銀の明星   作:カンパチ郎

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私を外に連れてって

 パチパチと鳴る火の音と光で、気を失っていた少女は目を覚ます。彼女のその目には冷たそうな岩の天井が映っていて。

 すぐそこの気配に気づいたのだろう、次に少女は顔を横に向ける。すると、あの銀髪天然パーマの男が焚き火をいじりながら、向かいに座っていた。

 しかも、男はその焚き火で、どこから調達してきたのか分からない棒に魔物を刺し、丸焼きにしている最中だ。なんとも奇怪な光景。

 

「……なっ!?」

 

 こんがり焼けた魔物を目にした少女は思わず驚き、声を出してしまった。

 

 銀時が注視していた焚き火から、少女へと視線を移す。

 

「おお、やっと起きたかガキィ」

 

 気だるげな声で目を覚ました少女に話しかける銀時。

 

「あ、あんた……なんで……ていうか、天井が崩れて……なのに……あたしどうして……」

 

 自分の状況がよくわかっておらず、少し混乱した様子の少女。そんな彼女に銀時は言葉を挟む。

 

「俺が気ぃ失ったてめー背負って、ここまで連れてきたんだよ。感謝しろよなァ、ここまで連れてくんの結構大変だったんだから」

 

「…………」

 

 簡潔に事情の説明をする銀時。なのだが、少女は返答もせず口をむすんだまま。

 沈黙が訪れ、焚き火の音だけが二人の耳に入ると、気まずい静けさに耐えられなくなったのだろうか、銀時は頭をワシャワシャ掻く。

 

「はぁ~、……なんなんだよ……なに? なんか不満あんの? つーかこっちが不満もらしたい気分なんですけど」

 

 黙りこくる少女を見て銀時はかなり苛立っているようで。するとだ、少女はようやく体を起こし、口を開いてみせる。

 

「……あんた、なんで盗人のくせにあたしを助けたの?」

 

「まーだ疑ってるのか……。盗人だったら崩れる天井からお前を庇ったり、こんなところまで連れて来やしねェだろ。そのままほっぽって逃げるわ」

 

「そうは限らないでしょ……、あんた確か道に迷ってとか言ってたわよね?」

 

「言ってたからなんだよ?」

 

「あんた、あたしに道案内させるために助けたんじゃないの? そのついでに助けた名目で盗人の疑いも晴らそうとしたとか?」

 

 執拗に疑いの目を向けてくる少女に銀時は深く溜息をつき、

 

「どんだけ疑りぶけえんだよ、古畑任三郎かてめーは。あのね、お前が気を失ってる間に手足縛って自由だって奪えたんだぜ? 道案内させるなら脅してさせればいいんだからな……」

 

「それは……確かにそうだけど……」

 

 銀時の反論に口籠る少女。

 少しの間を空けて、少女も疲れたように溜息をつくと、

 

「……まぁ、あんたの行動はもし盗人だったら合理的じゃないし、あたしの推理にも無理があるかも。でも、一つだけ疑問がある。それに答えたらあんたが盗人じゃないって事だけは信じてあげてもいいわ」

 

「何に答えりゃいい?」

 

「あんたがなんでこんな所にいたのか本当の事情を話して……」

 

「あの時、話した通りだ……」

 

「ふざけないで……。あんなおとぎ話、信じられるわけないでしょ……!」

 

 気が立った声で少女が言う。まぁ、彼女の言う通りふざけた話であろう、信じろと言うのが土台無理なものだ。

 しかし、どんな態度をとられようと、どう言われようと銀時から出せる話はこれしかなく。適当に嘘を並べ立てて誤魔化すのも、彼にはもはや面倒だった。疲れているし……。

 

「信じられねーか……。でも、本当のことだからよ、それしか答えられねーんだ。事実は小説よりも奇なりってな」

 

「馬鹿げてる……」

 

「俺もそう思うよ」

 

 少女の返答に同調しながら、銀時は手に持った棒で焚いた火を弄り、串焼きの火の通りを確認する。

 

「じゃあ、あんたはどこからやって来たって言うわけ?」

 

「江戸ってとこから来た」

 

 少女の問いに答える銀時。

 

「エド?」

 

 聞いたことのない名前に少し戸惑う少女。

 

「そう、その江戸ってとこから来たんだよ、俺は」

 

 銀時はさらに、「あッ」と、思い出したように続ける。

 

「ちなみにその江戸のかぶき町ってところでこういうのをやってんだ」

 

 言うと銀時は懐に手をつっ込みまさぐる。

 そして一枚の水でふやけた名刺を差しだし、彼女はそれを手に取った。が、その面持ちに困惑の色が浮かぶ。

 

「なんて書いてあるんだか、わからないんだけど……」

 

「あァ? あ、そうか、違う世界の文字だから読めねーのか、仕方ねーなァ」

 

 銀時はめんどくさそうな調子で説明する。

 

「俺、万事屋(よろずや)っていう店、経営してんの。まぁ、名前の通り何でもこなす便利屋みたいなもんって考えてくれればいいや」

 

「万事屋……」

 

 説明を聞いた少女は一つそう呟くと再び口を閉じて。

 

(こんな文字、見たことないし、あたしが今まで見てきた文献や書物にも載ってなかった……もしこいつの言ってることが本当なら、これは異世界の文字ってことよね……、うーん……信じ難いけど……、でもこいつが嘘をついているようには見えないような…………見えるような……)

 

 腕を組み考え込んでいる少女を見て、銀時は「黙るの好きだな」と独り言を落とすと、目線は再び焚き火と魔物の串焼きに戻っていく。

 

 しばらくすると少女は腕を組むのをやめて、顔を銀時へ向けた。

 それに気づき、彼も少女の顔を見やる。

 

「考え事、終わったか?」

 

 銀時の声には隠しきれない疲れが漏れていた。

 考えてみれば酔いのひどい朝帰りからワケのわからん異世界に飛ばされ、魔物に襲われ、水浸しになり、また一悶着あって、睡眠もロクに取れていないのだから相当キツいことが窺える。が、それを知ってか知らずか少女はまた質問を放ってくるのだ。

 

「ねぇ……」

 

「あァ? なんだよ……、まだ聞き足りねーことでも?」

 

 もういい加減にしてほしいのだろう、ウンザリと言った顔と口調で返答する銀時。

 

「嫌気がさしてる質問攻めもこれで最後よ……いいから聞きなさい。その……あんたの話、少しは信じていいのよね?」

 

「嘘はついてねェつもりだが、信じるかどうかはお宅に任せるよ」

 

「そう……じゃあ、あんたが盗賊じゃないってことは信じてあげる。異世界どうこうはまだ半信半疑だけど」

 

 その言葉を聞いた瞬間、銀時の疲れきった表情が晴れる。

 盗人の疑いが消えただけでも彼には十分なものだったからだ。

 

「それで十分だ」

 

 表情に少し笑みを出しながら言う少女に銀時もフッと軽く笑い、返事を返す。

 そして銀時は「じゃあ」と言いながらこんがり焼けたグロテスクな魔物の串焼きを手に持ち、少女に渡そうと声をかけた。

 

「これ食えよ。和解の印さ」

 

 だが少女の手は伸びない……というか若干引いている。その様子を見た銀時は怪訝な顔をする。

 

「どうした? ほらァ」

 

 言いながらさらに腕を前に出す銀時。

 

「いや、いらないわよ! こんなグロいもん」

 

 魔物の串焼きを前に激しく拒否する少女。それでも銀時はしつこく勧めてくる。

 

「いやいやァ~、もらっとけってー、見た目はたしかにグロテスクかもしれねーが、味はわかんねーぞ。食いもんはグロいもんほどうめーからなァ、カニ然りタコ然り」

 

「味どうこう以前に魔物って食いものじゃないでしょ……」

 

 片方の眉を痙攣せながら、ドン引く少女。

 

「胃に入りゃあ、なんだって食いもんなんだよ! いいよ、もう。一人で食うから……あとでくれっつってもやんねーから」

 

「だからいらないってーの、そんなもん……」

 

 少女は疲れと呆れの入った声で断固拒否。そして銀時は「そうかい」と、手に持っている魔物の串焼きをあ~んと、口に運び咀嚼した。と、同時に顔を歪ませ、おえェ! と、口から魔物の肉を勢いよく吐き飛ばす。

 

「まずッ! おえェェェェ……オオ゛ッ!」

 

「言わんこっちゃないわ……」

 

 吐く銀時の向かいで少女は冷えた言葉を漏らすのだった。

 

 

 数十分後。銀時の吐きに吐き倒した食事も終わり、休息も十分に取ったと判断したのか横になっていた少女は起き上がって、銀時に声をかける。

 

「十分休んだし、そろそろここから出ない?」

 

「待ってたぜその言葉。この湿った地下遺跡にも嫌気が差してたところだ。行こうぜ」

 

 意見に同意しつつ、銀時は意気揚々に立ち上がると、か細くなっていた焚き火を踏んで消す。

 

「ここからなら外に直結してる出口は近いし、すぐ出られると思うわ……。え~と……、ていうか、あたし、まだあんたの名前聞いてなかったわね……、あたしも名前教えてないし」

 

 今さらなのだが、少女はまだお互いの名前すら知らないことに気づいたようだ。当然、このままでは呼び名に困るので、

 

「坂田銀時って名前だ」

 

 と、彼は名を告げた。

 

「坂田銀時……。なんかものすごく変な名前ね、まぁ、銀時って呼ぶようにするわ」

 

 聞いたことのない不思議な名前に首を傾ける少女。だが、名前はしっかり覚えた様子。

 

「で、お宅の名前は?」

 

 名乗ったあと、次に少女の名前を聞く銀時。問われた彼女は淡々と答える。

 

「リタ・モルディオよ。呼び名は好きにしていいわ」

 

「そう、じゃあ、案内頼むわ」

 

「言われなくてもわかってるわよ、行きましょう」

 

 こうして、二人は外に通じる出口に向けて遺跡内を歩きだしたのであった。

 

                *

 

 遺跡内を黙々と歩く二人。リタが先頭を歩き、銀時はその後ろをついて歩く。

 

「おい、そういやーよォ」

 

 リタに声をかける銀時。

 

「なに?」

 

「おめーは何でここにいたんだ? 俺みたいに巻き込まれてここに来たわけじゃねーだろ?」

 

 銀時の疑問はリタにとっては取るに足らないことだったのか、そんなことか、と言いたげな表情をしながら彼女は答えた。

 

「あたし、帝国所属の魔導師なのよ。魔導器 (ブラスティア)研究のためにちょっと研究資材を調達しに来たってわけ。まぁ天井が崩れてそれどころじゃなくなっちゃったけど……」

 

 説明を聞いたはいいが、意味の分からない単語が出てきた上、この世界の事を何も知らない銀時には、全くもってちんぷんかんぷんといった感じだ。

 

「つーか、帝国ってなに? 魔導器(ブラスティア)ってのもわからねーしよォ、つーか研究ってなに? 夏休みの自由研究的なそういう感じ?」

 

 雪崩のように質問をする銀時。まったく理解できていない彼に対し、リタは溜息を重く吐く。

 

「あたしの研究を夏休みの自由研究なんかと一緒にするなってーの。……そういえばあんた、違う世界から来たんだっけ……? どこまで本当かはわからないけど……。まぁいいわ、簡単に説明すると、帝国っていうのはこの世界、テルカ・リュミレースを治めてる国のこと、他の国家は存在しないの。統一国家ってやつ。それで、あたしはその国直属の魔導師ってわけ」

 

「つまり公務員みたいな感じか……。はぁ~、その歳でねぇ……」

 

「公務員?」

 

 リタは公務員という聞きなれない銀時の言葉に首を傾けるが「まぁ、いいわ」と、その言葉はスルーしつつ、説明を続けた。

 

「で、あんたの住んでた世界がどうかは知らないけど、この世界って魔物に支配されてて、すごい危険なわけ。人間はその魔物たちから身を守るため、築いた街に結界を張ってその中に引きこもってるのよ……。まぁ、それは大半の一般人の話だけどね……。あたしみたいに街の外に出て活動する人間も居るには居るし、治安維持を任されてる騎士団とか、あとギルドとかも……。そして、そんな人間たちの生活を支え、なくてはならない存在が魔導器(ブラスティア)よ! この子たちがいないと街に結界も張れず危ないし、ライフラインも機能しなくなるし、外で魔物から身を守ることもできないしで、大変なのよ。まさにこの世界の文明の象徴ってわけ。ただ、実際は帝国が独占して管理してるから一般人にはなかなか手の届かない代物なんだけど……、で、あたしはその魔導器(ブラスティア)の研究に携わっていて――――って、聞いてるの?」

 

 異変に気付いたのか、白熱する説明を途中でやめ、後ろを振り向いたリタ。

 彼女の目には、早々に興味を失い、話も聞かず上で飛んでいるコウモリたちを死んだ魚の目で観察する彼の姿がうつる。

 

「ア? あぁ……聞いてる聞いてる。つまりあれだろ? かい摘まんで話すとこの世界は帝国って国に支配されてて。ブラジャーがこの世界の生活を支え、そして帝国はブラジャーを独占して管理してるわけだ。確かに危険な世界だぜ、いろんな意味でよ……」

 

「いや、あんたのその頭が危険だわ……。ていうか、どう聞いたら魔導器(ブラスティア)をブラジャーって聞き間違えるのよ! ブラの部分しか合ってないじゃない」

 

 ねじ曲がった解釈をする銀時にツッコミを入れるリタに対して、

 

「いや、もういいって、ブラッキーでもブラッドレイ大総統でも」

 

 と、気だるげに、めんどくさそうに呟く銀時。

 

「いや、良くない。いろんな意味で」

 

 呆れ気味の声でツッコむリタ。そのツッコミを流しつつ、銀時は質問をさらに彼女へ投げかけようとする。

 

「あと、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど――」

 

 言葉をつづけようとした時、彼女の足が止まった。つられて、銀時も歩くのをやめ。

 

「何? どうした?」

 

「着いたわよ。あれが出口」

 

 リタが指を差した。その方向には大きな扉が見える。

 

「おいおい……、開くのかあの扉……?」

 

 古びた石の大扉を見て、不安そうな声を出す銀時。

 

「もちろん人の力じゃ動かせないわ。だからこれを使う」

 

 彼女はそう言うと、懐から一つの指輪を取り出した。

 

「んだよーそれ、ただの指輪じゃねーか。どうするつもりだ? そんなんで……」

 

 どこからどう見ても何の変哲もない指輪に片眉を上げる銀時。しかし、この指輪はオシャレのためのアイテムではない。

 

「いいから見てなさい、すぐにただの指輪じゃないってことが分かるから」

 

 リタは指輪をはめて、扉についている宝石のようなものに向けた。

 すると、指輪から光が照射され宝石に当たる。宝石には紋が浮かび上がり。直後、轟音を立てながら、重厚な石の大扉がゆっくりと開き始めたではないか。

 

「マジかよ……」

 

 謎の技術で扉が開く有り様を見て、呆気にとられる銀時くん。

 

「ほら、外に行くわよ」

 

 リタが開いた扉の先にある階段を上って行くと。銀時は唖然としながらも早足で彼女についていくのであった。




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