14話ができたので投稿します。
「間に合ったみたいね」
と、平坦とした声音だったが、銀時の窮地を救ったリタの表情には微かに笑みが出ている。
「お、おめーら……」
分かれたメンバーは森からとうに出ているだろうと思い込んでいた銀時。彼は口を少し開けながら、驚いた面持ちで森に反響するリタの声を耳に入れていた。
どうやら奥地へと消えた二人を見捨てていくことができなかったのであろうユーリ達は、森を出ることより、二人のあとを追うことを選んだようで。ここまで必死に追いかけてきたらしい。
二人の生存を確認したユーリ達は銀時とカロルのもとへ、急ぎ走り寄っていく。
その接近する足音を感知し、プランダラーグラス三匹が大顎を開けて、ユーリ達へ手荒い出迎えを仕掛けた。蛇のように胴体を這いずらせながら、先頭のユーリヘ一匹が突っ込むが、
「どけよ……! 邪魔だ!」
睨みながら低い声で敵を威圧すると、ユーリはニバンボシを構え、斬る体勢を取った。
プランダラーグラスは顎を突き出して、ユーリの体を捕らえようとするが、彼は体を横に逸らしよけて、そのすれ違いざまにニバンボシの刃を敵の胴体に振るい、叩き斬る。
ユーリが、斬り捨てた魔物から前方へ視線を戻すと、更にもう二匹のプランダラーグラスが映し出される。直後、
「スターストローク!」
エステルはレイピアを振るい上げた。その切っ先からは地を這う斬撃波が生じ、ユーリの横を通り過ぎていく。それと共にラピードがユーリの背後から横に飛び出すと、その強靭な顎と鋭利な牙で二匹目を瞬時に噛み砕き、彼女の斬撃が残る三匹目を破砕した。
エステル、ラピードのカバーを受け口元を緩めるユーリは、リタ、エステルと共に一気に銀時たちの前へ躍り出た。
魔物たちを遮るように銀時とカロルの前に立った三人と一匹。みんな頼もしく二人に背中を向けている。
「よぉ、元気だったかぁ? カロル」
「う、うん……!」
背を向けながら、カロルに笑んだ横顔を見せるユーリ。その少し離れた隣でへばっていた銀時が起き上がると、
「おめーら、なんでここに居やがる。先に出てろって言ったろ」
「しょうがないでしょ、どっかのお人好し二人があんた達を追うって聞かな――」
リタがうしろを振り向き、銀時の問いに言葉を返そうとした。が、途中で止まってしまう。それも当然。血が盛大に吹き出ているのだ。木片がぶっ刺さった彼の頭のてっぺんから……、引くほど。まるで血のスクリンプラーである。
その光景には流石のリタも焦りと困惑の表情を浮かべていて。
「あ、あんた……、それ大丈夫なの!? 頭、新手の水芸みたいになってるわよ」
「あぁ、これ? なんともねーよ。むしろ頭ん中に詰まってた余計なもんが抜け出て、気分いいぐれーだ。新世界へ至った気がするわ、目に見えるものすべてが見違えて見えるぜ。花畑が見える。あと、デッカくて綺麗な川も……」
「全然大丈夫じゃねえだろ、このままじゃ本当に新世界へ逝っちまうぞ。エステル頼む」
お迎えが来る直前の銀時を見かねたユーリは、エステルに治癒術を掛けるよう促す。「は、はい!」と、彼女は頷くと銀時のそばに寄り、座らせ、治療を始めた。
「ギントキ、しっかりしてください!」
銀時に呼びかけながらエステルが治癒術を発動させると彼の体を光が包み、頭の傷が癒えていく。そんな中、カロルが申しわけ無さそうな顔つきで銀時に寄っていった。
「銀さん、ごめん……ボクのせいで……」
「馬鹿野郎、謝ってんじゃねぇよ……。今、てめーがやるべきことは頭を下げることじゃなく……、仲間のために全力で戦うことだ」
「銀さん……」
顔色は悪く脂汗が出ていた。それでも彼は仲間のために敵の前へ出る。そして、
「頭上げろォ、カロル! 前向かなきゃ見えるボールも見えなくなっちまうぞ!」
「いや……、本当になにが見えてるの? 銀さんには」
怪物の目の前でなぜかバッティングフォームを取る銀時に、冷や汗を流しながら困惑するカロル。そして悲痛な面持ちで頭を抱えると、
「……どうしようッ!? これ銀さん完全に壊れちゃってるよ!! ボクのせいだッ!」
「まぁ、元から壊れてるって言えば壊れてる奴だったけどな」
焦るカロルとは対照的にユーリは落ち着き払った様子で失礼な一言。
「んなこと言ってる場合じゃないでしょ! どうすんのよ!? コイツ
目の前の魔物やポンコツ化した銀時、面倒な状況に苛ついているのだろう、リタは顰めっ面でユーリを怒鳴りつけるが。
「そう言われてもなぁ……」
どうしたものかと、ユーリは半目になりつつ、少し困惑した顔で自信の腰に手を当てるばかり。その時だった。
「ギシャァァァァアアアッ!!!!!」
周囲で様子を窺っていたプランダラー達が一斉に金切り声をあげた。
異形の声に弛緩していた空気が破れ、一行の顔付きが張り詰めたものへと変わる。瞬間、奴らの群が一気に襲い迫るッ。
「うわわッ! 襲ってきたァ!!」
「チッ! ゆっくり話してる場合じゃねえかぁ……!」
カロルの焦り声を浴びながらユーリは、エステル、リタ、ラピードと共に魔物たちとの交戦を開始する。
いくつもの剣閃が舞い始め、斬撃音と魔物のけたたましい喚きが入り乱れると、あっという間に一つの修羅場が完成していく。その
「銀さん、この状況で何やってるの!? なんの幻覚見てるの!? それッ」
「नितम्ब,दर्दनाक……को सबसे खराब」
「ええぇッ!? なんか変な言葉返ってきた! どうしよう、みんなッ! 怖いよ、ボク!」
困り果てたカロルに助けを求められるユーリ達なのだが、
「ぐゥッ……! 助けてやりてえのは山々だが……、いま
プランダラーの大顎を刀で受け止めながらそう返すユーリは、苦しげに眉間を歪ませていて、他に構っていられる状況ではない。そんな時、エステルが叫ぶように言った。
「ユーリ! リタ! ラピード! 上級魔術を撃ちます! 時間を稼いでください!」
「ちょッ!? おい! エステル!」
エステルの不意の申し出に狼狽するユーリ。しかし、彼女はすでに後ろへ下がり、詠唱の準備に取り掛かっていた。
足元に魔法陣が展開され、エステルの周りに光の粒子が舞う。こうなれば彼女は完全に無防備な状態となり、ユーリ達のカバーは必須になる。
「まったく……。勝手してくれるぜッ……!」
ユーリがしんどそうにぼやく。
「気合い入れてカバーするしかないでしょ! 踏ん張りどころよ」
「ワンッ! ワンッ! バウゥッ!」
リタとラピードの叱咤にユーリは苦々しく笑むと、鍔迫り合いになっていた魔物の大顎を弾き払い、そのまま体勢を崩した敵を真っ二つに斬った。
銀時、カロル、エステルを守りながら、プランダラーグラスの群集を捌いていく二人と一匹。
刀と変幻自在の体術を使うユーリの横で、リタが強化された鋭利な紙束を飛ばし、ラピードが敏捷な動きで魔物を翻弄しながら、口の短剣で敵を切り刻んでいく。そんな中、リタとラピードが敵を処理した瞬間の僅かな隙を縫って、プランダラーグラスが一匹、背中を向けたユーリの方へ飛び出していってしまう。
「……くッ! ユーリッ!!」
リタの大声にユーリがうしろを振り向くと、眼前にはすでにプランダラーグラスが。
彼は反射的にニバンボシを水平に前へ翳し盾のようにすると、大顎を受け止めた。が、体勢の甘さで衝撃を受けきれず、彼は押し飛ばされてしまう。後転しながら、なんとか受け身を取るユーリだったが、最悪な事態が目に映る。魔物が方向転換し、そのままエステルの方へ行ってしまったのだ。
「やべッ! エステル!」
叫ぶユーリ。その時、小さな人影が視界に飛び込む。カロルだった。
「うおりゃあぁぁぁぁッ!」
折れた大剣を持ったカロルは雄叫びを上げてプランダラーへ突っ込んでいく。が、足元の石ころに目がいってなかった……。
案の定、石を踏んだカロルはヘッドスライディングでもするかのようにすっ転ぶ。
痛恨のミス! と思いきや、神のイタズラか、カロルの手から剣がすっぽ抜け、縦回転しながら吹っ飛ぶと、見事に魔物の体に突き刺さったではないか。幸運の一撃に一番驚いたのは、言わずもがなカロル自身だろう。
「よくやった! カロル!」
カロルのファインプレーにユーリから感嘆の声が挙がった。そして、ついにエステルの詠唱の準備が整い、彼女はゆっくりとその口を開く。
「聖なる雫よ……降り注ぎ……我に力を! ホーリーレイン!!」
詠唱を終え、レイピアを上に翳した刹那。天が輝き、数多の光が周囲に降り注いだ。
落ちていく光の塊はプランダラー達の体を破裂させながら地面を割り、粉塵と石の破片を撒き散らし、瞬く間に辺り一帯を煙で覆う。その煙を裂いて、飛び出してきた複数の人影。混乱に乗じて逃げようとする一行たちだ。ユーリの左肩には銀時が担がれている。
「おい! みんな、ついてきてるか!?」
走りながら後方を見て、メンバーの確認を行うユーリ。
「な、なんとか、みんなついてきてるよ! それより銀さんだよ! どうすんのそれ!」
ユーリに返事をするカロルは、銀時のことが気がかりで仕方のない様子。まぁ、それは皆も同様の思いなのだが。仕方がないと、ユーリは銀時に話しかける。
「おい、いい加減目ぇ覚ませよ、銀時! こっちも大変なんだ」
言いながら刀の
「もうッ、じれったいッ!! そんな半端なやり方で起きるわけないでしょ! あたしがやる!」
「お前がやるって……、どうするつもりだよ?」
「荒療治よ。いいから見てなさい」
そう言って、リタは走りながらユーリの肩から銀時を強引に下ろすと、頭を掴む。
へ? と、みんなの目が点になったときだ。
そりゃあもう容赦のない勢いで、リタは銀時の頭を近くの岩塊におもっくそ叩きつけた。打ちつけられた岩に亀裂が入り、大きく重い打音が鳴る。
「いや、なにやってんのォォォォ!? リタァァァッ!!」
カロルの絶叫と共に銀時はおでこから煙を立ち昇らせると、半笑いの顔で白目を剥き、ヨダレを垂らしながら地面に倒れ伏せてしまう。一行の足は、その場で完全に止まった。
「リ、リタ、これは荒療治と言うより、とどめと言うんじゃ……」
「幻覚止めなきゃいけねえのに息の根止めてどうすんだよ!」
頬に冷や汗を浮かべながら、ユーリとエステルが一斉にツッコむが、リタは澄ました顔で言い放つ。
「エステリーゼ、ユーリ、あんたら何もわかってないわね。壊れた頭は叩いて、衝撃与えてやるのが一番なのよ」
「そんな……、昔のテレビじゃないんだから……」
リタのとんでも理論に困惑の色を示すカロル。惨憺たる有り様の銀時を見つつ、彼はさらに言葉を続けた。
「ていうか、銀さん全然治ってないよ。だめじゃん、リタ」
「……違うわ。叩き方が足りないだけよ」
そう言うと、リタはグロッキー状態の銀時に馬乗りになり胸ぐらを掴むと、さらに往復ビンタを食らわせる。
一回、二回、三回、と、どんどん
「いやいやいやッ! 死んじゃう! 死んじゃう! 銀さん死んじゃうよ、それ! リタ、絶対間違ってるよ! こんなんで起きるわけ――」
と、カロルが制止の言葉を口にしている時だった。
「うぅ……、おい、なにやってるお前ら……」
なんと、信じられないことに銀時が目を覚ましたのだ。虚ろだった瞳には濁った光が戻り、確かに正気を取り戻している。
「ええぇッ!! 目ぇ覚ましたッ!? 嘘でしょ!? この人の頭どんだけ単純な作りしてるの!?」
驚愕の展開に目を剥きながら叫ぶカロル。馬乗りになっていたリタが
「よかったです、ギントキ。目が覚めたんですね。気分はどうです?」
エステルの問いかけ。銀時は表情を苦しそうに歪め、顔半分に手を当てると、答えた。
「俺ァ、大丈夫だ。……それより
「知るかよ。つーか小野小町が
意味のわからない幻覚を引きずる銀時に呆れながらつっこむユーリ。そんなやり取りにカロルが焦り口調で割って入る。
「ツッコミ入れてる場合じゃないよ! 銀さんも元に戻ったし、早く逃げよう、ユーリ」
ごもっともな意見だったが、それを言うには遅すぎた……。少し離れた後方から、魔物の恐ろしい金切り声が上がったのだ。
一行が後ろに目を向けると、残留した土煙からプランダラーグラス達が出て来るのが、遠くからでもわかった。しかも音に引かれ集まった新顔もいるのだろう、数が増している。
そして、キリがないという言葉がピッタリの群集は銀時たち目掛けて、バイソンの如く迫ってきた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
身の毛もよだつ光景にカロルの大きな悲鳴が上がると、銀時たちは歯を食いしばりながら、一斉に走り出した。
カロルを先頭に全速力で逃走する
「ハァ……ハァ……! ホント、バカっぽいッ! グダグダやってる内に逃げおおせる機会逃すなんて……!」
「ちょっと待てや、お前ら! 俺、ところどころ記憶飛んでて全然状況掴めてないんですけど! なんか、すげぇ頭痛いし……なにがあったんだよ!?」
場面が飛び飛っびの銀時は現状についていけず、混乱しているご様子。焦り顔で問い質してくる。リタが答えた。
「状況もなにも、なんも変化無いわよ! 相変わらず怪物に追われてるし、あんたの頭は最初からイタいままだし」
「ああ、そっか! 俺の頭は元からイタいままだったな、わりぃ……。てっ、誰がイタキャラだッ! 刺し殺すぞてめェッ!」
元気よくリタに叫び散らす銀時。それを見て、エステルの表情は明るくなる。
「ギントキ! ノリツッコミができる程回復したんですね! 本当によかった!」
「どんな容態の確認の仕方だよ……」
ユーリがエステルの天然に小さくツッコんだその直後、逃げる進行先に新たなプランダラーグラスの姿が複数視界に映った。
「うわわッ!!」
と、一番前のカロルが仰天し、急ブレーキを掛けると進路を変える。
後ろの銀時達も驚きながら、つられるようにカロルについていく。のだが、その変更した道の先からもプランダラーグラスが姿を現してきて。
「ひぃッ!」
と、ビビりながら、またもカロルが急ブレーキ。逃げる方向を変え、草をかき分け、てんやわんや右往左往と、森の中を必死の形相で駆けずり回る一行。気づかぬ内に後ろの魔物の数もえんらいことに。
「オイィィィィ!! どうなってんだこの森ぃッ! どこ行っても奴らしかいねーぞ!」
「いくらなんでも異常です! この数は!」
尋常ではない魔物の数と切羽詰まった状況に喚く銀時とエステル。二人の声を背にカロルは、顔を強張らせながら言う。
「このプランダラーグラスの数……。もしかしたらこの付近に母体があるのかも……!」
「……母体ィ? 母体ってなんだよ!? あれ……? ていうか、なんか暗い……」
銀時はカロルの言葉に怪訝な顔付きになるが、それは一瞬の事。すぐに別の事へ意識を持っていかれた。
妙に暗いのだ、辺りが。というか、洞窟の中の一本道を走っていることに今更ながら、銀時は気づく。どうやら付近にあった巨大な洞窟に一行は足を踏み入れてしまっているようで。
「オイィィィッ! なんか洞窟ん中入ってってるぞ、俺ら!! どうなってんだ!?」
狼狽しながら大声で問いかける銀時にユーリが冷静に返す。
「知らねえよ、苦情なら先頭走ってるカロル先生に言え!」
「ええぇッ!! ボクにッ!?」
ユーリの荒々しい唐突なパスにカロル先生が動転した声を上げた時だ。「ちょうど良いわ」と、リタが道の途中で走るのを止め、後ろを向いた。彼女の視界には追いかけてくる大量のプランダラーグラスが映る。
「リタッ!?」
「なにやってんだお前!」
意図の分からないリタの行動に銀時とエステルも足を止め、焦り顔を浮かべた。ユーリとカロルも不可解な表情で様子を窺う。
リタは足元に緋色の魔法陣を展開し、僅かな間瞑想すると、巻物を開きながら舞うように体を回す。そして、
「灼熱の軌跡を
詠唱と共に掌を前に翳し、魔術名を叫んだ。瞬間、リタの正面に火の粒子が集まり、巨大な火球が作り出される。火球は洞窟の道の天井目掛けてまっすぐ飛んでいくと、衝突炸裂した。
耳を劈くような爆発音。それと共に天井の岩は深く広がり崩れ、銀時たちと魔物を遮るように巨大な岩の破片を道に落としていく。
プランダラーグラス達が崩落した岩の下敷きになる中、岩の雨は銀時たちの方にも降り注いできて。
「ひぃいッ!」「キャアア!」「うおぉぉぉッ!」と、
*
走って、走って、猛ダッシュの末、一行はなんとか崩落の範囲外まで逃げ切っていた。
来た道を見返すと、岩の塊がいくつも積み重なり瓦礫の山々を築いている。もう引き返すことはできなさそうだった。肩で息をしながら、カロルは瓦礫の山からリタへ視線を移す。
「ハァ……ハァ……。リタ、無茶苦茶しすぎ……! 危うく下敷きになるところだったよ!」
「でも、これであの魔物共はあたし達を追ってこれなくなったでしょ? 一件落着よ」
「どこが一件落着だァッ!」
平然としているリタに指をさして、声を荒げたのは銀時だ。
「考えなしに天井崩落させやがって! 先に出口がなかったらこのまま生き埋めだぞ! もう少し考えて行動しろや、この脳筋ゴリラ女ッ!!」
「なに? あたしの行動にケチつけようって言うの?」
ドスの効いた声でそう凄むリタは、銀時の服の襟を掴み、喉元にソードウィップを突き付ける。
一転、銀時は引きつった笑い顔と胡麻すり口調で、
「……や、やだなァ~~! 冗談に決まってるじゃないっスかァ~、リタ先輩! も~、すぐ真に受けるんスもん! ケチなんてつけないっスよォ、むしろ一度生き埋めにされてみたいよなァ~とか考えてたぐらいなんで僕ら。ねぇ、カロルくん!」
銀時の言葉に、冷や汗をかきながらカロルは首を何度も縦に振る、そりゃもう必死に。縮み上がる二人を見て、エステルは困り笑顔で助け船を出す。
「と、とにかく、二人もこう言ってますし、奥へ進んでみましょう。きっと有りますよ、出口」
「……そうね。進みましょうか」
リタから怒気が消えた。安堵する銀時とカロル。というか、銀時が脳筋ゴリラなんて言わなければ、彼女の逆鱗に触れることも無かった気がするが……それは置いておこう。
で、大きな空洞が広がった洞窟の奥を進むことになったはいいが、洞窟内は暗く視界が確保しにくい状態だ。そんなとき、
「そうだ。洞窟を進むなら、これ必要でしょ。暗いし」
カロルがそう言って、鞄を
「お! 流石、カロル先生。オレたちと違って準備がいいな」
手に持たれた松明を見ながらユーリが煽てるように声をかける。
「当然だよ! ボクはユーリたちと違って何年も冒険に出てる先輩なんだから。準備に抜かりはないよ」
鼻息を軽く吹き、得意げに語るカロルくん。そんな調子づく彼にリタが半目で問う。
「で、その先輩様は、点火する火種はちゃんと持ってきてるんでしょうね?」
リタの言葉にカロルは、ハッとした表情を一瞬浮かべると、汗が噴き出す。どうやら肝心の火種は忘れてきてるようだった。
「い、いやー、それは持ってきてぇ……、ないや……。えへへ、どうしよう?」
苦笑いしながら助けを求めるカロルに、全員がため息を漏らすと。
「ユーリ、マッチ持ってましたよね? 出せます?」
エステルがマッチを取り出すよう頼むが、ユーリは首を横に振るい、
「持ってるが、水に濡れて使い物にならねぇよ」
なにがあったかはわからないが、ユーリの持ってるマッチは濡れて使い物にならないようだ。
「銀時、あんたは火つけられる物持ってる?」
今度はリタが銀時に聞く。「ちょっと待てや、確か」と、着物の中を探り始める彼。数秒経つと、眉を上げた。そして懐からマッチの小箱が引っ張り出される。ハシゴしたキャバクラでもらった物だろうか。
「あったぜ。濡れってけど、俺のは防水仕様だから多分大丈夫だろ」
と、銀時は表情に笑みを浮かべながらカロルに寄っていくと、マッチを一本取り出し、マッチの先を箱の側薬に擦った。
すると、乾いた摩擦音と共に無事小さな火がマッチに灯る。
「点いたね」
喜んだ顔を見せるカロル。銀時はマッチの火を松明の先端に当てた。小さな火が松明の布に燃え移り、辺りを照らしていく。
明かりはボンヤリとしたものだが、歩いて行くには十分な物だ。
「そんじゃあ、松明も点火できたことだし、出口を探しに行こうぜ」
ユーリは松明の炎を瞳に映しながら、そうまとめる。
こうして一行は、出口を求めて洞窟の奥へと進んでいくことになったのである。
次回で森の話は終わりにするつもりです。
15話は出来次第投稿いたします。できるだけ速くできたらいいです(遠い目)