世界でただ1人のLv.9   作:しぐ

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五話

そして遠征の日。

 

「んー、いい遠征日和だ」

 

「ハル君、気を付けてくださいね? 絶対に死んじゃだめですよ?」

 

「安心しろ、何があっても死にゃしないから」

 

 そう、元々この遠征の目的地59階層な上に、俺は基本的に手を出さない。まあ、手を出さない事で色々なやっかみもあるかもしれないが、その辺りはフィンがなんとかしてくれるだろう。

 

「ハル、そろそろ出発だ。君は、僕たちと一緒に来てもらうよ」

 

「へいへい、それじゃあ行ってくる」

 

「ほんっとーに、気をつけてくださいね!?」

 

「わあってるって! 心配しすぎなんだよいつもいつも!」

 

 早くいくぞ、とフィンを急かす。いつもそうだ。ルーナは俺を【ファミリア】の一員にしてからダンジョンに向かう度にこうしてしつこいくらいに言ってくる。確かにうざったくもあるが、それ以上に気恥ずかしい。

 

「さて、何があるのかな」

 

 ルーナの事は頭の外に追いやり、フィンが予感した災いに思いを馳せながら、【ロキ・ファミリア】率いる遠征隊はダンジョンに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 ノンストップで18階層まで向かう途中、血相を変えてこちらに向かって逃げてくる冒険者がいた。

 

「……お、お前らも逃げ……って、【ロキ・ファミリア】!?」

 

「何が、あったの?」

 

「ミノタウロス。ミノタウロスが、この階層にいやがったんだ……!?」

 

「ミノタウロス……何でこんな上の階層に?」

 

「それと、俺らが逃げる時に、ミノタウロスに襲われてる白髪のガキが━━」

 

 その言葉が終わるよりも早く、アイズが風になって走り抜けた。

 

「あっ、アイズ!?」

 

 白髪のガキ……十中八九、あの少年か。それにしても出来すぎている気がするが……いや、考えても仕方ない。追うか!

 

「よっしゃ、俺も!」

 

 考え事をしているうちに周りに人がいなくなっているがまあそれはそれ。本気だしたらすぐ追いつけるしね?

 

 

 

 

「ああ、そう言う事」

 

 俺が戦闘音がするところに顔を出してみると、ロキ・ファミリアの面々を足止めするオッタルがいた。

 アイズの姿が見えないからもう走り抜けたのだろう、あの白髪の少年に向かって。

 

「んじゃあ、一発ぶちかますぞ。歯ぁ食いしばれ」

 

 俺の接近に気がついたオッタルが、素早く大剣を構えて防御の姿勢をとる。

 

 ドゴォン!

 

 そんな大きな音とともに、オッタルが壁に叩きつけられる。

 ありゃ、大剣が折れてない。手加減が過ぎたか?

 

「さて、お前らはアイズを追ってくれ。俺はコイツと話があるから」

 

「ああ、感謝するよ」

 

 走っていくフィンたちを見届けてから壁に叩きつけられてから動いていないオッタルに話しかける。

 

「オッタル」

 

「話す事は何もない」

 

「まあ、何をしようとしていたかはわかるが、あの少年は見た目よりもずっと強いぞ。それに、男なら同じ人に2度も助けられるなんて真似は嫌だろ? 安心しろ、お前が望んだ結果になるさ」

 

「……そうか」

 

「まあ、そんなわけで自分の失敗を悔いる必要はない」

 

「……感謝などしない」

 

「感謝? 吐き気がするね。お前らの事は好きじゃないんだ。あまりあの少年にちょっかい出すようなら━━潰す。そう言っといて?」

 

 起き上がろうとしたのでもう一度壁に叩きつけてから俺もフィン達を追って走り出す。

 俺も、少し気になってるんだ。少年の勇姿が。

 

 

 

 さて、そこには。

 

「あぁああああああ!!」

 

「ヴモォオオオオオオオ!!」

 

 両者一歩も引かず。駆け出し冒険者(ベル・クラネル)Lv2相当の怪物(ミノタウロス)が対等に。

 これが、冒険。これが、情景一途(リアリスフレーゼ)

 

「ははっ、ますます応援したくなっちまうだろうが」

 

 格下が格上に挑む、そして打ち勝つ。そんな物語染みた光景が俺の心を震わせる。それはロキ・ファミリアの面々もそうだろう。フィンだろうとベートだろうと、この場にいる誰もがベル・クラネルとミノタウロスとの決闘に釘付けになっている。

 

「ファイアボルトォオオオオオオオ!!」

 

 ベル・クラネルの咆哮が、その決闘に決着をつける。

 ミノタウロスが爆散し、灰と化す。

 死闘を繰り広げた少年は。

 

 ━━立ったまま、気絶している。

 

「おっと、ステータスならまだしもスキルを見るのはよくない」

 

 ギリギリ服が残っていて見えない部分に手を伸ばそうとしたアイズの手を掴む。

 

「…………」

 

「駄目だ。そんな事をしたら俺はお前を軽蔑する」

 

 懇願するようにこちらを見るアイズを叱る。

 

「……ごめん、なさい」

 

「うん、わかればよろしい。━━フィン、俺は少年を上まで連れて行く。俺が戻るまでにどんどん進んでてくれ」

 

「ああ……ベル・クラネルは任せたよ」

 

「おう、任された」

 

 ついでに魔法で偽装した小人族(パルゥム)の少女も受け取る。

 普通にしていれば少年からも、俺やルーナ、ヘスティアからもスキルの事は漏れる心配はない。ルーナが漏らしそうに見えるがあれは俺に構って欲しいだけだ。

 そんな事を上に向かって走りながら考える。

 

「俺にこんなスキルがあったら、な。父さんや母さんを死なせずに済んだのだろうか」

 

 いや、そんな事を考えても仕方ないか。もう過ぎた事だ、仮定の話はよそう。

 

 変な考えを振り払うように、俺は走るスピードを上げた。

 

 

 

「そっか、ベル君はミノタウロスを倒したんだね」

 

「ああ、久々に心踊ったよ。物語みたいな、いい戦いだった」

 

「そっか。そっか……すごいね、すごいよベル君」

 

 愛おしそうに、ヘスティアは少年の頭を撫でているのを見ていた。

 

「ところで……ベル君のスキルはバレてないかい!? 服がぼろぼろになっててもう少しでスキルまで見えそうだったじゃないか!」

 

「ああ、それはさせてない。万が一の可能性を無くすために俺が少年を上まで連れてきたんだから」

 

「……ああ、ならいいんだ。最強君は戻らなくていいのかい? 遠征なんだろ?」

 

「俺はロキ・ファミリアがどこの階層にいようとすぐ追いつける。それよりも、少年におめでとうの一言でも送りたくてな。これで少年もLv.2だろ?」

 

「一ヶ月でLv.2。たしかに凄いけど……後が心配だなぁ……」

 

「有り得ない速度なんだ。それは仕方ないってもんだろう。ま、俺がフォロー出来る時はしておくし、リヴェリアあたりにでも頼んでもいいし」

 

「ロキのところに貸しを作るのはやだ」

 

「お前らまだどんぐりの背比べ続けてるのか。よく飽きないな」

 

「ふんっ、ロキが懲りずに突っかかってくるだけさっ!」

 

「ん……」

 

 ヘスティアと他愛もない話をしていると、少年がようやく覚醒したようだ。

 

「おはよう、ベル・クラネル」

 

「おはよう、ベル君」

 

「神様……と、あなたはあの時の」

 

「そういや名乗って無かったな。俺の名はハル。自己紹介は手短にいくとして、本題だ。ベル・クラネル」

 

「は、はいっ」

 

「俺やロキ・ファミリアの幹部達が証人だ。お前はしっかりミノタウロスを倒してLv.2になった。おめでとう、ベル・クラネル」

 

「Lv.2になったのはボクが保証するよ。なんたってステータス更新したのがボクだからね!」

 

「……は、はいっ! ありがとうございます!」

 

 状況を飲み込んだ少年が、勢いよく頭を下げる。

 

「ああ、そうだ。なんか困った事あったらギルドで俺の名前を出して。受付嬢は俺の名前知らない事があるから知らなかったらなんとか上の人に確認してもらって。俺が手を貸せる事があったら手を貸すよ」

 

 そう言って、ベルに一つの宝玉を渡す。

 

「こ、こんな高そうなもの受け取れませんよ!?」

 

「そんなに高価なものじゃないし、ただのお守りみたいなもんだ。Lv2に上がったお祝いとして受け取ってくれ」

 

「それじゃあ……ありがたくいただきます」

 

「ポーチにいれるなりなんなり、外に出る時は身につけておいてくれると嬉しい」

 

「よくわかりませんけど、わかりました。常に身につけておきます」

 

「そうしてくれると俺もありがたいや!」

 

 さて、ここから先は主神と2人にした方がいいかな。積もる話もあるだろう、という事で俺は行く事を告げた。

 

「色々と、ありがとうございました。ハルさん」

 

「良いって事よ。未来ある若者に先行投資ってヤツだ」

 

 ベルとアイズを結ばせるのに邪魔になるようなヤツは排除しておかないとね。




もう少ししたら不定期に突入します
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