銀の明星   作:カンパチ郎

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ボタン押し間違えて、編集したものが一度消し飛んだときは、タブレットをフリスビーにして遊ぼうかと思いましたが、なんとか踏みとどまりました。

投稿します。


知らない奴から……特に胡散臭い天然パーマの奴から、物は貰っちゃダメ

 シャイコス遺跡での用を終え、無事にアスピオに帰還した銀時一同。朝早くから出発した銀時たちだったが、アスピオに戻った今、時刻は気づかないうちに、もう正午を通り過ぎていた。しかし、アスピオを離れていたのは、たった数時間だけだというのに銀時は随分と懐かしい感覚を覚える。なんというか、ほっとするというか……。街の住人は、こちらを睨んでは陰口ばかり叩く、腹の立つ奴ばかりで、街の雰囲気も住人共と似つかわしく、暗く陰気くさい。お世辞にも好きとはいえないはずなのだが、なぜか戻ってきて安心している自分が、銀時の中には居た。

 多分そう思ってしまうのは、それだけあの地下遺跡が酷い場所だったからだろう。いや、地下遺跡だけではなく、銀時は前の遺跡でも散々な目に遭っていた。だから、遺跡と相対的に見て、アスピオの評価が上がっているのかもしれない。まぁ、つまり、銀時の心中をシンプルに表すなら、もう遺跡は懲り懲り……、この一言だろう。

 もうちょっとした遺跡恐怖症だ。遺跡と名のつくものには碌な場所はない。遺跡を破壊したい衝動に駆られる。アスピオの街の門へ向かいながら、そんな感慨に銀時が耽っている時、後ろにいたエステルが口を開く。

 

「結局、シャイコス遺跡にフレンはいませんでしたね……」

 

 盗賊団に関する情報は手に入り、ユーリの目的は達せられたものの、エステルの尋ね人、フレンはシャイコス遺跡にはおらず、その後の行方の情報を手に入れることも叶わなかった。結局、シャイコス遺跡での奮闘は無駄骨を折るという形に終わってしまったエステルは失意の念を表していた。

 

「そのフレンって騎士の事ずいぶん気にかけてるみたいだけど……、どういう関係なの? 知り合い?」

 

 何度も何度も同じ名前を呟くエステルを見て、フレンという騎士に少しだけ興味をそそられたのか、側にいたリタがエステルに尋ねた。

 

「知り合いというか、ユーリの友達です」

 

 リタの質問にエステルがそう答えた。

 驚くべきことに、前日にリタの家を訪ねてきたあのフレンという騎士、ユーリの友人らしい。

 礼節正しく、如何にも優等生タイプといった、あの金髪の騎士フレン。それとは、まったく真逆の素行を持つユーリ。その二人が友人……どうにも不釣り合いなコンビだが、まぁ性格が正反対でも、絶対に気が合わないなんてことはないのだから、不思議なことではないのだろう、きっと。

 

「ふ~ん、あいつの友達なんだ。そりゃ相当苦労してるでしょうに……」

 

 あの金髪の騎士がユーリと友人であることを聞いて、リタは半眼でユーリの背中を見つめると、哀憐を含んだ声でそう呟く。

 

「なんの話してんだよ」

 

 後ろでさがな口を叩かれているような気がした話題の中心人物であるユーリは見返りながらリタ達に言う。聞かれたリタは「なんでもないわ」と、訝しむユーリの言葉を軽く振り払うと、言葉を継ぎ、エステルに再び問いかけた。

 

「で、そのフレンってやつがなんでこの街に居るの?」

 

「花の街ハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)を直すために魔導士を探し、ここに来ていたようで……」

 

 エステルの口から出た、ハルル、結界魔導器(シルトブラスティア)、直す、という単語たち。その単語を聞いて、前の日の夕方に来た騎士が、シャイコス遺跡の件以外にハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)の修理に関する用件も話していたことをリタは思い出す。

 そこでようやく彼女は、フレンと言う騎士が前日に自分の家へ訪ねてきた騎士と同一人物だということに気づく。

 

「ああ……! あの堅物そうで青臭い奴……。あたしのとこにも来てたわ」

 

「フレンの様子はどうでした? 元気そうでしたか?」

 

 と、エステルは胸に両手をあてながら、煩慮した表情で彼女へ聞いた。

 

「さーね……。多分、元気だったんじゃない?」

 

 エステルの問いかけにどうでもよさそうな様子でいい加減な応えを返すリタ。

 

「多分って……、適当すぎでしょ」

 

 呆れた声で言いながら、カロルは細くした目でリタを見る。

 彼女はそんなカロルを歯牙にもかけず、話を続ける。

 

「騎士の要請ならとっくに他の魔導士が動いてるだろうし、そのフレンとかいう奴、もうハルルに戻ってるんじゃない? もう一度戻ってみれば?」

 

 リタはハルルの街に一度戻る提案をエステルに持ち出すが「……そうでしょうか……」と、エステルは覇気のない暗い声で、たった一言返すだけ。

 彼女の様子を察するに、まだこれからの行動の指針をどうするかに思い悩んでいる最中なのであろう……。自分の雑然としている考えをまとめ、次なる行動の方針を決めるための時間がエステルには必要だった。

 そんな彼女からリタは視線を外しユーリに向けると、当初の目的である盗人の濡れ衣の払拭を果たすため、確認をとる。

 

「で、あたしたちの疑いは晴れたわけ?」

 

 そうリタに聞かれたユーリ本人はというと、背中を向け黙したままだ。そこでエステルが言う。

 

「リタたちは泥棒を働くような悪い人たちではないと思います」

 

 彼女が言うとユーリはリタたちに向き直り、眉をひそめながら言い放つ。

 

「思うだけじゃ、こいつらがやってないっていう証拠にはならねえな」

 

 そう発言するユーリの様子は、疑いの念をリタたちに向けているというよりは、どことなく意固地になっているだけのように見えた。捻くれ者の彼自身、引くに引けないのだろうか。

 

「そんな――」

 

 頑なに認めようとしないユーリにエステルが抗言しようとした時、リタがそれを遮る。

 

「いいよ、無理に庇わなくて……。でも、本当に盗みなんてしてないから、あたしたち……」

 

 リタは真剣な表情を浮かべ、改めて自分たちの身の潔白をユーリに訴えた。言われた彼は流石に悪気を感じたのだろうか、少女から顔を背け、

 

「……まぁお前らは泥棒なんかより、二人で漫才してるほうがお似合いだもんな」

 

 二人を冷やかしつつ、リタたちの潔白を認めるようなニュアンスの言葉を口から出す。そして、一人で先にアスピオの門の前へと向かって行ってしまった。

 

 そんなユーリの背中を見つめる銀時とリタにエステルが頭を下げる。

 

「ごめんなさい……ユーリは根は優しくていい人なんですよ。ただ素直じゃなくて……人に誤解されるというか……」

 

「素直じゃねーにも程があるがな。ひん曲がり過ぎだよォ彼、有吉が憑依してるんじゃねーのかってぐらいのひん曲がりっぷりだよォ、あれは……」

 

 銀時は腕を組みながら、気だるい表情でエステルに言う。

 

「盗賊のこと警備に連絡してくるから、あんた達だけ先にあたしの研究所に戻ってて」

 

 そう言ってリタは、立ちどまっている銀時とエステルを横切り、門へ向かっていく。

 

「そう言われても、あの怖ーいおじさん達が通してくれないんだよなァ……」

 

 門の両端に立っている街の兵士を横目で見ながら呟くユーリ。

 

「銀時が街の通行書を持ってるから通れるわよ」

 

 リタはそうユーリに応えたが、そこで後を追ってきた銀時が予想外の言葉を言い放った。

 

「あ、わりぃ、あれ便所紙に使っちまったわ」

 

「は……?」

 

 貴重な街の通行書を用足しの紙に使ったと銀時に言われ、目が点になるリタ。

 

「……便所紙ィ!? あんたッ……通行書、便所紙に使ったの!?」

 

 両目を剥きながら、リタは叫ぶ。

 

「ああ、トイレットペーパーが切れてよォ。ストックもなかったし、ケツにう○こ付けたまま厠出るわけにもいかねェから、しょうがなく……。あ、でも心配する必要はねェよ、ちゃんと詰まらずに流れたから」

 

 そう報告して銀時は親指を立てた。

 

「便器の詰まりなんて心配してないのよッ! てか、あんたの頭ん中の方がよっぽど心配だわ!」

 

 頬に青筋を立て銀時に怒鳴るリタ。その隣でエステルが安堵する。

 

「よかったです! トイレが詰まってなくて……」

 

「いや胸撫で下ろすところじゃないから、それ。確かに詰まったら大変だけど」

 

 と、カロルも冷静にエステルの天然ボケにツッコミを入れる。そんなボケが飛び交う混沌とした空間をユーリは神妙な顔で眺めている。

 銀時のペースに巻き込まれていては事態がいつまでたっても動かない、そう考えたリタは大きく深い溜息をついたあと、懐から自分の通行書を取り出し銀時に言う。

 

「もういいわ……。銀時、これ貸すからこいつら連れてって」

 

 疲弊した様子でリタは通行書を銀時に投げつけ、彼はそれを片手でキャッチする。

 通行書を掴んだのを確認すると彼女は街の門の先に足を踏み入れる。そして向き直り、

 

「それじゃ行くから。あと、あたしの許可なくこの街を出ないこと……出たら、ひどい目にあわすから。銀時、あんたはちゃんとこいつらを監視してなさい」

 

 顰めっ面でそう言い捨てるだけ言い捨てて、リタは階段を上がり街の中へ消えて行ってしまった。

 門の前に残された銀時、ユーリ、エステル、カロル、ラピードの一同。

 そこで銀時は一度頭をゆっくり掻くと、まとめるようにユーリ達に言った。

 

「まぁ、そういうことみてェだから、とりあえずあいつの研究所に行こうや」

 

「そうですね。行きましょうか」

 

 と、エステルが銀時に賛意を示し、皆の足はリタの家へと向かい始める。

 

*

 

 銀時を先頭にリタの家へ向かい木製の橋を渡る最中、エステルが心嬉しいといった様子でユーリに声をかける。

 

「でも、本当によかったですね、リタやギントキが魔核(コア)泥棒じゃなくて」

 

 エステルの顔には喜びの笑みが現れていた。しかしながら、そんな彼女とは違い、ユーリの表情は冷ややか。

 

「オレは、別によくもねえがな……。むしろ銀時たちが犯人だったら楽に終わってよかったのによ」

 

 またまた憎まれ口を叩くユーリ。

 

「おーい、ユーリくん。聞こえてるからそれ、俺の堪忍袋の緒も切れかけてるからァ」

 

 言って、銀時は顔を後ろに向けながら鋭い目つきでユーリを睨みつけている。

 額に筋が浮き出ているのを見るに、彼の忍耐も限界にきている模様だ。

 気の長い方ではない銀時にしては、よく持っている方だが。

 

「ちょっと、銀さん怒ってるよ……。いらないこと言うんだから……」

 

 眉をひそめつつカロルがユーリに囁く。が、銀時に睨まれようが、カロルに注意されようが、ユーリの態度が崩れることはなかった。

 

 そんなやり取りをしている間に、もうリタの家の前へ到着していた一行。

 銀時が家の扉を開け入っていく。それに続きながらエステル、ユーリ、カロル、ラピードの順で、三人と一匹もお邪魔をした。

 

 帰ってくるなり銀時は洞爺湖を腰から抜き、家の壁に立てかけると。部屋の奥に行き、今更と言った感じだが頭の怪我の処置に入る。

 ユーリは腕を組みながら壁にもたれ、カロルは床に座った。エステルは姿勢を崩さず、立ったままリタの帰りを待つ。

 

 

 それから四~五分経った時。頭に包帯を巻いた銀時がトレイを持ちながらユーリ達に近づいてきた。

 トレイの上にはいちご牛乳が注がれたコップ二つと、ガラス瓶にポロナミンGと書かれたラベルの貼ってある謎のドリンクが乗っている。

 

「ギントキ……傷は大丈夫だったんですか? 良ければ治療を……」

 

 エステルは銀時の頭に巻かれている包帯を憂患した表情で見ながら銀時に聞く。

 

「なんともねーよ、これぐらい」

 

 銀時は涼しい顔でエステルに返事をすると、コップの乗ったトレイをエステルの前に差し出した。

 

「こんなもんしか出せねーが……飲めよ」

 

 言われてエステルは「ありがとうございます」と、いちご牛乳の入ったコップを手に取る。

 彼女がいちご牛乳を受け取ったあと、次はカロルにいちご牛乳を渡す銀時。カロルもいちご牛乳を受け取り「ありがとう」と、銀時にお礼を言う。

 そして、その二人のあと。銀時は最後に残ったガラス瓶のドリンクをユーリに手渡そうとした。

 

「いちご牛乳二人分しかなくてよォ……。わりぃけどポロナミンGで勘弁してくれ」

 

 言われ、ユーリは手をドリンクに伸ばすが、直前で止まった。

 訝しんだ表情をするユーリ。そんな彼の様子を見て、銀時は片眉を上げながら言う。

 

「心配すんなよ。陰険なOLみたいに裏で雑巾の絞り汁混入させるようなベタな真似はしてねェから……」

 

 そう言ったあと、銀時は微笑んだ。

 そんな銀時の顔を見て、警戒を解いたユーリ。「わりぃな」と、無愛想に言ってドリンクを手に取った。それを確認し、最後に銀時はラピードの横に普通の牛乳が入った皿をおく。おかれてすぐラピードも牛乳を飲み始めた。

 銀時に渡された飲み物を口にしながらリタの帰りを待つユーリたち。

 ドリンクを飲んでいる途中で、ユーリはふと疑問が浮かぶ。このポロナミンGのGという文字だ……。ビタミンCとかのCならわかるが、Gってなんだよ、と思ったユーリは銀時に聞いた。

 

「おい銀時、このポロナミンGのGって、なんだ? 気になるんだけど……」

 

「G-ウィルスのG」

 

 と、銀時。

 

「ブウゥゥゥゥーーーーーーーッ!!!」

 

 聞いた瞬間、ユーリは口に含んでいたドリンクの液体を盛大に噴き出す。

 

「ゲホッ、ゲホォ……なんつーもん飲ませてんだッ! 雑巾の絞り汁なんかより、何兆倍も危険なもんが混入してるだろーが! つーか、どっから手に入れて来たんだよッ、こんな飲みもん!」

 

 咳き込みながら、ユーリは大きくシャウトし、ポロナミンGを床に投げつける。これには流石の彼も動転しているようで。

 

「え? 何……、いきなり怒鳴って……。なんか駄目だった?」

 

 言って銀時は怒鳴るユーリに怪訝な表情を向ける。

 

「駄目に決まってんだろ! ドリンクもてめーの頭もッ! どうすんだよ、飲んじまったぞ! これッ!」

 

 とぼける銀時にユーリは床に落ちたポロナミンGの瓶を指差しながら、声をさらに荒げた。

 

「まぁまぁ、落ち着けって……。これは、めでたいことだよ? 君も晴れてG生物たちの仲間入りを果たしたわけなんだから」

 

 銀時は笑いながら、ユーリを宥める。

 

「めでたくねえよ! オレの元の健康体返せよ!」

 

 まあ、こんな宥め方で怒りが静まるはずもなく、ユーリは頬に筋を立てながら銀時に叫ぶ。

 しかし、銀時はそんな相手にも動じずマイペースに話を続ける。

 

「とにかくよォ、起きちまった事をいつまでも嘆いててもしょうがねェ。嘆くより、これからG生物としてどう人生を歩んでいくか……。それを考えた方が俺ァよっぽど有意義だと思うがね。ポジティブに考えようぜ? これを機によォ、G生物で夏デビューしろよ、応援するから」

 

「なんだよG生物で夏デビューってッ! 聞いたことねーよ! てか、なんで諸悪の根源であるお前が上から目線でオレの人生相談してんだ!」

 

 そんなユーリのまくし立てるようなツッコミも、銀時はやはり華麗にスルーを決め、相手に話の主導権を渡さない。

 

「いいから怒らずに考えてもみろォ。真夏の海辺を変異した体で走り回る自分の姿を。ビーチの視線は、きっとお前に釘付けだよ」

 

「そりゃ釘付けにもなるだろうよ! 変異した体で走り回ればッ! あと、なんでそんな冷静なんだよ! 他人(ひと)の体化け物にしておいて……ッ!」

 

 そう怒鳴るユーリは銀時の理不尽な振る舞いだけでなく、あの平然とした態度と澄まし顔にも腹が立っていたようで……。

 だが、そう言ったところで銀時の態度が変わるはずもなく、銀時は淡々とした口調で切り返し、ユーリにとどめを刺す。

 

「そりゃ、冷静だわな。だって、G-ウィルスのくだり、全部嘘だから」

 

「て、嘘かよオオォォォ!!」

 

 そう大きくシャウトし、ユーリは床に手をつく。顔からは汗が垂れ、度重なるツッコミで体力は消耗していた。その場面を見るだけで、あのメガネの苦労が偲ばれる。

 ユーリの脳内には、安堵、怒り、疲れが入り乱れ、正常に思考を働かすことが困難な状況だった。床に手をついたまま動くことも喋ることもない。ただひたすら肩で息をするだけの彼。

 いままでのユーリの所業にささやかな復讐を果たした銀時は勝ち誇った笑みを表している。正にその様子は威風堂々といった言葉がぴったり。

 

 そんな二人の光景を目撃していたカロルは思った。この坂田銀時と言う男。髪質の捻じれも性格の捻じれもユーリより数段上だと、しかも人を手玉にとり、からかう才能は一級品。

 それを証拠に、あのユーリが自分と同じ弄られキャラのようになっている。

 ユーリを短時間でここまで精神的に追い詰めたその技量に、カロルは身震いする。銀時の姿が悪魔に見えた。そして……、エステルはいちご牛乳に夢中だった。

 

「どうだ、俺のバイ○ハザードジョークは? 気に入った?」

 

「気に入るわけねえだろッ! 人を散々おちょくりやがって……!」

 

しつこく嘲る銀時にユーリの怒声が部屋の中に響くのであった。

 

        *

 

 で、そんな銀時のバイ○ハザードジョークがあってからもう一時間経っていた。

 しかし、その間に家の扉が開かれることはなく、リタは一向に帰ってこない。

 銀時に散々からかわられたユーリはというと、すっかり落ち着きを取り戻し、両腕を頭の後ろにやって、床に寝そべっている。

 カロルはその隣で座り、エステルは辛抱強くずっと立ったままだ。

 銀時は自分の寝床のところで横になりながらケツを掻いていた。

 森閑とした部屋の中、カロルがユーリに話しかける。

 

「ユーリは、これからどこに向かうか決めてるの?」

 

 これからどこに行くのか、そう聞かれたユーリはカロルに顔を向け、迷いなく答えた。

 

「決まってんだろ、魔核(コア)泥棒の黒幕がいる港に向かう。水道魔導器(アクエブラスティア)を盗んだデデッキっていう奴もそこに向かってるはずだしな」

 

「じゃあユーリはノール港に行くんだね」

 

 ユーリの答えを聞いたカロルからノール港という言葉が飛び出す。

 黒幕が潜伏しているのはトリム港……。ユーリはその港に行くとカロルに答えたはずなのだが、なぜかカロルの口からは別の港の名前が出てきた。

 ユーリは怪訝な顔つきでカロルに聞き返す。

 

「あ? いや、ノール港じゃなくて、トリム港って言ってなかったか? あの盗賊」

 

「え? あ! ユーリ、知らないんだ」

 

 これから向かう港の事情について、なにも知らないユーリにカロルは破顔した。

 

「知らないって、どういうことだよ……」

 

 と、そんなカロルの笑い顔にユーリは眉間のしわを濃くさせながら、さらに問う。

 そして聞かれたカロルは、ノール港とトリム港がどういう港街なのかについて、したり顔で説明し始めた。

 

「ユーリは知らないみたいだけど、ノールとトリムは海を隔てた一つの街なんだよ。僕たちが今いるイリキア大陸にあるのが、港の街カプワ・ノール、通称ノール港。そして、お隣のトルビキア大陸にあるのが、カプワ・トリム、盗賊が言ってたトリム港ってところ。このノールとトリムは半分に分かれて、別々の大陸に存在してる珍しい街で、イリキアとトルビキアを繋ぐ出入り口の一つでもあるんだ。だから、トルビキアにあるトリム港に行くためには、まずノール港に行って、船で海を渡る必要があるんだよ。ノール港に行くには、途中エフミドの丘を越えないといけないけど、西に向かえばすぐだから」

 

 長々しい説明を終えたカロル。その顔は妙な達成感に溢れていた。まぁ少年の説明を受けたユーリは特に驚くようなリアクションも取らず、「ふ~ん」と、興味の無さそうな反応を少しばかり示すだけだったが……。

 

 とりあえず説明を聞き終えたユーリはエステルの方へ顔を向けて尋ねる。

 

「エステル、お前は、これからどうすんだ?」

 

 そう突然問われ、エステルは「え?」と、間の抜けた声を出す。

 不意のことに一瞬、質問の内容が飲み込めなかったのだろう。しかし、エステルはすぐに察し、答えた。

 

「あ、えっと、私は、ハルルの街に戻ろうかと……。リタの言う通りフレンが戻っているかもしれませんし」

 

 どうやらエステルもこの待ち時間の合間に向かうべき場所を決めていたらしい。

 

「ふーん、そうか……」

 

 答えたエステルにユーリはトーンの低い声で一言相槌を打つ。それから、ややあって、彼は言葉を継いだ。

 

「じゃ、オレもエステルと一緒に一旦ハルルに戻ろうかね。オレもフレンのこと少しだけ気になるし」

 

 そうユーリが言ったとき、カロルがその言葉に眉間を動かす。

 

「え!? なんでー? そんなのんびりしてたら泥棒たちどっか行っちゃうよ!」

 

 カロルが不服そうな口調で言う。

 ハルルに戻る……。なんて言葉がユーリの口から出るとは思っていなかったのか、その表情には激しい焦燥が表れていた。

 

「そんな焦る必要はねえって。あの男の口ぶりじゃ港は黒幕の拠点っぽいし、それに西ならどうせハルルは通り道だしな。ノール港に行くついでだよ、ついで。」

 

 焦るカロルをユーリは鷹揚に宥める。が、

 

「え~……、でもぉ……」

 

 と、ユーリの考えにカロルは納得がいかず、当惑している。何か事情があるのか……とにかく先を急ぎたくてしょうがないといった様子の少年。

 そんなおかしなカロルにユーリは片眉を上げ、からかうような口調で聞く。

 

「なんだよ、急用でもあるのか? 好きな子が不治の病で、急いで戻らないと危ない……とか?」

 

「……そんな儚い子ならどんなに……」

 

 カロルは表情を曇らせ、暗い声を零す。その時だった、玄関先からドアノブを弄る音が鳴る。そして扉が開かれた。部屋に入ってきたのはこの研究所の主、リタだ。

 警備に無事連絡を済ませ、ようやく家に帰ってきたようで。

 エステル、カロルは帰ってきたリタに目を向け、銀時も扉の音を聞きつけて、めんどくさそうに起き上がる。

 そんな中で唯一、ユーリは目をつむり寛いだままだ。寝そべった体勢を変える気配はない。少女はそんな彼の姿を翡翠色の瞳に映しつつ、低い声で呟く。

 

「待ってろとは言ったけど……、どんだけ寛いでんのよ」

 

 家に帰ってきたリタの第一声。その低い声の中には疲れと呆れが感じられる。

 

「おかりなさい、リタ。泥棒の方はどうなりました?」

 

 リタに出迎えの声をかけながら、エステルが地下遺跡にいた泥棒の顛末について尋ねると、

 

「さぁね。今頃、牢屋の中で、ひ~ひ~泣いてるんじゃない?」

 

 彼女は腕を組み、いい気味といった様子でエステルに答える。

 

「随分と帰りが遅かったなァ、一時間もなにやってたんだ?」

 

 と、銀時は子指で耳をほじりながら、気の抜けた声でリタに問いかけた。

 

「アホの誰かさんが通行書を便所紙に使っちゃったもんだから、再発行するために時間がかかったのよ」

 

 そう言ってリタは銀時の前に立つと。服のポケットから新しい通行書を出し、銀時に手渡そうとする。そして彼がそれを受け取ろうと手を出した時だ。

 何故かリタは銀時の手に渡る直前で、通行書を持った自分の手を引く。

 リタの謎の行動に顔をしかめる銀時。そんな彼にリタは凄んだ声で警告した。

 

「次……、通行書を便所紙に使ったら便器に流すから……、あんたを」

 

 そうリタに脅された銀時は顔色を変えることもなく「わーってるよ」と、煩わしそうな様子で返事をする。

 そして、分かってるんだか分かってないんだか、よく分からない銀時の返事を聞いたリタは半目になりながらも、とりあえず通行書を彼に渡した。

 通行書を貰ったついでに銀時は小さな疑問をリタにぶつける。

 

「でも、よくこんな簡単に再発行できたな。結構、そういうところユルユルなの? この街……」

 

「あたしが、脅しつけ――。頼み込んで特別に発行してもらったのよ」

 

 平然とした様子でそう答えるリタだが、一瞬物騒な言葉が混じっていた。訝った顔で銀時がつっこむ。

 

「あれ? 今脅しつけたって言いかけなかった? ごまかしたけど……言ったよね、今」

 

「言ってないわ。気のせいよ」

 

 リタは即座に、戸惑いの表情一つ見せず、事も無げにそう切り返し顔を背ける。

 黙りこむ銀時。そんな様子を見て頃合いと感じたユーリは起き上がり、リタたちに言った。

 

「疑って悪かったな……。銀時、リタ」

 

 意外や意外、ユーリの口から出たのは、素直な謝罪の言葉だった。

 いきなりの謝罪。そしてユーリの素直さに銀時は表情にこそ表さないが、内心驚く。

 あれ、なにこの素直な生物……。あれ、こいつ別人じゃね? といった自分自身の声が銀時の脳内を飛び回っていたが、そんな銀時の側でリタは無表情のまま驚くこともなく、抑揚のない声でユーリに言葉を返す。

 

「軽い謝罪ね。まぁ、こっちもそれなりの収穫があったから別にいいけど……」

 

 言いながらリタは、何かを確認する様に謎の公式が書かれた黒板とエステルを交互にまじまじと見る。

 

「どうしたんですか? リタ」

 

 リタに視線を送られ、エステルは不思議そうな顔をしながら問うが、

 

「んじゃ、長居もあれだし、オレたちもう行くわ。随分と世話かけたな」

 

 と、そのエステルの問いはユーリの言葉によってかき消された。

 

「なに? もう行くのあんた達?」

 

 リタがユーリたちに聞く。

 

「ああ、連れが急用みたいだし、ハルルにも寄らないといけないしで、色々やることがあるんでな。出来るだけ急ぎたいんだ」

 

 腰に手を当て、口元に軽く笑みをこぼしながらユーリはそう答えた。

 

「リタ、ギントキ。二人に会えて本当によかったです。急ぎますので、これで失礼します。お礼はまた後日」

 

 エステルは御辞儀をしながら丁寧に銀時とリタに別れの言葉を送る。

 

「そうかい、達者でな。ユーリ、エステル、カロル、ラピード」

 

 銀時も頬笑みながら、これから旅立つ皆の名前を呼び、別れの言葉を送る。それに「うん!」と、カロルが元気良く、頷く。そして、銀時は続けた。

 

「絶対に一人たりとも欠けることなく、この地に戻ってこい。約束だぜ」

 

 真剣な顔つきで、銀時はそう言った。口調も先より重くなっている。そんな銀時の様子にオーバーだなと、少し、戸惑いながらも、カロルは「え? えっと……う、うん!」と、相槌を打ち続けた。

 

「特にカロル……お前は死ぬんじゃねぇぞ……家に嫁さんと、生まれたばかりの赤ん坊を……残してるんだから……」

 

 言って、とうとう銀時はカロル達から顔を背け、その表情に暗い影を落とす。口調もメチャクチャ重々しい……。

 

「いや、設定勝手に付け足さないでよ。なにその露骨なフラグ建築! 銀さんボクたちを物語に殺させようとしてるでしょ」

 

 そこでようやくカロルがつっこんだ。

 

「え? そういうんじゃないの? 戦場に死にに行くとかそういうんじゃないの? 行かないの? 戦場に……」

 

「行かないよッ! 行くわけないじゃん!」

 

 怒鳴って唾を飛ばすカロル。少年につっこまれた銀時は納得がいかない様子で嘆く。

 

「え~……だってよォ、ちょっと前の地の文に『旅立つ』って書いてあるもんだから、俺ァ、てっきり……」

 

「いや、確かに旅立つって書いてあるけどもッ! 違うよ、旅立つって言っても天国に旅立つって、意味じゃないから! 深読みしすぎだからッ! もう! ハァ……ハァ……」

 

 休む暇なく息を切らし、カロルはつっこみまくる。その間にも彼の疲労とツッコミスキルは、どんどん上昇していく。

 

「んだよォ……俺の勘違いか……。なんか無駄に疲れちまった」

 

「あんたの周りの人間の方が、百倍疲れてると思う」

 

 疲れたと気だるい声で呟く銀時に、リタは腕を組みながら冷静にツッコミを放った。

 そんな彼女に構わず、銀時はマイペースに仕切り直し。

 

「まぁ悪かったな、俺の勘違いのせいで、締めの場を引っ掻きまわしちまって。改めて、別れの言葉を言わせてもらうわ、元気でな、お前ら」

 

「元気でなって言われても……、アンタのボケのせいでもう既にカロルの元気がなくなりつつあるんだけど……」

 

 隣の疲れ切ったカロルを見て、ユーリが言った。

 そして溜息をつきながら、言葉を継ぐ。

 

「はぁ~、まぁもういいわ。とにかくオレたち、行くから。来い、エステル、カロル」

 

 ユーリはそうまとめると玄関の扉を開け、家の外に出ていった。ラピードも彼が外に出たのを確認すると、それについていく。

 

「ボク、終始銀さんに振り回されっぱなしだった気がする……」

 

 カロルは力なくそう言って、ユーリに続く。

 そんな少年にエステルは苦笑いしながらも深いお辞儀をし、家を出て行った。

 こうしてユーリ一行は、銀時のいらないボケの餞別を受け取り、リタの家を後にするのだった。




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