銀の明星   作:カンパチ郎

11 / 22
編集が終わったので、最新話投稿させていただきます


食虫植物とか奴ら抜かしてるけど、虫なんかほとんど食わないからとんだ詐欺師だよ

 濡れ衣晴らしも済み、三人と一匹が出て行ったリタの部屋にはすっかり静けさが戻っていた。そして二人はというと……。

 

「まったく、とんだ朝だったぜ……。わりぃが二度寝させてもらうわ」

 

 ユーリ達を見送り、一段落ついた銀時はあくびをしながら背を伸ばすと、寝床に向かおうとしていた。

 朝の騒動からずっと動きっぱなしで、睡眠もあまりとれていなかったのだ。彼がその行動に走るのは、まぁ当然だろう…………いや、この男の場合、朝の騒動がなくても同じだった可能性も十分あるのだが……。

 銀時がそうして寝床の前に立った時だ、リタから予想外の言葉が掛かる。

 

「銀時、あたし決めたわ、あいつらについて行く、あんたも来なさい」

 

「あぁ!?」

 

 思いがけぬ言葉に銀時は驚きの表情も隠さずリタのほうへ振り向いた。

 

「おいおいちょっと待てや。いきなりなに言ってんの? 意味わからねーんだけど」

 

「言葉の通りよ。あいつらに同行するのよ、二つ程確かめたいことができたから」

 

「だから意味わかんねーって。確かめてぇことー……? んだよそれ?」

 

 怪訝な顔つきで質問を浴びせる銀時の表情には、少しばかりの動揺が見てとれた。そんな彼にリタは淡々とした口調と表情で返答をする。

 

「壊れたって言うハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)のことと、あともう一つは……そうね……それは説明が長くなるから後で言うわ」

 

 歯切れの悪い様子でそう言い終えた彼女に銀時は溜め息を吐き、また質問を注ぎ足す。

 

「……また後で……か、俺の災厄探しはどうなんだ?」

 

「災厄探し? ああ、情報なら外で集めれば? あんたの様子見る限り、やり方が合ってないのか早くも行き詰まってるっぽいし、なんの手応えも感じないなら早々に切り上げて、手段を変えるのも一つの手でしょ、ダメだったらダメでまたここに戻ってくればいいだけだし、違う?」

 

 外での情報収集に切り替えたらどうか。上手く転がそうとしてくるリタに対して銀時は不愉快さを覚える。されど否定の言葉を出す気にもなれなかった。確かにそうなのだ、限界を感じてる訳ではないが停滞気味というか……底のない沼に手を入れてる感覚に銀時はずっと襲われていた。

 そんな状態で続けても精神をすり減らし、効率もさらに悪化する可能性のほうが大きい。

 それならばいっそ、取る方法を大幅に変えてしまうというのも空回る危険性があるとは言え、悪い考えではないし、そもそもリタ以外に頼りのない現状、自分があれこれ選択肢を選べるような立場にいないことは銀時も重々理解はしていた。

 

 ほんの少し長く間が空いてから、銀時は組んでいた両腕を解き頭を掻くと、口を開く。

 

「……まぁ、確かに外での活動のほうが俺には向いてるわな。行き詰まってるのも否定できねぇし」

 

「そうでしょ、行くって事でいいのね? その返答は」

 

「……狐につままれてる気分だが……。まぁ、ものは試しだ、ついてくよ」

 

 釈然としないままの自分の感情を押し込み、銀時は寝床の近くの壁に立てかけていた洞爺湖を掴み、腰に差す。

 

「決まりね、じゃあ、あいつらが街を出る前に追うわよ」

 

 リタの言葉に銀時は「ああ」と軽く相槌を打ちつつ、扉のほうへ向かう。リタもその背中をゆっくりと追いかけた。

 

 こうして二人はユーリ達と合流するために部屋を後にしたのである。

 

 

*

 

 

 アスピオの広場に着いた銀時とリタ。そこには探すまでもなく、見覚えのある三人と一匹の後ろ姿があった。

 二人がユーリ一行に近づくと気配に気づいたのか、すぐにカロルが振り向く。それにつられて残りの二人もこちらに顔を向けてきた。

 

「あれ? 銀さんとリタ。どうしたの?」

 

 不思議そうな表情で二人に問いかけるカロル。銀時は、いやぁ、ちょっとな、と軽く一言挟みつつ、早々に本題を切り出す。

 

「急な申し出でわりぃんだがよ、俺たちもお前らについてって構わねぇか?」

 

「え?」

 

 予想だにしない銀時の言葉に思わず口が()くカロル。

 

「一体どういう事だ?」

 

 ユーリが会話に割り込む。顔にこそ出さないが、口調から少し警戒してる様子が察せられた。

 

「いやぁ、リタの奴がよぉ、自分らに濡れ衣被せた連中にやり返さないと気がすまねぇって言って聞かなくてな。じゃあ、今から一緒にこれから一緒にそいつを殴りに行こうかって、YAHYAHYAHしに行こうかって、なぁチャゲ」

 

「誰がチャゲよ」

 

 鋭い目つきで突っ込むリタの頬には筋が浮いている。

 銀時が事前に用意していた、それっぽく適当に並べ立てた同行への理由。それを聞いたユーリは手を顎にやると、

 

「なるほど、濡れ衣被せの泥棒どもにお灸をすえたいってわけか……構わねえが、勝手に持ち場離れていいのか? リタ、お前ここの魔導士なんだろ?」

 

 ユーリの疑問は当然のものだった。

 リタは帝国直属の魔導士だ、法的には帝国の貴重な人材であり所有物。長期でアスピオを離れるとなると、騎士の緊急要請でもない限り、帝国への事前の知らせとその許可は必須のものとなるだろう。痛いところを突かれ、口ごもるリタ……、とはならないのが彼女だ。そんなことは知っているし、ユーリの問いも想定内のもの。表情一つ変えず切り返す。

 

「あんたが気にする事じゃないわ、何かあったらすぐ戻るし、仮に処罰を受けることになってもあんたらには迷惑かけないから。それにハルルに寄るんでしょ? そこの結界魔導器(シルトブラスティア)のことも気がかりなのよ、壊れたまま放っておくわけにもいかないでしょ」

 

 リタがそう言い終わったとき。

 

「ああ、ハルルの結界魔導器(シルトブラスティア)ならボクらで直したよ」

 

 と、カロルが信じられない返答を放つ。なんの技術も知識も持たぬ人間が特殊機構の結界魔導器(シルトブラスティア)を直した、軽く言うカロルにリタは眉間にシワを寄せ、

 

「はぁ? 直したってあんたらが? 素人がどうやって?」

 

「よみがえらせたんだよ! バーンとエステル――」

「素人の力も侮れないもんだぜ」

 

 ユーリが途中でカロルの言葉をかき消すように声を被せる。どうやら聞かれたくないことだったらしい、だがリタはしっかりとエステルという言葉を聞き漏らさなかった。

 

「侮れない……ね、ますます心配。本当に直ってるか確かめに行かないと」

 

 エステルが結界魔導器(シルトブラスティア)に何かしたのは決定的だった。リタはそう確信しつつも表には出さない。今、無理に問いただしてもはぐらかされるのは目に見えるからだ。

 

「どうあってもついて行く気か……カロル、エステル、おまえらはどうなんだ?」

 

 リタの意志を曲げれないと早々に理解したのか、ユーリは二人に問いかけた。彼も気楽な一人旅という訳ではない。自分の一存だけでは決められないのだろう。

 

「ふふ、構いませんよ! ギントキやリタがいれば、旅の道中も心強いですし」

 

 と、嬉しそうに両手を合わせながら、純真な笑顔で快く受け入れるエステル。

 

「ボクも全然いいよ。旅はにぎやかな方がいいしね、まぁ人数が多くなってボクの戦闘での獲物が減るのが懸念だけどねー」

 

 そう強気な態度を取るカロルだが、当然タダの見栄である。懸念という発言とは裏腹にカロルの心は安堵に包まれていた。

 リタはもちろん、あの化け物じみた戦闘力を持つ銀時が味方になるのだ、ユーリと銀時、この二人がいれば大抵の危険は退けられる、彼からすれば断る理由などない。

 

「そうか。ま、断る理由も特にないしな、勝手にしてくれ」

 

 エステルとカロルの後押しもあってか、ユーリも銀時達の同行を認めたようだ。

 話が落ち着いたのを見て、エステルが嬉しそうな様子でリタに歩み寄る。

 

「な、なによ!?」

 

 リタはエステルの表情に戸惑いを見せる。向けられたことのない顔だったのだ、嘲笑のようなバカにする笑い顔ではなく、まっすぐ喜びを表した曇りのないその笑顔。人に悪意や恐ればかり向けられてきた彼女からすれば慣れないもので……。動揺するのも仕方がないのだろう。

 

「わたし、同年代の友達は初めてなんです! よろしくお願いします!」

 

「友達!? あんたなに言って……」

 

 リタは頬を赤くしながら、思わず目を逸らしてしまう。それを見てエステルとは対照的な冷やかす気満々、えくぼ丸出しのゲスな笑みをのぞかせる銀時。

 

「じゃあ、行くか」

 

 と、ユーリが出発を促すと、銀時とリタを加えた一行の足はアスピオの出口へと向かっていく。

 目指す場所は花の街ハルル。旅の先には数えきれない困難が立ちはだかるが、知る由もなく。

 奇妙さに一層拍車が掛かった一行のドタバタ珍道中は、こうして始まったのだ。

 

 

                  *

 

 

 アスピオを出た一行は、ちぎれ雲が浮かぶ晴れ晴れとした空の下、ハルルヘと続く街道を歩いていた。

 まぁ街道と言っても、銀時が住む江戸の街道のようなコンクリート舗装がされた立派なものではない。

 雑に整地された淡黄色の土道で、両脇には草原との境界を隔てる為だろうか、まばらに木の柵が置かれているだけ……とても粗悪なものだ。魔物の存在もあってか、外のインフラは十分に整っていない様子。

 しかし、道は粗末でも周りの風景の迫力は江戸の高層ビル群にも引けを取らないものだ。

 広大な丘の草原は絨毯のようにどこまでも広がり、遠くには背の高い木々が群生している森林や、大きな樹海がいくつも点在している。そして、それらを見下ろすかのように巨大な岩山の群が遠方にそびえ立っていた。

 この光景を目にしただけでも、テルカリュミレースがどれほど広漠とした世界なのか、十分に伺い知れるだろう。

 

 さて、一行はというと……。ユーリ、エステル、カロルの三人がなにやら談笑しているようなのだが。

 何故かエステルが目を輝かせながら、ものすごく楽しそうに話しているその横で、カロルは困り顔でため息を吐いている。それに面白そうにユーリは茶々を入れてるご様子。

 表情から察するに彼にとってバツの悪い話題で盛り上がっているようで。そんな三人を後ろで見ながら、銀時も隣にいるリタにバツの悪い話題をふっかけていた。

 

「いや~、にしても良かったな。お前にも友達できて」

 

「うっ……!」

 

 気が抜けていたのか、銀時の発言に一瞬たじろぐリタ。また頬が少し赤らむ。

 

「よ、良くないわよ、相手が勝手に友達って言ってきただけで、その……迷惑……よ……」

 

 と、彼女はポーカーフェイスを装うってるつもりらしいが、明らかに照れ丸出しである。

 

「なに意地張ってんだよ。お前と友達になるって血迷ってくれてんだぞ? こんな超常現象もう二度と起こらねぇよ、最初で最後のチャンスだ。なっと――ケェェェェェイァッごほぉおっ!」

 

 そこまでだった。

 音速を超えた速度でリタの腰の本が銀時の顔の中心部分にめり込み、鈍い音が周囲に弾けると共に銀時の断末魔が……。

 めり込んだ本が彼の顔面からポロリと落ちると、鼻血がナイアガラのように流れ始める。銀時は鼻を両手で押さえつつ、

 

「お、落ち着けって……俺ァ、お前の将来を危惧してだな……。このままダチの一人もいないんじゃ、老後お花と会話して過ごすことになるぞ。いいんか? それで……」

 

「老後……、確実にアパートで変死してるであろうあんたに心配される義理はないのよッ!」

 

 怒りで口元をヒクつかせながら、リタは顰めっ面で銀時にメンチを切ると、さらに彼の片耳を手で引っ張る。いだだだだっと痛がる銀時。リタにいらんちょっかいを掛け、制裁を喰らっていると、そんな後ろの賑やか、もとい騒がしい様子に気づいたのだろう、エステルが笑顔で後ろを振り向く。

 

「リタ、ギントキ、なにやってるんです! 二人もこっちに来ましょうよ!」

 

「おう、今行くわ」

 

 大きく手を振るエステルに銀時も小さく手を振り返しながら答えると、リタと一緒にエステルたちの方へ寄っていく。

 

「今、カロルの想い人の話をしてたんですよ!」

 

 二人に微笑ましい表情で先までの談笑の内容を説明するエステル。するとカロルが慌てふためき、会話に割り込む。

 

「あ、ああ! エステル!! もういいって、その話は! お終いにしようよ! ねっ! はい、お終い!」

 

 カロルの額には尋常ではない冷や汗が。

 

「なに? お前ら恋バナなんかしてたの? それなら俺にもいちご100%みたいな甘酸っぱい初恋話があるぜ。昔ヤクザの女に初恋をしてよ、手を出してよ、危うく江戸城の掘りに沈められかけ――」

 

「銀さん、それ恋バナじゃない……。ただのVシネ。いちごじゃなくて、かかお100%だから」

 

 カロルが肩を少し落としながら、低い疲れ声でつっこむ。期待していたリアクションとは真逆の反応に「あり?」っと、不思議そうな表情を浮かべた銀時は、

 

「なんかダメだった?」

 

「ギントキ……それはちょっと……。なにかもっと、こう……胸をキュンキュンさせる話はないんです?」

 

 困ったような笑みを浮かべつつエステルが言う。

 

「俺はそん時、心停止すんじゃねーかってぐらい胸がキュンキュンしたんだけどな。それでもダメ?」

 

「ダメに決まってんだろ。どこの世界に城の掘りに沈めかけられるラブロマンスがあんだよ」

 

 と、ユーリ。容赦ない拒否に銀時は困った様子で頭を掻くと、

 

「んだよぉ……。これがダメなら、もう猥談ぐらいしか話すことねーぞ、俺」

 

「話さなくていいから、あんたは一回死んで人生をやり直しなさい」

 

 真顔でバカを言う銀時に、リタが鋭いツッコミを突き刺す。

 

「まぁ、こいつにまともな恋愛話なんか求めるほうがお門違いだわな」

 

「うん」

 

 半目の呆れ顔でそう言い捨てるユーリにカロルが残念そうな顔で同調する。

そんな銀時の馬鹿話に振り回されながらも、一行は足を休めず歩き続ける。

 

*

 

 

 銀時たちがアスピオを出てニ時間経ち、皆、足に疲労を感じ始めた頃だろうか。目の前に鬱蒼とした、森林地帯が視界に入った。どうやら街道は、その先の中へと続いているようで。

 カロルは森を見るや、表情が明るくなった。ここさえ抜けてしまえば、ハルルの街はすぐ近くだからだ。この調子ならば、昼の内にはハルルへ着けるだろうか。

 

「あれだよ! あの森を抜ければ、ハルルはすぐそこだよ!」

 

 と、カロルが元気よく森を指さす。それを聞くと一行の足は自然と速くなった。

 

 街道を進み、森の中へ足を踏み入れると、ヒンヤリとした空気が一行を包む。背の高い木々が、日光を遮っているせいだ。と言っても、けして暗いわけではなく、日の光が木の葉の隙間を通り抜いて差し込み、木漏れ日を形成しているおかげで、森の街道はとても明るかった。

 それと当然のことではあるが、今ここにいる生き物は銀時たちだけではない。

 遥か頭上、樹木の枝葉には小鳥たちが止まっていて、歌うように囀りが交わされるそこは彼らの住処となっている。

 そして、下には草食系の大人しい魔物たちが。何種類かいるようで、それぞれ独自の営みを行っているようにも見える。大変興味深いものではあるのだが、しかし。それにばかり目をやる余裕はない。

 何故ならば、街道は荒れていて、獣道のようになっているから。歩けないほどではないが、足下には注意を払わなければいけないのだ。

 心地よい鳥の声を聴きながら木漏れ日を浴びて、一行は奥へ奥へと進んでいくと。

 

 やがて水の流れる音が、耳穴へ入ってきた。

 清流だった……。小さいものではあるが、疲れた足を休めるには十分なもの。ユーリは足を止めて。

 

「ここらで少し休むか。みんな疲労も溜まってきてんだろ」

 

「賛成ぇ~…………、足が棒みたいだわ」

 

 疲れきった表情のリタ。自身の足を締め付けていた忌々しいブーツを脱ぐと、彼女は両方の足首を清流に浸けた。水の冷たさが心地いいのだろう、リタの表情は途端に緩む。

 

 男組も適当に座れそうな岩を見つけると腰をつけて、銀時は気怠げに、張った足を手でほぐし始めていた。

 

 リタが一人離れた所で涼んでいると、近づく気配が。リタが振り向く。

 

「隣、いいです?」

 

 リタの視界に映ったのはエステルだった。彼女の緩んでいた表情がほんの少しだけ強張る。

 

「いいけど……べつに」

 

 そう言ってリタは向けていた顔をエステルから背けた。素っ気ない態度。だが彼女を拒絶するようなことはしない。

 

 エステルは厚ぼったい自分のブーツを脱いでリタの隣に座ると、両足首を水の中に入れた。リタと同じようにエステルのかわいらしい顔が綻ぶ。

 

「はぁ~、冷たくて気持ちいいですね、リタ」

 

「そうね」

 

「……そういえば、リタはアスピオで研究をしてる魔導士なんですよね?」

 

 親睦を深める第一歩は、まず相手を知ること。エステルはリタ自身のことを知りたいのだろう、水の中の足を楽しそうに揺らしながら、早速と言った様子で質問を投げかける。

 

「そうよ、もう五年ぐらいになるわね」

 

 平然とした面持ちでそう答えるリタだが、エステルは五年という言葉に頭を傾げる。

 ……長すぎるのだ。明らかに年端も行っていない彼女なのだが、五年も帝国の魔導士をやっているとなると……。

 エステルは頭の中の混乱を抑え込んで、恐る恐ると言った様相で聞く。

 

「……五年って……あの、リタって歳はいくつです?」

 

「ん……? 十五だけど、それがどうかしたの?」

 

 リタの歳を聞いて、内心とてもショックを受けるエステル……。わずか十歳で帝国魔導士になるだけでなく、優秀なアスピオの魔導士たちを差し置いて、第一線で活躍するリタ。

 それに比べて年上の自分は……。エステルの肩が、がっくりと沈む。

 

「……し、しっかりしてますよね……。十歳で、もう魔導器(ブラスティア)の研究をしていたなんて…………」

 

「そう? ていうか、エステリーゼ、あんたはいくつだったっけ?」

 

「えと……、今年で十八になりました……」

 

 情けない様子でエステルが答えると、ジト目になるリタ。

 

「……ふーん、そりゃしっかりしないとね」

 

「そ、そうですね……。あの……頑張ります」

 

 ロクに返す言葉もないのか、エステルは弱々しい声で、そう返事をするのが精一杯。

 二人の様子を見るに、現状は対等な友達関係を構築するのは難儀のようだ。 

 

 歳の話をしているとリタは、あ、そうだ……と思い出したように銀時に声をかける。

 

「そういえば銀時、あんたの歳はいくつだっけ?」

 

「ああ? 歳? 二十七だけど」

 

 銀時の気の抜けた声が返ってくると、

 

「…………あいつは、もう手遅れね」

 

 リタが冗談混じりの口調で毒を吐き出す。もちろん小声で聞こえないように。それを聞いて、隣にいたエステルは「ふふ」と軽く微笑んだ。

 

 

 それからしばらく時間が経ち、一行の足の重さも取れてきた頃。ラピードと共に休んでいたユーリが立ち上がり。

 

「おい、みんな! もう休みも十分取れただろ。そろそろ森を出ようぜ」

 

「あ、はい! 行きましょうか、リタ」

 

 言って、エステルは足を水から出した。持っていた手頃な布で濡れた足を拭うと、隣のリタにどうぞと手渡す。

 

「あ、ありがと」

 

 と、リタは布を受け取り、足についた水滴を軽く振り落としてから布で拭くと、ブーツに手をやる。

 

 そんなこんなリタとエステルが出発の準備をしている時だ、座っていた銀時がなにか異常に気づく。自分の近くの横の岩、そこに凭れ掛かって休んでいたはずのカロルが突然消えていたのだ。

 

「……あれ? おい、ガキどこ行った?」

 

 銀時が疑問を発したとき、上から透明な粘液が垂れてきて彼の肩にべったりと付着した。眉をひそめた銀時は、頭上の木へ目を向ける。

 すると、全長ニ、三メートルはあろうかという、紫の体色を帯びた、巨大なハエトリグサのような生物が視界に入ったではないか。

 

 粘液が垂れる巨大な口からは、カロルと思しき足がはみ出ており、必死にバタつかせていた。銀時はキョトンとした表情で目をパチクリさせる。

 

「……おい、カロル……。いくら休み取って元気になったからって、そのはしゃぎ方はねーよ、流石についていけねェ」

 

「いや、どんなはしゃぎ方だッ!! 魔物に食われてんだよ、それ!!」

 

 銀時のボケに即座にツッコミを叩きつけると、ユーリはニバンボシを鞘から解き放ち、抜き身に。

 エステルとリタの二人も身構える。臨戦態勢をとる一行だが、あざ笑うかのように状況は更に悪化していく。

 数多の木々の合間を縫って、同じハエトリグサの魔物が大量に姿を表したのだ。

 銀時たちはあっという間に包囲され。

 

「……あっ、あ~……、なるほどね~。とりあえず、まずい状況って事だけはわかったよ」

 

 引きつった声でそう言うと、銀時の頬に汗が垂れる。

 不運なことに、彼らが入った森は特定の時間帯に行動を活発化させる肉食植物の巣になっていたのだった。




12話は出来次第投稿いたします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。