銀の明星   作:カンパチ郎

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編集(以下略


渡る異世界は災難ばかり

 長い道を抜け、ようやく東のはずれにあるシャイコス遺跡の入口に到着した、銀時、リタ、ユーリ、エステル、カロル、ラピードの一行。

 シャイコス遺跡の入口両脇には太く大きい石柱が二本建っており、その柱の先には、縦に二つ並び建つ風化したアーチの門が続いている。

 噴水もあり今となって尚、そこからは止めどなく水が湧き、流れ続けていた。

 遺跡の建造物、外壁、柱、アーチには、所々苔とツタの葉が生え、地面からは草や木が石畳をぶち破り、自生している。

 もう何百年も前からここに存在し続けてきたのであろう遺跡は、自然に侵食されつつあった。

 

 人が作った人工物とそれを侵食する自然の光景……見る人が見れば、たまらない光景だろう……。

 リタを先頭に一同は、シャイコス遺跡の入り口を通って進む。

 一つ目のアーチへ差しかかると、リタは動かし続けていた足を止め、後ろにいる銀時たちの方へと振り向いた。

 

「ここがシャイコス遺跡よ」

 

 リタの言葉を聞いて、銀時の顔は若干苦々しいものに変わる。

 

「はぁ~、また遺跡なんかに来ることになるとはよォ……」

 

 風化した遺跡の建造物を見ると、異世界に飛ばされた最悪の日の事をいまだに思い出すのか、銀時のテンションはみるみる下がっていた。

 

「え!? 銀さん、前にも来たことあるの?」

 

 カロルが興味深そうな様子で聞く。

 

「別のところだけどな……。色々あったんだ、これ以上聞かないでくれ……」

 

 低い淀んだ声で、銀時は少年の追求を拒んだ。

 

「え~、そんな言われ方されると余計気になっちゃうよ」

 

 カロルは不満そうな表情で銀時に言うが、だからといって話す彼ではない。

 

「騎士団の方々の姿が見えませんね」

 

 カロルと銀時がやり取りをしてる横で、遺跡を眺めながらエステルが呟く……すると、ラピードが前に歩き出て、何かを知らせる様に地面を見つめ始めた。

 下をよく見ると、一部分の石畳が風化して無くなり、その部分の土がむき出しになっている。

 そこには大量の足跡が残されていた。

 

「足跡がある。しかもまだ新しいよ。数もいっぱい」

 

 土につけられた大量の足跡たちを見ながら、カロルが言った。

 

「騎士団か、盗賊団か、その両方かってとこだろ」

 

 一番後ろでユーリが答える。

 

「きっと、フレンの足跡もこの中にあるんでしょうね」

 

 憂い顔でフレンの姿を思い浮かべると、ぽつりと言葉を漏らすエステル。

 

「そうだな……」

 

 と、ユーリは静かな口調で相鎚を打つしかない。

 

「足跡があんのはいいけどよォ……、肝心の騎士や盗賊共の姿が見えねぇ。どこ行った? やっぱ、もう奴らとっくにトンズラしちまった後なんじゃねーかァ? リタ」

 

 銀時は死んだ魚のような濁った目にリタを映しながら怪訝な顔つきで問いかけるが。

 

「いいから、早くこっちに来なさい」

 

 めんどくさいのか……はたまた、リタ自身もわからないのか、彼女は問いには答えず、とにかく遺跡の奥へとユーリ達を案内しようとしていた。

 そんな様子のリタに銀時は頭を掻きながら片眉を上げるばかり。そして、それ以上彼から言葉が出ることはない。

 

 一方で、遺跡の奥へ誘導しようとする彼女を見て、おちょくった声でいらない一言を言い放つのがユーリだ。

 

「モルディオさんは暗がりに連れ込んで、オレたちを始末する気だな」

 

「……始末……ね。そのほうが確かにあたし好みだったかも」

 

 リタは微笑しながらユーリにそう冗談を返すが、明らかに目は笑っていない。

 

「不気味な笑みで同調しないでよ……」

 

 不穏な場の空気にカロルは顔を青くし、低い声で言う。

 

 「な、仲良くしましょうよ」

 

 若干声を引き攣らせながらも、殺気ただよう二人を宥めるエステルの顔には冷や汗が流れ落ちていた。

 

「そうそう、いがみ合ってもしゃーねぇだろ。とりあえず盗賊共と騎士団を探そうや」

 

 いつもと変わらぬ調子で銀時がまとめるように言うと一行はまた歩き出し、遺跡の奥へと進みだした。

 

 風化した石畳を黙々と進み、シャイコス遺跡の噴水の少し横だろうか、そこで、銀時たちは足を止める。

 足を止めた場所のすぐ近くには噴水だけでなく、水瓶を持ち翼の生えた女性の像のオブジェが建っているようだが……。

 

「奥へ進んだのはいいが、相変わらず誰の姿も見当たらねえな」

 

 ユーリが辺りを見渡しながら呟く。

 彼の言うとおり、人の気配は一切感じられない。もう撤収してしまった後なのか……。一行の空気に不安が漂い始める。

 

「も、もっと奥に行ってみますか?」

 

 不安を払うようにエステルが言うが……。

 

「奥って言ってもなぁ……」

 

 遺跡のさらに奥の場所、一応道は続いていたが、どうにもそこからは人の影は感じられない。

 

「銀さんの言った通り、誰かいるようには見えないよね。足跡はあるのに……」

 

 カロルが付近に目を配りながら言う。その後ろでリタは左の掌に肘を置くと、右手で頬を触りながら口を開く。

 

「まさか、地下の情報が外に漏れてんじゃないでしょうね……」

 

「地下?」

 

「どういうこった?」

 

 リタの言葉に銀時とエステルの二人が反応した。

 

「ここ最近になって、シャイコス遺跡の地下へと続く入り口が発見されたのよ。まだ一部の魔導士にしか知らされてないはずなのに……」

 

 リタは訝しんだ表情をしている銀時とエステルに説明をする。

 それを聞く限り情報の入手経路は不明だが、おそらく盗賊団はどこからかシャイコス遺跡の地下の情報を入手し、遺跡の地下に侵入した可能性が高いようだった……。どおりで、地上の遺跡には、人っ子一人見当たらないはずだ。

 

「それ機密事項なんじゃないか? 俺たちに教えていいのか?」

 

 壁にもたれ、腕を組みながらユーリがリタへ問う。もちろん軽く話していいものではない。だが、

 

「しょうがないでしょ。身の潔白を証明するためなんだから……ていうか、もう漏れてんだから関係ないわ」

 

「身の潔白ねぇ……」

 

 答えるリタに不信の念を抱いているユーリは疑うような眼差しを彼女に向けつつ静かに呟いた。そんなユーリにが目もくれず、リタは女性の像の左横の石畳の傷の方に視線を向けていた。

 

「地面にこすれた跡があるね」

 

 リタの隣に立ち、カロルが言う。

 言った通り、地面には何者かが地下へ行くため、女性の像の台座を動かしたと思しき痕跡がしっかりと残っていた。

 

「発掘の終わった地上の遺跡くらい盗賊団にあげてもよかったけど、来て正解だったわ」

 

 リタは石畳の傷を見て、地下に盗賊団が居るのを確信したよう。

 

「なら早く追いかけないと。これを動かせばいいんでしょ?」

 

 言って、カロルは像の右横に立つと精一杯力を込め、台座を押し始めた。

 のだが、うんともすんともびくともしない。当たり前の事だが、像は子ども一人で、退()かせるほど軽い重量ではないのだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ほら、行くぞ。もうちっとがんばれよ」

 

「踏ん張れやァ、カロル!」

 

 息を切らし困った様子のカロルを見て、ユーリと銀時も像の台座に手をつけ、押す準備を始めた。手助けをしてくれるようだ。

 

「あ……う、うん……」

 

 二人に返事を返すカロルの声は苦しそうだが、頼もしい姿の二人にカロルは疲労よりも安心感を覚えていた。

 呼吸と力を合わせ、三人は像の台座を押し始めた。すると少しずつ動き始める台座。

 

「おい兄ちゃん、おっめ……なんで片手で押してんだ!? 両腕でやれや」

 

 と、銀時。

 

「しゃあないだろ。刀持ってんだから……」

 

「置けばいいだろ」

 

「チッ、わかったよ……」

 

 銀時に言われて、舌打ちをしながらもユーリは素直に刀を石畳に落とし、両腕で再度押し始める。どんどん動く台座。

 

「うんしょっと……」

 

 台座が動く手応えを感じ、カロルの表情は苦しさよりも喜びの笑みが勝り始めた。さらに力を込め踏ん張る。

 

「おら、もう……少しッ……!」

 

 ユーリも少しだけ苦しそうな声を出す。だが、三人とも手を休めず、押し続ける。そして、男手三人でとうとう重い台座を動かし切り、シャイコス遺跡の地下へと繋がる階段が姿を現したのである。

 台座を押したあと疲れた果てたのか、地面にへたり込むカロル。

 

「カロル、大丈夫です?」

 

 エステルは少年に寄ると、心配そうな表情と声で彼に聞いた。

 

「これくらい大丈夫だよッ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 心配する彼女にカロルは強がるが、息も絶え絶えで疲労困憊と言ったご様子。

 

「大丈夫じゃねーだろ。少しだけ休むか?」

 

 銀時は腰に手を当てながら、濁った赤い目でカロルの顔を見やった。

 

「休まなくても平気……」

 

 言って、カロルは乱れた息を整え、立ち上がった。

 体格も小さく頼りない印象を受ける少年だが、根性はこの歳にしてはなかなかあるようだ。

 一行はシャイコス遺跡地下へと潜っていくのだった。

 

  *

 

 

 シャイコス遺跡の地下内部へと降り立った5人と一匹……。

 遺跡の地下内部には広大な空間が存在していた。

 入ってきた入口付近には、大きな岩塊が散乱し、地下遺跡のさらに下の場所へと続く坂道もある。

 下には深く広い窪みがあって、そこに大量の地下水が流れ込み大きな湖が作られていた。まぁ所謂、地底湖と言うものだ。

 地底湖の水は透き通っているが、下は深すぎて底が見えず、不気味な水中を覗き込むと吸い込まれそうな気分になる。

 そんな湖の上には誰がどういった方法で作ったのかはわからないが、地下遺跡の奥深くへと行くための通路と、大きな足場が建設されていた。

 

 カロルはラピードと一緒に。ユーリ、エステルはカロル達から少し離れた場所で、下に広がる大きな地底湖や足場を静かに眺めていた。

 

「遺跡なんて入るの初めてです」

 

 初めての遺跡。

 見たことのないものばかりで好奇心を剥き出しにするエステル。その後ろから最後尾のリタと銀時が階段を下りて姿を現した。

 

「そこ、足元滑るから気をつけて」

 

 入り口横の坂道を下ろうとするエステルにリタが注意を促す。と、同時に早速、銀時が後ろで足を滑らせ、頭を地面に打ちつけていた。

 

「グホォッ!」と、痛そうな声を漏らす銀時。それを見てリタは「この馬鹿みたいになるから……」と、言葉を継ぐ。ユーリがリタに視線を送る。

 

「なに見てんのよ……」

 

 ユーリの視線を感じ、不愉快な表情を表すリタ。

 

「モルディオさんは意外とお優しいなあと思ってね」

 

 顔に笑みを浮かべながら冷やかすようにユーリが言う。

 

「はぁ……やっぱり面倒引き連れてきた気がする。別に銀時と二人だけでも問題なかったのよね……」

 

 からかうユーリに対し、リタは溜息を吐きながら後悔と呆れが混じった様子でそう言葉を漏らした。

 

「リタはいつもギントキと一緒に遺跡の調査に来るんです?」

 

 エステルがリタへ聞く。

 

「いつもは一人よ。今回は色々引き連れてきたけど……」

 

「一人で……! 罠とか魔物とか危険なんじゃ……怖くないんですか?」

 

 リタの言葉に驚くエステル。

 魔術が使えるとはいえ、リタのような子供……しかも女の子が、魔物が闊歩する外の世界で一人出歩いているのだ。その事実に彼女が衝撃を受けるのも無理はない

 

「何かを得るためにリスクがあるなんて、当たり前じゃない……。その結果、何かを傷つけてもあたしはそれを受け入れる」

 

 リタは平然とした口調で答えると。

 

「傷つくのがリタ自身でもですか?」

 

 エステルはわずかに沈んだ声で言った。

 

「そうよ」

 

 それに対し迷うことなく即答するリタ。その口調に一切のためらいも淀みもない。

 

「悩むことはないんです? 躊躇ったりとか……」

 

 妙に何回も彼女に質問をするエステル。その姿は必死に何かを確かめようとしているようにも見えた。その何かはエステルにしかわからないが……。

 

「なにも傷つけずに望みを叶えようなんて悩み……心が贅沢だからできるのよ」

 

 腕を組み、下を俯きながらリタはテンションの低い声で答えた。

 

「心が……贅沢……」

 

 両手を胸に当てながら、小さく呟くエステル。そんな彼女へさらにリタは言葉を継ぐ。

 

「それに魔導器(ブラスティア)はあたしを裏切らないから……。面倒がなくて楽なの」

 

 そう言い残すだけ言い残して、リタは坂道を(くだ)りながら遺跡のしたへと歩いていった。

 

「なんか、リタってすごいです。あんなに迷いなく、物事をきっぱりと言い切れて……」

 

 そうユーリたちに発言するエステルの声からは、心なしかリタへの畏れが感じてとれる。

 

「自分にとって何が大切なのか、それがはっきりしてんだろうな」

 

 ユーリはエステルの少し前に立ちながら言った。

 

「わたしは、まだその自分にとっての大切なものがよくわかりません……。ギントキはどうなんですか?」

 

 エステルが、銀時の方に顔を向ける。

 

「ア? 俺!?」

 

 まさか、この流れで自分に振られるとは思っていなかったのか、倒れ伏せていた銀時は驚いた表情をし、少し焦る。

 

「ギントキも何かを得るためなら……何かを為すためならば、自分が傷ついても……何かを失っても平気ですか?」

 

 エステルは真っ直ぐ銀時の目を見ながら問う。そんな様子のエステルに銀時は僅かに困った表情をしたあと、起き上がり答えた。

 

「どうだろうなぁ……難しいことはよくわからねーが……ただ、もし自分が傷つかねぇでも何かを得たり何かを“護れる”方法があるってんなら、俺ァ、迷わずそれをとるかね。まぁ“そうさせてくれねぇ”のが世の常だが……まったく、世知辛いもんだ」

 

 気だるい声でそう彼女に言うと、リタの後を追っていく銀時。

 

「つまり、ギントキもその方法がないなら、自分が傷つこうとも自分が何かを失おうとも厭わないってことですね……」

 

 エステルは二人の背中を瞳に映しながら小さく呟く。

 

「ここで考え込んでもしょうがないだろ。とりあえず、ついて行こうぜ」

 

 気遣うユーリの言葉にエステルは小さく頷き、歩き出した。

 それを確認し、ユーリ、カロル、ラピードもエステルに歩幅を合わせつつ坂道を下り始める。

 先に下へと降りていたリタは盗賊団や魔物がいないか辺りを見渡し、警戒に当たっていた。

 地下遺跡の下は中央のエリアを中心に三つの通路に分かれている。

 一つは右の方向に地下遺跡の奥へと続いてると思しき通路。

 二つ目は前の方向の階段を上った先にある通路。

 そして最後の三つ目は銀時たちが来た道の通路。これですべてだ。

 

「どうだ、なんかいるか?」

 

 遅れて下へとやってきた銀時がリタに問いかける。彼の後ろにはユーリ、エステル、カロル、ラピードの姿も。

 

「なんの気配もしないわ。盗賊団もこのエリアには居ないみたい……」

 

 銀時の方へ少し顔を向けながら返事をする彼女。

 

「てことは、やっぱもっと奥のほうか……」

 

 銀時は、右隣の離れた遺跡の奥へと続いているはずの通路を見ながら言う。

 しかし、その通路には行けない事情があった。何故かというと、遺跡の奥へ進むための通路はあるものの、その通路に渡るための道は断たれていて行くことができないからだ。

 飛び超えるにも段差と距離が空きすぎて無理がある。物事はそう簡単に都合良く進まないということらしい。

 

「せっかく通路は目の前にあるのに、道が断たれてて行けないね……どうするの?」

 

 カロルがリタに聞く。

 

「あそこに遺跡の仕掛けを動かすための魔導器(ブラスティア)があるわ。あれを起動させれば道が現れるはず」

 

 リタは言って、左の離れた場所にある巨大なオブジェのような魔導器(ブラスティア)を指さした。

 その魔導器(ブラスティア)がある場所に行くには前の方向にある階段を上がり、その先にある通路を通らなければいけない。

 

「はぁ~……。なんで、遺跡ってのはどこもかしこもめんどくせぇ造りになってんだァ? もう少し侵入者側に配慮した造りにしろや」

 

「いや、侵入者側に配慮しちゃだめでしょ。」

 

 と、冷静に銀時へツッコむカロルくん。

 

「いいから、つべこべ言わず装置の所に向かうわよ。そうしないと先に進めないんだから……」

 

 リタは気色ばみながら階段を上がり、装置へと続く通路を歩き出していった。

 それにつられるように銀時らもリタの後ろを慌てて追っていく。

 彼女を先頭に一行は歩くが……先を歩いていたリタが何かに気づくと、突然座り込み通路の隅のガラクタを見つめ始めた。

 その様子に訝しんだ顔をするメンバーたち。

 

「おい、何やってんだ?」

 

 奇妙な行動をとるリタに銀時が聞くのだが、リタは彼の言葉にはロクに返事もせず、「この子は……駄目か……」と、ブツブツ独り言を呟くばかりだ。

 

「おい、ガラクタ触んな。バッチィから離しなさい! もう! この子ったら、まったくゥ……何回言っても言うこと聞かないんだからァ~」

 

 うっざいお母さん口調でリタに注意をする銀時。

 

「ガラクタじゃないわッ、これは筺体(コンテナ)よ。あんたも一度目にしてるでしょ……てか、ものすごい腹立つんだけど、その口調」

 

 頬に青筋を立て、目を三角にしながらリタが言う。

 

「発掘前の魔導器(ブラスティア)初めてみた。こんな風になってるんだ」

 

 物珍しそうな様子でそう呟くのはカロルだ。

 

「古代の人々は、どういった意図で魔導器(ブラスティア)を遺跡に埋めたんでしょうか?」

 

 疑点を上げるエステルに、

 

「わからないわ……。そのことは現時点でも謎だらけで、推測や仮説が飛び交ってるのが現状だし」

 

 と、リタ。

 

「こん中に水道魔導器(アクエブラスティア)とかねえかな」

 

 言いながら、ユーリは勝手に物色を始めていた。だが、探しているお目当てのものは見つからないといったご様子。

 

「その中に魔核(コア)は無いみたいですね」

 

「ないのか。じゃあ、動かないね……」

 

 エステルにないと断言され、カロルが残念そうな顔を覗かせる。

 

魔核(コア)筺体(コンテナ)がセットになってて、その上どちらも壊れてないような魔導器(ブラスティア)なんて早々発掘されたりはしないのよ」

 

 言って、リタは立ち上がり、銀時たちに背を向ける。その横でエステルがゆっくりと説明を始めた。

 

「術式により魔術を発現させる役割を持つ魔核(コア)、その魔術を調整、制御するのが筺体(コンテナ)。その二つが合わさったのが魔導器(ブラスティア)魔導器(ブラスティア)は個々によって違う性能を持ち、その性能を表す紋が魔核(コア)上に浮かぶ。現代技術の進歩で筺体(コンテナ)の復元、生産は可能となったが魔核(コア)を再生させるのは、今となって尚、不可能である……です」

 

 エステルが丁寧にわかりやすく、魔導器(ブラスティア)の説明をしてくれたが、銀時には意味のわからないお経にしか聞こえない。

 カロルやユーリは理解できているのだろうか……そんなことを思いながら彼は盛大にあくびをしていた。

 

「要するに魔核(コア)は再生も生産もできない唯一無二の貴重品って話だろ? そりゃ、泥棒共も大喜びで盗むわな」

 

 そう発言するユーリは、エステルの説明の要点だけはちゃんと理解していたようだ。

 

「別にまったく魔核(コア)を作り出せないってわけではないわよ。エステリーゼが言った本の内容はちょっと古いの」

 

 とても興味深い発言をするリタ。

 

「それって、魔核(コア)を作り出す技術がもうできてるって事です?」

 

 エステルがリタに聞く。

 

「簡単な魔核(コア)の復元には成功してる。オリジナルの魔核(コア)よりは大分性能は劣化するけど……」

 

 そうリタが答えた時、小難しいチマチマした問答と長い道草に嫌気がさしたのか、めんどくさそうな口調で銀時が口を開く。

 

「おい、もういいだろ……。もう十分わかったから、早く先に進もうぜ」

 

 銀時は、先に続く後ろの通路を親指で指す

 

「ギントキ退屈しちゃったみたいですね。」

 

 頬笑みながらエステルが言う。

 

「お前の旦那もイラついてるみたいだし、そろそろ行くか」

 

 意地の悪い顔で、またリタを茶化すユーリ。

 

「誰が旦那よ……ぶん殴られたいの? あんた」

 

 彼女は威圧した声を出しながらユーリを睨む。治まっていた殺気が再び流れ出てきていた。

 

「おい、何やってんだおめーら! 置いてくぞォ!」

 

 もう先を歩き始めていた銀時がいつまでも立ちどまっているユーリらへ声を飛ばしてきた。

 その声を聞いて、ようやく四人と一匹はゆっくり彼の背中を追い始め筺体(コンテナ)の溜まり場をあとにするのだった。

 

                 *

 

 短い通路をただ進み、魔物が現れることもなく簡単に装置のもとへと着いた銀時一行。その時間、約3分。

 だが、実際装置までたどり着くのに10分程はかかった。ほとんどあのリタの道草に時間を取られたといっていいだろう。

 

「あれ、意外と誰にも邪魔されず簡単についたな」

 

 拍子抜けと言った様子で呟くのは銀時。

 

「近くで見ると結構大きいね。この魔導器(ブラスティア)

 

 装置を見つめながらカロルが言う。

 

「うん、魔核(コア)もちゃんとセットされてる。銀時、これ」

 

 装置の筺体に魔核(コア)がちゃんと付けられているかリタは確認すると、銀時にあるものを手渡そうとする。

 リタが銀時へ差し出したのは指輪だった。差し出した指輪はリタが遺跡に迷い込んだ銀時を脱出させるために使ったものと同じ指輪である。それを見て銀時は一歩、足を後退させる。訝しんだ表情をするリタ。

 

「どうしたのよ……? 受け取りなさい」

 

「いや、出会って二週間でいきなりプロポーズとか無理だわ……。なんか結婚適齢期過ぎてがっつく女みたいで重い」

 

「プロポーズじゃないわよ! この指輪で、魔導器(ブラスティア)魔核(コア)を撃てって言ってんの!」

 

 頬に青筋を立てながらリタはシャウトする。

 

「あぁ、んだよォそっちのことか……なら最初からそう言えや、抜けてんなァ」

 

 よかったと胸を撫で下ろす銀時。

 

「抜けてんのはあんたの頭のネジでしょ!」

 

 と、リタのそんなツッコミを背に銀時は指輪を指にはめる。

 

「で、付けたけど、どうすりゃいい?」

 

 つけたはいいが使い方などチンプンカンプン。銀時は彼女に指示を仰ぐ。

 

「前の遺跡であたしがやった通りにやればいいのよ。魔核(コア)の前に指輪を出せば自動的にエアルが照射されるから……」

 

 そう言われて、銀時はリタに言われた通りに指輪を魔核(コア)に向けた。

 するとなんてことはない、指輪からエアルが照射されて魔核(コア)に当たった。

 指輪によってエアルが充填された魔導器(ブラスティア)魔核(コア)には紫電の紋が浮かび上がり、すぐに作動し始める。

 

「ストリムの紋ですね。移動を示す紋章だったはず……」

 

 エステルが浮かび上がった紫電の紋章を見て呟く。

 その時だった。作動した魔導器の装置によって地底湖の水中からは隣の離れた通路と銀時たちの今現在いる通路を繋ぐための階段が現れる。

 

「おっし、これで遺跡の奥へ行けるな!」

 

 表情に笑みを浮かべながらユーリが言うが……、装置を作動させて起きる現象は良いことばかりではない。

 階段が浮上したあと、遺跡の一部分の壁が前へと突き出てくる。

 その突き出た壁が縦に割れると、灰色の岩石の体を持つ屈強なゴーレムたちへと姿を変えたではないか。壁だと思っていた物はゴーレムの両手だったらしい。

 

「フアァッ! な、な、な、なにあれっ!?」

 

 ゴーレムの姿を見たカロルは恐怖に染まった顔で怯えた声を上げる。

 

「罠よ。侵入者を駆除するための」

 

 カロルとは対照的に肝の据わった冷静な口調のリタ

 

「やっぱこうなんのか……。おい、リタ」

 

 銀時が指輪をリタに返そうとするが、彼女の手は伸びなかった。そんなリタに「どうした?」と、銀時が聞く。

 

「この先でも使うと思うから、あんたが持ってて……。この面子の中で一番戦い慣れてるあんたが先陣切った方がいいでしょ?」

 

「そうかい……じゃあ、持っとくぞ」

 

 銀時の言葉にリタは無言で頷く。

 

「おい、おめーら! 遅れんなよ。しっかりついてこい!」

 

 銀時は仲間たちを叱咤すると腰の愛刀、洞爺湖を力強く引き抜く。

 彼に続くようにユーリ、エステル、リタ、カロル、ラピードも武器を構え、戦闘態勢に入った。

 

 まず最初に先陣の銀時が駆けだし、その後ろをユーリが追った。

 白兵戦主力の銀時とユーリから少し距離を空けながら、エステル、カロル、リタ、ラピードの順で、その後ろを走る。

 接近戦が得意なメインアタッカーの銀時とユーリは前衛を受け持ち、魔術と剣、両方を扱え、近~中距離戦ができるエステルは中衛を……。

 肉弾戦が得意でなく、魔術が攻撃メインのリタは後衛の方……ラピードは後方の敵に警戒しつつバックアップをするため最後尾に陣取り、それぞれの役割に応じたポジションについている。

 カロルは本来、前衛に就く立場なのだが銀時やユーリも居る上、ゴーレムもあの二人ならなんとかできると考え、後衛に就いていた。

 

 ……本音を言うとカロル自身ビビっていたと言うのが大きいが……。

 さて、そんな少年を尻目に前衛の二人は暴れに暴れる。ゴーレムに真正面から近づき、攻撃を仕掛けようとする銀時。

 

 ゴーレムは迎撃するため片腕を大きく横に薙ぎ払うが、彼は腕が払われる前に上に跳ね、それを回避する。

 空を切るゴーレムの腕。空中に飛んだ銀時はそのまま上段斬りの構えをとり、ゴーレムの頭目掛けて落ちると、洞爺湖を振り下ろし、見事にゴ―レムの岩の頭を砕いた。首から上がなくなった敵はそのまま彼の前に岩塊となって倒れ伏せる。

 その横を青い波動が飛ぶ。ユーリの蒼破刃だ。振るった刀から放たれた波動は群の中の一匹のゴーレムに真っ直ぐ飛び、直撃した。

 蒼破刃を食らいたじろぐ巨体。その隙をユーリは逃さず、無防備になったゴーレムをニバンボシで叩き斬る。ゴーレムは縦に綺麗な断面を残しながら真っ二つになった。

 

 そんなユーリに張り合うかのように、間を置くことなく二匹目のゴーレムに取り掛かり始めた銀時。

 走りながら背中を向けているユーリの頭を踏み台にし、ゴーレムたちの頭上へと再び高く舞い上がった。

 当然、勝手に頭を踏み台にされたユーリは「おいッ!」と、頬に青筋を立たせ、目を三角にする。が、そんなことは知るかと言った様子の銀時。

 彼は見返りもせず、空中で洞爺湖の刀身を地面に突き刺すような形で下に向けると、そのままゴーレムの頭部に洞爺湖の切っ先をぶち込んだ!

 

 そのあと、彼はすぐにゴーレムの頭部から洞爺湖を力ずくで引き抜き、地面に着地する。その横でゴーレムは倒れ、ただの岩塊となり果てた。

 止まることのない二人にゴーレムは次々と駆除されていく。容赦なく振りはらわれる洞爺湖とニバンボシ、銀時とユーリが通った後はゴーレムたちの無残な残骸しか残らず、正に無双の一言が似合う暴れっぷりだ。

 そのゴーレムの残骸たちが溢れる通路を走り抜けていくエステル、カロル、リタ、ラピード。

 

「す、すごいですね……二人とも」

 

 通路の惨状を見て、困ったような口調でエステルが言葉を落とす。

 

「そうだね……ボ、ボクが出るまでもないみたい。残念だよ」

 

 そう発言するカロルの表情は残念といった具合ではなく、深い安堵が表れていた。

 

「楽でいいわ~」

 

 と、素直な感想を述べるリタ。

 そんなことを言っている内にゴーレムたちを退け、もう中央エリアまで戻ってきていた銀時たち。

 そして、装置によって浮上した階段をあがり、地下遺跡の奥へと続く通路に足を踏み入れていた。

 

「おい、みんなちゃんとついてきてっか!?」

 

 後ろを振りむきながらエステルたちへ確認をとるユーリ。

 

「大丈夫です。みんなちゃんといます」

 

 エステルはリタ、カロル、ラピードの姿を確認しユーリにそう答えた。

 

「ついでにゴーレムもついてきてるけどッ!?」

 

 焦った口調でカロルがそう知らせてきた。

 

「マジでか!?」

 

 と、カロルの言葉に驚いた様子を見せる銀時。

 少年が言った通り、大量のゴーレムは中央エリアに入り銀時たちが居る通路にまで差し迫っていた。潰しても潰しても際限なく沸く、圧倒的物量を見せつけるゴーレムたち……。

 

「チッ、追いかけられたら面倒だ……! しんどいが、やるしかねえ!」

 

 ゴーレム達を見て、舌打ちをしながらユーリはニバンボシを構える。

 どうやら通路を物理的に断とうとしている模様。その時、リタが叫ぶ。

 

「銀時ッ! そこに装置があるから作動させて!」

 

「ア!?」

 

 銀時はリタの指先へ目を向ける。

 ゴーレムばかりに意識を割いていて気がつかなかったが、通路の隅に装置と思しき魔導器(ブラスティア)が確かに設置されているのだ。

 彼はすぐさま指輪を魔導器の魔核(コア)に向けた。指輪からエアルの光弾が照射され、魔核(コア)へ当たると紋が浮かび、すぐに装置は稼働する。

 直後だった。通路を繋いでいた階段は再び地底湖の水中へと沈み始める。

 

 馬鹿なゴーレムたちは、道が無くなったこともわからず数匹、湖の中に落ちていくと自身の自重(じじゅう)によって暗い水底へと沈んでいったようだった。

 とりあえずだが、これでゴーレムたちから追いかけられる可能性はないと言っていいだろう。

 

「た、助かった……」

 

 一言そうこぼしつつカロルは汗を拭い、床に尻をつく。

 

「休んでる暇ないわよ。さっさと遺跡の奥に行って、やること終わらせないと」

 

 そう言って、へたり込むカロルを横目に遺跡の奥へと向かって走り出した。銀時たちもリタの背中を追う。一人取り残されそうになるカロルくん。

 

「うわ! ちょっと、みんな待ってよ!」

 

 こんなところに置き去りにされてはたまったものではない。焦りながらカロルは起き上がり、みんなの後を必死に追いかけるのであった。

 

*

 

 長く複雑に入り組んだ通路を歩く一行。途中にもいくつか魔導器(ブラスティア)の装置が設置されており、それを作動させながら道を作り、遺跡の奥へ奥へと、進んできた。

 一々装置のところまで行き、ギミックを作動さないといけないなんて銀時の言ったとおり、この遺跡は本当に面倒な造りのようだ。

 そんなしちめんどくさい道中を歩きながら、今回の立役者である指輪を眺める銀時。

 

「しかし、大活躍だな……この指輪」

 

「それはソーサラーリングですよ、ギントキ」

 

 彼のなにげない言葉に反応したのはエステルだ。

 

「術式を文字結晶化することでエアルを照射することのできる魔導器(ブラスティア)だったはず……、遺跡では鍵の役割をもつと『お城』の本で読みました」

 

 銀時にわかりやすく説明する親切なエステルだが、その説明の中のあるワードにリタが反応した。

 

「お城?」

 

 反応したのは城という言葉だった。彼女の言葉にエステルはハッとした顔をすると、手で口をふさぐ。

 

「ふ~ん、その指輪、魔導器(ブラスティア)だったのか」

 

 ユーリが会話に割って入ってくる。何かをごまかすように……。

 

「術式とか文字なんたらとかはわかんねーけど、色んなもんがあんだな。魔導器(ブラスティア)ってのは」

 

 エステルの説明を聞いて呑気に感想を言う銀時。の横で、リタは眉を強く寄せていた。

 あのお城という言葉……。そして、それに反応した時にエステルが見せた動揺した表情……。

 カバーに入ったユーリの態度を見るに、明らかに何かを隠している。不審に思うリタだが、いま問いただしてもきっとまともな答えは返ってこないと考えたのだろうか。

 その疑念は声に出さず心中に収め、エステルに表立って問いただすことはなかった。

 

                 *

 

 そんな会話があったあと、地下遺跡の奥へ進むこと二十分程だろうか……メンバーは広場の様なところへ行きついた。

 これ以上進めるような道はなく、行き止まり。ここが地下遺跡の最深部らしい。

 

 広場の奥の中央には高麗納戸(こうらいなんど)の体色を持つ、体長4~5メートルほどのゴーレムが静かに立っていた。銀時たちが倒した雑魚ゴーレムたちとは大きさも形も異なっており、背中には魔核(コア)を埋め込むための窪みがある。

 ゴーレムが動き出すような気配はないが、ただそこに立っているだけでも相当な威圧感を放っていた。

 

 物怖じせず、ゴーレムのもとへと駆け寄るリタ。

 

「なんだ、このデカブツ……」

 

 自分の身長の二倍以上はあるであろうゴーレムを見上げながら銀時が一人呟く。

 

「こんなんじゃなくて、水道魔導器(アクエブラスティア)がほしいな……オレは」

 

 そう言って、ゴーレムの巨体に触ろうとするユーリ。

 

「ちょっと! 不用意に触らないで!」

 

 そう叱責したのはリタだった。

 彼女のおっかない声を浴びせられ、素直にゴーレムから離れるユーリ。

 

「この子を調べれば、念願の自立術式を……」

 

 と、よくわからない独り言をまたまた零しながら、リタはゴーレムの近くで何かを調べ始めているようで。

 

「つーか、盗賊団のことはどうなった?」

 

 そういえばと銀時が小さく呟いた時、「ない!」と、リタの声が遺跡内に大きく響いた。

 

「どうしたァ? 家の鍵なくしたのか?」

 

 叫ぶリタに銀時が気怠い声で聞く。

 

「違う! 魔核(コア)がないのよ。この子の魔核(コア)も誰かに盗られてる」

 

 そうリタが答えた時、ラピードが一人の人間の気配に気づき、唸り声を出しながら威嚇し始めた。

 ラピードが威嚇している方向へ皆が目を向けると、上の足場のところにローブを身に纏った、見た感じ魔導士の出で立ちをした男の姿がそこにあった。

 

 男はフードをすっぽり被っており、顔を拝むことは難しい。

 自分の姿を見られてしまったことに気づいたのか、男は慌てた様子で近くにあった瓦礫の影に隠れる。

 

「なんで隠れんだ? 出てこいよ」

 

 不審な雰囲気と行動に怪訝な表情を浮かべる銀時。すると身を隠すのは無駄と踏んだのか、大人しく男は瓦礫の影から出てきた。

 

「誰よ? あんた!」

 

 男に正体を問うリタ。彼女に正体を聞かれた男は銀時たちを指差し、言った。

 

「わ、私はアスピオの魔導器(ブラスティア)研究員だ! お前たちこそ何者だ! ここは立ち入り禁止だぞ!」

 

 男は研究員だと叫ぶように言うが、それにリタは片眉を上げながら男へ切り返す。

 

「はぁ? あんた底抜けの馬鹿ね。あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間ならあたしを知らないわけないでしょ!」

 

「すんごい滅茶苦茶なこと言ってる……」

 

 呆れた口調でカロルが言う。

 しかし、リタの言ってることは滅茶苦茶なように聞こえて、実際は間違いではなかった。

 魔導士やアスピオの街の住人なら、リタ程の有名な天才魔導士の名を知らない者は、まずいない。

 銀時がリタと一緒にアスピオへ訪れた時も街の住人がリタの顔を見ただけで驚いたり、血相を変えて逃げだす者すら出ていたぐらいだ。

 

 良い意味でも悪い意味でもリタの名とその顔はアスピオ中に知れ渡っていて、彼女を知らない者は、ほとんどがアスピオの部外者と言っていい程だろう。

 

 嘘が通らず、男は歯を噛み締めて頬に汗を垂らす。騙しきれないと思ったのか、男はゴーレム……いや、ゴライアースの首元へと寄った。

 

「ケッ、随分と邪魔の多い仕事だ……騎士団といい、お前らといい! 面倒だ、こいつで全員始末してやる!」

 

 本性を現した男はゴライアースの体に魔核(コア)を取り付けた。

 魔核(コア)を取り付けられたゴライアースの高麗納戸色の体表に青いラインのような光が浮かび上がったかと思うと、その巨体がゆっくりと動き出す。

 

「うわッー! 動き出したよ! こいつ!」 

 

 起動したゴライアースに驚きながらカロルが叫ぶ。

 

 ゴライアースは一番近くにいたリタをターゲットに定めると、その石柱のような分厚く大きい腕を横に振るった。

 

「リタッ!!」

 

 エステルが叫ぶが時すでに遅く、リタは避ける暇すらなくゴライアースの右腕の薙ぎ払いをもろに食らってしまう。

 

 彼女は真横に吹き飛ばされ、壁に体を激しく打ち付けるとそのまま地面に倒れ込んだ。すぐにリタの方へ駆け寄るエステル。

 

「リタ! 今、治療しますから!」

 

 そう言ってエステルは治癒術を発動し、リタの体の傷を癒そうとする。

 その時。治癒術を受けたリタは驚いた表情をしながら、突然エステルの左手首を力強く掴んだ。

 

「あんた……これって……」

 

 エステルの手首を見ながら、弱々しい声でリタが呟く。

 

「な、何!?」

 

 突然手首を掴まれたせいか、エステルの表情にも混乱が……。

 

「今のは…………」

 

「え、えっと……わたしはただ治療を……」

 

 戸惑いを見せるエステルに後ろからユーリが叫ぶ。

 

「おい、すぐにそこから離れろッ! エステル!!」

 

「え――?」

 

 ユーリの大声にエステルが後ろを振り向くと、大きな腕を振り上げ、彼女ごとリタを殴り潰そうとするゴライアースの姿が……。

 エステルは反射的にリタを抱き、覆うように庇う。

 ゴライアースがエステルたち目掛け、容赦なく腕を前に突き出し殴ろうとしたその瞬間、エステルとリタの前に飛び出す人影。

 

 前へ飛び出したのは銀髪の男――銀時に他ならない。

 

 彼はゴライアースの巨腕を洞爺湖で受け止めるッ。直後、その体に重い衝撃が走ったかと思えば、ゴライアースが生み出す尋常ではない剛力が銀時の全身を蝕んでいく……。

 腕と足の筋肉は大きく膨れ上がり、彼の身体に計り知れない負荷が!

 

「おいィッ……! なに……してやがる……ッ!! さっさとそいつ抱えて……ふんぬぅぅッッ! ……離れろッ!!」

 

 銀時は鬼気迫る声で呆然としているエステルへ呼び掛けた。

 

 言われ、我を取り戻したのか、エステルは「は、はい!」と返事をし、リタに肩を貸しながらその場を離れていく。

 二人が離れたのを確認すると銀時は両腕にさらに力を込める。すると驚くべきことに、徐々にではあるが、ゴライアースの腕が押し返されていくではないか。

 

「なめてんじゃねーぞォォッ!! デカブツゥゥゥ!!」

 

 呼号し、銀時は木刀でゴライアースの巨腕を跳ね除けるッ……だが、ゴライアースは右腕を弾かれながらも空いている左腕を容赦なく横に薙ぎ払った。

 

 銀時は、ガードできずに左腕の薙ぎ払いをもろに食らう。リタが食らったものとは威力も数段違った。

 体から軋む嫌な音が鳴り、ゴライアースの腕が銀時の体にめり込んでいく。彼は為す術なく、そのまま吹き飛び、壁に激突した。

 壁に大きなクレーターを残しながら彼は口から血を吐き、地面に倒れ伏せる。

 さらに慈悲のかけらもない冷徹な機械は倒れた獲物を追撃するため、巨腕二対を大きく上に振りかぶり、下に向かってその両腕を振り降ろすッ! 轟音を立てながら銀時がいた地面を割り砕き、濃い粉塵が舞い広がる。

 

 視界を覆う濃霧のような塵のせいで、銀時の安否は確認できなかった……。

 

「ギントキィー!!」

 

 エステルが叫ぶその横で、カロルは血の気を失った顔でただ小さく呟いた。

 

「銀さん……死んじゃった……」




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