銀の明星   作:カンパチ郎

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死亡フラグはへし折るもの

 粉塵舞う中、銀時の死が脳裏に過ったのはカロルだけではなかった。

 リタやエステルやユーリ、ラピードも目の前に映し出された凄惨な光景を前に、その巨大な両腕の下に血まみれになりながら絶命している銀時の姿があることが容易に頭の中に浮かんだ。

 あの叩き潰しを食らって生きているはずが……。仮にまだ息があったとしても半死半生、立つことすらできないだろう。

 

「銀時……」

 

 リタが小さい声で彼の名を呟く。その時だった。

 

「ふんぬらァァばアアアアァァァァァ!!」

 

 ゴライアースの腕の下から、男の大音声が発せられる。同時にゴーレムの巨大な腕が持ち上がり銀時が姿を現わす。

 

 右手で木刀の柄を持ち、峰に左手の平を当て支える形でゴライアースの両腕を受け止め、木刀一本で持ち上げていた。

 彼の頭部からは血が垂れ、顔には大量の脂汗が滲み出ている。

 余裕があるというわけではないようだが、それでも死にかけとは程遠い、ピンピンした様相を見せる銀時。

 

「嘘っ!! 生きてる!?」

 

 潰されて死んでしまったものと思っていたカロル。あんぐりと口を開け、目を剥く。

 カロル以外のメンバーも愕然とした表情をし、二の句が継げない。

 この光景を目の当たりにしてリタはようやく本当の意味で悟る。

 この銀髪の男を自分たちの常識で測っても意味はないと。そう彼女に思わせるほどその肉体は並はずれた強健さを誇っていたのだ。

 

「勝手に殺してんじゃねぇよ、クソガキィ……! こんなんでくたばってちゃあ、侍なんてやってらんねぇんだよッ!」

 

 少年の言葉に心外といった口調で、銀時は返事をする。

 

 彼の生存を確認したユーリは、内心その事に驚きながらも呆気にとられ立ち尽くすことはない。

 即座にニバンボシを鞘から引き抜き、すぐにゴライアースと銀時の方へと駆けだしていた。 

 

 走りながらユーリは足に力を込めると、地面を蹴り、勢いよく飛び上がった。ゴーレムの上へ飛んだユーリは空中から下に蒼破刃を放つ。

 放たれた波動は下へと真っ直ぐ飛んでいき、ゴライアースの頭に見事被弾した。波動は爆散し、煙で覆われる敵の頭。 

 さらに彼は着地すると、すかさずゴライアースの左脇腹にすくい上げるような形で右腕の突きを叩き込んだ。強烈な突きを食らったゴライアース。巨体は僅かに浮き上がり、両腕の押さえ付ける力が弱まる。

 

 その瞬間をチャンスを……銀時が見逃すはずはない。彼は気張ると、自分を押さえ付けていた巨腕を一気に木刀で押し上げ、跳ね返したのだ。

 両腕を押し返されたゴライアースは先の様に反撃もできず、体勢を崩して後ろへ倒れ込むと、轟音を鳴らしその巨体を地につけた。衝撃によって周囲の地面は振動する。

 ユーリのサポートもあり、ゴライアースの忌々しい腕から脱出した銀時。

 彼はすぐさま後方に飛ぶと、エステルたちがいる場所に退避し態勢を立て直し始めた。

 

「ギントキ大丈夫なんですか!? 頭からたくさん血が……」

 

 銀時の頭から垂れるおびただしい血を見て、エステルが少し動転した声で聞く。その表情は焦りと緊張で強張っていた。心配をする彼女に対し、銀時は落ち着いた様子で答える。

 

「大丈夫だ……これぐれェ。とりあえず頭の血ィ拭わねぇと……え~と、ハンカチ……ハンカチ」

 

 銀時は懐を弄り(まさぐ)、ハンカチ……。ではなく、なにを間違ったのか店主のズラを取りだすと気づかないままそれで頭の血を拭い始めた。

 

「あれ、なんだこのハンカチ……。なんか、すっげぇモサモサしてるんだけど」

 

 ズラだということに気づいていない銀時は、カツラの妙な質感に顔をしかめる。

 

「ギントキ……あの……それ、かつらです」

 

 少し当惑した声で銀時につっこむエステル。

 

「やっぱ、全然大丈夫じゃないよこの人! 色々重症だよ!」

 

 カロルがそう大きくシャウトした刹那、前方から岩がぶつかり合う様な大きな音が鳴り響き、彼らが立っていた地面が揺れる。何事かとメンバーが前へ視線を戻すと。

 倒れていたゴライアースが体勢を立て直したのだろう、いつの間にかその巨体が起き上がっているではないか……。

 近くに居たユーリは反射的に後ろへ飛び一定の距離を離す。

 

 ゴライアースはすぐに動く気配を見せず、ただ静かに佇む。不気味な雰囲気を放ちながら……。

 

「これやばいんじゃないの!? あいつ、起き上がってるよ!」

 

 うろたえるカロルの声は引き攣る。

 

「お目覚めみたいだなァ、奴さん」

 

 そんな少年とは打って変わって銀時は再び洞爺湖を構えると、すでに臨戦態勢に入っていた。

 

「あたしも戦う。エステリーゼ、離していいわ……」

 

 そう言ってリタは、エステルの肩に乗せていた自分の腕を自ら離す。

 

「戦うって……。その体で大丈夫なんですか? リタ……」

 

「あたしの体のことはあたしが一番わかってる。大丈夫よ」

 

 憂慮するエステルに平静を保ちながらリタはそう答えはするが、実際のところ先のダメージはかなり体に響いていた。

 治癒術を受けたとはいえ、まだ痛みも体に残り、意識も少しだけぼやけている。

 しかし、そんなことは彼女にとっては些細なことで、大した問題ではない。

 そんなことよりも、このまま足手まといになり続け、自分だけが彼らに対して借りを作り続ける……。そのことの方がよっぽど堪えられるものではなかった。

 武器のサッシュを取り出し、戦闘の準備を整え始めるリタ。そんな彼女に銀時が問いかける。

 

「で、あいつを止める方法はあんのか?」

 

「あるにはあるわ……。一定のダメージを与えて動けなくして、動力源である魔核(コア)を取り外すか。暴れさせるだけ暴れさせてエネルギーの消費を待つかの二択……」

 

 二つの選択肢を上げるリタ。

 止める手段を手っ取り早く聞けた銀時は口元に笑みを浮かべると、大きな声で叫ぶように言う。

 

「聞いたか、てめーらァ! あいつを早く止めたけりゃあ、タコ殴りにすりゃいいんだとよォ!」

 

「タコ殴りッて……そんな簡単に言われても……」

 

 顔を青くしながら引き気味の口調でカロルがそう呟いた、ちょうどその時、ゴライアースが動きを見せる。巨体とは不釣り合いなその小さな足を一歩前に踏み出したゴライアース。その動作が、戦いの火蓋を切る合図だった。

 

「くるぞ!」

 

 ユーリは後ろの仲間に警告を飛ばすと、ニバンボシを握る手の力をさらに強めた。

 その直後、ゴライアースは地面を蹴り、銀時たちが居る場所目掛けて走り出し始める。

 頑強な巨体と地面を揺らし迫るゴライアース。

 まず手始めと言わんばかりに、前に居るユーリを巨腕で軽く薙ぎ払う。

 ユーリは腕の払いを刀で受け止めはしたものの、その衝撃と重みに耐えきれず、まるで虫けらのように弾き飛ばされてしまった……。

 ……しかし。彼は弾かれながらも空中で即座に体勢を立て直す。地面に手をつきながら受け身をとって、なんとかダメージを軽減して見せたのだ。

 

 ユーリを軽々と退けたゴライアースはその勢いのまま腕を打ち下ろし、銀時たちを潰そうとしていた。

 銀時、ラピードは後ろへ。リタとエステルは右に飛び、カロルは「うわわッ!」と、悲鳴を漏らしつつも左に前転し、皆バラバラの方向に向かって攻撃を回避する。

 ゴーレムの腕はそのまま空振り、なにもない地面を叩きつけた。衝撃で石床は割れ、強い風と煙塵が巻き起これば、粉砕された石の破片が塵と共に空中へ飛散する。

 

 回避した後、銀時は時を移さず走り出し、敵へ斬り込もうとする。

 迎え撃つゴライアースは腕を前に突き出し殴るが、その柔軟さのない機械的な攻めを読むのは彼にとって容易いことだ。

 殴るよりも早く銀時は跳躍し攻撃を凌ぐと、そのまま降下してゴライアースの巨腕へ着地。さらにそこからもう一度飛ぶ。

 ゴライアースの頭上を飛び越え、足をスリップさせながら背後に回り込んで見せる銀時。そして、敵の無防備な背中に横斬りを思いっきり食らわせた。

 削れて飛び散るゴライアースの体の破片。斬られたその背中には横へ大きく長い歪な斬撃痕が刻み込まれた。

 

 斬られた衝撃で巨体はぐらつき、堪らず地面へと片手をついたゴライアース。その横でリタは、魔術の詠唱を完了させていた。

 

「ロックブレイク!」

 

 黄檗色(きはだいろ)の紋が浮かび、リタが魔術名を叫んだ!

 するとゴライアースが立つ地面から、先鋭とした岩が複数連なった巨大な岩石の大槍が出現すれば、ゴライアースの胴体に直撃した。

 

 ロックブレイクを食らい一歩、二歩と後ずさりをするゴライアース。間を置くことなく、次はエステルが魔術を撃つ。

 

「エンジェルリング!」

 

 魔術名が言い放たれた瞬間、ゴライアースの巨躯の周りに大きな光の輪が展開。

 光の輪は中心にいる敵に向かって一気に収束ッ! 爆発を起こした。

 

 煙に塗れる巨体、生まれる隙、翻弄されるゴライアースにさらにユーリとラピードが挟むように攻撃を加える。

 ユーリはただの蒼破刃ではなく青い波動を二連続で放つ蒼破追蓮を繰り出し、ラピードは空中で縦に一回転しながら、燃え盛る火球……紅蓮犬を打ち出す。

 

 青い二連の波動はゴライアースの足へ。火の玉は頑強な胸に飛んでいき、二つの技は見事にヒット、爆散する。

 そして怒涛の猛攻に耐え兼ね、後ろへと為すすべなく倒れようとするゴライアースにフィニッシュを決めるのは坂田銀時、彼である。

 

 ゴライアースの頭上高く飛ぶと、銀時は上段の構えをとり、両腕に込められるだけの力を込めた。

 膨れ上がる両腕の筋肉、上腕の表面には血管が浮き上がる。

 

「これで…………終めェェェだアアアアァァァァァァ!!」

 

 銀時は雄叫びを上げながら洞爺湖をゴライアースの頭に叩き下ろしたッ。

 

 上段斬りを食らったゴライアースの上半身は爆音のような音を鳴らし、地面を盛大に割ってめり込んだ。

 尋常ではない衝撃と上半身がめり込んだ反動で、ゴーレムの下半身は大きく上へ持ち上がった。

 そして、上がった下半身が静かに地面へ戻ると、その巨体はそれっきり動かなくなったのだった……。少しの沈黙のあと、

 

「やったー! 倒した!」

 

 と、カロルが嬉々とした声で言いながら破顔する。

 

「あぁぁ……こんなに傷ついて……」

 

 喜ぶカロルと違って、リタは沈痛な面持ちで呟いていた。

 頭には大きな亀裂、背中には削られたような斬撃痕、おまけに体中は爆発で焦げ跡だらけ。

 そんな痛々しい傷だらけの姿を直視することは、魔導器(ブラスティア)を愛するリタにとって心苦しいことに他ならない。

 

「仕方ないだろ。こんなもん相手に加減もできねぇし」

 

 心を痛めている様子の彼女にユーリが低い声で言う。

 

「……わかってるわよ」

 

 リタは小さい声でユーリにそう返すと、ゴライアースの近くに寄り魔核(コア)を取り外して、動かないよう完全に動力を絶った。

 

「ごめんね……」

 

 魔核(コア)を取った後、ゴライアースに柔らかな声音で一言そう謝罪をするリタ。

 

「おい、リタ。早く行くぞ、盗賊のバカを逃がしちまう」

 

 リタに呼びかけ急かす銀時はユーリ、カロル、ラピードと一緒に、盗賊が逃げた方へ先に歩き始めていた。

 

「言われなくても行くわよ!」

 

 彼女も大声でそう返事をするとゴライアースのもとを離れ、銀時たちのもとへと足を動かす。

 

 そんな中、エステル一人だけはじっと動く気配を見せない。周りをキョロキョロと見回しては、なにかを探す仕草をしていた。

 

「あんたも早く!」

 

 立ち尽くすエステルにリタが声をかけ、動くよう促すが、

 

「でも、フレンが……」

 

 そう呟くエステルは、フレンの姿が見当たらないことに戸惑っているようだった。

 

「騎士団の姿がねえんだ、フレンはもういねえよ、とっくに遺跡を後にしてるはずだ。行くぞ!」

 

 踏ん切りの悪いエステルに向かって引っ張るような口調でユーリが言う。

 すると、彼女は半ば心を残しながらも立ち止っていた足を動かし、銀時たちへついていくのだった。

 

「はぁ~……、あの子を調べられてたら、自立術式を解析できたのに……」

 

 溜息を吐きつつ、落胆した様子のリタ。

 

「まさか……そのためにボクらを利用したの?」

 

 リタに恐る恐るといった感じでカロルが問いかけると、

 

「なに言ってんの? 当たり前でしょ」

 

 問いにそう平然と答えるリタ。彼女に悪びれた様子は一切ない。

 

「極悪人だよ!」

 

 彼女の非道な手口を聞き、カロルは大きくシャウトする。

 

「極悪人でもなんでもいいから、駄弁ってねーで早く行くぞ! もたもたしてたら本当に盗賊の馬鹿がどっか行っちまうだろーが!」

 

 痺れを切らしたのか、銀時は愚図愚図しているメンバーに声を張り上げ、急き立てると、リタ達を置いて先に一人で行ってしまった。

 それを見て遅れながらも、ユーリ、エステル、カロル、リタ、ラピード、4人と一匹も彼のあとを追い始めていく。

 

 こうしてゴライアースを止めた一行は盗賊を追うため、来た道を急いで引き返していくのであった。

 

                *

 

 

 走りながら道を引き返すこと10分程だろうか、一同は最初の中央エリア付近まで戻ってきていた。その時、カロルが指を差して声を上げる。

 

「あ、いたよ! あいつ!」

 

 指の方向を見ると、すぐ目の前にある中央エリアで魔物たちに囲まれ、立ち往生している盗賊の姿がそこにあった。

 魔物の数は三匹。オタマジャクシのような魔物オタオタ二匹とカエルの魔物ゲコゲコが一匹だ。

 ゲコゲコが盗賊を食べようと、襲い飛びかかった。それに続くようにオタオタたちも盗賊へ飛びかかる。

 

「ヒィ……!」

 

 牙をむく魔物たちに反撃することもできない無力な盗賊。小さい悲鳴をこぼしながら、ただ蹲るしか彼にはできない……。

 

 そんな絶体絶命の最中(さなか)。突如、襲いかかろうとしたゲコゲコの胴体を凄まじい速度で飛んできた木刀がぶち抜くッ。

 木刀を槍のように投げ、ゲコゲコを仕留めたのは銀時だった。

 体を貫いたまま木刀は地面に突き刺さり亀裂を入れると、そこから小さな煙を立ち昇らせる。刀身には魔物の紫の血が滴り落ち、怯える盗賊の姿を映し出していた。

 

 残りのオタオタ二匹もユーリとラピードが目にもとまらぬ速さで切り刻むと、あっという間に殲滅してしまう。

 

「た……助かった。へへ……」

 

 死んだ魔物たちを見つめながら、乾いた笑い声を出す盗賊。その安堵も束の間、銀時が男の頬を掴む。

 

「うぐッ!」

 

 頬を強く掴まれた男の口はタコのように変形する。

 

「助かったじゃねーんだよ……。てめーのせいで泥棒の疑いかけられるわ、こんなところに来る羽目になるわ、壁に叩きつけられるわ、潰されそうになるわ、糖尿寸前だわ、天然パーマだわ、足臭いわ、俺にこんだけ迷惑かけておいて、一体どう落とし前つける気だァ? アァ、ゴラァ!」

 

 銀時が額に筋を立てながら、低く太い声で脅しつけるように男へ言うと、眉根を寄せ男を睨み、リタも矢継ぎ早に問いただした。

 

「あんたね? 遺跡を荒らしまわってる盗賊団っていうのは」

 

「さっ、さぁ……俺には何の事だかさっぱり……」

 

 銀時たちを殺そうとし、挙句ここまで追いつめられてなお、男は顔に冷や汗を垂らしながら白を切った。往生際が悪いったらありゃしない。

 

「だってよ、みんな! ここスキューバーダイビングの名所にしようぜ!」

 

 言って銀時は男の両足を脇に担ぎ、躊躇いもなく地底湖に落とそうとする。

 

「ア゛ァア゛ァアァ゛ア゛ァア゛ァアァ゛!!」

 

 逆さまになり、叫びながら泡を食う男。水中にはもちろん魔物が。

 漢の顔から血の気は引き、大量の汗が滴る……。

 

「さっさと本当のこと話せや。さもねーと俺が離すぞー、地獄の底までダイビングさせっぞ!」

 

「わかった! 話す、話せばいいんだろ!? 俺が悪かった。だから、やめてくれぇぇぇッ!」

 

 恐怖に顔を歪ませながら必死に銀時に助けを求め、唾を飛ばしながら叫ぶ哀れな男。

 

「ねぇ、ユーリ……。悪人ってどっちだったっけ?」

 

 銀時と男のやり取りを引いた様子で見ているカロルが聞く。

 

「さぁな。まぁ、でも、あれぐらいやらないと吐きそうにないし、しょうがないんじゃねえの?」

 

 なんて少年に適当に答えるユーリは他人事と言った様子。

 まぁ、ユーリからしたら憎き盗賊が死のうが知ったこっちゃないのだから、そんな反応をするのも当たり前のことだ。

 

 銀時は男の“話す”という言葉をきっちり耳に入れたあと、引き上げ、湖ではなく堅い通路の地面へ男を落とした。

 

「ハァ……ハァ……鬼だろ……あんた」

 

 呼吸を乱しながら床に両手をつき、男は絶え絶えの声で呟く。

 

「てめーが知ってること、全部洗いざらい話してもらおうか」

 

 銀時は男の言葉になど構わず、仕切り直して再び問いただし始めた。もちろん下手な嘘を繰り返すようなら湖に叩き落とす気構えで。

 

 ……少し間を置いたあと、もうどうにでもなれと思ったのか、男は立ち上がりとうとう白状する。

 

「頼まれたんだよ……。魔導器(ブラスティア)魔核(コア)を盗んで持ってくればそれなりの報酬を渡すって言うから、小遣い稼ぎにちょうどいいと思ってよ」

 

「なるほど、それでお前は遺跡や帝都の魔核(コア)を盗んで回ってたってんだな……」

 

 男の発言に納得しながらユーリは確信染みた口調で言う。のだが、男はユーリの言葉に怪訝な反応を示す。

 

「ア? 帝都? それは俺じゃねぇ!」

 

 犯した覚えのない罪に、男は帝都での犯行を強く否定し始めた。

 

「てめーじゃねェなら誰だってんだ?」

 

 死んだ魚のような目に男の情けない表情を映しながら、銀時が聞いた。

 

「帝都ってことは、デデッキっていう奴の仕業のはずだ……」

 

 聞かれ、男は素直にデデッキという人名を口から吐く。

 言ってる内容に虚偽がなければ帝都の下町の水道魔導器を盗んだ真犯人はそのデデッキという人物で、銀時とリタが盗人の疑いをかけられ、この一件に巻き込まれる原因を作ったのもそいつということになる。

 

「お前、そのデデッキって奴が今どこに居るのか知ってるのか?」

 

 ユーリはトーンの低い声で肝心のデデッキの居場所を問うと。

 

「今頃、金を受け取るため、依頼人と落ち合おうとしてるはずだ」

 

 声の震えはまだ取りきれず少し残っていたが、男は淡々と聞かれたことを従順に答えていく。顔の冷や汗もいつの間にか止まっていた。

 

「依頼人……? その依頼人ってのは誰のことだ?」

 

 依頼人という言葉に顔つきを険しくさせると、ユーリはさらに男からその謎に包まれた依頼人の情報を引き抜こうとするのだが。

 

「トリム港にいるってだけで詳しい素性は俺も知らねーよ。顔の右に傷があって、隻眼でバカみたいに体格のいい大男だ」

 

 男も依頼人が一体どういう人物なのか把握しておらず、依頼人の顔や体格の特徴ぐらいしか答えることができないようで……。

 

「その大男が魔核(コア)を盗んで集めてるってことか……」

 

 ユーリは顎に手を当てながら一言そう呟くと、頭の中で聞いた情報を整理し始めたのか、もうこれ以上の質問を浴びせかけることはなかった。

 そんな彼と交代するように、今度はリタが口を開く。

 

「大方、ソーサラーリングもどこかで盗んだんでしょ」

 

 言いながら彼女は半目で男の指にはめられたソーサラーリングに視線を送った。しかし、

 

「ち、違う! 盗んでなんかねぇよ! これは仕事で必要になるって、依頼人に手渡されたんだ」

 

 狼狽しながら男は釈明してきた。が、リタがそんな言葉を信じて引き下がるわけもない。

 

「もう少しマシな嘘つきなさいよ。盗賊団の頭領如きが、ソーサラーリングなんて貴重なもの持ってるはずがないでしょ!」

 

 こんな風に疑ってかかるリタの耳には男の言葉などもはや届きはしない。まぁ、信用されないようなことをやったこの男の自業自得なのだが。

 

「いや、ホントなんだって! ホントにもらったんだよ~……、これ……」

 

 リタの態度に困却する男は今にも泣きだしそうな、弱く情けない声を上げた。

 そんな男を哀れんだ目で見ながらカロルが言う。

 

「でもさぁ、話のスケールが随分大きいし、裏でやばい奴が糸を引いててもおかしくないんじゃないの?」

 

 そのカロルの発言に笑みをこぼしながら反応するのがユーリ。

 

「だな。こいつら普通の盗賊団ってわけじゃねえみたいだ」

 

 ユーリがそう少年に言ったとき、男がいきなり地団駄を踏んで嘆き始める。

 

「ちくしょうが! せっかく騎士や魔物を掻い潜って地下遺跡の奥まで行けたっていうのに最後の最後でトチッちまった……」

 

「騎士って……。フレンのことですか?」

 

 騎士というワードを耳にし、エステルはフレンの名を出し確認をとる。すると、名を聞いた男は表情を一変させ、猛烈に怒りだした。

 

「そいつだ! そのフレンってやつ! あの金髪の騎士の若造に俺は――――」

 

「うるさいッ!」

 

 リタは激昂する男の言葉を最後まで聞かず、サッシュを鞭のように男の顔へたたき込んだ。

 悲鳴を出す暇すらなく気を失い、床に倒れ伏せてしまう男。

 

「ちょっと、リタ……。気絶しちゃったみたいだよ、どうすんの?」

 

 カロルが頬に汗を垂らしながらリタに聞くと。

 

「決まってるでしょ。街の警備に連絡して、この男を拾わせるわよ」

 

 彼女は無感情な口調でカロルにそう答えた。

 

「まぁ、こんだけ情報を聞き出せたんだ、おめーらも満足の収穫だろ? これ終わったらアスピオに帰ろうぜ」

 

 銀時はユーリたちに言いながら、倒れている男に近づきしゃがむと、どこから持ってきたのかわからない油性マジックペンを懐から取り出す。地下遺跡での最後の作業に取り掛かるために。

 

「ちょっと、銀さん。何やる気?」

 

 握られたマジックペンを見ながら、焦り気味の声で聞くカロル。

 

「何って……決まってんだろ、これぐらいやり返さないと気がすまねぇ」

 

 銀時は白い歯を見せ、悪人顔負けの邪悪な笑顔を浮かべると指でキャップを弾き、マジックのペン先を男の顔に押しつけて落書きをし始める。

 男の閉じた瞼に目を書き、頬に渦巻き、そして、びっしり鼻毛を書く。それを見て笑いを堪える銀時。

 

「やり返し、ちっちゃ! しかもすっごい狡いよ!」

 

 カロルが大きい声でつっこむが、その隣でリタも意地の悪そうな含み笑いをすると「あたしにも書かせて」と、落書きパーティーに加わり始めたではないか。

 

「ギントキ、リタ! だめですよ、そんなことしちゃ……!」

 

 と、そんなエステルの制止の言葉を悪ガキ二人が耳に入れるはずもない……。

 額に肉と書くかバカと書くか、どうするかー、なんてことを言い合いながら、落書きを進めていく。そして、

 

「よ~し、終わったァ、けえるぞ~」

 

 二人は、男の顔に一通り落書きして満足したのか、顔からマジックペンを離す。

 自由奔放に書き殴られた落書きは……いや、書き殴られすぎた形容し難いそれは、男の顔を黒く染め上げていた。

 

「いや、帰るぞ~、じゃないよ!」

 

 カロルが男の顔を見ながら怒鳴る。

 

「これどうすんのさ、顔だけ耳なし芳一みたいになってるじゃない! 回収しにくる警備の人びっくりするよ!」

 

「どうもしなくていいのよ。この男にはちょうどいい罰でしょ」

 

 叫ぶ少年にリタは軽い口調でそう返すと、銀時と共に地下遺跡の出口へと向かい始める。

 

「オレたちも行こうぜ」

 

 エステルとカロルに一言そう声をかけるとユーリも歩き出していってしまった。

 そのあとをついていくラピード。残されたエステルとカロルは疲れた様子で深いため息を同時に吐くと、銀時たちの背中を追うのだった。

 

 水道魔導器(アクエブラスティア)を盗んだ真犯人、デデッキという男……。

 そして、トリム港に潜伏しているという隻眼の大男。

 盗賊団の男から二つの有益な情報を得ることができた一行は、とりあえず地下遺跡を出てアスピオに戻るのであった。




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