銀の明星   作:カンパチ郎

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遅くなりましたが、完成したので投稿いたします!


人に喧嘩を売るときは自分のキャラデザの確認を怠るな

「ハハ、ま……またまたー、そんなウソ付いてぇ……! からかわないでよ銀さん!」

 

 困り笑いを顔に浮かべ、カロルは銀時の告白を嘘と決めつける。

 まぁ、いきなり別世界からやってきましたーなどと言われて、信じるバカはいない。しかも発言の主が適当の権化、銀時であれば、それはなおさらの事。

 

 少年はまた意地の悪い顔を浮かべて冗談を宣ってるのだろうと、彼の顔を窺った。のだが、予想に反して銀時の顔にふざけた様子はなく、むしろ真剣な面持ちでこちらを見つめ返している。

 

 カロルの頬に汗が伝う。

 

「あ、あれ……?」

 

「……信じられねェか? ま、無理もねェ、俺も未だに夢うつつが抜けきれてないし……」

 

「え……!? ええ!? ほ、本気で言ってるのッ!? ボケとかじゃなくて?」 

 

 狼狽するカロルとは対照的に、銀時は平然とした面持ちで言葉を返す。

 

「誰が好き好んでこんなボケ言うかよ……。もう二週間前だ……。家帰ってる途中、意味わかんねー奴に拉致られて、意味わかんねーこと命令されて、意味わかんねー場所に飛ばされて、意味わかんねーまな板助けて、意味わかんねーお前らに出会って、意味わかんねー今に至るんだよ。ったく……意味わかんねーよ……」

 

「意味わからないのはあんたよ」

 

 意味わかんねーと言うことしか伝わってこない、というか伝える気のない銀時の説明。

 それにリタがツッコむと、次はユーリが質問を放った。

 

「信じられねえけど……その話が本当だったとして……、お前をこの世界に飛ばした奴の目的はなんだ? なんか理由があんだろ?」

 

「よくわかんねーけどォ、なんか災厄が訪れて近々破滅するらしいよ、この世界。それを止めんのが俺の役目だって。いや~大変だねー、お前らも! まぁ頑張れや」

 

「いや立場的にお前が一番大変だろ。なんでお前が一番他人事(ひとごと)なんだよ」

 

 鼻をホジり、緊張感もへったくれもない能天気口調で世界の危機を語る銀時に汗マークを垂らすユーリ。

 そんな大小の差はあれど、動揺が走るメンバーの中で、唯一泰然としてるリタにエステルが気づき、問う。

 

「リ、リタは、このこと知っていたんです?」

 

「一通りの事情はね。まぁ、あたしも話半分に飲み込んでるのが現状だけど」

 

「で、でもさぁ……。災厄って言われても、そんな気配も予兆もないよ……。べ、別に来ないんじゃ…………」

 

 なんて、不安から目を背けたいばかりに、根拠のない希望的観測を吐くカロルくんに対し銀時は、

 

「バッカおめー、甘ちゃんがよォー、災厄なめてんじゃねーぞ! 人の終わりがいつ来るか分からねェように、星の終わりだっていつ来るかなんてわからねェもんよ。こういうのは、大抵気づかねェ内に忍び寄ってんだ。手遅れになってからピーピー泣き出したってどうしようもねーぞ」

 

「……それは……そういうこともあるかもだけど……。というかさぁ……銀さん……」

 

「あ?」 

 

 彼の強い語気に口を尖らせながらも、少年は今更ではあるが、至極当然の疑問を銀時へ投げつける。

 

「世界を破滅させる程の災厄が本当に来たとして、何か止める手段は持ってるの?」

 

 カロルが言った瞬間、銀時の鼻ホジりの動作、表情、そのすべてが静止した……。そして、顔の表面にブワワと脂汗が浮き上がっていく。

 確かに…………と彼は思う。なんか止めれること前提で話していたが、世界を飲み込まんとする程の災厄が来たとして、某サイヤ人大先輩ならともかく、そんなものを止める方法を実情銀時は持ち合わせていない。

 あのバ神が何か世界救済のための力をくれた覚えもないし、やってくれた事と言えば、具体性のない情報提供とチンコにイタズラ書きをされたぐらいで……。

 

 やがて銀時は、鼻の穴から震える人差し指を離して、

 

「そ、そりゃあ……おめ……、あるに決まってんだろ…………。あのー、アレだよ……アレ、あのー…………、気、気合い…………」

 

「災厄なめてるでしょ……」

 

 糞の役にも立たない対抗策に、カロルから冷淡な返しを貰う天然パーマ。

 気合いの要素だけでは納得させられない。察した銀時は宥めるように両手を前にかざし、

 

「わーた、わーたって! じゃあ、そこに愛と勇気もプラスして……」

 

「ロクなもんプラスされてない上に、愛ってあんたから一番縁遠いものでしょ」

 

 横から放たれるリタの容赦ないツッコミ。流れの急変と集中放火に銀時は狼狽する。

 

「ちょ、ちょ待てよ! ちょ待てよ、おめーらァ……!! え、なに!? つまり……、俺の使命は最初から破綻してたってわけ? 俺……元の世界にはもう帰れないの……!?」

 

「ま、無理だな、ここに骨うずめるしかねえ。その話が本当ならだが……」

 

「へぇ~……そう……、……そうなの…………そうなんだ……」

 

 無慈悲にもユーリにそう返されると、銀時は汗で濡れた目元に影を落とす……。

 そして、キレ顔でカロルの胸ぐらを掴み。

 

「テメェ……なにとんでもねェ事実に気づかせてくれてんだ……! 俺、元の世界に帰れねーじゃねェか! 責任とれッ!!」

 

「ええええぇッ……!!? これ、ボクのせいなのッ!!?」

 

 言いがかりもとい、銀時の八つ当たりを食らう可哀想なカロルくん。そのとき、

 

「お、落ち着いてください、ギントキ! まだ元の世界に帰れないと決まったわけじゃありません! 災厄というのも、なにか止める手段が必ずあるはずですから……!」

 

 慌ててエステルが二人の間に入り、取り鎮める。すると、銀時は我を取り戻したのだろうか、少年の胸ぐらを離すと一転、

 

「そ、そうだな……! そうだよ! ま、まぁ思い返せばこういうの慣れっこだし……。国の危機だの星の危機だのも救ってきたからねェ……、今回もなんとかなんだろ……。タイタニックに乗った気分でいろって」

 

「沈むだろ、それ」

 

 と、ユーリ。銀時はダラリと冷や汗をかく。

 

「い……、いや本当に大丈夫だから! こんなんでも白夜叉ーとか祭り上げられて、地元辺りでブイブイ言わせてたんだよォー、銀さん! 地元のゲーセンとかも全部牛耳ってたよ、あ、……だから……」

 

「まったく、無能な神様も居たものね……。こんな毛玉送り込んでどうしたかったのかしら……」

 

「いや……あの……、救世主に向かって、毛玉呼ばわりはヒドいんじゃないかなァー……リタちゃん……。なんならストパーにしてくるけど……? ストパーにしたら信じてくれる?」

 

「無理だろ、その頑固な髪質じゃ……。この世界も終わりか……、あっけないもんだったな……」

 

「いや終わってねーよ……つーか始まってもいねーよ。俺のストパーも世界救済も……」

 

 どう言っても信用しないユーリとリタ。二人のサンドバックになりながらも、銀時は説得を試みているようだが、頬に浮き出た筋を見るに心のダムの決壊は寸前である。

 

 そして、

 

「まぁ所詮、天然パーマなんて雨の日に毛量かさましするぐらいしか能がないもの。世界救えないのも仕方ないわ……」

 

 このリタの最後の言葉。

 全天然パーマを敵に回したと言っても過言ではないこの一言が、銀時の地雷を踏み抜き、心のマントルを貫通した。

 

 ブチッッ! と脳内の大事な何かが切れ、彼は片足で土を踏み叩くと、

 

「るっせーんだよオォォォォォォッッー!!! この腐れゲボ共ォォォォォォォッー!!!」

 

 尋常ではない声量でシャウトする。だが、まだ終わらない。溜め込んだ分、10倍にして放出するのがこの男だ。

 

「人が下手(したて)に出てりゃあ、言いたい放題言いやがってよォォォー!! こっちはタダ働きの上、天然パーマ(アイデンティティ)捨ててまで世界救ってやるって言ってんのにッ!! もういいわッ! そんなん言うなら核ミサイルでいいわッ!! 大体、星の危機だの隕石だのバイオだのテロだの! そういうもんは核ミサイル使っておけば丸く収まるようにできてんだよ!! アルマゲドン然り、ディープインパクト然り、アンブレラ然り! 愛と勇気と核で世界を救うってことで……、これで文句ねェな? ハゲ!!」

 

「な、なにその物騒なプロパガンダ……」

 

 あまりにもアグレッシブかつ、雑な世界の救済方法に当惑するカロル。

 そんな中、ユーリの頭には当然の疑問が浮かぶ。

 

「よくわかんねえけど……、お前そんな大層なもん持ってないだろ?」

 

「うるさいよ。人間はみんな心の奥底に、人に見せちゃいけない核弾頭格納してんだ!」

 

「いや意味わかんねーよ……」

 

「とにかくッ! てめーらクズに構ってるヒマはねーんだ! 床屋の予約入れないといけねーし。精々そこで舐め腐ってるがいいわッ! 手遅れになってから俺に泣きつくがいいわッ! そして、ストパーイケメンになった俺に驚くがいいわッー!! けッ……!」

 

「あ……! ギントキどこ行くんです!? 待ってください!」

 

 言うだけ言って、キレるだけキレ散らかして満足したのか、銀時は捨て台詞を吐いてその場をあとにしていった……。残されたメンバーたち。

 

「もう~……。ギントキ怒って行っちゃいましたよ、どうするんです?」

 

「どうするって……一人にしといたほうがいいだろ、今は……」

 

 頭に血が上っている今の彼に下手な同情の声や行いは逆効果になる。ユーリはそう考えたのだろう、放置という結論に。んでもって、カロルが続くように問う。

 

「結局……、銀さんの話って本当だったのかな?」

 

「私は嘘などではないと思いますよ。ギントキ……途中からすごく必死でしたし……」

 

「確かに、様子はちょっと違ったかもな。まぁ漠然としすぎて何がなんだかって感じだが」

 

「本当に災厄が来るとしたらどうすればいいんだろ……? き、騎士団とかに伝えておく?」

 

 カロルがそう提案を持ちかけるが、ユーリは首を縦には振らず、

 

「やめとけって、相手になんかされねえよ……。ホラ吹き呼ばわりされんのが関の山だ」

 

「で、でも後手で動いたら銀さんの言うとおり手遅れになるんじゃ……。リ、リタはどうするつもり……? 本当に来たら……」

 

「知らないわよそんなの。そん時の自分に任せるしかないでしょ?」

 

 淡白な声音で返答するリタ。表情にも恐れや不安は微塵たりとも感じられない。

 それが銀時の言葉を信じていないことから来ているのか、はたまた、その時の自分というのがどうにかする自信があることから来ているのか、定かではないが。

 

 そんな彼女は銀時も消え、話の区切りがついたと思ったのか、軽く背伸びをすると、

 

「とりあえずもう疲れたし、あたし部屋に戻るわ……。あんたらも早めにそうした方がいいわよ」

 

「あ、はい。おやすみなさい、リタ」

 

 エステルの挨拶を背中で受け取りながらリタは宿へと帰ろうとする。が、なぜかすぐに彼女の足は止まり、その目はジト目に。

 エステルは首をかしげ、

 

「リタ……? どうしました?」

 

 問いかけられ、リタは無言で坂の方へと指を差した。彼女の指先を追って、皆が目を送ると。

 坂の隅際にある草陰。そこには去ったはずの銀時の姿が。

 居なくなったと見せかけて、ずっと隠れて皆の様子を見ていたらしく、表情こそないが彼からはどうとも言えない哀愁が漂っている。

 

「ギントキ……! ずっとあそこに居たんですね……! やっぱり本当はみんなに引き止めて欲しかったんですよ……! でも、みんなが思いのほか全然引き止めてくれなくて……。戻ろうとも思ったけど、プライドが邪魔をして引くに引けなくて……。仕方ないから草陰で様子を見ながら、みんなが自分を追って来てくれることを期待して待っていたんですよ、あそこで……。今ならギントキも許してくれます! 謝りましょう、みんな!」

 

「お……おい、やめてやれ、エステル……。あいつ立ち直れなくなるぞ……」

 

 エステルのあまりに詳細すぎる心理状態の解説と天然鬼畜の所業に若干引き気味のユーリくん。

 まぁ彼女の案は却下して、リタは普通に銀時へ声をかけた。

 

「銀時……、あんたそこでなにしてんの?」

 

「ふぐっ…………!」

 

 少女の声に一瞬肩を震わせたかと思うと、無言で草陰を出て、そそくさと逃げる銀時。

 リタは頭に怒りマークを浮かべ、

 

「なんなのよあいつッ! 寂しいなら素直にこっち戻ってくればいいでしょ! まったく……!」

 

「まぁまぁ……」

 

 キレるリタをカロルがなだめる中、溜め息をつき、自分らがいかに曲者揃いの集まりであるかを、ユーリは再認識する。そして腕を組むと、

 

「……これからどうなんだろうな、オレらは……」

 

 先の見えぬ旅の道に憂いを吐くのであった……。

 

 

 

 

 

 

               *

 

 

 

 

 

 ……あの夜から時間は経って、日が眩しい小鳥が鳴く朝。時刻は8時を回ろうとしていた。

 一人を除いて、一行はすでに起床し、身支度を済ませて宿の食事場へと顔を見せている頃。

 一人を除いてとは……、やはり銀時の事である。

 朝日が差す彼の部屋の床には、酒瓶といちご牛乳のパックが散乱し、いつもの着流しもドアの前に脱ぎっぱなしで放置されて、なかなかの荒れ模様。

 

 この惨状を招いた本人はというと、ベッドの上でお眠り中……。だが、心地のよい睡眠という訳ではない……。小さく何度も苦しそうに唸り、顔の血色も非常に悪かった。

 

 昨晩は相当に深酒したようだが、別にあの一件の話でショックを受けてということではなく。ただ単にハルルの人間たちと意気投合し、ハメを外し過ぎただけのことであった。

 血中に糖とアルコールが入れば、些細なことの大半を忘れるのが、この男の図太さたる所以であろう。取りすぎて地獄を見るのは……ご愛嬌である。

 

 さて、これからタップリ二日酔いに苛まれるであろう彼の部屋のドアが開かれた。

 入ってきたのは……、リタだった。

 いつまで経っても食事場に姿を現さない銀時に業を煮やしたユーリ、リタ、カロルは、ジャンケンで誰が彼を迎えに行くかを決めていたのだ。結果はリタが負けて、今に至る。

 

 彼女はベッドの前まで行くと腕を組み、顰めっ面で言う。

 

「……ちょっと、いい加減起きなさいよ! 銀時!!」

 

「う゛ぅ…………ぅ。うるせーなぁぁ…………朝から大声出すんじゃねーよ…………」

 

「あんたがいつまで経っても来ないせいで、こっちは段取りが詰まってんのよ! 起きて!」

 

「うおぉい…………! やめろってぇ…………! 寒…………」

 

 聞く耳を持たない彼に腹を立てながら、リタはかけてあった毛布を剥ぎ取ると銀時の両足を引っ張り、ベッドの上から無理やり引きずり下ろす。

 

「いだッッ!!? っ……おい…………!?」

 

 下ろされて頭を床にぶつける銀時。そんなことにも構わず、リタは彼を引きずって、部屋の外へ出ようとする。

 

「ちょぉ……ちょっ待てって…………あと一分でいいから寝させろってぇぇ……母ちゃん…………」

 

「あんたみたいな忌み子、産んだ覚えはないわ」

 

 銀時の要求を冷たく却下してリタは食事場へと銀時を連行するのであった。

 

 

 

 

 そんなこんなで、リタに無理やり叩き起こされた銀時はやっと食事場へと着く。

 広間である食事場には、それなりの大きさの四角い木のテーブルが()つほど均等に並んでいて、その内の壁際にあるテーブルにユーリたちは座っていた。

 会話をしていた三人はリタと銀時に気づいたのか、二人へと視線を向けて、

 

「……ああー! 遅いよ、銀さん! 朝ごはんとっくに来ちゃってるのにー!」

 

 銀時を見るや否や、むくれ顔でカロルがクレームを飛ばす。

 少年の言うとおり、卓上にはすでにスープやパン、目玉焼きにソーセージ、ボウルいっぱいのサラダと、朝の食事が用意されており、床ではラピードが一足先にドッグフードを食べ始めている。

 しかし、スープの小鍋からはまだ湯気が上っているのを見るに、冷めて手遅れというわけではなさそうだった。

 

 頭痛と吐き気でカロルの言葉にもロクな反応がとれない中、とりあえず銀時は向かいの空いた席へと腰かける。リタも彼の隣へ。

 

「おはようございます、ギントキ。あの……大丈夫です……?」

 

 目の下のクマといつにも増して十倍ほど死んだ目……。銀時のやつれた顔を見てエステルが心配そうに尋ねると、銀時は自身の顔に手をあて、

 

「…………大丈夫ですって、大丈夫じゃねーよ…………。気持ちワリーし…………リタ(こいつ)には叩き起こされるしで……、朝から踏んだり蹴ったりだぜ…………ったく……」

 

「遅くまで飲んでたあんたの自業自得でしょうに」

 

 天パーの恨み節を軽く正論でつぶしながら、リタはパンをちぎって口に運ぶ。

 

「大人しく休んどきゃよかったのにな。そんなんで今日一日持つのかよ?」

 

「けっ…………、テメェらもやしっ子とは鍛え方が違うんだよ…………。この程度でへばるほど、俺ァヤワじゃねーぜ…………」

 

 ユーリにそう返しつつ、銀時は死んだ目でコップの水を鼻の穴で飲もうとする。

 

「あの、ギントキ…………。そこ口じゃないですよ、鼻です……」

 

 指摘しながら、鼻の穴びっちゃびちゃの銀時に戸惑うエステル。

 

「全然大丈夫じゃないじゃん……」

 

 完全にへばってる彼を見て、カロルも呆れた顔でつぶやく。まぁ、いつまでもダベっていてはキリがないし、せっかく美味しそうな食事も目の前にあるので、少年は咳払いをして、

 

「と、とりあえず食べちゃおっか、ご飯冷めちゃうし……リタも食べてるし……」

 

「ええ、そうしましょうか」

 

 その言葉に同意するエステル。しかしながら二日酔いの銀時は違う。

 

「ああ…………俺、朝はもういいわ……。頭いてーし…………パスで……」

 

「別にいいけど、朝抜いたら辛いんじゃない銀さん。せめてスープだけでも飲んだら?」

 

「……カロルよォ…………空気読もうや……。俺は今、胃からこみ上げる熱い想いを抑えるので必死なんだよ……。……それをお前……こんなもん胃袋に流し込んでみろ、口から別のスープが飛び出るわ……。朝からそんな惨劇見たいか……? 見たくねーだろ……? わかったら水持って来いクソガキ……」

 

「それ全部自分のせいじゃん……。はぁ~……しょうがないなぁ……、ホントに」

 

 ダメな大人に愚痴を吐きながらも、カロルは席を立って、苦しむ哀れな天パーに水を施しに行く。

 そして、銀時は水の入ったコップを少年から受け取ると、虚ろな目で鼻の穴へと流し込んだ。

 

「だから鼻だっつってんだろ、そこ」

 

 ユーリのツッコミが卓上で響く。

 

 

              *

              

 

 で、一人は食事どころではなかったものの、一行は朝食を済ませて宿の外へと出ていた。

 そして、気持ちのいい爽やかな朝を迎えつつ街の外へ出発! というわけにはいかない……。

 なぜなら、まだ街での用事は残されているからだ。

 ユーリとエステルはこれからの旅で入り用の物を諸々調達に。

 銀時とリタはカロルが新しい武器が欲しいというので、それの付き添いへ。

 それぞれの用事を終えた後は、長の家の前で合流するという手筈である。

 

 さて、武具屋に赴いたカロルは眉根を寄せ、店内の壁に飾られた木槌、戦斧と睨めっこをしている最中。もうかれこれ、二十分ほど購入に二の足を踏んでいる状態だ。

 店の入り口でリタと一緒に待つ銀時はしびれを切らしたのか、迷う彼に声を掛けた。

 

「おい……、まだかよ? もうなんでもいいから早く決めろって」

 

「待ってってば……、一流の戦士は武器の目利きに時間をかけるものなの。大体……銀さんだって、朝寝坊してみんなのこと待たせてたでしょ」

 

「けッ……、なにが目利きだよ……。それで味方の(ケツ)シバいてたら世話ねェぜ」

 

「……ちょっと、なんか言った?」

 

 カロルに睨まれ、銀時は耳穴をホジりながら顔をそらす。すると、今度はリタが銀時へ視線を向けて、

 

「で、あんたの用事の方はどうなの? なにか災厄とやらに関して新しい情報は掴めた?」

 

「あ? んだ、唐突に……」

 

 急な話題の転換と、その彼女の意図を掴めないのだろう、怪訝な表情を浮かべる銀時。そんな彼に、

 

「気まぐれよ。ヒマだし……」

 

 淡然に時間つぶしと返すリタ。

 ……銀時はため息を少しこぼすと、昨夜を振り返りながら渋顔を浮かべて言う。

 

「……昨日、聞いて回ったがカスりもしなかったよ……。どいつもコイツも知らぬ存ぜぬの一点張り、すがる藁もありゃしねェ……」

 

「そう……。ま、アスピオでダメなのに、こんな田舎街で手がかりが手に入るわけもないわね……」

 

「わけねェって……おめーが外に連れ出したんだろうが。どうすんだよ、この状況……」

 

 困ったように頭を掻きつつ、銀時がリタに聞く。

 まぁ、外に放り出しておいて無視ともいかないので、彼女はカロルの方へ目をやると答えた。

 

「とりあえずダメ元でカロルに聞いてみたら? 案外なにか知ってるかもしれないわよ」

 

「適当だなァ、おい……」

 

 なんとも頼りない返答と今更感に、銀時は目を細める。

 確かにカロルには何も聞いていなかった彼。だが、聞くのを忘れたわけではない。正確に言うと、聞く気すら起きなかったのだ。

 アスピオでもハルルでも不発だというのに、こんなガキに聞いたところで何になるというのか……。彼はそう思っていた。

 しかし、当然聞かないより、聞いたほうがいいのは事実だ。

 藁でも紙紐でもいいから何かしらを掴んで、行き場所や行動の(しるべ)となるものを手に入れたいのが、今の銀時の願いなのだから……。

 やむを得ずといった様相で彼は店内に入ると、質問を投げるためにカロルの横へ。

 

「カロルくん……。一つ聞きたいんだけど、いい?」

 

「え? なに?」

 

 これまた急な問いに、かすかに訝った面持ちで銀時を見るカロル。そんな少年に構わず、話は昨晩の事へ。

 

「ほら、きのう話したろ、災厄がどうたらとかそういう感じの……」

 

「あぁ……、うん。話してたね」

 

「その事についてなんか知ってることとか、知ってそうな人間とか、思い当たる節はねーか? なんでもいいからよ……」

 

「そう言われてもなぁ……、情報が少なすぎて……。銀さんは他になにか知ってることないの?」

 

「他ァ……?」

 

 聞き返された銀時は顎に手を当てて、

 

「他に出せるっつったら……、災厄に星喰(ほしは)みって名がついてたことぐらいしかなァ…………」

 

星喰(ほしは)み…………、うーん……ごめん……、聞いたことないや。あ! でも……!」

 

「でも? でもってなんだ!?」

 

 意外や意外。今までとは違う反応がカロルから返ってきた。少しながら吉兆を感じた銀時は表情を一変させて、すかさず問いを放る。すると、

 

「いや、知り合いってわけじゃないんだけどさ……。ドンからなら何か情報を掴めるんじゃないかなーって……」

 

「ドン? 誰だそれ?」

 

 銀時が聞いたこともない名に眉根をひそめると、カロルが説明を行い始めた。

 

「ボクが魔狩りの(つるぎ)っていうギルドに所属してるのは知ってるでしょ? その魔狩りの(つるぎ)以外にもギルドはたくさん存在してて、それらを束ねて統括してる、ユニオンっていう連合組織があるんだよ。そこの頭目がドン、ドン・ホワイトホースっていう人なんだ。ユニオンは帝国と張り合えるほど巨大な組織で、ドンはギルド間で広い人脈を持ってるし、何百年も生きてる賢人の知り合いがいるとか、そんな噂も聞いたことがあるよ。……だから、もしかしたらって……」

 

「おいおい……なんかとんでもねー奴だな。……だが、世界中のそこかしこに根を張ってるってんなら会ってみる価値はあるかもしれねェ……。闇雲にってのは……もうご免だしよ」

 

「ちょ、ちょっと……その賢人っていうのも噂だよ、噂……。それにギルドの人間ですらない銀さんが、いきなりドンに会って話を聞くなんて無理があると思う…………」

 

 期待を持たせるようなことを言ってしまって申し訳ないと思いつつも、カロルはドンに会う決意を固める銀時に否定的な反応をとる。

 ……実際問題、ユニオンに加盟していても下っ端のギルドや新規のギルドではドンに謁見することすら叶わず、ドンと対面するには、ギルドとしてそれなりの年月の活動および功績を上げなければならないからだ……。

 それをギルドの人間でもない、どこの馬の骨ともわからない余所(よそ)者である銀時がドンにアポなしで会い、挙げ句なにかを要求するなど不可能に近いであろう。

 しかしながら、銀時は意にも介さず少年にこう切り返す。

 

「世界救おうって奴が、無理の一つや二つ押し通せねェでどうする? 結果ってのは決まってるもんじゃねェ……、自分(てめー)の手で作り出すもんだよカロルくん。で、ドンって奴はどこにいんだ? どこ在住? 港区あたり?」

 

「いやぜんぜん違うよ……。ドンはギルドの総本山でボクの故郷(ふるさと)、ダングレストっていう街にいるよ。目指すならトルビキアに渡らないといけないから、銀さんもボクたちと同じでノール港に行って、そこで船に乗らないとだね」

 

「旅の道連れはまだ続くってわけか……。そうとなりゃあ、ぐずぐずしてられねーな。おい、俺が目利きしてやっから、さっさと買いもん終わらせようぜ」

 

「え……? 目利きって、銀さんが……!?」

 

 銀時が自分の武器を選んでくれると聞いて、少し驚くカロル。それと同時に期待に胸を膨らませる。

 銀時は一見では、ただのダメ人間でしかないが、剣の腕はまさしく本物。武の道において天賦の才を持っていると言っても過言ではない。

 その彼が選ぶ物とあらば、どんな業物を持ってくるのか……少年が多少なりとも興味をそそられるのは致し方のないことだろう。

 されど、嫌な予感も十分に胸中へと走った……。何故なら……破天荒、非常識、予測不能、これらを多分に含んでいるのが、銀時という男であるからだ。油断はできない。

 

 どうやら銀時は壁やショーケースの武具は無視して、掘り出しものコーナーの方を物色している様子……。

 カロルが期待と不安入り混じるなか見守っていると、銀時が表情を変えて、

 

「お! これとかいいんじゃね? 刃もついてねーし、お前が扱ってもこれなら安心だろ」

 

「え? ど、どれ? 見せて!」

 

 見せろと言われ、銀時はヘッドの中央に巨大で不気味な目玉がついた大槌を少年へ差し出した……。

 その武器の()からは、謎の触手が何本もウネり飛びだし、殺気もりもりの血走った目がカロルを凝視すると、『ビギャァァ…………』という正体不明の奇声が…………。

 

 明らかにヤバそうな代物に、カロルは冷や汗を流しながらつっこむ。

 

「い、いや、刃のついてる武器より100倍危険そうなんだけど…………。ていうか、どうやって見つけてきたのそれ……!?」

 

「呪いの邪槌だってよ。なんかこれに関わった人間が、四、五人消息不明になってるらしいけど、まぁ細けェこたァこの際どうでもいいだろ」

 

「細かくないよそれ!! デカすぎるって!!」

 

 少年から悲痛な指摘が飛ぶが、銀時は構わずレジへ。

 

「おーい、おっちゃん! これくれー」

 

「あいよー」

 

「ちょっと待ってッ!! ちょっと待ってよ!! わかったよッ! ウッドモールにする!! ボク、ウッドモールにするから、それだけはやめてってば!!! ねえーッ!!!」

 

 

 

 

 

 ……という経緯があって。すんでの所で銀時の会計を阻止したカロルは勢いのままに木槌を選んだのであった。

 購入したものは少年のカバンの中に保管済みで、今は武具屋をあとにして、三人で長の家へと足を進めている途中だ。

 

 さてさて、なんとか当初の目的は果たしたものの、カロルの顔は晴れない……。

 

「はぁ~…………。なにも考えずに購入したけど……やっぱり斧の方がよかったかもなぁ……見た目も地味だし」

 

「あぁ? 武器なんざ振って当たるんならなんだっていいだろ。おめーはいろいろ考えすぎなんだよ、ハゲるぞ」

 

「銀さんはいろいろ考えなさすぎだから……。あんないわく付きの武器、持ってきちゃってさぁ……」

 

 半目で言いつつ、カロルの視線は、自然に銀時の腰にある洞爺湖へと吸い込まれる。

 どうにも少年は、彼の愛刀に興味があるご様子……。

 

「……武器って言えば、銀さんの木刀って、結構すごいよね。ゴーレムの体も容易(たやす)く斬り砕いちゃうし、魔物を何匹斬ってもヒビ一つ入らないし……。それ、どこで手に入れたの?」

 

「なーに? 洞爺湖(これ)に興味あんの? こいつァ、修学旅行先で洞爺湖の仙人に貰ったものでな……。別名星砕きとも言われ、金剛樹という樹齢一万年の大木から作られた業物とは裏腹に、基本はカップラーメンの重しとして使われたり、金欠の際には自販機下の小銭かき出し棒として使用され、1ヶ月ほど前には、そうめん食ってたときに()にめんつゆをこぼされた悲しき妖刀だ…………」

 

「悲しき妖刀って…………、悲しくさせてる原因、九割九分あんたにあるじゃない……」

 

 いま明かされた洞爺湖の壮絶たる過去にジト目でリタがツッコんでいると、いつの間にか三人は長の家の近く……、街の出口周辺へと着く。そのとき、銀時が怪訝な顔つきで足をとめた。

 

「……? どうしたのよ……?」

 

 つられてリタとカロルも足をとめ、何事かと長の民家へ目をやる。

 そこにはユーリとエステル、ラピードの姿…………以外に、見知らぬ人間が三人ほどいるではないか。

 

「あれ? ユーリとエステル…………の他にも誰かいる……、って……騎士!?」

 

 うろたえた声音をカロルが上げた……。

 彼の言う通りその三人は腰に西洋剣や、手に槍を携え、体には鎧を身につけている。二股に分かれた特徴的なマントを見るに、帝国の騎士であることに間違いはないだろう。

 

 様子を見ていると、赤い衣服と鎧をつけた中年の騎士が馬鹿にデカい声で騒いでいるようで。

 銀時たちは、トラブルの臭いを感じ取る……。

 

「ユーリ・ローウェル!! おのれ~! 貴族の家に盗みを働き、脱獄するだけでなく!! エステリーゼ様までも誘拐するとは!! 今日という今日は許さんぞ~!!」

 

「違います! ユーリは誘拐なんてしていません! わたしから頼んで連れ出してもらったのです……!」

 

「エステリーゼ様! こやつの脅迫に屈して味方をする必要はありませんぞ! 我々が来たからには、御身の安全は保証致します!」

 

「いえ、だから…………!」

 

「言うだけ無駄だぜ、エステル。思い込んだら聞く耳持たねえんだから、この石頭は……。なぁ、ルブラン」

 

 ユーリに怒鳴り声を飛ばしている中年の騎士はルブランという名の男で、頭に血が上っているのか、エステルの言葉もまったく通じていないようだ。

 

「ユーリ! お前は黙っていろ! 無駄口叩かず、大人しく我らに捕まっていればいいのだ!」

 

 ユーリにパルチザンの切っ先を向けて言うのは、ルブランの部下で短身小太りの騎士、ボッコスである。

 

「今日が本当の年貢の納め時なのであ~る! 覚悟するであ~る!」

 

 そんでもってボッコスに続きながら発言するのは、長身痩駆(そうく)で細く尖ったカイゼルヒゲを生やした騎士で、これまたルブランの部下であるアデコールだ。二人を並べて見くらべると、非常にあべこべなコンビである。

 顔もボッコスは丸顔で薄唇に対し、アデコールはしゃくれの面長で厚いタラコ唇と真逆。共通点といえば、愛らしさゼロの細目であることぐらいしかない。

 

 ……凸凹(デコボコ)コンビが武器を構え、ユーリに斬りかかろうという直前……。

 洞爺湖が回転しながら空中を舞うと、ユーリとデコボコの間の地面へと突き刺さった。

 

「……っ!? なんだ……!?」

 

「木刀が飛んできたであ~る……!?」

 

 どこからか来た飛来物に当惑するボッコスとアデコール。

 二人の動きにブレーキがかかると、ユーリの後方から銀時、リタ、カロルの三人が姿を表す。

 

「おめーなにやってんだ、ユーリ……。また騒ぎ起こしやがって……」

 

「騒ぎ起こしてんのは向こうだっての。今回はバカにしつこくてね……、迷惑してんだ」

 

 銀時にそう返答するユーリ。なのだが、彼の表情には笑みがわずかに含まれており、迷惑と言いつつも、ルブランたちとのバカ騒ぎを少し楽しんでいる節が見て取れる。

 

 そんな彼とは逆に、ルブランは至極真面目な顔で声を荒げた。

 

「おのれ、ユーリっ!! 人数不利だからと、仲間を呼びおったな!!」

 

「汚らしい天然パーマめ! 何者だ、貴様!」

 

 ボッコスに問われ、銀時はルブランたちの方へ視線を移すと、

 

「あァ? てめーこそ何もんだよ。体の縮尺(しゅくしゃく)おかしいぞ、ロードローラーにでもひき潰されたか?」

 

「ひき潰されとらんわッ! 元からこの身長なのだ!!」

 

 チビをいじられ、ノミのように飛び跳ねながらツッコむボッコス。その横でアデコールが剣を銀時に向けて言う。

 

「ボッコスの身長の話など、どうでもいいのであ~る! 誘拐したエステリーゼ様はこちらへ返してもらうであ~る!」

 

「誘拐だァ? なんの話だ?」

 

「とぼけるなであ~る! 貴様らは結託してエステリーゼ様を脅迫し、無理やり浚ったのであ~る! 目的は巨額の身の代金であるか!?」

 

 まったく身に覚えのない、完全な言いがかりに対し、銀時は眉根を寄せると頭をさすり、

 

「おーい……! わけ分かんねーよ! なんなんだよお前……。なんなんだよ、そのであ~るっていう語尾……。腹立つからやめるのであ~る」

 

感染(うつ)ってるわよ……銀時」

 

 隣のリタが銀時へ一言はさむ。

 そんなこんな、話がとっ散らっかりまとまりがなくなる中、エステルはルブランたちの前へ出て、言った。

 

「だから、誘拐などではありません! わたしが今ここにいるのはわたし自身の意志なんです! お願いします、もう少しだけ自由にさせてください! 全てが終わったら戻りますから……」

 

 エステルは強固な表情で、強くそうルブランに訴えかけるが、彼は首を横に振るう。

 

「……なりませんぞ、エステリーゼ様! どうかご自身の立場を弁えてくだされ、その御身に何かが遭ったと有れば、多くの者が悲しみ、混乱を齎すのですぞ!」

 

「それは理解しています……。でも、今は戻れません! どうかわかってください!」

 

 ここまで言葉を交わした末、ルブランはエステルから視線を外す。

 どう言ってもお互いに譲る気はなく、これ以上の話は不毛でしかないと彼は悟ったのだろう、ルブランはアデコールとボッコスに目配せをして。

 

「……致し方ない。どうせ罪人(つみびと)たちも捕らえるのだから……」

 

 ルブランの言葉と共にアデコールとボッコスが銀時の前へと出てきた。

 

「え? なにこれ? 俺が相手する流れなの?」

 

「覚悟しろッ! 我々に舐めた口を利いたこと、後悔させてやるのだ!」

 

「まずは貴様から片付けてやるであ~る!」

 

 気炎を上げる二人。戦いは避けれないと判断した銀時は気怠い様子ながらも地面の洞爺湖を引き抜く。

 その彼の後方で穏やかではない光景を目にするカロルは、頬に汗を浮かべユーリに聞いた。

 

「ちょ、ちょっとユーリ……! 相手、帝国の騎士だよ……!? 大丈夫なの!?」

 

「相手はデコとボコだしな、銀時なら大丈夫だろ……」

 

「いや、そういうことじゃなくてさ……」

 

 銀時が勝てるかどうかではなく、騎士に暴行を働いていいのか聞きたかった少年。かみ合わない会話に歯がゆい表情を見せるが……、そんなことを気にしている場合ではない。

 ……とうとうアデコールとボッコスが動きを見せた。

 

「アデコール! “あれ”でいくのだ!」

 

「了解したのであ~る! 我々騎士団の究極戦闘術、オーバーリミッツでいくであ~る!!」

 

「……? なにやる気だ……?」

 

 鼻をホジりながら、銀時が片眉を上げたとき、

 

「オーバーリミッツッッーー!!!!!」

 

 二人の騎士のかけ声が重なり響いた。瞬間、アデコールとボッコスから凄まじい闘気が放たれ、風が吹き抜ける。

 

 ……オーバーリミッツとは魔導器(ブラスティア)の持つ本来の性能をフルに解放し、詠唱破棄による魔術行使、奥義や技の大幅な威力補正、通常時では使用できない技や術の発現、等を可能にする戦闘術である。

 今の彼らの戦闘能力は短い時間ではあるが、二倍から三倍に膨れ上がったと言ってもいい。

 その事実がアデコールとボッコスに勝利を確信させるのだ。相手は覇気のかけらもない、死んだ魚の目をした男で、持っている武器はみすぼらしい木刀一本……。そんな有様で、いまの自分ら二人を止められるわけがないのだから、と…………。

 対して、銀時は変わらず気の抜けた顔で鼻をホジり続けている。補足すると、若干深追い気味である。

 

「フフ……、見るのだアデコール。奴め、恐怖のあまり現実を直視できていないのだ! 間抜け面で鼻をホジっとるわ!」

 

「哀れであ~る……。せめてもの情け、一瞬で仕留めてやるであ~る」

 

 余裕しゃくしゃくで言うと、アデコールとボッコスは笑みで顔を歪めながら、一気に銀時へと詰め寄るッ! 瞬間、無慈悲なる斬撃音が幾度と鳴り響いた!

 そして…………、

 

「ごがあぁぁッー……!!! がはっ、ぐええぇぇぇ……ぇぇ……ぇぇっ……!!!」

 

 ものの数十秒で銀時に完膚なきまでにボッコボコにされ、地に倒れ伏せるアデコールとボッコス。

 圧倒、蹂躙……。戦いにすらならなかった事実にアデコールは驚愕する。

 

「馬鹿なあッ……!! この我々がロクな地の文の描写もなくやられるとは……! これではまるで噛ませ犬みたいではないか! であ~る」

 

 銀時はゆっくりと洞爺湖を腰に収めながら、アデコールへ言う。

 

「いや、みたいじゃなくて噛ませだろお前ら。いっぺん鏡で自分のキャラデザ確認してこい。あと、相方のほう病院に連れてってやれや、ロードローラーに潰されてぺしゃんこだろーが。診断書もらわねーと、労災おりねーぞ」

 

「だから、ひき潰されとらんわッ!! 元からこの身長だと何回言わせるつもりなのだ!!」

 

 這いつくばったまま、頭から蒸気を飛ばして激しくツッコむボッコス。

 そんなボコられ、いじられ、好き放題される部下の醜態を目の当たりにしてか、ルブランは怫然として怒鳴り声を飛ばした。

 

「ええ~いッ!! なにをやっとるんだ貴様らはっ!! ユーリ相手ならともかく、こんな男ひとりに手も足も出んとは!! 情けな~いッ!!」

 

「と言ってもこの男……。気抜けした見た目に反してとんでもない強さなのだ……」

 

「髪の毛一本すら斬れなかったであ~る……」

 

 先ほどまでの威勢はどこへやら……。圧倒的な実力差を見せつけられ、二人は完全に戦意を喪失しているご様子……。

 部下の散々な体たらくに、ルブランは怒りで肩を震わせると、

 

「もういいっ!! ならばこの私が……!!」

 

 自身の剣を抜き、銀時たちへ戦いを仕掛けようとした。矢先、リタがすでに詠唱の構えを取っていた。

 

「え……!? ちょ、リタ……!?」

 

 動揺するカロルに目もくれず、リタは詠唱を完了させ、魔術を放つ。

 

「ファイアーボール!」

 

「え…………!? ぐおはぁぁぁぁぁぁぁぁッッーー!!!」

 

 間の抜けた声を出す頃には、ルブランに火球が直撃し、アデコールとボッコスのいる方へぶっ飛ばし返される。

 

「しつこいのよ、あんたら! 負けたんだからいい加減諦めなさいよ!」

 

 あまりの往生際の悪さにイラ立っているのだろう、リタは強い語気でまくし立てると、グロッキー状態の騎士隊を指さし、睨みつける。

 そんな最中(さなか)、エステルは何かに気づいたのか、銀時たちの後方を見やった……。

 

「……! ユーリ、あの人たち……!」

 

 言われて、エステルの視線の先へと皆が目を向ける。

 するとそこには、顔の上部を赤眼レンズ付きの仮面で覆い、暗い紺の燕尾服を身に纏う、異様な出で立ちの集団の姿が……。

 

 離れた民家の屋根上からこちらの様子を窺っているようだが、不気味で……友好的な雰囲気ではない。

 

「やっぱりオレらも狙われてんだな。早めにここを出た方がよさそうだ……」

 

 ひりつく肌。僅かな殺気を受けて、ユーリは表情を険しくさせる。

 

「騎士の次はあいつらってわけ? あんたら一体いくつ問題抱えてるのよ……?」

 

「あいつら、なんなの? ユーリ……」

 

 リタやカロルから矢継ぎ早に質問が飛んでくるが、ユーリに答える余裕はない。

 なぜならば、あの赤眼の集団はルブランたちとは違い、裏の世界の住人……。この表通りの場所で戦いになれば、関係のない人間たちにまで被害が及ぶ可能性は十分にある……。

 

 今は一刻も早くこの街を出なければならなかった。ユーリは足先をハルルの出口へと向け、

 

「悪いが、細かい話はあとにしてくれ。カロル、ノール港ってどっちの方角だっけ?」

 

「え……、あ……、西だよ、西。西にあるエフミドの丘を越えた先にノール港はあるんだ」

 

「西か……」

 

 少年の返答に一言こぼすと、ユーリは街の外へと走り出していき、銀時やカロル、ラピードも彼のあとを追っていくが…………、エステルだけは騎士隊を見つめたまま立ち尽くしている。

 

 彼女が望んだ本来の形は話し合いによる解決。

 双方ともに納得し、わだかまりのない状態で旅を続行したかったのだろう……。だが、結局は力ずくで押し通す形になってしまった……。それが彼女に迷いを生じさせているようで……。

 

 リタはそんなエステルの様子を察してか、彼女の方へ寄り、静かに問う。

 

「どうするつもり? エステリーゼ。こいつらと一緒に帰るの? それともまだ旅を続ける?」

 

「わ、わたしは……」

 

「ハッキリ答えなさい!」

 

 煮え切らないエステルとは対照的に、リタはまっすぐ彼女の目を見つめ、スッパリとした口調で言葉を投げた。

 するとだ、その勢いに煽られ、ようやく踏ん切りがついたのだろう……。エステルはリタをまっすぐ見つめ、

 

「旅を……、続けます!」

 

 強くそう返答した。それを受けて少女は一瞬だけ笑み、促す。

 

「じゃあさっさと走る! あいつらに置いてかれるわよ!」

 

「は、はい!」

 

 遅れながらもエステルとリタは街の外へと向かっていく。

 想像していたものより何倍も騒がしい旅立ちではあったが、こうして一行はハルルの街へと別れを告げるのだった……。




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