異世界に飛ばされた最初の一日から、もう二週間の月日が経っていた。そのあいだ銀時は毎日、毎日、血反吐を吐きながら書庫室で書物と睨めっこをしていたが、二週間経った時点での成果はゼロ、未だに手がかりのての字も出てこない。
ただでさえ勉強や地味な作業が大嫌いな銀時にとって、リタの家と書庫室を往復し、小難しい文字を見続ける日々は地獄そのものだ。もちろん彼も全く努力をしなかったわけではない。
少しでも作業の苦痛を取り除くためにこれはジャンプだァ~、ジャンプだァ~、と自分に催眠をかけ読んでみたり、ブリッジをしながら読んだり、本との対話を試みたり、本を縛ったり、放置プレイをしてみたりと、努力の方向性は完全に明後日の方向だが、彼なりに思いつく限りの手は尽くした。
しかし、これっぽっちも苦痛を取り除くことはできず、フラストレーションは溜まる一方。そんな調子の銀時はと言うと、今日も書庫室で激闘を終え、リタの家に帰る道中だった。
最初は物珍しかったアスピオの街の風景も見慣れ、もはや目を通すこともなく銀時は木の橋を渡り、街のすみにあるリタの家へと真っ直ぐ向かうだけ。
家の前に着いた銀時は玄関のドアノブを握りドアを開けると、倒れこみながら帰宅したのだった。
「おかえり」
と、一階で本を読んでいるリタが出迎えの言葉をかける。しかし、銀時から返答はない。
彼は小刻みに震える体を押さえながら立ち上がり、開きっぱなしのドアを力なく閉める。
目の下には濃い隈ができ、頬はこけ、げっそりとした様子だ。
弱々しい足取りで、ただ床に毛布を敷いただけの粗末な自分の寝床に向かうと、銀時は横になった。
「大丈夫なの?」
生気がない彼の姿を見て、少し心配そうな表情で問いかけるリタ。
「大丈夫なわけねーだろ……」
帰宅してから無言だった銀時が、やっと口を開いた。
「頭が変になりそうだ……。毎日、毎日、文字と睨み合いをして、ここと書庫を往復する生活……。もう、ず~~~と同じ光景と物しか見てない。本と、ジロジロ見てくる不快な街の住民共と、お前のしけた
「仕方ないでしょ。大体、『調べる』なんてことはそんなもんよ。何百冊もの本を読んで、見落としがないか読んだ本を読み直したり、そういう地道な作業を積み重ねた先に答えや手がかりは生み出されていくんだから。なんとか頑張りなさい」
悪態をつく銀時にリタは気色ばみながらも、なだめるような口調で彼をたしなめる……が、なおも銀時は女々しく、長ったらしい文句を垂れ流し続けた。
「お前らはインドア派でこういうの慣れてるからいいけどよォ、俺アウトドア派だからッ! キャンプとかバーベキューとかガンガンやる派だから! 家の中で黙々と作業するなんて、
いつにも増して、喋る、喋る。お前、本当に疲れてんのかよ! と、疑いたくなるほど、銀時の口からは淀みなく愚痴が出てくる。
あまりのウザさと煩さにリタが手で耳を塞ごうとしたその時、玄関のドアを叩く音が。
突然のノックの音に銀時の口も急停止。
ドアを見つめる二人……。一瞬沈黙が降りたあと、銀時はドアからリタの顔へ視線を移す。それに対し彼女は顎でドアを指した。
銀時は酷くめんどくさそうな表情を見せるものの、渋々起き上がる。玄関に向かい、ドアノブに手をかけた。
「へいへーい、いま出ますよー」
言いながら銀時はドアを開ける。目の前には一人の青年が立っていた。
金髪に青い目を携え、青と水色が印象的な服をキッチリと身に纏い、その着こなしからは真面目で礼儀正しい印象と、少しの窮屈さが感じられた。
肩、腕、足には鎧が装着され、左の腰には西洋の剣が帯刀されている。その風貌は明らかに一般人ではなく、騎士のそれだった。
「あ~っと、どちら様で?」
銀時が、青年に聞く。
「帝国騎士団所属、フレン・シーフォと申す者です。ある用件で、あなたに協力を願いたく、ここへ馳せ参じたのですが。魔導士のモルディオ殿で間違いないでしょうか?」
フレンという騎士の青年は応対に出た銀時を彼女だと勘違いしたらしく、本人確認を取るも、銀時はすぐさま否定した。
「あー、違う違う。モルディオってのは俺じゃなくて、部屋の中にいる奴のことだ」
彼は部屋の中にいるリタを親指で指す。
「いま呼んでくっから待っててくれ」
騎士の青年にそう言って、銀時はリタに声をかけに行く。
「おい、帝国騎士団とかいう奴がお前に用があるって、話聞いてやれよ」
「騎士が? あたしにー? ……まったくー、何の用よ」
声をかけられたリタは訝しんだ表情をしながらも、銀時と入れ替わる形で騎士の青年の応対へ出た。
銀時は部屋の奥へ。自分の寝床のところで胡坐をかき座る。
リタと騎士の青年が話し合っている様子を部屋の中から見つめる銀時。
騎士の青年は何かを必死に頼み込んでるようだったが、肝心のリタはあまり乗り気と言った態度ではない。青年の表情には困惑と焦りが表れていた。
なぜあたしが、そんな暇はない、と、リタの冷たい言葉が次々と聞こえてくる。
彼女が応対に出てから数分、まともに取り合ってくれない態度に青年は諦めたのか、一礼をしたあと、困却とした様子で去って行ってしまう。
その背中を見送ることもなくリタは家の扉を閉めた。 そんな光景を目にして、なんというか、いたたまれない気持ちになる銀時。
「おい、なんか困ってたみたいだけど、手伝ってやんねぇの?」
銀時がリタに聞くと。
「なに言ってんの? そんな時間あたしにはないわ。大丈夫よ、わざわざあたしが出向かなくても他の魔導士で事足りる用件だったから」
彼の問いかけにリタは淡々とした様子で答えた。それに銀時は眉をひそめ異議を唱える。
「いいのかよ……。仕事、他人に押し付けて。お前、国直属の魔導士なんだろ? ちゃんと仕事しろや」
「ヒモみたいな生活してるあんたに言われたくないわ」
「うぐッ!」
異議を唱えた結果、リタから手痛い一撃をもらう銀時。
「おっま……。それを言うんじゃねーよ、俺も薄々感じてたけどよォ……」
意気消沈とする銀時。
「余計な口答えするからよ。自業自得」
彼女は頬笑みながら銀時に言った。
そんな呑気な会話をしたあと、いつも通り二人は銀時が作った晩飯を食べ、風呂に入り、寝床につき一日を終える。
銀時は明日も死に体で書庫室に行き、リタは得体のしれない研究に精を出す。そんな平坦な日常が明日も続くと、二人は思っていた。
……だが、違った。二人の日常は、ある3人と一匹の来訪者によって大きく、急激に変化していくことになる。
*
翌日、朝、天候は晴れ、気温は低めで少し寒い。最初に目を覚ましたのは銀時である。
起きた時間は地球で言うところの朝の8時。早起きが苦手な彼が目覚まし時計なしでこの時間に起きたのは非常に珍しい。で、最初に感じたのは尿意だった。
まだ重い体を起こし、真っ直ぐ厠へ向かう。途中、本に埋もれながら寝てるリタの姿が目に入ったが、彼は特に気にすることもない。
厠の扉を開け、個室に入った。そして放尿を開始、銀時が正に至福の時を過ごしている時。家のドアの外では、すでに招かれざる客が来訪し、事態は動き出していた。だが、異変が起きていることなど、個室で用を足している彼にはわからない。出すものを出し、スッキリした銀時は厠を出た。
次にやることはもちろん……、二度寝だ。早起きした分、なにか時間を有効に使おうなんて考えは彼には無い。そして寝床に戻ろうとしたその時、ようやく銀時は外の異変に気づく。
ドアから物音が聞こえるのだ……。誰かがドアノブを弄る音、それだけではない……。外からは誰かを注意する女性の声と、子供の高い声が銀時の耳を刺激する。
直後、ドアのロックが外れるとドアノブが回され、扉が開かれようとした。
それを見た銀時は、反射的に壁に立てかけていた洞爺湖を逆手に持ち、恐るべき速さで積み重ねられた本の壁と柱の場所へ身を隠す。扉が開かれ、続々と入ってくる人影。
最初に入ってきたのは長身の男だった。
男の顔はまだ若く青年と言った感じで、女性のように髪を腰まで伸ばし、胸元のはだけた黒い服を身に付けている。左手には鞘に収められた柄の白い刀がぶら下げられていた。
次に入ってきたのは、見た感じ11から12歳ぐらいの小柄で臆病そうな少年。
明るい茶色の髪に、背丈に似合わない大きい鞄を体にかけている。
そして最後に入ってきたのは、桜色の髪に、大人しそうで柔らかい物腰の白とピンクのドレスを着た少女……、と、青い体毛に煙管をくわえた隻眼の魔物の狼だった。
長髪、長身の刀を持った男にでっかい鞄を引っ提げた小柄な少年とお姫様のような少女、そして魔物みたいな狼……。なんとも珍妙な集団である。
最初に口を開いたのは、少年だった。
「すっごォ……。こんなんじゃ、だれも住めないよ~」
あまりの部屋の惨状に絶句する少年。
「そうか? その気になりゃあ、存外どこでだって食ったり寝たりできるもんだ」
部屋の感想を言う少年に男は低い声でそう返す。
「ユーリ、先に言うことがありますよ!」
桜色の髪の少女が男に注意をしていた。少女の発言を聞くに長髪の男の名はユーリと言うらしい。
「こんにちは。お邪魔してますよォー」
少女に窘められると、男はおもっくそ棒読みで適当な挨拶をする。
「鍵の謝罪もです」
そんな男に少女は更に注意を促すが。
「カロルが勝手に開けました。ごめんなさい」
男は尚も態度を変えず、棒読みで誠意のない謝罪をする。こちらは完全に舐めきられているようで。
「もう、ユーリは……。ごめんくださ~い、どなたかいらっしゃいませんか~?」
いくら言っても真摯に挨拶も謝罪もしない男に呆れたのか、少女は自分で挨拶をした。
だが、リタは本の山の中で熟睡し返事をするわけもなく、身を隠している銀時も自分の居場所を晒すような真似はしない。
少女の言葉は誰にも拾われず、空しく消えるだけだった。
「居ないんなら好都合。証拠を探すとするか……」
住人がいないと判断したのだろう、男はそう言って少年と一緒に部屋を物色し始めた。
一方、3人組のやり取りを見ていた銀時は、物陰に隠れながら状況を整理し、冷静に思考を巡らせる。
相手の目的はわからないが、勝手に
とりあえず、あの人畜無害そうな少女と間抜け面の少年は置いといて、一番警戒すべきは、刀を持った男と狼のような魔物だ。
まだ気づかれていない。見つかる前にこちらから先手を打とうか……、そんなことを銀時が考えていると、長髪の男がこちらへ向かってくる。
彼は姿勢をさらに低くし、床に這いつくばる。顔は一層険しくなり、洞爺湖を握る右手にも自然と力が入った。
長髪の男はまっすぐ銀時の隠れている場所になお向かう。
止むを得ない……。出て不意打ちを仕掛けよう、銀時がそう決断した瞬間だった、リタが目を覚まし起き上がったではないか。
突然、本の中から姿を表したリタの姿を見て、一瞬固まる男と少女、少年。
銀時も動きが完全に止まる。
「ぎゃあああァァァァ! あう、あう、あうあうあう」
少年は目を剥くと、悲鳴を出しながら尻もちをつく。と思えば、ビビりながらも少年はすぐさま立ち上がり、長髪の男の背中に隠れた。
「……うるさいのよ……」
低い苛立った声でリタはそう呟くと、詠唱の構えをとり、足元にすぐさま赤橙色の魔法陣が現れた。
それを見た瞬間、長髪の男は駆け足で横に退避する。動けず、取り残される少年。
「えっ? あれ……ちょっと!」
自分を守る壁がなくなり、狼狽する少年。
「泥棒は……ッ」
「うわぁぁぁっ! ちょっと、待ってッ!」
少年が止めてと叫ぶが、そんなもので容赦ないリタが止まるはずもなく、詠唱を完了させ、白熱の火球が作られる。
「ぶっ飛べ!!」
リタの大声と共に高温の火の玉が少年目掛けて飛んでいった。
「いやぁぁぁぁッ!」
少年は悲鳴を上げながら爆炎の光に包まれ、かき消える。しかも被害にあったのは少年だけではない。
山積みにされた周りの本も巻き込まれて吹っ飛び、銀時が隠れていた本の壁が崩れたかと思うと、雪崩のように襲いかかり、彼は本に押しつぶされるかの如く埋没した。とんだ、とばっちりである。
「げほっ……げほっ……ひどい」
ファイアーボールをもろに食らった少年は咳き込みながらもなんとか生きていたようで。
「お、女の子ッ……!?」
リタを男だとでも思っていたのか、彼女の顔を見て桜色の髪の少女が驚いた表情を見せた。
「こんだけやれりゃあ、帝都で会った時も逃げる必要なかったのにな」
いつの間にかリタの後ろに回り込んでいた長髪の男。言いながら鞘を飛ばし、刀を抜き身にするとリタの首元へ突きつけた。
しかしながら、彼女の表情には焦りも恐怖もない。至って冷静だ。
「はぁ? 逃げるって何よ。なんであたしが逃げなきゃなんないの?」
リタの疑問は至極当たり前のものだった。なぜなら本人は帝都になど居なかったし、誰かに追われるような覚えもないからだ。
彼女が男の言っている内容の事など理解できるはずもない。が、
「そりゃ、帝都の下町から
男は平然とした様子でリタの疑問に答える。
「いきなり、何? あたしが泥棒ってこと? あんた常識って言葉知ってる?」
身に覚えのない罪を着せられ、内心憤りを感じながらもリタは皮肉交じりに男へ言う。
「ま、人並みには」
男は涼しい顔でそう返すが……、人の家へ勝手に上がり込み、それだけでは飽き足らず、その家の住人を泥棒扱いし、あげく刃を突き付ける……。誰がどう見ても男の行動は常軌を逸している。リタは鼻で笑い、言った。
「フッ、そう……。じゃあ、常識人のあんたに一つ良いこと教えてあげる」
「ア?」
彼女の言葉に怪訝な表情を見せる男。
「敵は、『一人』とは限らないわ」
リタがそう言った瞬間だった。大量の本に埋もれていた銀髪の男が凶悪な笑みと洞爺湖を携え、勢いよく姿を現すッ。
「ユーリッ!!」
桜色の髪の少女が叫ぶが、もう遅かった。
一瞬の内に銀時は男の左手首を抑え、刀を振らせず、さらに男の首を逆手に持った木刀の峰で押さえ付けると、動きの自由をほとんど奪う。一瞬のことだった。
その光景に仲間の少女と、少年は色を失い、立ち尽くす事しかできない。
「動くなやァ。とりあえず兄ちゃん……、この左手に持ってる物騒なもん……捨てようか?」
「――ッ! もう一人……、居たのかよ……!」
銀時は男の左手首をさらに強く締め上げる。
締め上げられた男の左手は負荷に耐えきれなかったのか、とうとう得物を床に落とした。落ちた刀を蹴り、リタの足元へ転がす銀時。
「ナイスだわ、銀時」
彼女は刀を拾いあげると、銀時の見事なまでの手際に珍しく口元を緩め賞賛する。
「で、てめーらは何なんだよ? 金目の物が目的って感じでもねぇみたいだし……、一体どういう了見で人様のモーニングぶち壊しに来たってんだ?」
銀時の当然の質問には、桜色の髪の少女が答えた。
「あ、あの! これには、色々訳がありまして……」
そう答える少女の表情には焦りが見られ、声も少し震えが見て取れる。
「色々じゃわからないわよ。もっと具体的に説明して」
訝しんだ顔でリタが言うと。
「えっと、ですね……このユーリと言う人は帝都から
少女は説明するが、その内容は二人からすれば、まったく要領を得ないものだ。
なぜ帝都の
「その
唯一、自由に動く右手でリタを指差し犯人の特徴を挙げる。
確かに彼女の姿はユーリの言う、
「ふ~ん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
彼女は至極落ち着いた様子で、自分の名を名乗る。
「背格好も情報と一致してるね」
横から呟く少年。
情報にズレはないようだったがユーリは疑念の眼差しと共に、手っ取り早くリタに真偽を問う。
「で、実際のところどうなんだよ? お前盗んだのか?」
「だから、そんなのあたしたちは知ら……、あぁ~、その手があるか……」
否定しようとした口をリタは途中で止める。何かひらめいたご様子。
「銀時、そいつ離していいわよ」
「あ? 離して大丈夫なのかよ……」
その言葉に怪訝な表情を浮かべながら、銀時が確認をとる。それに対しリタは無言で首を縦に振った。
それを見て彼は少し間をおいたあと、握っていたユーリの左手首を離し、首に押さえ付けていた木刀を外す。
拘束から解放されたユーリは自分の左手首を摩る。ずっと強く握られていたせいで、左手首は赤くなっていた。
「なんでオレを解放した? 意味がわからねえ……質問にも答えてもらってねえし」
リタの不自然な行動が腑に落ちない様子のユーリ。
銀時も彼女の行動の意図がわからないのか、不満げな顔をしている。
「シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話をいま思い出したのよ。」
リタは言いながら、もうすでに身支度の準備に取り掛かっていた。
「盗賊団? それ、本当かよ?」
「協力要請に来た騎士から聞いた話よ。間違いないでしょ」
疑うユーリへリタは抑揚のない声で淡々と答える。
彼女の言う協力要請に来た騎士とは、多分、前の日にリタの家に訪れた金髪の騎士のことだ。
「なにやってるの銀時? あんたも外出るんだから準備しなさい」
リタは、ぼーっとして突っ立っている銀時に注意するが。
「あの~、すんませんリタさん……。話についていけなくて、置いてけぼりになってるのは気のせいですか?」
あまりにも多くの物事が起き、処理が追い付かなくなり始めている銀時の脳。
「気のせいじゃないわ。まぁ、あたしが何を考えてこんな行動をとるかは、遺跡に行く道中で説明してあげる……。だからさっさと準備する」
説明は後回し。リタはそう言って、彼がいつも着ている白い着物を銀時に投げつけた。
着物を受け取った銀時。なにがなんだかといった感じで不服そうな顔をしながらも、渋々と身支度に入るしかない。
さて、そんな具合で二人が外出の準備をしている間、ユーリとその仲間たちは集まり、小声で何かを話していた。
「その協力要請に来た騎士って、フレンのことでしょうか?」
「……だな。あいつフラれたんだ」
頷きながら少女に答えるユーリ。
そんな会話をしてる二人は、どうやらあの金髪の騎士、フレン・シーフォと知り合いのようだ。
「そう言えば、外にいた人も遺跡荒らしが、どうとか言ってたよね?」
少年は外に居た魔導士から聞いた話を思い出したのか、話題へ持ち出す。
「つまり、その盗賊団が
「さあなあ……」
少女はユーリに聞くが、彼自身も真相はわからないといった様子……答えることができない。
そんなことを小声で話してる間に銀時とリタは準備を終え、三人組の前に姿を現していた。
リタはローブを脱ぎ捨て、頭にゴーグルを装着した姿に銀時は赤いラインが入った黒い服の上に真っ白な着物を身に付け、着物を片肌脱ぎしているお馴染の姿だ。
彼の左の腰には洞爺湖が帯刀され、右手にはユーリから奪った白い柄が特徴的な刀……、ニバンボシが握られていた。
もちろん、人のほうに刃が向かないよう逆手で持っている。
「相談終わった? じゃあ、行こう」
リタは三人組に確認をとり、とっとと出発しようとする。が、
「とか言って、出し抜いて逃げるなよ。あんたら」
ユーリはその低い声色で、警告をしてきたのだ。
「来るのが嫌なら、ここに警備呼ぶ? 困るのはあたしたちじゃないし……」
そんなユーリに対し、リタは冷静な態度を崩さず、脅しつける言葉を吐いて返した。そして、銀時はめんどくさそうな表情でハナクソを深追いしていた。
「行ってみませんか? フレンもいるみたいですし」
現状彼女に無理に逆らってもメリットはない。そう感じたのか、ユーリの耳元で囁き提案する少女。
「捕まるー、逃げるー、ついてくる、ど~すんのかさっさと決めてくれない?」
リタは両手を小さく広げながら、三人組を急かした。すると、
「……わかった。行ってやるよ」
警備を呼ばれては面倒になるとユーリも思ったのだろう、彼は素直にリタについていくことを決心したようだ。
「シャイコス遺跡は街を出て、さらに東よ。出発しましょう」
リタは出発の掛け声を発すると家の扉を開け出ていった。
少年、少女、魔物の狼がリタに続き、扉の外へ……。ユーリもついていこうと、部屋を出ようとしたその時、銀時が話しかける。
「おい、兄ちゃん」
「……? なんだよ」
突然話しかけられ、警戒した面持ちを浮かべるユーリ。そんな彼に銀時は、右手に持っているニバンボシを差し出した。
「てめぇの得物だ。返すわ」
「……」
差し出された刀を前に、ユーリは少し間を取ったあと、ゆっくりと刀を受け取る。
「……どうも」
戻ってきた刀を鞘に収めると、ユーリは一言銀時に返し家の外へ出て行った。
それを確認すると、最後に家を出る銀時。
こうして各々、様々な思惑を心中に抱きながら、五人と一匹はシャイコス遺跡へと歩き出していくのだった。
*
一行はアスピオの街を出て、シャイコス遺跡へと続く道を歩いていた。
銀時とリタが並んで先頭を歩き、その後ろをついて歩くのが、大きな鞄を持った少年と桜色の髪の少女に長髪の男ユーリと魔物のような狼。
さて、そんな道中、銀時は早々にリタを問いただす。
「おい、リタ。もういい加減説明してくれてもいいんじゃねーの? なんでいきなり盗人共が居る遺跡に行くなんて七面倒くさいこと言い出した?」
自分たちの身は潔白で、なにも悪いことなどしていない。ただ、あの侵入してきた三人組を通報し、あとは警備の騎士に任せておけば、事はそれで終わる話だ。
銀時は当然の疑問を彼女に放つ。それに対しリタは自分の目的と、行動の意図を説明し始めた。
「目的は一つよ。盗みの濡れ衣を払拭するために、本当の犯人をあたしたちで捕まえる。多分、盗賊団の目撃があった遺跡にその仲間や関係者がまだいるはず……」
「別にいいだろ、濡れ衣なんて……。俺達なんも悪いことしてないんだしよォ、勝手に奴らに思わせておけばいいじゃねーか。それで俺らがどうにかなる訳でもあるめーし……」
説明を聞いたものの、リタの行動にやはり納得できないのか、銀時はめんどくさそうに文句を垂らす。
「いやよ。やってもいない罪で人にず~と勘違いされたまま恨まれ続けるなんて、想像するだけで不愉快甚だしいわ……!」
リタは、それはもう嫌悪した表情で銀時の言い分をきっぱり拒否した。
様子を見るに、どうしても彼女は汚名を雪がないと気が済まないらしい。
「つってもその~、なんだっけ……シャチホコ遺跡? とか言うところに盗賊がいる保証なんてねーぞ。居たとしてもその盗賊団の奴らはあいつらの追ってる犯人と関係してねぇかもしれないわけで……」
「いるわ。絶対なんて確かに言いきれないかもしれないけど、奴らはまだ遺跡にいる。そして、高確率で帝都の
銀時が懸念とする要素を上げるも、リタは確信し得る根拠があるのか、考えや態度は固く変える様子はない。
「自信満々だな……おい」
彼女の自信に満ち溢れた表情を見て、銀時が呟くと。
「あたしも協力要請に来た騎士の話を聞く前から、遺跡が荒らされる事件や街の
リタは自分がこれまで聞いてきた情報と騎士から得た情報を照らし合わせ、構築した仮説を銀時に話してみせた。
それを聞いた彼は怪訝そうな顔で彼女に再度質問をぶつける。
「お前の言ってることが正しいとして、一体なにが目的で盗賊共はそんなことやってんだ?」
「それは……、わからないわ。でも、碌な目的ではない事だけは確かよ」
「…………」
リタが銀時の質問に一つ残らず答えた時だ……。桜色の髪の少女が、二人に声をかけてきた。
「あの~、すみません」
声をかけられた二人は歩みを止め、後ろにいる少女のほうへと振り向いた。
「あ? なんか用?」
銀時が気だるい声で少女に聞くと。
「はい、あの、謝罪が遅れてしまいましたけど、ごめんなさい! 勝手に家に上がり込み、数々の無礼を働いたことをお許しください」
少女は突然、深く頭を下げ、丁寧に謝罪をし始めたではないか。
「あぁ、いいって、別に。もう済んだことだしな……つーか、無礼働いたのほとんど長髪の奴だし」
誠心誠意、申し訳なさそうに謝る少女に対し銀時もなぜか申し訳なそうな様子で言う。
「あたしも別に気にしてないからいいわよ。銀時の言う通り、無礼なのはあの一番後ろに立ってる男だし」
リタはユーリを見ながらそう言った。
「でも、わたしも流されるまま、勝手に家に上がり込んでしまったのは事実です……。謝らないと……ほら、ユーリとカロルも」
少女はそう言って、ユーリと少年にも謝罪を促す。
「ご、ごめんなさい……」
少女に促されながら、少年の方は素直に謝ってきた。
だが、そんな子供が謝ってる横でユーリだけは態度を変えず、頭を下げない。まるで大きな子供そのもの。
「ユーリ! カロルも謝ってるんですよ!」
少女は少し怒った顔でユーリに言うが。
「
彼は言って、顔を横に背けるばかりだ。一体どう育ったらこんなにひねくれるのか……。
「もう、ユーリは――」
「お嬢さん、もういいって。本人がその気になるまで気長に待つよ」
「でも……」
ユーリを叱ろうとする少女を銀時は止める。疑いを晴らさないことには相手の態度も変わりはしないと踏んだのだろう。
それに他にやらなければいけないことがある。
「それより、あんたらの名前は?」
「え?」
「俺、万事屋ってのをやってる坂田銀時って言うんだ、よろしく」
自己紹介を始める銀時。
「あ、すみません。こちらも名乗っていませんでしたね。エステリーゼと申します。エステルって、呼んでください」
名乗る彼に対し、少女も面喰いながら自分の名前を銀時へ告げる。なんてやり取りをやっていると、続くように少年が言った。
「ボ、ボクは、カロル・カペルって名前。あの狼みたいなイヌはラピードって言うんだ」
名前を告げて、ついでに青い体毛の犬の名前も銀時に教えてくれる。
「ここって親睦会か何かの席だったっけ?」
そんな光景を見つつ、小さく一言呟くリタ。
彼女の無粋な一言は置いといて、自己紹介も終わり、お互いの名前を知った一行からは少し張りつめた雰囲気が取れる。カロルの硬かった表情も柔らかくなっていた。
一部を除きギクシャクした空気が取れたなか、歩き続けること数十分。一行の先にはシャイコス遺跡の風化した建物が見え始めていた。
編集(以下略