つまらん。

 

「おひさ」

 

「あの、ミア母さん。この人は……?」

 

 ミアを除いたこの中で最も強いであろうエルフの少女が代表して尋ねる。

 

「アタシの昔の知り合いさ。ほら、アンタ達は開店準備!」

 

 ミアが一喝すると、こちらを見ていた従業員達が一斉に作業に戻る。

 

「金はあるからご飯食べたい」

 

「ハァ……食べたらすぐ出て行きな」

 

「りょーかいりょーかい」

 

 

 カウンター席に座ってミアの料理を食べていると、先程のエルフの少女が歩いてくるのを感じた。

 

「あ、ちょっとちょっと」

 

「……私、ですか?」

 

「そうそう。ああ、警戒しないで。エルフが肌の接触を嫌うのは知ってるから」

 

 露骨に警戒された目を向けられるとこっちも悲しくなってしまう。声を掛けたのといい店に押し入ったのといい完全に俺が悪いのだから仕方ないけど。

 

「それで、何か話が?」

 

「特に用があるって訳じゃないけど、ほら、さっき吹っかけてごめんね?」

 

「いえ、私はなんとも思ってないので。それにしても先程の威圧は明らかに私よりも手練れのそれでした。しかし私は貴方の顔は見た事ありません」

 

「まあ、そうだろうね。ここ数年ずっといなかったし、それよりも前は表に出る事が殆ど無かったし」

 

「……つまり、引きこもりだったと?」

 

「ち、違うし!? バリバリダンジョンで稼いでたし!?」

 

 引きこもってた次期はあったけど、鍛錬は欠かしてないし!?

 

「……貴方は面白い人ですね」

 

「いや、君の方こそ。まさかエルフが初対面の人にこんな事を言うとは思ってなかったな。俺の知ってるエルフは初対面だとすっごく分厚い壁があったから」

 

「……あなたがとっつきやすいエルフだと感じるなら、それはそこにいるシルと今時珍しく純粋な少年のお陰、でしょうか」

 

「悪いがその純粋な少年は君やシルとくっつける訳にはいかないんでね!」

 

 ヤツめ、無自覚にハーレムを形成するつもりか!? 女に免疫ないフリしてそこら中で女引っ掛けてんじゃねえか!

 

「それは聞き捨てなりませんね。クラネルさんはシルと結ばれる運命だ」

 

「そんな運命俺がぶち壊してやる」

 

「おいハル! うちの従業員を引き止めてるくらいなら帰りな!」

 

 年増からお小言を食らっちまった。仕方ない帰るとしましょうか。

 

「じゃあな、エルフちゃん」

 

「……そのエルフちゃんというのはむず痒い。リュー、と呼んでください」

 

「ふぅん、それじゃあリュー。恋愛ってのは恩なんかで譲るもんじゃないんだぞ?」

 

「それは、どういう……?」

 

「わからないならそれでもいい。ただその感情を自覚した時、シルに恩義があるからと身を引いたら俺が引きずり上げるから覚悟しておけよ?」

 

「はあ……」

 

 それでも勝つのはアイズだがな! とは言わず俺は開店準備に追われる豊饒の女主人を後にした。

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